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武蔵野銀行 三輪克明頭取インタビュー

埼玉県民のベスト・リテールバンクを目指して


▲ 武蔵野銀行 三輪克明頭取

<澁谷>

貴行のお客様へのPRポイントと強みを教えて下さい。

<三輪頭取>

当行は創業以来、地域共存と顧客尊重を経営理念に、埼玉県内の中小企業と個人のための銀行として活動してまいりました。バブル期も、バブルが崩壊してからも、こうした経営の基軸が揺らいだことはありません。そうした結果として、不良債権による痛手が他行と比べて軽微でしたし、バブル崩壊後、いわゆる貸渋りや貸剥しを全くすることなく、大手銀行を中心に他行が店舗を整理し撤退していく中でも、当行は従来通りの顧客支援をしていく方針を変えずにやってきました。
こういったことがお客さまの信頼を得て、新規取引の増加に繋がったのではないかと思います。貸出金残高は創業以来、平成12年3月期を除き全て前年比プラスになっています。
平成14年の初め、中小企業のために無担保、第三者保証人不要のスコアリング商品をスタートさせましたが、これは当時の苦しい経済情勢の中で、資金を必要とするお客さまのニーズにうまく合いました。
不良債権処理については、地域銀行はあくまでお取引先の再生を主眼にやっていくことが大事だという思いで取り組みました。それが、地銀平均を上回る当行のリレバンの再生支援実績につながったのだと思います。
これは地域で商売をやっていく上できわめて大切な事で、企業にとって地元銀行と取引しているという安心感の積み重なりは大きいと思います。今後もお取引先に本当に必要とされる銀行を目指していきたいと思っています。

<澁谷>

お客様の事業をよく理解し、常にコミュニケーションをとっていないと、安心感を与える本当の意味での支援は難しいですね。

<三輪頭取>

取引関係の緊密化は非常に大事なことで、その上に情報提供や相談機能をうまく発揮できればいいと思いますし、それがないと地域銀行としてこれから難しいのではないかと思います。

<澁谷>

貴行の行風についてどのようにお考えですか。

<三輪頭取>

従業員は現在約2000人と大きな規模ではありませんので、組織全体としては風通しが良く、若い人達が自由闊達に意見を言える組織だと思っています。また、多くの行員が仕事に対して情熱と実行力をもっていまして、目標を定めてそれに向かって一丸となって取り組んでいく、団結力を備えている行風だと思います。
お客さまからは、地味で堅実だという評価が根強くありますが、このように言われる原因の一つには、パフォーマンスが下手なことがあるかもしれません。ただ私は、それはそれで大事なことだと思っていまして、実力以上のパフォーマンスは絶対しないよう伝えていますし、それが私自身の信念でもあります。

<澁谷>

実力通りのパフォーマンスをしなさい、実力をあげなさいということですね。

<三輪頭取>

そういった実力がないと、ここ4,5年間、貸出の伸び率や増加額が、地銀でトップクラスにあるということはなかなかできないのではないかと思います。
また、やはり実践をしている行員の情熱と実行力が大きいと思います。
また、最近では女性が活躍しており嬉しく思っています。これには預り資産専担のFAテラー制度の導入が一つの大きなポイントになったようです。この仕事をやり始めてから、女性が自分の目標や仕事のやり方、顧客との折衝といったことに大変魅力や生きがいを感じるようになったようです。こういったことが営業店全体の活性化につながり、女性の役職者も次課長クラスが7名、主任クラスが96名と、この15年で急速に増え活躍しています。
さらに近いうちに、女性の課長や次長、支店長が相当数出てくるであろうと思っていますし、楽しみにしています。
その他、女性の企業開拓専担者や商品企画担当者など相当力をつけてやり始めており、次期の中期経営計画には、女性の支店長を何名作るといった目標も出てくるかもしれません。女性行員も銀行全体できちんと育てていくことが大事だと思っています。

<澁谷>

中期経営計画『JUMP UP 21』の開始から2年半経ちましたが、成果と今後の課題について教えて下さい。

<三輪頭取>

今の中期経営計画では、収益力の強化と財務体質の向上、営業基盤の拡充を三位一体で取り組んでまいりました。全般的に順調にきておりまして、特にボリューム面では3年間の目標を2年間ですでにクリアしていますし、収益面でも平成17年度までコア業務純益や当期純利益が4期連続して過去最高記録を更新しています。
平成18年度中間期もコア業務純益は上半期ベースで5期連続既往ピークを計上するなど、収益力も強化されてきています。
財務体質面では、一番の懸案だった自己資本比率も収益の積み上げと平成17年11月に公募増資を行ったおかげで、中間期で10.5%強になりました。不良債権比率は現在3.1%で、平成19年3月には3%を切るという目標もほぼ見通せる状況になりました。
今後埼玉県はますます競争が激しくなりますので、引き続き成長戦略を推し進め収益力強化をはかっていきたいと思います。高い目標を設定していますが、こうすることで皆が知恵を出しあい、様々な施策を作ったり戦略を考えたりすることに繋がり、良かったと思っています。
次期の中期経営計画でも、私どものシェアからするとまだまだこの戦略を続けていく必要があります。今の中計がスタートする5年ほど前、当行の県内における貸出金シェアは約10%でした。創立してから50年間程ずっとこうした状況で、首都圏地銀ですから、他地方の地銀のようにシェアをあげていくことは困難ですし、必要もありませんでした。
ただ、私はなんとか20%くらいまで県内の融資シェアを上げたいという夢を持っていました。当行の貸出先は中小企業向けが圧倒的に強いわけですが、中小企業向け融資を主体にして貸出県内シェアが2割いけば、相当なものです。大きな地公体取引があるわけではなく、また、総貸出金に占める個人ローンの比率が半分をはるかに下回っている中で、今の経営方針のままで20%のシェアを持てれば、相当存在感のある銀行になると思います。
おかげさまで、この中間期でシェアは14%近くとなり、目標の20%という数字は見えてきました。今後は今までよりもっと厳しい状況になると思いますが、皆で知恵を出しあってやっていきたいと思っています。

<澁谷>

お客様のビジネスパートナーとして、情報提供力の強化や融資のスキルアップなど具体的にやられていることはありますか。

<三輪頭取>

12年ほど前、運用力強化のため、新規開拓の専担者制度を作り、30代の行員を行内の公募制度で集めました。80名の応募があり、合格した40名に2年間、朝から晩まで新規開拓だけをやらせました。
こうした活動の中で、銀行として企業にどういう情報を流せるか、ビジネスマッチングにどのように繋げるかといったことを、彼らは身をもって感じたと思います。個人的に相当勉強していましたし、休日には自主的に勉強会に参加していました。
私は当時融資部長を経て総合企画部の部長をしておりましたが、当行の次の戦略を考えた際、今のままでいくと3年後は地盤が沈むのではないかという危機感を持っていました。中小企業のためにある銀行として、これではいけないと、不良債権の処理が始まる際に、40名全員を本部の所属として営業店にはりつけ、毎週営業結果の報告をさせました。その中で、個々に色々な専門分野で力をつけていった人達がでてきました。
M&Aの案件も数件できましたが、企業には様々なニーズがありますので、その会社に入り込んで情報を集め、核心をつかむことが大切です。それさえつかめば自分でできなくても銀行の中で探せば必ず対応はできますし、銀行の中になければ外部にお願いすればよいのです。自分の担当している企業や業界の知識は誰にも負けないというぐらい勉強することで、お客さまから信頼していただけるのだと思います。

<澁谷>

12年前の苦労が、行員一人一人の専門性として残り、今力がついているということですね。

<三輪頭取>

そうですね。法人部で新規開拓を経験した行員は200名ほどおりまして、現在はそのほとんどが営業店にいます。最初にいた行員は支店長や次長になっていますし、その他も中堅どころになっています。こうした行員の高い意識は営業店全体を引っ張り、もちあげていく活力になっています。

<澁谷>

『JUMP UP 21』にもありますが、人材の思い切った傾斜配分や戦略的な人材配置をされていますね。

<三輪頭取>

人が大事だと思っていましたので、リストラは一切せず、逆に1割余計に仕事してもらうという風に、限られた人数の中でどうやっていくかを考えました。
地域特化戦略として、最初に熊谷支店に取組みました。ここは創立以来の支店ですが、50年の店歴にもかかわらず、貸出金残高は240億円弱しかありませんでした。縮小するにしても撤退するにしても、その前に納得するまでやってみることを決断し、営業店と本部が集中して取り組みました。
人員は、専担者を4名入れ、あとは若い行員に任せました。3年半の計画は今年3月に終わりますが、貸出金の3年間の累計増加額は目標を大きく上回る190億円、現在の貸出金残高は430億円になりました。
熊谷支店ができたなら他の店にできないことはないと、その後同じような集中取組を川口地区、越谷地区、さいたま地区で行っています。こちらもおかげさまで非常に効果が出ていますので、ある時点で集中して取り組むことは非常に大切だと思います。そうすることが、その地区の業績をあげるだけでなく、周りの活性化にも非常に良い影響を与えると思っています。

<澁谷>

地域特化で資源を集中し、そこを良くすることで周り全体が盛り上がるのは素晴らしいことですね。一人一人の行員の生産性があがり、実績もできそれが自信になるという、好循環になりますね。

<三輪頭取>

収益面で当行は、地銀平均と比較するとかなり低い水準でしたので、今やっと他行さんに追いついた感じです。コア業務純益はかつて5~6年前までは概ね140億円前後でしたが、今は200億円以上となっています。そういう意味ではこの5年間、みんなでよく頑張ってきたと思います。

<澁谷>

リテールの分野では、早い段階で、FAテラー制度の導入や運用アドバイスの取組強化をされていますね。

<三輪頭取>

現在、県内への貸出は全体の91%で、中小企業等への貸出は85%です。営業店は全部で90店ありますが、そのうち89店が事実上埼玉県内にあり、これほど県内に店舗が集中している銀行は他にありません。
営業拠点については今後住宅ローンセンター等も含めて充実させていきたいと考えていまして、17年4月以降フルバンキング店舗を東川口に1店、他に住宅ローンセンターを2ヶ所、法人オフィスを1ヶ所新設しました。また、19年度内に八潮と西南部地区に支店を新設する予定です。埼玉県の東西地域はますます他行との競争が激しくなりますが、それ以上にこれからの発展が期待できる地域です。
私は地域銀行のリテール業務は営業店がポイントになると思っています。埼玉県は人口700万人の大きな県です。このところ、様々な銀行で合従連衡や県を越えてという考え方がありますが、当行のシェアを考えると埼玉県に特化していく方が良いと思っています。
ダイレクトバンキングにもかなり力を入れておりまして、法人で約6千社、個人で約2万8千の契約がありますが、それは一つの部門だけの話です。やはり対面で商売ができる営業店の力を作っていきたいと思っています。そういう意味で、お客様のニーズを踏まえた店舗作りはこれからの大きな課題です。地域ごとに店の出し方を変えるといった事がこれから出てくるのではないでしょうか。
 

<澁谷>

頭取になられてもっとも注力してきたことは何ですか。

<三輪頭取>

他行に比べては軽微だったとはいえ12年度から13年度にかけて当行も不良債権処理で2期連続大きな赤字決算をしました。その際、成長力と収益性とを兼ね備えた銀行に変えなければ、埼玉県になくてはならない存在感のある銀行にはなれないと思い、そういう銀行を目指しました。
はじめに注力したことは、経営理念である地域共存、顧客尊重です。これを営業戦略の中で地道に実践していきました。将来を見据えてどう発想の転換をするか、必要な時に必要な布石をどう打つか、そういう決断をしてこれを断固としてやってきました。
具体的には平成14年、経営陣の思い切ったスリム化をしました。当時、相談役まで含めて常務以上が8名いましたが、そのうち私を含めて3名を残し、5名は全部退陣しました。上の形が変わらなければ変わらないと思ったのです。
すると行内でも行員たちの危機感が出てきました。経費面では、戦略的物件費削減プロジェクトと名づけた、外部のコンサルタントを入れた経費の削減に取り組みました。また、経営資源の選択と集中という点では、地域活性化プロジェクト、当行独自のビジネスモデルである、新規開拓ブロック制やスコアリング商品、FAテラー制度といったものを作り、顧客ニーズに応えられる人を育て、企業風土として作った目標を達成する、そういう風土作りに力をいれました。
本部の一番大事な仕事は、営業店をどれくらい助ける力になれるかということですが、営業店ができないと本部の責任になりますので、本部の方が辛かったと思います。今では7割の店が3割の苦しんでいる店を引っ張っています。おかげさまで貸出金もよく伸びてきていますし、コア業務純益も4期連続最高益を計上しました。

<澁谷>

環境変化に対して先取りをし、様々な布石を打たれた結果ですね。毎年最高益というのは、本当の実力なのだと思います。

<三輪頭取>

目新しいことをしているつもりはありませんし、きわめてオーソドックスなことしか考えられません。ただそれを一歩早く、できればそれよりさらに半歩でも早く、集中してスピード感をもってやることが大事だと思います。他行さんがやっていない事を当行だけがやることはなかなかできません。ただ方向性については皆がわかっていますのでそれをできるだけ早くやることです。早くやることは多少リスクがありますが、自分でコントロールできる範囲に抑えながらやることが大切です。リスクはありますが、一番のリスクは物事に対して一生懸命やらない事がリスクだと考えています。やると決めて一生懸命やれば、たいていのことはリスクにならないと思います。

<澁谷>

若手行員に期待することは何ですか。

<三輪頭取>

若手の行員は優秀でよく勉強をしていて、頼もしい行員が増えています。当行の最先端だという気概を強くもち、仕事に真正面に果敢に挑んで、その中から一つでも二つでも成功体験を重ねて成長していってほしいと思います。私は人間の成長は、仕事を通じたものが本物だと思っています。

<澁谷>

今の若い行員は熱中するものを求めているのではないでしょうか。仕事という目標と緊張感があって、それに向かって頑張るからこそ初めて成長するということですね。

<三輪頭取>

そういう意味では法人部の開拓専担やFAテラーの人達をはじめとして皆にそういう気持ちがあるのだと思います。お取引先に本当に必要とされる銀行になれるかどうか、本当に必要な行員になれるかどうかが大切です。熱意と誠意、それに勉強をすることが大事です。

(2006/10/25 取材 | 2007/01/12 掲載)