b

TOP > インタビュー > 百五銀行 前田肇頭取インタビュー

百五銀行 前田肇頭取インタビュー

FRONTIER BANKING


▲ 百五銀行 前田肇頭取

<澁谷>

まず御行の強みについてお聞かせください。

<前田頭取>

当行は明治11年の創業で、来年130年を迎えます。当地でこのように長く商売をさせてもらっているのは非常に強みだと思っています。地元である三重県、愛知県、特に三重県では貸出金シェアが約35%、預金シェアが約41%と高いシェアとなっています。また、ほとんどの行員が三重県、愛知県出身者でOBも全県下に散らばっていて、各企業と非常に身近な関係になっていることも強みです。
二つ目は、財務面で、自己資本比率が10%を超えていますし、不良債権比率も平成19年9月末で3.83%と低い状態です。格付けもR&IからはA+、S&PはA-をいただき、健全性の面で非常に優れていると思います。また、長年の取引先を中心とした会社の有価証券の含み益が1,200億円以上あり、地銀の中でも上位に位置しています。
三つ目は、地銀型投資銀行業務を行うコンサルティング課の活躍です。この部署は本部にあり、現在20数名が配属されています。中でも医療ビジネスについては、20年前から手掛けてきており、勤務医の方の開業に際し、マーケット調査、土地の斡旋、開業資金の融資も含めて、ご相談に乗らせていただいています。現在、三重県内で開業される病院やクリニックの70%ぐらいが当行の医療ビジネス担当をご利用いただいています。
四つ目は、上海とシンガポールにある駐在員事務所で行っている国際ビジネスの支援業務です。三重県と愛知県における当行取引先の150社ぐらいが中国全土に出ている状況です。開設4年目を迎える上海駐在員事務所では、工業団地を一緒に探したり、税務会計の相談、さまざまな法律相談等の業務を行っています。シンガポール駐在員事務所も今まではタイ、マレーシアぐらいが活動範囲でしたが、最近はベトナムとかインドにも範囲を広げています。ベトナムは社会主義の政府なので、国の方針に沿うプロジェクトであれば、工業団地の斡旋等いろいろな面で有利な条件を受けることができます。そこでベトナムの計画投資省と提携し、当行の取引先がベトナムに進出したいという時に紹介をしています。また、最近はインドの重要性が増してきたと思いますので、名古屋でインドセミナーを開催するなど力を入れています。
五つ目は、お客様へのソリューションの提供です。シンジケートローン、PFI、M&Aといった面でも、コンサルティング課を中心として、地域の企業からのご要望とかニーズにお応えするような形で活動し、成果を上げています。銀行は金利競争の部分もあるかもしれませんが、情報提供をする、あるいは問題解決型ソリューションによって、お客様に付加価値を提供することができます。情報提供やソリューションはこれからも力を入れていくべきだと考えています。
最後に、本年5月から、当行の基幹系システムを、コストも安く使い勝手のいいマイクロソフトのWindows®を使ったオープン系のシステムに、日本ユニシスと共同開発を行い、移行させたことです。

<澁谷>

基幹系はもとより、情報系も全部含めて、Windows®を使うのは世界で初めてですね。

<前田頭取>

全国の地銀、信金からも注目されていますが、このシステムは、ATMの稼動時間の延長、例えば夜12時までとか、あるいは24時間営業や休日のフルバンキング業務も可能となります。この10月からは、津駅西口支店で土曜・日曜における勘定付取引を開始しました。平日、銀行へお越しいただけない方に好評です。またATMの稼動時間も午前7時からとし、コンビニATMと5か所の近鉄駅構内のATMでは夜11時までの稼動としました。このように、今まで以上にシステム対応力が強化され、各種金融商品、サービスの提供が可能になると思います。

<澁谷>

先ほどの医療ビジネスのコンサルティングや、国際ビジネス支援、システムもそうですが、非常に先進性、革新性のあるのが御行の強みですね。

<前田頭取>

平成15年に創立125周年を機に「FRONTIER BANKING」というコーポレートステートメントを制定しました。三重県の県民性は比較的控えめでおっとりした部分があり、当行も130年近い歴史の中で三重県の県民性が十分身にしみたような体質にありますので、それを何とかいい面で打破したいという思いで制定したのが、このコーポレートステートメントです。何も新しいことだけがいいわけではないですが、このコーポレートステートメントが、革新的なことに挑戦しようという機運を生むきっかけになったと思っています。

<澁谷>

「新世紀第二次経営計画」の成果・今後の課題、経営計画「温故革新 2009」について、 お聞かせください。

<前田頭取>

投資信託、国債、証券業務といった預り資産の販売による役務収入と、愛知県内で事業性貸出が大きく増加したことより、収益は増加しました。ゼロ金利政策の解除による市場金利の上昇、リスク管理、内部監査等の対応強化、内部統制、金融商品取引法への対応などに追われた部分もありますが、「新世紀第二次経営計画」の目標は達成できたと評価しています。
今後の課題は引き続き、収益力の向上だと考えていますので、預金と貸出金の収益基盤を維持しつつ、預り資産の増強、およびコンサルティング業務、ソリューション業務による手数料収入の割合を15%から20%まで高めることで、新たな収益基盤を作ることが重要だと思っています。
この考えに基づき、経営計画として制定したのが「温故革新」です。
温故というのは、当行の"歴史"と従来からの銀行業務である、預金、融資を大切にする。革新については、新しいシステムのスタートや、銀行業界は戦う環境が非常に厳しくなってくるので、新しいことに挑戦していろいろと変化をしていかないと生き残っていけないという意味を込めて、「温故革新」という名前を付けました。これは温故知新をもじったものですが、今まで「新世紀第一次経営計画」と「新世紀第二次経営計画」という計画に基づいて行動してきて、次も「新世紀第三次経営計画」というのでは面白くないと感じ、いろいろ議論して出てきたものです。当行は130年の歴史があるし、古いところに歴史の良さもあるので、それは大切にしていきたいという思いがあります。

<澁谷>

温故知新というのはありますけど、「温故革新」というのは「古き」を大事にしてまた「革新」ということですから、とてもいいですね。

<前田頭取>

ほかにもっといい名前はないのかと議論にもなりましたが、名前ありきではなく、いかに実行するかが大切だと考え、最終的に「温故革新」になりました。
この計画では、行動指針を「"攻め"と"スピード"」、基本方針を「東海屈指の金融サービス業としてあらゆるニーズにお応えする」としました。つまり、厳しい金融環境の中では攻めるということ、スピードというのが絶対に大事だと思いますし、また三重県のマーケットを大切にしつつ、愛知県の非常に大きいマーケットにおける戦略をきちんと固めて、愛知県での業容拡大に努めたいという気持ちが入っています。その上で、融資と預金、個人ローン、投資信託、証券、保険といった商品ニーズだけでなく、国際、医療ビジネスなどに対する相談ニーズにもお応えしていきたいのです。

<澁谷>

今後、企業経営者に選ばれる地方銀行のあり方についてどのようにお考えでしょうか。

<前田頭取>

企業経営者の方にとっては、資金繰り・融資面だけでなく、業務の効率化や人材の確保などの多岐に渉る相談に乗って欲しいというニーズがあります。企業経営者に対して、そういった部分のトータルサポートをしていくことで、非常に身近な存在となることが、地方銀行の一番大事なあり方だと思います。
ですから、私は「お客さまから頼りにされる銀行員になろう」というのを、経営計画に6年間ずっと掲げてきています。「信頼される銀行員」というと、少し距離を置いた付き合い方ですが、「頼りにされる」という言葉には"一緒に腕を組んで"というイメージがあります。現在の厳しい環境の中で、本音で話ができ、相談していただける人材を地域に提供していくことが地銀の役割だと思って、いつも行員に呼び掛けています。

▲ コミュニケーションミーティングの様子

<澁谷>

頭取になられて、注力してきたことはなんですか。

<前田頭取>

コミュニケーションを、私は非常に重視してきました。
行員に対しては平均月1回、支社単位で訪問して夕方5時ごろからお弁当や飲み物を用意し、「コミュニケーションミーティング」と称して、いろいろな年代の方、男女も入り混じって、6年間ずっとコミュニケーションの場を作ってきています。
事前に私に対する質問、意見を出してもらって、それを核にして話を広げていくというものですが、私が支店長会で話したことが、本当に若い行員まで伝わっているかどうかの確認にもなりますし、実際に話すことで、私の思いを分かってもらえる効果があります。
それから、毎週火、水、木の3日間、朝8時半から9時まで、本部の役員・部長クラス20名くらいと、参加任意の"朝会"というコミュニケーションの場を設けています。これという議題を設けずフリーディスカッション形式で、新聞を題材にして意見交換したり、「今、こんなことを考えています」という話や、セミナーに行ったとき、「こんな話を聞きましたよ」という内容で、いいコミュニケーションの場となっています。

<澁谷>

頭取は行員の方から直接話を聞くというコミュニケーションを最も大切にされていますね。

<前田頭取>

それは絶対に大切だと思います。やはり、実際に銀行は人で動いていますから、その人たちが本当に経営の思っていることとか、言っていることを理解してもらって動いてもらうのが業績に即、つながってくると私は思っています。何を言っているのか理解されず、全然人が動いてないというのでは最悪の組織になってしまうので、本当にコミュニケーションはきちんと取っていきたいと思っています。
それから、お客様に対してのコミュニケーションも大切にしています。当行では「百友会」というお客様の会があり、講演会を開いたりゴルフをしたりしています。また忘年会や新年懇親会などを行った時には、我々役員もできるだけ出るようにしています。一会場で150人ぐらい来ていただけますので、コミュニケーションを図れる絶好の機会になります。この場では、支店長に対するお褒めの言葉やお叱りの言葉、当行に対するご注文をお聞きできるので、こうしたコミュニケーションの取り方は、地方銀行の特徴、強みだと思います。

<澁谷>

金融を目指して入行した若い銀行員に対して期待することをお聞かせください。

<前田頭取>

今までは融資と預金業務にだけ精通していればよかったのが、投資信託、保険の販売などをはじめとして、業務範囲がどんどん広がっているし、個人・法人含め、地域のお客様の様々なニーズに応えていくためには、いろいろな勉強をして知識を蓄えていく必要があります。大変だとは思いますが、知識の研鑽・蓄積といった努力はお願いしたいと思っています。
また本当にコンプライアンスを大事にして欲しいと思います。銀行の利益、自分の成績、自分の支店の成績を優先して、お客様に無理に商品を購入してもらうのは論外なので、深い知識をもって、お客様に十分説明していくことを大事にして欲しいです。それでお客様からはあなたに相談したいと、あなたがいるからこの支店に相談に来たと言われるように、一人ひとりがなって欲しいというのが最近の強い思いです。
それと若い行員の方には、銀行の業務だけ覚えればいいというような、幅の狭い人間になって欲しくないと思います。私は、土日は頭を切り替えて、銀行の仕事以外のことに打ち込むとか、異業種の方と交流して欲しいということを、行員に対していつも言っていますが、こういったものを通じて幅の広い人間になることが、結果お客様からの信頼を得られたり、近くに感じていただけるということになると思います。当行の企業理念に「良識ある社会人として誠実に行動します」というのがありますが、これに則ってお客様、あるいは社会から信頼される行員になって欲しいと言っています。
あとは「百五銀行で働いていてよかった」と思えるような仕掛け、仕組みをつくってあげたいと思っています。若い人が育つのは、自分が責任を持ってやった仕事が成功してお客様に喜んでいただいたという体験の積み重ねだと思いますし、この体験がスムーズにいくような組織作りができれば、いっそう若い人も育っていくと思うので、この組織作りは絶対に心掛けていきたいと思っています。

▲ 三重県内の観光地や祭事、伝統産業
を中心に紹介する地域情報誌
「すばらしき"みえ"」

<澁谷>

次に三重県の最近の経済とか、産業の情勢をお聞かせください。

<前田頭取>

全国でも活力ある有数の県だと思っています。亀山にシャープの工場、四日市は東芝の工場、桑名が富士通、鈴鹿にはホンダ自動車関連、それからトヨタ自動車の下請けの企業が桑名、四日市にはありますから、津から北の三重県北部は元気があります。三重県南部は伊勢神宮が6年後の2013年に、20年に1回の式年遷宮があるので、昨年からいろいろな行事が始まっています。昨年1年間で、内宮、外宮の参拝客が今まで年間550万人ぐらいだったのが、600万人を超え、これから6年間は増加していくと思います。この影響で伊勢・志摩地区の観光が期待できると思っています。大阪経済圏に位置する伊賀・上野地区も、上向きつつある大阪経済に牽引されて、かなり今はよくなっています。有効求人倍率も全体で約1.4と他地方と比べると非常に恵まれていると思います。
三重県は製造業も非常にいいし、観光業もこれから期待できます。また地場産業的な林業・農業・水産業についても、今までのように米、野菜を作るだけでなく、その体験を売り込むといった新しい産業形態が芽生えてきていることが非常に大きいです。

<澁谷>

最後に、これから少子高齢化の中で女性に活躍してもらう機会は多いと思いますが、御行での女性の活躍、また期待されることをお聞かせください。

<前田頭取>

今までは法人業務や渉外業務で男性中心の仕事が多かったのが、ローン、預り資産等の分野が拡大したことにより、個人に対するいろいろなアドバイスなどの面で、女性のきめ細やかさを発揮できる活躍の場が増えています。最近は株の動き、為替の動き、その他経済の動きをきちんと頭に入れて、お客様に応対するという意識が、窓口、渉外問わず高まってきていますし、自分の仕事の成果がすぐに手数料といった数字として表れることで、銀行の収益にいくら貢献しているかがわかることが非常に励みになっているようです。
当行でも、女性の登用を心掛けていて、住宅ローンや投信の部門においてスペシャリストが出てきている状態で、支店長代理クラスになると80名ぐらい、女性支店長が3名いて非常に活躍しています。個人店舗は女性の支店長に任せた方がいい成績が上がる様子なので、もっと増やしていきたいと思っています。
そして、できれば女性の取締役を近いうちに出したいと思っています。

(2007/03/28 取材 | 2007/12/07 掲載)