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京都銀行 柏原康夫頭取インタビュー

堅実経営と積極姿勢でお客様の信頼を勝ち得る


▲ 京都銀行 柏原康夫頭取

<澁谷>

京都銀行のお客様へのPRポイント、京都銀行の強みについて教えて下さい。

<柏原頭取>

メガバンクや京都の大きな信用金庫に対抗できる強みがあるという感覚はありません、激しい競争の中で、必死に努力しているのが実態です。いかにしてお客様のお役に立てるかと言う事については、常に一生懸命考えています。自分のところの収益を極大にするためという考えは持っておらず、長期的にはこの方向が良いのかもしれません。我々は地銀ですから、お客様との長いお付合いができれば良いので、お客様が良かったと思えるような営業ができることが一番大切です。提案力では組織的な手当てを実施しており、「目利きチーム」という、いわば業種別専担性の組織を法人金融部の中に作っていますし、そういう面での提案力のレベルはかなり高いと思います。このような提案力は、地域のお客様に役立つという面では大きな財産だと思います。

<澁谷>

中途採用では専門的な方を積極的に採用しているのでしょうか。

<柏原頭取>

専門家を意図して採用したことはなく、ジェネラリストを採用しています。 大手行からの中途採用の行員は、各企業の文化を持って入社してきます。当行のカルチャーに異文化を多少なりとも取り入れ、混ざり合う事で組織が強くなります。
大手行の積極的な営業姿勢や収益に対するしっかりとした考え方を持った人たちに新鮮な刺激を受け、それを習得して行くことで銀行全体が強くなるという良さがあるのです。

<澁谷>

滋賀県や奈良県など、他県への貸出金や預金もかなり伸ばしていらっしゃいますね。

<柏原頭取>

お客様にとって、地方銀行は近くて便利ということが取引していただける第一条件です。滋賀県には数店出店しましたが、京都と地縁があり、当行に対する期待も大きかったことから、何の問題もなくスタートすることができました。これは予想をはるかに超えた拡大ではありました。滋賀県は、他県が縮小している中で、県民所得や人口の増加など今なお拡大している極めて有望なマーケットです。滋賀銀行が大きなシェアを持っておられますが、当行にとってもたいへん重要なマーケットです。
大阪府は土地の価格が高いため手に入れるのが難しく、競争が激しい地域ですが、当行の力が及ぶ地域でもあります。 また、お客様の変化としては、今まで複数の大手行と取引していたのが、合併により一つの銀行になってしまい、地銀とも取引しておく必要があるという考えに変化したことがあります。これは大企業も中小企業も同じでここに地方銀行が入りこめる余地が残されていると考えています。

<澁谷>

京都府内でのシェアも上げられていますね。

<柏原頭取>

京都府下での店舗配置は完了していますので、現在はリフレッシュ期間と位置づけています。これまで手狭だった店舗の面積を倍にするなど、大胆に改装しました。
三宅八幡支店は、地域にマッチした和風建築の瓦葺屋根の2階建ての店舗です。とても存在感があり、周りの景観とよく調和しています。帷子ノ辻支店は、美術館のような雰囲気の外観で、名所となるような店舗に改装しました。このようにリフレッシュを進めながら、業容の拡大に合わせた店舗改装を行って、より多くのお客様にお越しいただきたいと思っています。

▲ 三宅八幡支店

▲ 帷子ノ辻支店
 

<澁谷>

頭取として京都銀行の行風をどのように考えていらっしゃいますか。

<柏原頭取>

外に向かって自己主張をするというよりも少し控えめで堅実な考え方が特徴です。
また、一方では一つの目標を鮮明にし、ある限定的なことに取り組むとかなり大きな成果を生むという特性を持っています。

<澁谷>

新第2次中期経営計画「ScaleⅡ」(計画期間:17年4月~20年3月)のスタートから1年が経ちましたが、これまでの成果と今後の課題を教えて下さい。

<柏原頭取>

量的拡大をしないと質的な向上も難しいと考え、ScaleⅡでは量的拡大宣言を掲げています。この中の、「1・3・5運動」と言いますのは、住宅ローンの残高が1兆円、貸出金残高3兆円、預金・譲渡性預金残高5兆円を目指したもので、18年3月末に目標を達成しました。特に、預金・譲渡性預金残高5兆円の目標達成はとても高いハードルでした。個人の貯蓄性向がますます下がる一方で、法人のキャシュフローはどんどん積み上がってきていましたので、法人預金ということであれば獲得が出来るのではないかと考えたのです。
ただ、大口定期で取り込んでいくと、預金保険料の負担があるので、譲渡性預金を含めて5兆円の目標にしようということになりました。
計画を推進するために、最優秀店舗には私自身が店舗を訪問し表彰しています。
高い目標を揚げて8割達成した方が、低い目標を掲げて目標を達成するより良いと考えています。
 

<澁谷>

京都には、ユニークな優良企業がたくさんありますが、京都にそういった企業が生まれてくる背景は何でしょうか。
また、そういった企業に対して京都銀行はどのような支援をされてきたのでしょうか。

<柏原頭取>

京都だからということが理由かどうかは分かりません。関西では戦前からのベンチャー企業とも言える松下やシャープ、三洋などが大企業へと成長してきたので、時代が早かったこともあり注目されていますが特異なことではないと思います。
創業者の努力はもちろんですが、敢えて言えば、大学が狭い範囲にたくさん集中していることです。もう一つには、京都の産物、つまり京モノは「最高品質」の代名詞とも言われ、常に最高レベルを求められてきました。文化として、また土壌として最高の品質のモノを作ってきた職人の技があること、この2つが大きな要因と言えるのではないでしょうか。
当行は新しい銀行であり、設立当初は伝統的な西陣織など昭和20年代~30年代の勢いのある企業に対してはなかなか参入できませんでした。その後、機械金属の製造業が成長し、新参者である当行ともお取引がスタートしました。その中のいくつかの企業が大きく成長してきたことにより、今日の実績があるのです。現在ではベンチャーファンドを5組合ほど組成し、60社を超える企業へ投資しています。
ベンチャー支援策は当時に比べるとはるかに充実し、行政とタイアップするなど様々な施策がとられていますが、支援策だけでは簡単には企業が成長することはできません。一部の企業は別として、製造業はやはり長年の経験が必要であり、中堅企業や大企業が企業内で創業した事業を会社の資金で大切に育て、5年から10年かけて独立し成長したところは成功する可能性は高く、ゼロから始めた企業がすぐに成功するほど簡単な時代ではなくなったと感じています。既存の会社では技術力以外のノウハウもありますが、ベンチャーの難しさは、販売力、資金財務力などの経営能力をゼロからスタートさせることにあります。そこの支援をもっと積極的に取り組みたいと思っていますが、なかなか課題も多いというのが現実です。

<澁谷>

頭取としてもっとも注力している、また、注力されたことはなんでしょうか。

<柏原頭取>

やはり不良債権の処理ですね。就任した年に赤字を出して一旦整理を行いました。 「過去の蓄積である含み益は温存しておきたい、これが将来必ず資源として有効に使える」と言う考えで一旦赤字を出し、ほとんど益出しをせずに不良債権を処理できました。その簿価を抑えたことが現在の含み益となり、潜在的自己資本として成長の原資として活かせるように努力しました。
また、不良債権の処理については、行政もアナリストも一般の論調も「縮小均衡」でした。縮小して効率性を上げるということが全体の風潮としてはあったのです。公的資金を入れられた銀行などは、すぐにリストラや人員削減を行う、これはおかしいと思ったのです。
その時、分母を大きくして比率を下げるほうが絶対に良いと考えました。就任2年目で、豊穣な滋賀県のマーケットに目をむけ、拡大政策に乗り出し成功したのです。
京都のマーケットを見直したところ、融資の残高が減っていく中でマーケットも縮小して行きました。
京都府内には支店が106店舗ありますが、京都のマーケットが縮小している中で、京都に拘っていては当行の発展の余地は無いと考えました。
地銀上位10行を見ると、店舗数は一番少ないところで140数店、多いところで170、180店もあり、当行とは40から60もの差がありました。
千葉県は京都府の2倍、神奈川県は2.5倍のマーケットがあり、静岡県、福岡県は京都よりもはるかに大きなマーケットがあります。当行の場合は滋賀県全域、奈良県全域、大阪北摂部を含めて、やっと今の倍の人並みのマーケットになります。これからは店舗配置を行い、人材を投入し営業展開していくことで、ようやく同一条件で他行との競争ができると思っています。

<澁谷>

若手行員に対して期待することは何でしょうか。

<柏原頭取>

我々が入った頃に比べるとはるかに高度な知識と能力を要求される時代になりました。
先進的なファイナンスのノウハウや商品については、勉強することが多くあります。ただ、基本的な知識の柱である、預金、貸金、有価証券、新しく加わった保険販売についての必要性は変わりません。基本的な業務知識の習得はとても重要です。特に多様化している有価証券の知識はしっかり身に付けてほしいですね。そのベースの上に、専門性を身に付ける、ある分野で強みを持つことができたら良いと思います。
もう一つには、自分で対応できる能力と責任感を高めて欲しいということ。これは上から下まで言えることですが、なんとなく指示待ちになってしまい、自分でモノを考えて自分で実践していくという気構えと能力を持つとぐっと成長すると思います。
経験や配属によって左右される部分もありますが、どこの部署においても何か1つの強みを持っている、この分野については任せておけるという分野があると良いと考えています。

(2006/07/26 取材 | 2006/08/10 掲載)