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あおぞら銀行 鞍掛 法道 常務執行役員インタビュー


▲ あおぞら銀行 鞍掛 法道 常務執行役員

今や銀行も規制に守られた業種ではなく、金融サービス業として顧客から選ばれる時代に突入しています。そんな大競争時代においては、自らの銀行の「強み」をアピールし、他行との明確な差別化を目指す必要があります。はたして、各銀行はどのように自らを差別化する戦略を取るのか・・・・・・。第1回は、あおぞら銀行の鞍掛常務にお話をお伺いしました。

現在のあおぞら銀行には旧日債銀の影はなく、健全な財務基盤と投資銀行業務で独自の存在感を感じさせる先進的な銀行とのイメージを感じます。その経営理念・営業戦略や、気になる外資が入った影響と働く行員の方々の姿などをお聞きしました。

あおぞら銀行の概要(2004年3月末現在)
資本金 4,198億円
総資産 5兆1881億円
当期純利益 319億円(前期比+39%)
単体自己資本比率(国内基準) 15.65%
不良債権比率
(金融再生法開示債権ベース)
2.95%
長期債格付(JCR) A-
従業員数 1,345人
拠点数 国内/18本支店、海外/3駐在員事務所
あおぞら銀行の現状と事業環境
~先進の金融技術を駆使し"メガバンク+あおぞら"の布陣を提案~

<澁谷>

今の銀行を取り巻く環境をどのようにご覧になりますか?

<鞍掛常務>

銀行が手数料を徴求できる業務範囲が広がり、ビジネスマッチング等でおおっぴらにフィーを取っていけるようになりました。今までは規制があるからできないというのを隠れ蓑に、工夫を怠っていた。しかし今は「我々がいかに入り口を広げられるか」が勝負。むしろ銀行よりもノンバンクのほうがよっぽど積極的な展開ができるという認識が広がっています。ただ銀行とノンバンクとでは資金調達能力が全然違う。そこは本当に信用がしっかり根付いていてこそだと思っています。

<澁谷>

社員数や採用状況は?

<鞍掛常務>

行員数は、16年7月の数字で1,376人。また中途採用も頻繁に行っていて、多い年は年間で50~60人程度採っています。新卒採用も14年度から復活していて、20名ほどです。
採用している人の範囲も、事業法人営業やマーケット業務から投資銀行業務まで幅広くなっています。営業部では、メガバンクの再編の動きの中で辞めて当行に来ていただけるような人もいますが、新しいことをしたいという目的をもってくる方が多いので、それが実現できる銀行であらねばならないと思っています。

<澁谷>

専門的な仕事がしたい人が転職してくるということでしょうか?

<鞍掛常務>

今やっていることではない新しい仕事をしたいというイメージでしょうか。
メガバンクの法人営業のスタイルは、一つの戦略が明確にあって、自分の意思・お客さんの意思に関係なく「とにかくその商品を売るんだ」となっていることが多いようです。我々の場合、メガバンクと比べて営業網が強力ではないということもあるかもしれませんが、そうではなく、個々の顧客の変化し続けるニーズに合致するものを提供するのが銀行の当然の役割だと思って営業をしています。これは我々がずっと培ってきたカルチャーであり、これからもずっと持っていなければいけない信念です。そういった部分に大きな魅力を感じて他行から移って来た人が多いようです。

<澁谷>

筆頭株主がソフトバンクからサーベラスに変わって一年ですが、どのように行内は変わりましたか?

<鞍掛常務>

ソフトバンクは、実際に株を50%近く持っていても当行の政策に実態的な影響を及ぼしていなかったが、サーベラスは目的意識を持って内部統治をするルールをハッキリ打ち出してきているので、そういう意味では企業文化は随分変わってきたのではないかと思います。一番大事なのはお客様にどういう影響が出るのかということなので、やはり営業のポリシーの基本は変えてはいけない。このことは我々営業の現場の者が乗り越えなければいけない課題だと思います。

<澁谷>

効率優先で中小企業取引を縮小していく他行の例がありましたが。

<鞍掛常務>

まず前提として、そもそも我々の経営方針が量を追わない経営になってきています。お客様に提供するサービスのレベルを上げ、それに見合った対価を払っていただける銀行になることがポイントですから、その辺に他行との差異化が出てこなくてはいけない。医療など専門的な業界に対するコンサルティング業務をベースにした営業等はその一例です。ご質問の件に戻ると、効率優先で大企業を優遇して、中小企業との取引を解消していく戦略をとるという銀行もありますが、我々はむしろ銀行のポートフォリオを考えて、ある程度の貸出規模のお客様を多数持つことによる資産分散化を目指しています。もちろん大企業に対してもそのニーズに応えるようにしたいけれども、我々の中心的なお客様になって頂きたい中堅・中小企業に対するコンサルティング営業という話になってくると、効率性という面では落ちますが、最終的にそれが企業にとって必要なニーズであればそれに応えることのできる銀行でなければいけないと思います。
そういう面で投資銀行業務やマーケット業務など、高い専門性を持った分野をさらに強化して、お客様の役に立つことができる銀行を目指しています。
一方でやはりメガバンクがこれだけ集約されてくると企業に対する圧迫感・プレッシャーは強大なものになります。ですから我々は決してサイズは追わずに、個々の企業のニーズに応えるということについて人一倍一生懸命にやる。その観点から見れば"メガバンク+あおぞら" という構成をとって頂くと非常にお客様サイドには良い結果が生まれるでしょう。これは現実にそういうニーズがあって、声をかけて頂くことが増えています。
専門性を高めるための戦略

<澁谷>

専門性を深めていくなか、必要な人材の確保にはどのような工夫を?

<鞍掛常務>

今まで銀行員だけで構成されていたところに、銀行以外のキャリアを持った人を入れていくことを通して、今後提供していくサービスに相応しい専門性を高めています。例えば不動産業に対する専門的な営業も、銀行員だけでは出来ない部分もたくさんあります。不動産業界にいた人材の経験をベースに、深いところでリスクがとれるようなビジネスに目を向けていくわけです。

<澁谷>

あおぞら銀行さんならではの金融商品・得意分野などは?

<鞍掛常務>

高い専門性が無いとできない金融行動として、例えば投資銀行業務ではLBOに対するデットファイナンスがありますが、この分野では当行は件数・金額とも日本ではナンバーワンの取扱実績です(2003年)。早くからそれに取り組みながら、企業がリストラをする過程でその動きを果敢に読み、人材を配置しながらやってきたことが花開いたという訳です。
これだけファンドが隆盛になっているその創成期にあたって、我々はかなりうまくスタートを切ることができました。
それから、スペシャルファイナンスの分野で、シップファイナンスはアセットファイナンスであるという観点から、貸し出す対象の船そのものが非常に高い流動性を持っていることに目をつけてファイナンスをやっています。その他には中小企業に対して、インターネット上だけでファイナンスが決定されるような画期的な商品※、そういった取組みも始めています。
※弥生㈱と中央青山監査法人の開設した中小規模法人向けビジネス支援サイト「Biznavi」にて、あおぞら銀行のオンラインローンの提供が可能となるスキームが9月よりスタートしています。
いわゆるコーポレートファイナンスをいかに今流のやり方で企業の財務戦略にあてはめてゆくか。これまでのように一切合財ひっくるめたようなファイナンスを行うことが本当に良いのかどうか。一つ一つのキャッシュフローと借入が結びついていくような借入形態、プロジェクト・バイ・プロジェクトで資金を取っていき、一般的な運転資金に対するラインは別にとっておいて、そこのところは非常に機動的に使えるようにしておく。そうすることで負債そのものをもっと絞っていけば企業の財務戦略の強化に繋がる。

<澁谷>

ドンブリ勘定ではなく資金使途に応じた(資金に色をつけた)ファイナンスを企業に提供するということですね。

<鞍掛常務>

また、それによって我々もリスクをより取れるようになるのではないか、何に使われるか分からない資金より特定の使途に使われる資金の方が、クレジットリスクが明確になるんじゃないかと。なかなか個々の借入をご希望になる方全てに即ご理解頂けるわけではないですが、このことを言い続けることが日本の金融慣行の借入の仕方を少しずつ変えていくことに繋がると思います。コベナンツ付きの貸出をすることで、当初から貸出条件を厳しくしなくてもそのプロジェクトの進捗の具合によって相応の貸出条件が設定できるということで、双方にとってハッピーなことと思います。
営業の現場が売る商品というのは単にデットだけではない。場合によっては事業に対してエクイティーをつけることもある。そこにはSPCがあったり匿名組合があったりファンドがあったり、そこまで提案できる力を持たないと幅広く営業できない。
デットからエクイティーまで幅を広げればその中間にはメザニン※1があるわけですから、プロジェクトの内容に応じて例えば担保を取るような金融であればloan to value※2が高い部分は限定されたリスクを見ながら取っていき、それによって高いリターンを得るということも必要です。
ですから、コーポレートファイナンスでベッタリになっているものを、細かく区切りをつけてキャッシュフローに対する一対一の対応になるような資金付けをいかにできるようにしていくか、というのが重要になると思います。キャッシュフローベースのファイナンスに近づけていけば、金融の健全性というのは決して失われないと思います。コーポレートファイナンスだけでやっていくと、その変化の度合いというのがプロジェクト一つ一つより遅い。そうなると、銀行が相手の業況に対応するスピードというのがどうしても遅れて不良債権化する。一本一本縛って且つそれにコベナンツを付けておけば、業況が動いたときにそれにすぐ対処できるのではないかと思います。
※1 メザニン(mezzanine)とはもともと「中二階」の意味。不動産証券化などのストラクチャード・ファイナンスにおいては、デットとエクイティーの中間の性質を持つ商品・仕組を指す。
※2 loan to valueとは融資比率のこと。証券化の際の重要な指標。対象不動産の価値のうち、借入金が占める割合をいい、デフォルトに陥った際の損失の大きさを示す。

<澁谷>

エクイティー部分についてある程度の「数」を取込むための方策は?

<鞍掛常務>

銀行が経営実態に入っていくときに大切なことは、銀行が一緒にワークできるビジネスパートナーを一緒に連れて入ろう、という部分だと思うんですよね。場合によっては出資もしてもらって、その事業のリスクを銀行と一緒に見れるパートナーに来てもらおうと。やはり銀行だけでできることって限りがありますから。
今いろんな事業で所有と経営が分離する、ものを持たなくてもその事業分野に係るノウハウを持っていれば仕事ができる、という形がどんどん出てきている。不動産業などはその典型で、金融不動産ベンチャーといわれる方たちは、物を持つのでなく、物を持つにあたってのマネージメントツールを持っていて、そのツールを、物を持っている人達に対して提供するという形で事業を成り立たせています。その辺は今の産業界の中でも特質的なものだと思いますし、こういった新興企業は、物を持たずに運営だけをしながら新しいスタイルを提供しており、実際に手掛けた物件は圧倒的に高い稼動を上げている。まさにソフトの勝負になっています。
銀行としては、そういう企業といろんな形でお付き合いして、まさに取引先に繋いでいくわけです。そういう企業に一緒に入ってもらうと、そのプロジェクトが上手くいくのであれば、銀行というのは取引先をたくさんもっているのが強みですから、そこから紹介していく必要があると思います。
そして、そうやって稼動が上がってきたところで、その部分だけ取り出して証券化すればそこには高い利回りが出てきて、且つ元々持っていた人は資金を回収できます。自分も資産を持つ保有リスクから解き放たれることもできる。それも銀行の提案の一つに入ってくると思います。
最近の若手行員に対して

<澁谷>

貴行の行風や最近の若手行員のマインドは?

<鞍掛常務>

僕らの若いときにくらべ今の若者は専門性に対するアンテナが高くなってきて積極的に勉強しないと厳しい競争社会に生きていけないという雰囲気が出来てきている。かつメガバンクから来た人が入ったことで、もともとの日債銀の色に染まっていた雰囲気からは随分変わってきました。
何か自分でやってみたいという時も「何故できるのか」をいうこと、すなわち「こんなリスクもあるが、こうやって乗り越えてこれだけの収益が期待できるんだ」ということをきっちり説明しないといけない、という形になりますから。
物事の白黒が極めてハッキリしてきたので、外資が入った効果もあると思います。非常に和やかだった雰囲気がそうじゃなくなっている部分も一部あると思いますが、それをどのように感じるか、生かしていこうとポジティブに考えるかネガティブに考えるかという点であろうと思います。ポジティブに考えて、過去のぬるま湯的な状態がプラクティカルに変わってきている、と捉えたほうが私は面白いと思いますが。

<澁谷>

メガバンクの若い行員と話すと、銀行の非常に硬直的な組織の中で自分の本当にしたいことができないという声をよく聞きます。

<鞍掛常務>

当行の最近の例ですが、営業部でノンバンク等を担当していた行員が自ら手を挙げて、海外でのローンやボンドを買う部署に異動したんですよ。
彼はまさにメガバンクから来た人ですが、非常にマインドの高い人で前職時代からよく勉強していました。英語を実用に使えるようにしてきたのですが、メガバンクでは希望するような業務には配属されなかったのです。
彼は希望する業務に就ける時に備え、その業務に必要なツールを自分で想定して自分で勉強し、例えばキャッシュフローを読むなど様々なことに自分の関心を移してスキルを蓄えてきたのです。
当行に来てからもその思いはずっと捨てずにいたところ、LBOのデットファイナンスに携わるチャンスがあり、契約書の作り方や、キャッシュフローを読んでそれにどういうコベナンツを付けるかといったことに携わることができ、引き続き前向きに取り組んでいたところ、今回彼が手を挙げたグローバルファイナンス部が新しくできたのです。 そこの外国人の部長に直接インタビューをしてもらって「おまえすぐ使えるじゃないか」ということで引抜きの指名を受けました。彼の所属していた部の部長としてもこれほど前向きな人間を引き止めておくことはできないということで異動となりました。

<澁谷>

自分で描くキャリアプランがその銀行で追求できるのか、また銀行が応援してくれるのか等で、自主的に専門業務の勉強をする行員が出てくるかどうかが変わってきますね。

<鞍掛常務>

そうですね、今ちょうど過渡期で人事制度も前の日債銀やあおぞらになってからのものからさらに変えようとしていますが、やっぱり自分がどれだけポジティブに目標設定をしながら、「この目標に対してこれだけ努力をしている」というものがあればしっかり認めてあげて、銀行にとってもいい方向に進めていけるという自由な素地はあると思いますね。
先程の行員などは非常にモチベーションが高く自分で準備をしていたので、チャンスを瞬時に捉えて実現させることができたのだと思います。逆にそういうマインドを持っていないと、どんどん遅れていってしまうのではないかなと思います。
今の新卒の人のほとんどは一つの会社にとどまっておく気なんかないのではないかと思います。やらされ仕事はしないという考え方もありますが、一方で、やりたくない仕事もあるかもしれないけれど、やらされていると思わずに自分がやったらこう変えてやるぞ、と考えることによって当人のレベルが全然違ってくると思います。
少なくとも自分の口から出た言葉は他の人から言われたこととは違う、自分のフィルターに掛ったら違って聞こえるくらいに加工してほしいと思っています。

<澁谷>

バブル崩壊後、銀行は世間に叩かれ破綻する銀行さえある。その中で銀行員はモチベーションが落ちているし、「とにかく頑張れ」と鞭打たれ走り続けてきたのが、ここへ来て燃え尽きてしまうことも・・・この点はどう感じますか?

<鞍掛常務>

今までの銀行が天動説・地動説ではありませんが、銀行の常識を中心に動いてきたということがあり、そこから抜け出せないと銀行をめぐる色々な変化に対応できない。
逆に認識を変えたら銀行は非常に変化が遅れた業界であり、銀行業界でのスタンダードは顧客にとって全くスタンダードではない。そうなると自分自身を変えない限り、今はいい思いはできない訳です。
それだけ失われていた時間は長く、キャッチアップしつつ逆に時代を先んじるには皆が相当な努力をしないとハッピーになれないと思います。
ですから待遇が変わるということは当然だと思います。皆でお互いの地位を守りあっていたから、既得権益で高い給料等を得られていましたが、一度それが無くなれば他の産業に比べ給料が高いという理由はありません。やはり自分に付加価値などを付けて高い給料をとっていくという方に変わっていくと思います。

<澁谷>

当社も求人をかけると50代・40代後半の方から多くの応募がありました。
応募者の話を聞くと「仕事が無い」「早期退職でやめたのはいいけど」「銀行から出向させられたがオーナーと上手くいかなくて・・・」という話が多い。30代後半までの人材は需要がありますが、元支店長級でも50代の方にはなかなか声がかからないのは、どういう問題なんでしょうか?

<鞍掛常務>

それは明らかに自分で仕事を完結できない人だからです。銀行という組織の中で仕事をし、最終的な判断業務だけをやっていた人は、自分で仕事のお膳立てをし、それを実施段階まで持っていくパワーが、昔はあったかもしれませんが今はもうないんですよね。  
ですから結果だけを待ちそれで仕事をした気になっているが本当のところは何も仕事をしていない。昔はできたのですから、昔を思い出して仕事を1から10まで一人で完結できるようもう一度努力すれば、そういった人材は非常に経験豊富な人達ですから、またまだ活躍のチャンスはあると思います。人任せにしないで自分の仕事に責任を持つようにするということはとても大事だと思います。

<澁谷>

最後にお客様と接して感じられることをお話ください。

<鞍掛常務>

やはり、あおぞら銀行は外資系ではないかと最初に構え、外資系は損得の考えだけで取引をするのではないかと思っているお客様が一部いらっしゃいますね。そういう方にはあおぞら銀行はいかに資本が変わろうともお客様に対する態度は基本的に同じですと説明しています。 また、「今は外資系だが次は何系になるんだ?」とおっしゃる方もいます。経営の連続性がないとお客様は銀行を信用できなくなる訳です。ですから私は今の役割の中で一番大事だと思っているのは、資本が変わってもお客様に対して提供する商品等が極力変わらないようにしなければならないということです。お客様に対してより良い物を提供できる方向に変わるのは構いませんが、全く自分の都合だけで説明のつかない変化をするべきではないと思います。 リレーションやハートのこもった営業は決してなくならないもので、合理的なビジネスの中にも当然リレーションの部分もありますし、一部合理的ではないような判断も加えながら、総合的に両者がハッピーとなる関係を構築したいと思います。

(2004年10月掲載)