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広島銀行 髙橋正頭取インタビュー

期待を超える銀行に


▲ 広島銀行 髙橋正頭取

<澁谷>

貴行による地域貢献、また強みについてお聞かせください。

<髙橋頭取>

金融の機能や利便性は、現代社会における一つの重要な社会インフラです。企業にしろ個人にしろ、現代の経済社会を生き抜いていくために、金融機能はなくてはならないものです。我々地域金融機関にとって、健全かつ安定的な金融インフラを提供し、しかも時代を先取りしながら、その機能をより高度化させていくことが、最大の地域貢献であると認識しています。
従来、金融機関に対して期待される役割は、企業への融資などの資金の仲介が中心でした。しかし、現在、あるいはこれからの時代には、資金の仲介に加え、様々なリスクを抱える企業に対するリスクの仲介や、企業が生き残っていくために必要な情報の仲介なども必要となります。これら3つの仲介機能が揃ってはじめてお客様にとってより役に立つ金融機関になれるのです。

<澁谷>

「情報」とは具体的にどのようなものでしょうか。

<髙橋頭取>

最も端的な例で言うと、物を作り販売する製造業にとっての"より良い調達先"あるいは"より良い販売先"といった、いわゆるビジネスマッチングに関する情報だろうと思います。そうしたお客さまのニーズに対し、ビジネスチャンスあるいはネットワークの拡大を支援するため、当行では、定期的にビジネスマッチングフェアを開催しています。また、企業と企業の情報の仲介にとどまらず、広島大学をはじめ県内の6つの大学と提携し、大学が持っている知識やノウハウの仲介にも取り組んでいます。
情報の仲介において気を付けなければならないのは、銀行のひとりよがりになってはならないということです。いくら我々が良い情報だと思って提供しても、受け手であるお客さまからご満足いただけないものでは意味がありません。

<澁谷>

そうした満足感の対価として、貸出増強や金融商品の販売、もしくは役務収益などを得られているのでしょうか。

<髙橋頭取>

M&Aなど、従来銀行があまり手掛けていなかった、いわゆる投資銀行業務からの収益も最近は増えていますし、今後も増やしていきたいと思っています。しかし地域金融機関の場合、手数料や役務収益を短期的に得るために単品商売をするということではありません。取引先企業が中長期的により良い企業に成長してもらうために、幅広い分野で親身になって貢献することが、結果として収益に繋がると考えています。個人のお客さまについても同様です。大切なお金をどう運用したらいいかを、収益性及び安全性の両面からお客さまの立場で提案し、お客さまに十分ご満足いただける商品を提供しなければいけません。収益はあくまでその結果なのです。
ただ銀行として、何の目標もなしには物事は進められません。資金利益以外のいわゆる非金利収入で業務粗利益全体の25%を目指してきましたが、平成17年度においてクリアすることができました。特に、投資銀行業務あるいは預り資産関連の収入の割合が高くなっています。今後も投資銀行業務、預り資産残高の増強に努め、非金利収入を業務粗利益全体の30%以上へ引き上げていきたいと考えています。

<澁谷>

広島県の産業の特色についてお教えください。

<髙橋頭取>

基本的にはものづくりです。例えば、昭和16年に呉の海軍工廠で技術のかたまりとも言える戦艦大和を造り上げたように、歴史的にも瀬戸内海沿岸では高度なものづくりが行われてきました。その技術の集積が、現在のマツダに代表される自動車産業など、ものづくり産業にも繋がっています。最近では、電気機械などの製造業の集積も進み、産業構造の多様化も進んでいます。
また、広島市には数多くの行政機関が置かれ、中国地方の行政の中枢機能を持っています。ただ、そのような官の中枢性が社会全体でのウエイト付けから見ると相対的に小さくなり、民間ベースの機能のウエイトが高まってきています。金融についても、ほとんどの大手銀行・証券会社の支店があり、中国地方の金融の中枢機能を担っていると考えています。
 

<澁谷>

ベンチャー企業の育成に力を入れられているとのことですが。

<髙橋頭取>

広島県は、広島市近辺だけでなく、福山市近郊にかけてもベンチャー企業が多くあり、広島県下の企業で上場基準を満たしている未上場企業数は33社と、全国でも6位の水準にあります。さらに活力ある広島県を作るため、広島県内の将来有望なベンチャー企業及び個人の発掘を目的として、当行を中心に「財団法人ひろしまベンチャー育成基金」を設立しています。
ベンチャー企業にも様々な段階があります。育成基金では、助成、融資、投資の3制度を持ち、企業の成熟度や成長の過程に見合った支援を行っています。特に助成制度は、当行だけでなく地元企業からも基金を募って行っており、毎年約2,000万円の助成金枠の中で、応募を受け審査委員会で選考・ランク付けを行い、それに応じた助成を行っています。平成17年度は158件の応募があり、26先について助成を行ないました。

<澁谷>

事業再生にも熱心に取り組まれているそうですね。

<髙橋頭取>

これは地域金融機関としての大きな役割であると考えており、相当力を入れている分野です。地域金融機関と地元企業は、いわば運命共同体の関係にあります。企業の内容が悪くなったらすぐに切り捨てればいいというものではありません。企業の状態によって、内科的処置で済む企業もあれば外科的処置を必要とする企業もあり様々ですが、外科的処置をするにしても、一般債権者あるいは雇用に悪影響を与えないように心掛けなければいけません。一方で、再生については、経営者の資質やビジネスの将来性の見極めが重要です。見極めには、当行の審査能力が問われますし、大きな責任があると考えています。
また、実際の再生段階では、当行と企業とが手を組み、知恵を出し、汗をかいて課題を解決していく必要があります。その中で何よりも大切なのは、お互いが共通認識を持ち、信頼関係を構築するということです。現状を正しく認識し、共通の方向性を打ち出さない限り、どんな高度な手法を駆使してもうまくいかないでしょう。

<澁谷>

貴行の行風はいかがでしょうか。

<髙橋頭取>

行風というものは地域の風土を表しているものです。地域の風土を醸成している基本的な要素は自然環境です。瀬戸内海沿岸の気候は温暖で災害も少なく、適度に豊かな地域です。そのような地域に立地する銀行ですので、行員も明るく温厚です。風通しも良く、あまり物事に囚われない風土だと思います。逆に言えば、比較的おとなしく、粘り強さに欠ける面があるかもしれません。

<澁谷>

頭取は現場主義とのことですが。

<髙橋頭取>

はい、事前に連絡をせずによく支店を見に行きます。事前に知らせてしまうと、自然な姿を見ることはできませんからね。
また、本部と支店との力関係で言うと、従来は本部の方が力を持っていたように思いますが、最近では支店が相当強くなっているように感じます。一番大切なのは、お客さまとの接点を受け持つ支店のウエイトが高まり、本部は支店をサポートする役割を果たすということです。そのためには、本部の指示あるいは施策が支店にとって「利益実感」を得られるものでなくてはなりません。本部は先見性を持ち、支店がやりがいを感じるような施策を立案する責任があります。
例えば、支店事務の効率化策の実施などは、まず本部が支店事務の実態を十分承知した上で立案・実施するとともに、支店において、実際の効率化の効果が実感できなければ意味がありません。本部の自己満足だけで終わってはならないのです。
ただ、具体的な事務効率化策、経費削減策等は、支店でしか気付かないことも多々あります。そういった提案については、行内のイントラネットに書き込んでもらい、本部が実施の検討をしています。平成17年度には、1,500件あまりの提案が寄せられました。その中で、特に優秀な提案として39件を表彰しています。

<澁谷>

CSRについての取組み状況はいかがでしょうか。

<髙橋頭取>

金融機関を取り巻く経営環境が大きく変化する中で、社会が金融機関を評価するものさしも大きく変化しています。当行は、地域社会に根ざす金融機関として、地域社会におけるCSR(企業の社会的責任)を果たすことは不可欠であると考えています。我々の考えるCSRへの取組みには2つの側面があります。
まず、企業としての取組みです。例えば環境に関する面で言うと、当行では、銀行の機能を利用し、環境に配慮した経営をしていらっしゃる法人、あるいは個人のお取引先に対して、ローンの提供あるいは金利の優遇といった形で応援させていただいています。また、環境ロビー展の実施など、我々の持つ幅広い顧客基盤を通じて、環境に対する意識が促進されるような活動も実施しています。
いま一つ当行自らの取組みとして、空調温度の適切な設定、ペーパーレス化の推進、ゴミ分別ルールの徹底など、省エネ・省資源の企業運営に取り組んでいます。本年2月の「ISO14001」認証取得は、こうした環境活動への当行の姿勢を表したものです。
次に、個人としての取組みです。企業としての取組みを可能にするためには、企業に従事する役職員一人ひとりが、環境への高い関心を自分の生活の中で身に付け、実践していく必要があると考えています。個人の活動の場合、日常生活からあまりにもかけ離れたところで取組みを促しても、掛け声倒れで終わってしまいます。例えば、公園の清掃、あるいは地元コミュニティでの活動への参加など、身近なところから積極的に行動していくことが重要です。
いずれの場合においても、短期的に大きな成果が出るものではなく、意識付けにも時間がかかるものであり、継続的に行っていかなくてはなりません。
 

<澁谷>

大手銀行などとの競合の中で貴行はどのように戦っていかれるのでしょうか。

<髙橋頭取>

広島は金融激戦区です。大手銀行のみならず、近隣金融機関からの営業攻勢もあり、競争はかなり激しいと言えます。そうした激しい競争に勝つためには、お客さまの多様化するニーズに対し、どこの金融機関にも引けをとらない金融サービスをスピーディかつ安定的に提供していく必要があると考えています。しかしながら、ニーズというのは、お客さまが明確に認識しているわけではありません。漠とした課題や不安はあっても、それを具体的にニーズとして示すことは簡単ではありません。我々の強みは、地元に周密な店舗網を持ち、地域に密着しているとともに、お客さまと非常に長い時間軸でお取引をしていただいていることだと考えています。お客さまとの多くの接点の中で、必ずしも整理されていないお客さまの悩みや思いといったものを一緒になって考えながら、本源的なニーズを探り当て、解決策をオーダーメイドで提案していくことで、他行との取引では味わえない利益実感を感じていただくことが重要だと考えています。

<澁谷>

銀行は経営者以上に企業を客観的に見ることができます。経営者は異なる視点やリスク感覚を知ることで、アイデアが生まれたりリスクマネジメントができたりすることもありますよね。

<髙橋頭取>

その通りです。それが、お客さまの利益実感につながると考えています。逆に、我々が、企業経営者の異なる視点や感覚に接することによって、アイデアが生まれることも多々あります。当行では自動車関連対策室を設けていますが、マツダの部長クラス出身の方に来てもらうことで、これまでの銀行とはまったく違うものの見方ができるようになりました。最近では、若手行員の事業会社への現役出向を多く行っています。トレーニー制度みたいなものです。外の世界を見ることで、銀行では得られない感性や見識を身につけるとともに、お客さまの立場から銀行を見るいい機会となっています。そんな彼らの経験が、彼らにとどまるのではなく、周囲の同僚に自然と伝播していくことが重要だと感じています。
また、自分が担当している企業のB/S、P/Lが悪化した時、企業経営者としての主体性や感性を持っていると、担当者として、それを銀行の立場からだけで捉えるのではなく、自らのこととして心を痛めるようになります。預金や貸出の取引だけではお客さまは満足しない時代になっています。お客さまと共に喜び、共に心を痛める、そんな心を通じ合わせたお付き合いが行員の意識や能力を高めるとともに、結果として成果に結びついてくるものだと思います。

<澁谷>

若手行員に対するメッセージをお願いします。

<髙橋頭取>

「自分で考える」ということです。日本の教育においては何でも暗記ができればそれなりに良い点を取ることができますが、自分で白紙に絵が描けるようになるには真剣に考えることが必要です。人間としての強靭な精神力を持ち、良い意味での自己主張をし、議論を戦わせることによって新しいものが生まれてくるのです。そのためには志を高く持ち、自己研鑽に励まなくてはなりません。すぐに妥協をするのは自分の考えがいい加減だからであり、そのような人間ではお客様から見ても魅力は感じられません。

(2006/04/06 取材 | 2006/06/13 掲載)