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中国銀行 永島旭頭取インタビュー

地域のお客様に選ばれ、信頼される銀行へ


▲ 中国銀行 永島旭頭取

歴史が支える広大な営業基盤

<澁谷>

今年130周年を迎えられる御行の歴史と、お客様(個人、法人)へのPRポイントや強みについてお聞かせ下さい。

<永島頭取>

明治11年(1878年)に設立された第八十六国立銀行を淵源とする当行は、昭和5年(1930年)に、第一合同銀行と山陽銀行が合併し発足しました。また、この2行に至るまでに、福山銀行など実に多くの各地の銀行が前身となっています。
120周年を迎えた時に、第八十六国立銀行の本店があった高梁市(たかはしし)に、「中国銀行 発祥の地」という大きな石碑を前頭取が造られました。私は入行式の時などにそういう石碑が建っているので見るようにと訓示を述べるのですが、それぐらい古い銀行ということです。
国立銀行としての歴史の古さに加え、県境を越えてたくさんの銀行が合併して出来たという経緯がありますので、営業基盤がとても広いのです。例えば姫路支店は、明治43年を淵源とする姫路倉庫銀行の本店をルーツとしているなど、どの地域でも多くの店舗は非常に古い歴史を持っています。広域地銀と一言ではいいますが、あとから出て行ったのではなく、元々の基盤が広かったということです。
こうした営業基盤の強さや特徴は、格付機関・アナリストの方々等から大変プラスの評価を頂いております。また、一度も赤字決算をしていないという財務の健全性も強みの一つです。

経営理念・経営ビジョン・スローガン

<澁谷>

御行の経営理念、経営ビジョンなどについて、ご説明ください。

経営理念

自主健全経営を貫き、ゆるぎない信頼と卓越した総合金融サービスで、地域社会とともに発展する。

中国銀行は財務体質の健全性はもとより、心技体の充実した健全な行員の育成と、環境変化やお客さまのニーズに柔軟かつ的確に対応できる健全な企業文化の醸成にたゆみない努力を惜しみません。
 そして、行員の高いコンプライアンス意識に基づくお客さまからのゆるぎない信頼と、お客さまのニーズに的確にお応えする卓越した総合金融サービスで、地域社会とともに発展していきます。


経営ビジョン

地域のお客さまに『選ばれ』『信頼される』銀行

スローガン

あなたに、あたたかく

<永島頭取>

まず経営理念についてですが、これは私の就任以前は5つぐらいの項目に分かれていたのですが、3年程前に、その精神性を保ちつつ言葉を纏めて、一つの経営理念としました。
経営理念の一本化は割合最近なのですが、『地域のお客さまに「選ばれ」「信頼される」』という経営ビジョン、『あなたに、あたたかく』というスローガンは古くから使っていますね。

<澁谷>

最近では色々な銀行が「選ばれる」や「支持される」という表現を使っていますが、御行はとても古くからそうした姿勢を明確にしていらっしゃったのですね。

<永島頭取>

そうですね。1990年に現在のシンボルマーク作成や、「国」の字を旧字体の「國」から改めるなどのCIの制定を行っています。『あなたに、あたたかく』というスローガンもその時から使っています。

<澁谷>

ディスクロージャー誌などで、頭取は「自主健全経営」とあわせて、「積極的にリスクを取る」と仰っています。

<永島頭取>

以前は、中国銀行はリスクを取らない銀行、石橋を叩いても渡らないくらい堅い銀行と言われていました。それに関する面白いエピソードがあるのですが、挨拶回りをしていた時にある経営者の方から傘のマークが入ったネクタイを貰ったことがあります。これは、「中国銀行は、雨が降っている時に傘を差し出さずに取るような銀行にならないで欲しい」というメッセージが込められていたのです。そうした思いや戒めの気持ちを伝える為に、わざわざその図柄のネクタイを探して、私に贈ってくれたというわけです。
挨拶回りをしている中で、中国銀行の健全性は評価するが、あまりにも慎重で、もう少し積極的に地元企業に融資をして欲しいという声が多く聞かれました。
そうしたことがあったので、私は「積極的にリスクを取る」ことをまずメッセージに掲げたのです。
就任当時、預貸率は60%台で、これを引き上げたいと思ったのですが、折から日本経済が構造変化によって企業部門にお金が余りだした状況と重なったこともあり、現在でも63%程に留まっています。
構造変化が起こる前に積極的に企業貸出を増やしていた銀行は、預貸率が75%とか80%を超えているのですが、その一方で、不良債権も増やしてしまっています。
当行は、非常に慎重だったので、預貸率が低く、本業の収益力が弱かったのですが、反面不良債権額も少なかった為、処理コストまで含めると、結果的には十分収益を確保できました。
慎重な融資姿勢が財務の健全性に繋がっていることに間違いはないのですが、余りにもリスクテイクを避ける姿勢はそもそも銀行の存在価値を問われかねないことにもなります。
企業向け貸出はまだまだ他行対比伸び悩んでいますが、個人向け融資を積極的に取り組んでいるので、住宅ローンの伸びは近隣の銀行の中では高い実績を出しています。

<澁谷>

頭取メッセージの最後に掲げていらっしゃる「地域の未来の提案者」というのは、素敵な言葉ですね。

<永島頭取>

銀行は地域の将来に対して積極的に提案していく使命があると思っておりますので、この言葉は私も大変気に入っております。

中期経営計画 「誠実と変革II」

<澁谷>

平成20年4月から、新たな中期経営計画『「誠実と変革II」Integrity& InnovationII』がスタートされます。

<永島頭取>

前回の中計は、設定した目標が低すぎたかなと思える程、順調に計画を達成しました。かなりの項目で予想を上回る実績を出すことが出来ました。
「変革」というキーワードについても、多くのお客様から「ちゅうぎんもずいぶん変わりましたね」という評価を頂いております。恐らく一番の違いはリスクテイクということだろうと思っています。
その他、ソリューション営業についても相当力を入れてきました。支店長達には、お客様の所に行って「何とかお金を借りてくれませんか」しか話が出来ないようでは失格だ、お客様のニーズを解決するようなソリューションを提案できる力を身に付けるように、と口を酸っぱくして伝えてきました。
私も実際に、あるお取引先様から、当行が優れた事業承継のプランをご提案した際、中国銀行さんがこのような提案が出来るとは思いませんでした、との言葉を頂いたことがあります。
お客様から見ると、こうした姿勢もちゅうぎんが変わった、という評価に繋がっているのでしょう。
そうした経緯を踏まえ、新しい中計では投資銀行業務を4番目の柱としています。M&Aや事業承継のみならず、外為関係を中心としたデリバティブの分野で企業に様々なヘッジ手段を提供していく予定です。
投資銀行業務は現在本部人員20名程度で担当していますが、本部人員20名程度の増員と営業店人員50名程度の任命により計90名体制を構築します。これが新中計の目玉の一つです。

<澁谷>

預り資産の強化についても熱心に取り組んでいらっしゃいますね。

<永島頭取>

金融不安の時期、預金が流出していた銀行もあったようですが、当行は逆に預金が集まり過ぎてしまったぐらいだったんですね。そこで、預金から他の預り資産にシフトさせようということで積極的に取り組んできました。
当初は投資信託商品がそれほど充実していなかったので、国債を主に扱っていました。そのお陰で、個人向け国債と公共債を合わせた残高は今も地銀トップです。余談ですが、財務省の理財局から、最も国債を販売した地銀ということで表彰されたことがあります。
有価証券の運用にも、リスク管理や人材育成なども含めて相当に力を注いできました。この分野では中国銀行はかなり先行しているということで、他行からも研修に来られる方がいます。
また、リスク管理がしっかりしていたおかげで、サブプライム関連の損失は全くありませんでした。2兆円を超える運用規模で、CDO投資が全く無いというのは珍しいかと思うのですが、ルックスルーがきちんと出来ない証券化商品には始めから一切手を出していなかったのです。
この分野で先行していると言っておきながら、サブプライム関連で引っかかっていたら赤恥をかくところでしたが、幸いにして全く損失が無かったので良かったと思っています。
法人部門は金余りの状況ですから、個人部門がアメリカ型、すなわち消費先行による資金不足の状況になってくれば、若者を中心にカードローンなどにもっとニーズが出てくると見ています。

<澁谷>

個人部門の資金余剰はどんどん減ってきていますが、企業部門はまだまだ余剰が大きいですからね。

<永島頭取>

そうですね。そうした資金余剰の環境下ではやはり無理して融資拡大は出来ませんので、私が頭取に就任してからは新しい拠点を一つも作っていないのです。法人部門の営業推進からはやや不満顔をされるのですが、統廃合と既存の伸びそうな店舗に人を増やすことしかしていません。
189あった店舗を164まで減らしましたが、最近色々な銀行が出店攻勢を強めていることもあり、新中計では兵庫県に拠点を増やすことを検討しています。これまで全く店がなかった地域に出るというのは、1993年の米子支店開設以来です。

ビジネスモデル・人材育成・CSR

<澁谷>

2000年に頭取に就任されて、最も注力された取組についてお聞かせください。

<永島頭取>

ビジネスモデルの変革、人材の強化・育成、CSR、の3つですね。
ビジネスモデル、つまり営業店戦略の変革というのは、従来預金を集めて貸出を積極的にするということが収益の中心だったのですが、融資以外でも相応の収益を上げられる分野をつくるということです。
これが先程も申し上げた、有価証券の運用部門です。この分野には相当人材も投入し、海外や証券会社、あるいはファンドなどに研修や出向に行かせるなどして、他行に先駆けて収益に結び付ける取り組みを行ってきました。
それから、預金を、当初は国債中心でしたが、預り資産に振り向けるというように調達面の構造も変えました。
次に、人材強化については、人事制度、業績評価の仕組みなど色々改革を行いました。やはり企業は人ですからね。また、昨年、初任給の引き上げを行ったのですが、これは地銀の中では最も早かったと思います。
そうした人材確保の取り組みに努めた結果、当行は行員の定着率が非常に高くなっています。インターネットで世間の評判を見ていても、就職人気が高いようで、入行辞退するかもと見積もっていた採用予定者が殆ど減らなかったので、逆に採用が多すぎたかなと思うぐらいです。4月には過去最高の212名が新たに入行してきました。
三番目のCSRについてですが、行内に私をヘッドとするCSR委員会を設置し、地域貢献の旗振り役になれるよう積極的に取り組みを行っています。
かなりユニークな試みとしては、大学コンソーシアム岡山において、「ちゅうぎん『金融知力』講座」を開講し現役行員を金融経済に関する講師として派遣しています。この講座は、16の大学で正式な単位として認められているのです。

地方銀行のありかた


▲ 中国銀行本店

<澁谷>

今後、企業経営者から求められる地方銀行のあり方、機能とはどのようなものでしょうか。

<永島頭取>

お客様あっての銀行ですから、お客様のニーズを如何に的確に捉えるかが大事だと思います。現場の支店長を中心に、アンテナを高くし様々なニーズを吸い上げトップまで伝えて、適切な判断を下すことができる、そういうメカニズムがきちんとワークしている銀行というのが、選ばれ信頼される地方銀行になるのだと考えています。
このニーズを吸い上げるというのが、地域密着の地方銀行の強みであり、メガバンクにはそうは簡単には踏み込んで来られない領域だと思っています。ですから私は、メガバンクが攻勢をかけてきても、それに地銀が呑まれてしまうということは無いと考えています。

若手行員へのメッセージ

<澁谷>

212名の新入行員が入行されたとのことですが、彼ら彼女らや若手行員の方々に期待すること、どのような銀行員になって欲しいかなどのメッセージがあればお聞かせください。

<永島頭取>

入行式で毎年必ず伝える4つのことがあります。一つは、「銀行は信用が第一ということを忘れずに、常に高い志と倫理感を持って欲しい」ということです。次に、「常にお客様に満足して頂くには、どうすればよいかを考えて実践する」。三番目は、「金融環境は大きく変化し、銀行業務も多様化、複雑化、専門化しつつあることを認識し、チャレンジ精神を持って自己研鑽に励み、自分の得意分野を作る」です。最後、4つめは「健康管理に十分留意すること」、これはまあ、当たり前のことではありますが。
最近はコンプライアンスの重要性がますます高まっていますので、高い倫理観と志といったことについてはかなり詳しく伝えるようにしています。銀行員というのはやはり、如何に信用が大切かということをまず第一に心がけるようにと呼びかけています。
それから、自己研鑽については、入社したらそこで終わりではなく、企業は寧ろ入ってからが大切だと言っています。また、人知れず努力した人、磨いた人は必ず報われる、評価されるということも言っています。若い人には絶えず努力をしていって欲しいですね。

▲ 平山郁夫画伯の絵画の前で

-永島旭頭取 略歴-

主な経歴
昭和37年3月 東京大学法学部卒業
昭和37年4月 日本銀行入行
昭和58年11月 岡山支店長
昭和61年5月 考査局考査役
昭和61年9月 ニューヨーク駐在参事
平成元年5月 秘書役
平成2年5月 国際局長
平成5年5月 理事就任(国際金融担当)
平成10年6月 理事退任
平成10年7月 東京海上火災保険株式会社 顧問就任
平成12年6月 同社 顧問退任
平成12年6月 株式会社中国銀行 顧問就任、代表取締役頭取就任
公職等
平成12年7月 社団法人岡山県銀行協会 会長
平成15年10月 社団法人岡山県国際経済交流協会 会長
平成18年6月~
平成20年6月
社団法人全国地方銀行協会 副会長

(2008/03/31 取材 | 2008/06/13 掲載)