七十七銀行 鎌田宏頭取インタビュー
高い使命感で地域と共に発展する
<澁谷>
御行の特色や強み、PRポイントなどをお聞かせください。
<鎌田頭取>
明治11年創業ですから、2007年は創業129年になります。歴史に根ざした地域との信頼感が非常に強く、そうした信頼感は、地域シェアのデータにも現れていると思います。2006年の3月末のデータですと、預金の県内のシェアが52%ぐらい、貸出金のシェアは43%ぐらいあります。
これは、先輩たちが育ててきた歴史、皆様の要望に応えられるインフラ整備に着々と取り組んできた結果だと思っています。店舗は全体で141カ店あり、そのうち宮城県内は126カ店で、ATMもほとんど宮城県内で設置しています。そうしたお客様の利便性を支える体制が信頼に繋がっているのだと思います
これは、先輩たちが育ててきた歴史、皆様の要望に応えられるインフラ整備に着々と取り組んできた結果だと思っています。店舗は全体で141カ店あり、そのうち宮城県内は126カ店で、ATMもほとんど宮城県内で設置しています。そうしたお客様の利便性を支える体制が信頼に繋がっているのだと思います
他の地銀と比較しても、地域シェアはかなり高いほうだと思います。シェアが高いということは、それだけ我々は緊張感を持って、皆様の期待に応えられるように努力しなければいけないということだと思っています。
当行には、「行是」という昭和36年に制定された経営の基本理念があります。「奉仕の精神の高揚」、「信用の向上」、「和協の精神の涵養」という三つなのですが、朝礼などでこれを唱和している店が多くあります。私も支店勤務時代はこれを唱和して育ちました。これが、一生懸命まじめに考えること、失敗はしないように慎重に、周りのお客様に不安を与えないように、きちんと対応を考えながらやるという当行の行風の原点だと思います。また、行是の前文の中には「公共的使命に基づき」とあり、使命感が強い行風ですね。
<澁谷>
中期経営計画の「チャレンジ400~地域とともに発展するベストクォリティバンク~」の成果と、今後の課題についてお聞かせください。
<鎌田頭取>
現在、計画2年目の終盤ですが、掲げた目標はほぼ計画通りに進んできています。但し、来年度以降は目標を一段と高くしていますので、これからが正念場であると思っています。貸出金や預り資産、自己資本比率といった目標はクリアできると思いますが、収益に対する目標は相当頑張っていかなければいけないと思っています。当初想定していたよりも金利の上がり方が少し遅い感じがしており、その影響もあるだろうと考えています。
ちょうど2年経ったら、見直しをするということでスタートしていますので、金利の今後の見通しなどを踏まえながら、再度政策を考えていく予定です。コア業務純益380億を目標にしていますので、この辺りは何とか頑張りたいと思っています。
<澁谷>
青森、山形への法人営業部員の駐在など、県外の営業力強化に取組んでいらっしゃいますが、その成果などについてお聞かせください。
<鎌田頭取>
山形と郡山と盛岡の3か所に2人ずつ増員しまして、法人営業部の駐在員という形で11月から始めました。山形地区では駐在員は新規先だけ行き、既存先は支店の行員が担当するというように、支店にかなり裁量権を与えながら工夫をして取り組んでいます。山形はものづくりの優秀な企業が多く、訪問範囲はどんどん広がってきています。横の移動は雪が降るとなかなか難しいですが、逆に縦は幹線道路がありますので、東根から米沢あたりまでずっと伸びてきています。
郡山の場合は、上場企業も数多くありますので、新規先だけではなく、M&Aなど高度なニーズがある既存のお取引先企業にも訪問をしています。各県の地域性の違いなどに応じた営業展開をしていますが、各地域の中で自分たちが強い部分や弱いところは、やはり現場の支店が一番よく知っています。
<澁谷>
東北の経済状況は厳しいと言われています。東北のリーディングバンクである御行の地域活性化へのお考え、取組みをお聞かせください。
<鎌田頭取>
東北のみんなが一緒にやらなくてはいけないという意識が徐々に浸透してきています。今までは、例えば観光であれば宮城県に来てもらって松島を見てもらえばいい、青葉城を見てもらえばいいといった感覚で、あまり東北全体という視点で考えてはいなかったと思います。
東北の発展はやっぱり自分の県だけということではなく、東北は一つだという連携意識、みんなでやろうという気持ちが一番大切だと思います。東北は、一番南の福島県の白河から青森の端まで500キロあります。東京から500キロというと、岡山あたりまでになるわけです。それだけ広い東北ですが、最近は、例えば、仙台と山形県の仙山交流会議など新たな取組みが始まり、お互いの理解が進んできていると思います。
<澁谷>
ベンチャー企業や事業の創業をお手伝いするファンドをお作りになったと伺いました。仕組みや内容、企業サポートの取組みなどについて教えてください。
<鎌田頭取>
120周年のときに「七十七ビジネス振興財団」というものを作りました。ベンチャー支援は、銀行の貸出になかなかなじまない部分がありますので、この財団を通じて毎年3社ずつ、1社あたり200万円の助成金を交付するという取組みをおこなっています。既に10年近い歴史と30社程の交付実績があります。助成金は、銀行が出資している財団が表彰、支給するという仕組みですから、受け取る企業からみると、銀行からの直接投融資ではありません。これがけっこう喜ばれておりまして、受賞されたベンチャーの中には、現在ずいぶん大きく成長されている企業もあります。
入賞ベンチャーの決定は、東北大学大学院の教授に審査委員長になって頂き、銀行員は殆ど介在しないようにして審査員の先生方に企業選択を任せるなど、客観的な取組みをしています。
入賞ベンチャーの決定は、東北大学大学院の教授に審査委員長になって頂き、銀行員は殆ど介在しないようにして審査員の先生方に企業選択を任せるなど、客観的な取組みをしています。
それから、去年初めて食をテーマにしたビジネスマッチングを開催しました。これは想像以上にお客様に喜んで頂きました。理由をお伺いすると、「我々は例えば東京のスーパーでもデパートでも、ものを何とか売り込みたいと思っても相手にしてもらえないが、今回は銀行の紹介、推薦ということで相手がちゃんと机に座って待っていてくれていた。こんなにありがたいことはない。お金を借りられるよりうれしい。」と言ってくださいました。
いいものは地方にたくさんあるのですが、売り方ができていない場合が多いのです。例えば、三陸には、いくらとか、めかぶなどを扱う、いい業者がたくさんあります。これは目利きが難しい商品ですが、我々は商品の特徴、細かい情報まできちんと分かっていますので、そうした企業・商品の紹介をすると、こんなにいい商品があったのかとバイヤーの方々にも喜んで頂けるのです。
<澁谷>
銀行、金融機関を取り巻く環境が大きく変化しています。今後企業経営者に選ばれる地方銀行のあり方や機能、役割についてどのようにお考えでしょうか。
<鎌田頭取>
中期経営計画の中で、地域とともに歩み地域とともに発展する、ベストクォリティバンクを目指すということをいっています。結局は、お客様のいろいろなニーズに、どうやって的確にお応えできるかということが、やはり企業経営者から一番望まれていることではないかと思っています。お客様のニーズも本当にいろいろ多様化していますので、われわれはそれに負けないようにやっていかなければいけません。例えば法人営業では、預金・貸出だけではなく投資銀行的な仕事もできる行員を育て、ローンサポートとかビジネスサポートチームを作る取組みなどを進めています。
そしてやはり我々は地方銀行ですから、地域経済の運命共同体として、我々だけどこかへ逃げてしまうことはできません。お客様にもそれは十分に理解して頂いていますので、そうした意識を持てることが信頼感に繋がっていくのではないかと思います。
<澁谷>
去年頭取になられて、ご就任後に最も注力してきたこと、仰ってきたことについてお聞かせください。
<鎌田頭取>
ずっとスピードが大切だと言ってきました。中期経営計画の一番の目的は収益力の回復ですが、やっぱりスピードがないと収益力がついてきません。審査の判断や新しい商品展開、あるいは店舗展開にしても、ゆっくり考えていたのではだめだと最初から言ってきました。
最近はずいぶんスピードが上がったと感じています。今まで当行ではあまり考えられなかったようなことを、スッと考えてくれるようになりました。例えば、今度ショッピングモールの中にインストアブランチを作る計画があるのですが、これは当行に前例がありません。しかも、営業時間や従業員の人数をサービス業の発想で行おうと考えています。つまり、午前10時から夜の10時まで店を開け、来店されるお客様の人数にあわせて従業員の勤務シフトを調整し、朝9時から夕方まで勤務人数はずっと同じという銀行の常識を変えていくのです。
これまでは、今までにないものをやる場合には、ものすごく時間が掛かっていました。中期計画の見直しでも、スピードが大事だと言っています。
これまでは、今までにないものをやる場合には、ものすごく時間が掛かっていました。中期計画の見直しでも、スピードが大事だと言っています。
<澁谷>
冒頭で、御行は慎重な行風というお話がありましたが、そういう中にあってスピードを重視される頭取のお考えが行員の方にも伝わってきているのですね。これからの若手行員や、これから銀行に入って働きたいと思っている学生の方々などに対して、頭取が期待されることはどのようなものでしょうか。
<鎌田頭取>
銀行に入って、勉強する気持ちが欲しいと思います。入行式などでもよく言っていますが、これだけいろいろな変化の時代にあって、常に勉強する気持ち、努力する気持ちを持っていないと、お客様のニーズに応えていけませんし、なかなか他の銀行に勝てないと思います。ですから、若い人に一番言うのは、「一生勉強するつもりでやりなさい」ということですね。
それから、お客様のところによく行くようにと言っています。経営者の方は色々なことを考えているし、業界事情や専門的なことも含めて、お客様と接することで鍛えられるのです。
<澁谷>
最後に、頭取が金融に携わるお仕事をずっとされてきて、銀行員になってよかったこと、やりがいを感じられたことなどのお話を伺えますか。
<鎌田頭取>
やはりお客さんに喜んでいただき、それが言葉で返ってきたときは嬉しいですね。融資の案件や預金の案件、あるいは不要になった建物を処分するときなど、色々なケースはありますが、そのときに「あなたに相談してよかった」と言って頂けることが、一番銀行員冥利に尽きるという感じがします。そして、お客様の立場でものを見て考えていないと、そうした経験にはなかなか結びつかないと思います。
(2006/12/28 取材 | 2007/03/08 掲載)