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福岡銀行 谷正明頭取インタビュー

銀行は「利益実感」の提供を


▲ 福岡銀行 谷正明頭取

<澁谷>

最初に貴行の強みは何でしょうか。

<谷頭取>

現在当行は『中期経営計画2006 新世紀プランⅡ ~期待を超える銀行に~』を題目としています。お客様、株主、従業員、地域などのステークホルダーが存在しますが、お客様に対しては質の高い金融サービスを提供する、株主に対しては好業績を挙げ株価や配当を上げる。そのためには良い従業員がいなければ実現できません。良い人財を集めるためには、働き甲斐のある環境をつくり企業価値を高める必要があります。企業価値を高めることにより地域貢献にも繋がるという仕組みを基本的な考えとしています。これまでもこの考えを基にやってきましたが、それをさらに具体化したものが今回の中期経営計画です。
当行は福岡県の地域金融機関として、福岡県の人口約500万人に対し口座数は約350万口座、来店客数は一日平均約20万人と高い支持をいただいています。何と言ってもこれが当行の強みです。これをさらに固めていくための取組みとして、福岡県内に146店舗という稠密な店舗配置を行っています。
法人については、単にマンパワーによる営業だけではなくソリューション営業を他行より先んじて行っているところも強みとなっています。不良債権処理の過程で外部の法律事務所や会計事務所と情報交換や勉強をし、ノウハウを積み重ねてきました。そこで出来上がったノウハウを今度は新規開拓に利用しています。個人については、最大の商品である住宅ローンにおいて、県内で年間約5,000億円の資金需要があるうちの約3割を当行が獲得しており、大きな地盤を築いています。この背景には、福岡県の大きなポテンシャルや好景気という土地柄が影響しています。全国の地方都市の中でも、名古屋に次ぐ好況ではないでしょうか。
資金需要については底を打ったと考えています。不良債権処理の過程ではオフバランスを行っているため当然ながら融資残高は落ちてしまいましたが、当行では2004年から、福岡県内では昨年5月から、全国的には昨年8月から実質的には上向きに反転しています。福岡県においてはほとんどが中小企業です。当行では中小零細企業をまとめてリテール法人と呼んでいますが、このような先に対してスコアリング商品や担保保証に頼らない商品の開発をし、拡販を行っています。法整備の問題もあったため、まだ主力商品とまではなっていませんが、今後徐々に実績として上がりそうだと期待しています。

<澁谷>

貴行の行風はいかがでしょうか。

<谷頭取>

もともと風通しの良い行風です。会議でも活発な意見交換ができますし、自由闊達な印象を持っています。お客様からよく言われるのは「明るい」ということです。当行行員は昔から全体的に生真面目ですが、最近はそれに加え、自由な発想ができる行員が増えたとの評価を数多くいただき、大変嬉しく思っています。営業現場から「役員がもっと現場へ来て欲しい」との要望がありました。私たちとしてもそれを実践しようとここ数年来、もともと役員が管掌している業務担当以外に地区担当制を決め3~4ブロックごとに役員を置き、支店長会議に参加したりお客様との会を設けたり、積極的に現場との接触を持つよう活動しています。
中期経営計画についても、これまでは本部だけで考え、現場の意見を聞かずに策定されていましたが、今回は昨年7月から作業を開始し、まず始めに我々役員と本部スタッフで各セクションが今抱えている問題点とその解決策についての意見交換を頻繁に何度も行い、9月までに骨格を作り上げました。
そしてその出来上がった骨格について現場でも説明・意見交換を行います。ただ、現場の意見が必ずしも正しいわけではなく、一方的な意見もあります。全ての意見を取り入れるわけではなく、現場から出された意見をどのように取り入れるかを議論し再度組み立てました。つまりこれまで一方通行であったものを双方向に変え、本部と営業店との距離を無くそうと努力しています。

<澁谷>

頭取から見て、本部と現場の考えに大きな差はありましたか。

<谷頭取>

それほど大きなズレはありませんでした。しかし本部では気付かなかったこともありました。現場からの意見を取り入れた例として、約400名の派遣社員(当行では実務社員と呼んでいます)を直雇化しました。行員から派遣社員への切り替えは効率化推進の意味で数年前から行っており、良い面もあります。ただ現場にとっては行員、派遣社員、さらにパートという何重もの構造では意識の一体感が保ちにくく、営業推進面で様々な齟齬が生じてしまっていたのです。直雇化により多少人件費は上がるかもしれませんが、その分稼いで取り戻せば良いことです。

<澁谷>

基本理念「"5C" Values」について、ご説明下さい。

<谷頭取>

この「"5C" Values」(『顧客(Customers)』・『信頼(Credibility)』・『貢献(Contribution)』・『挑戦(Challenge)』・『変革(Change)』)は、前中期経営計画を策定する際に、それまで様々あった考え方を整理し掲げたものです。それまでは地方銀行という意味で「ふるさとフレッシュふれあいバンク」というものを大きく掲げていました。
近年、株主の存在を意識した経営あるいは社会や従業員の価値観の変化により、当行はどこに向かっていけば良いのか、単に地域だけに限定していてはダメなのではないかという考えが出てきました。そこで銀行全体の共通認識を従業員全てが持つべきではないかということで「"5C" Values」をまとめたのです。

<澁谷>

メガバンクを含めた他行との競争、また規制緩和の中での競争激化についてどのようにお考えですか。

<谷頭取>

福岡県内にはメガバンクで36店舗、九州の地銀・第二地銀をはじめとする地銀が127店舗あり、首都圏を除けば全国一競争の激しい地域ではないでしょうか。私が常日頃言っているのは「競争のないところに発展はない」ということです。これだけ多くの拠点が置かれているのはそれだけのポテンシャルがあるからであり、競争できることはむしろ幸せなことだと感じています。
当行は西日本シティ銀行と比較されることが多いのですが、ライバルは同行だけでなくメガバンクを含め全金融機関です。どの金融機関にも対応できるだけのノウハウと人財を育成し、我々自身が強くなっていけば対抗できると考え、日々努力しています。

<澁谷>

東京や大阪、九州他県に対しての営業はいかがでしょうか。

<谷頭取>

東京と大阪については一般のお取引先相手ではなく対マーケット的業務が多くなるため、別物だと考えています。当行が今強化しようとしているのは九州他県です。この福岡と沖縄を除く九州7県においては、約17兆円の貸出金があります。つまりそれだけのポテンシャルがあるのですから攻めない手はありません。また九州経済は福岡県の一極集中であり、交通網も整備されこの流れは止められませんし、九州新幹線の全線開通によりさらに加速するでしょう。よって、福岡とのパイプを太くしたいという九州各所のお取引先のニーズは当然ながら存在します。当行はそれに応え、また他地域にある未開拓の業種についてもどんどん強化していきたいですね。九州営業本部という専門本部も立ち上げました。

<澁谷>

上海や香港なども地理的に近いですが、対アジアについてはいかがでしょうか。

<谷頭取>

事務所は置いていますが、ほとんど営業はしていません。
アジアの玄関口などと言われる地域ですから水を差すような話ですが、実際の経済面で言うと、この地域の企業が皆アジアを向いているかと言うと、決してそうではありません。中国やアジアに向けた営業を行っているのは殆どが大企業あるいは大商社です。観光業界ではアジアに向け力を入れていますが、企業活動としてはそれほどではありません。以前は中国に生産拠点を移す動きが盛んでした。
しかし時代の変化もあってか、安い労働力による生産にメリットはあっても全てを中国に移すのは危険だとして、ベトナムなど東南アジアへの分散が始まりました。また生産拠点は移しても技術の集積は日本国内に残しておくような動きも出ています。九州はICの集積地でもありますから、その意味でのアジアとの繋がりはありますが、これも大部分はソニーやNECをはじめとする大企業です。

<澁谷>

今年3月で前中期経営計画「新世紀プラン」による3年間を終え、総括されるとどのような成果がありましたか。

<谷頭取>

業務純益や当期利益など様々な諸目標について、多少下回ったものもありましたが、初期の目標はほぼ達成されました。コア業務純益600億円の目標に対し実績は580億円と、20億円の未達となりました。これは、カードセキュリティに対する投資などIT関連の経費に出越した部分があったこと、また時間外労働に対する指導を受けたため人件費是正を行い、これにより一時的に人件費が膨らんだことなどが要因ですが、経常収益は前年比プラスになった面などを見ると基調としてはほぼ達成できたと感じています。
また施策面では、前々中期経営計画「新世紀プラン」では不良債権処理からの決別を掲げ、2001年3月に大幅な不良債権処理を行い、大幅赤字を計上し、不良債権処理の最終段階へと進みました。その後反転しリスクを取れる体制にいかに持っていくかが2001年3月からこれまでの5年間のテーマでした。特に現在の「新世紀プランⅡ」はそれを具体的に体制として作り上げるための時期ですが、これまでの様々な取り組みの結果、現在では実質的不良債権比率は部分直接償却前で3%以下となり、リスクを取れる体制となりました。

<澁谷>

新本店の建設を計画されているそうですね。

<谷頭取>

はい、本店営業部も含め営業インフラの整備が目的です。これまでは不良債権処理が最大最重要課題でしたがこれに目処が付いたこと、また広島銀行とのシステムアライアンスや端末入替など相当なIT投資を行ってきましたがこれも一段落したことで、次は営業インフラの充実を図る時期がやってきたと判断し計画しました。本店営業部には1日1万人以上のお客様が来店される中で、その大半はキャッシュコーナーで処理していますが、繁忙日にはロビーに人が溢れてしまいます。また、預金だけではなくご相談や投資信託など時間を要するスローな業務も増えていますが、これに十分に対応できない状況となってしまっています。よって本店営業部のフロアをもっと拡張したいのです。現在2階まで利用しているところを4階まで利用できるように計画しています。
また、現在の建物は30年前に建てたもので老朽化が進んでいるのですが、デザイン先行のビルであるためメンテナンスが難しく、費用も時間も余計にかかってしまうのです。さらに支店についても20~30店舗で建て替えを、それ以外でも改修などを行う予定で、"人にやさしい店舗づくり"を目指し全店でバリアフリーの導入を計画しています。総投資額は約200億円の予定です。

<澁谷>

銀行員を目指す学生や若手行員に対して期待されることは何でしょうか。

<谷頭取>

志を高く持つことです。志の持ち方も様々でしょうが、目先のことに捉われることなく、銀行あるいは自分の進むべき先はどこなのかを考えながら仕事をしてもらいたいですね。
私が頭取に就任した際、「高い感受性を持ち失敗を恐れない行動を」と行員へ伝えました。何が本質なのかを読み取る感性や今後を予測する洞察力、問題意識を持ち、自分なりの確信を得れば考えるだけでなく失敗を恐れずに行動に移してほしいのです。銀行としても行動しやすい環境づくりを行っています。よく「うちは信用コストがゼロに近い」と自慢する銀行がありますが、これは何もやっていないのと同じです。不作為の罪というものもあるのではないでしょうか。
銀行を動かしているのは人間ですから、人財育成はとても重要です。これまではスキルアップに軸足が傾いていましたが、これを反省し、社会から信用される一人前の人格を持った行員を育成できるような研修体系や内容に見直し、老朽化の進む研修所の建て替えを行うなど、人財育成にも力を入れていきたいと思っています。

(2006/03/13 取材 | 2006/06/13 掲載)