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東邦銀行 北村清士 取締役頭取インタビュー

21世紀のベスト・リージョナルバンクを目指して


▲ 東邦銀行 北村清士 取締役頭取

<澁谷>

県の指定金融機関として、福島県随一の規模を誇る東邦銀行さんの特色、強みについてお聞かせください。

<北村頭取>

福島県は、さまざまな面で潜在能力、可能性を秘めた地域で、東北地区にあってはそれなりに優位性のあるマーケットを基盤にして営業させていただいています。ただ当行は、他の地銀さんと比べると歴史が浅いこともあり、営業基盤の幅の広さや厚みといった面ではまだまだ課題がありますが、おかげさまで地域での存在感は着実に大きくなってきていますし、結果としてシェアなどの数字にも表れてきています。
経営に当たっての根っこにある考え方は、地域へのこだわり、地域のお客さまへのこだわり、人へのこだわり、業績へのこだわりです。他地域への進出は、チャンスがあればもちろん考えなければいけませんが、基本的には福島との関わりのあるお客さまとお取引していければいいなと思っています。東北地域にあっては、仙台というマーケットに当然ながら関心を持つべきと思いますが、仙台という激戦区で新たに店づくりをして数字を出すには、十数年はかかる難しいことだと冷静に考えています。

<澁谷>

福島県にこだわられて、そこでより深掘りをされていくということですね。

<北村頭取>

深掘りというか、まず経営基盤、営業基盤の広がりを持ちたいと思っています。並行してこれまで地道にやってきたマーケティングや、個々の企業に対する営業のスタンスもだんだん根付いてきましたので、取引の厚みをもたせる意味でもそこをしっかりやっていけばいいなと思っています。

<澁谷>

人へのこだわりというのは、行員の方に対するということですか。

<北村頭取>

そうです。やはり人材は大切です。私は頭取就任時に、私の一番の大きな仕事は"当行の次の時代を担う人材をどう育てていくか"だと行内に発信しました。企業はゴーイングコンサーンですから、継続してこそ価値があります。行員諸君にはチャンスをいっぱい与えますよ、でも生かすのは皆さんだよ、と伝えました。

<澁谷>

チャンスは与えるけど、生かすのは一人一人の行員の方ということですね。

<北村頭取>

当行では、毎年多くの行員を国内研修や海外研修に参加させています。ここ数年は当行独自の海外研修も実施しています。支店長級を6名、中堅を5名、若手を5名参加させ、その中に女性が2名必ず入っています。選考は、支店長級だけはある程度成績というのもあり人事サイドで決めますが、中堅、若手は役員や人事部門はほとんどノータッチで、参加希望者のレポートをもとに、課長クラスの選考委員会で公平かつオープンに決めています。

<澁谷>

海外の研修はどちらに行かれたのですか。

<北村頭取>

いろいろと見方もあると思いますが、やはり世界の政治の中心とも言えるワシントンと、金融・経済、そして文化も含めて世界の中心であるニューヨークです。世界の大国アメリカを見て多くのことを体験してきてほしいと思いました。オフタイムには自費で博物館に行ったりミュージカルを観に行ったり、ジャズのブルーノートやナイトクルージングなどへも行ったようです。文化に触れるのも良い経験だと思っています。最初はレストランでオーダーも出せないぐらいだったのが、帰るころになると地元の人よりも大きな声で話をしているというような報告を聞くと派遣した甲斐がありますね。
そうした経験は先行投資ですから数字には表れませんが、間違いなく肥やしになりこれからの成長が楽しみです。

<澁谷>

今年度は中期経営計画「TOHO躍進プラン2006」の最終年度になりますが、その成果と今後の課題についてお聞かせください。

<北村頭取>

4つの基本プランをすすめていましたが、策定当初の前提条件と大幅に狂ってきたこともあり、計数的には残念ながら難しい状況です。大きく狂ってしまった要因は経済環境です。中期経営計画3年間の中間辺りからでてきたサブプライムの問題でマーケットが痛み、結果として地域環境も変わってしまいました。当然ながら金利についても、今頃長期は2%を超えているという想定をしていましたから大幅なギャップが生じてしまいました。
当行は、資金利益で預貸の部分は年々プラスに転じましたので、心強いし手応えもありますが、マーケット部門、有価証券部門は過去の不良債権処理過程である程度犠牲にしたこともあり、長期金利が2%ぐらいに回復してから組み立てようと思っていたのですが、逆に振れてしまいました。前提条件が変わってしまったためしょうがないのですが、有価証券運用の再構築には5~6年かかりますから、そうした部分をいかにリカバーするかを次期中計の課題としてじっくりやっていかなければいけません。
営業基盤については、地道にやってきていますので、着実な広がりと厚みを持っていることは間違いないと思います。これからは預貸でも何でも、従来のお願い営業には限界がありますから、コンサルティングも含めて様々な仕掛けや仕組みをつくる中で、結果として預かり資産や融資のお話をいただくようにしていかなければいけないということが少しずつ根付いてきました。
例えば事業承継の問題にしろ何にしろ、結果がすぐに目に見えませんから現場はどうしても後回しにしがちですが、間違いなく預かり資産に結び付いてくるし、融資も発生してくる案件ですから、とにかくあきらめないでやっていくということです。ただ、そうしたソリューション営業は長いスパンで考えなければいけませんから、業績評価だけでいくとなかなか現場のモチベーションも上がりません。支店長会議等では、数字に表れない努力も人事部門も含め様々な角度からきちんと見ているから、安心してやってほしいと伝えていますし、現実に処遇等も形としてしっかり見せています。

<澁谷>

頭取がおっしゃる通り、銀行の仕事は仕込みにすごく時間がかかる気がしますね。

<北村頭取>

企業案件は個々でいろいろありますからね。数字をあまりせっかちに追わずに、3年、5年、10年のスパンで考えてじわじわ広がりを持たせて、取引の厚みを持たせればいいと思っています。

<澁谷>

それがまさに地方銀行さんの強みというか、やるべきことですね。

<北村頭取>

成果主義、業績主義でいくと、結局、既存取引先の深掘りになってしまいます。それはそれで大事なことですが、そうすると新たな広がりが出てきませんからね。
企業の立ち上げ、創業時に当行がお手伝いしなかったことで、自分の目の黒いうちは東邦銀行とは取引しないというオーナー経営者も中にはいらっしゃいます。私は、むしろそういう企業こそ、代替わりとか、何かのときにチャンスがあり、永い取引の中で、そうした機会をあきらめずにうまく捉えていこうといつも強調しています。

<澁谷>

地域における存在感や広がりといった意味で非常に大きな成果が上がっていますね。

<北村頭取>

支店長は業績の芳しくないお客さまを訪問しないということではなく、そういう先だからこそ優先して顔を出して相談を受けることが大事だと考えています。結果としてなかなかお手伝いできないところもあるかもしれませんが、経営支援とか事業再生の可能性のあるところには感度を高めて目を向けていかなければいけません。
不良債権比率は、平成20年9月末で3%後半、部分直接償却後だと3%半ばになりました。不良債権の償却を過度に進めていくことは、ある意味では事業再生などに関わりを持たないことにもなりかねませんから、可能性のあるところは、しっかりバランスシートの上に資産として載せて、お手伝いをするのが我々の仕事です。事業再生はいろいろなスキームを使ってやっていますし、実績も上げ高い評価もいただいています。

<澁谷>

御行は、産学連携、金融商品仲介業務、国際業務等の分野で他社との提携を結んでいますが、御行の提携戦略についてのお考えをお聞かせください。

<北村頭取>

率直に言って、お客さまの様々なニーズに対するコンサルティング能力については、我々だけでは限界があります。それはやはりノウハウや能力を持っていらっしゃるところと一緒に取り組んでお力を貸していただく必要があります。
産学連携として、福島大学・会津大学・日本大学工学部等と提携しています。今は大学も国公立も含めて相当自立を求められていますから、実学に生かしたいと考えられているようです。また県内のほとんどの大学・短大・高専等と教育ローンの提携をしています。特に私立校からは授業料の確保という意味でありがたいと言っていただいておりますし、例えば内定者に配布する資料に、当行の教育ローンのパンフレットを入れていただいております。未成年であっても条件によっては学生本人の借入を可能にするなど、かなり緩和をして使い勝手をよくしています。
また、同じ地銀の仲間は競うべきところは競っても、一緒にやれる場合は一緒にやった方がいいというのが私の基本的な考えです。近隣の他行さんも、もちろんそこそこのバッティングがありますけれども、一緒にできるところはなるべく相談させていただきたいと思っています。

<澁谷>

そうすると、銀行の中における業務提携についても、どんどん積極的にやっていかれるということですね。

<北村頭取>

基本的には切磋琢磨するところを持ちながらも、地銀同士で一緒にできる部分については、できるだけ当行からも声を掛け、他行さんの案件も声を掛けていただくようにしたいというのがこれからの流れかと思っています。

<澁谷>

CSRについて、御行の取り組みをお聞かせください。

<北村頭取>

地域への貢献はいろいろなかたちがあると思いますが、金融という機能を生かしながらの貢献が最たるものだと思っています。金融は、取引先企業のゴーイングコンサーンのための攻めと守りの基本です。
東邦文化財団、東邦育英会といった活動の他、DIAM・アセットマネジメント・第四銀行・群馬銀行・当行が共同で組成した尾瀬の自然保護のための投資信託がありまして、手数料の一部を県に寄付しています。エコ定期は他行でもやっていらっしゃいますが、当行の「東邦・エコ定期預金」は、「只見ブナ原生林保護定期預金」、「猪苗代湖水質日本一応援定期預金」、「福島県自然公園美化定期預金」の3種類から選ぶことができるユニークな仕組みです。

<澁谷>

様々なユニークな仕掛け、仕組みを創ってらっしゃる北村頭取が昨年の6月に頭取にご就任されて、御行が21世紀のベストリージョナルバンクであり続けるために注力していることはどのようなことでしょうか。

<北村頭取>

冒頭申し上げましたが、基本は地域特化、地元特化です。そのためにはやはり人が大事です。我々も数年間、地元のマーケティングをやりながら、福島県はまだまだ可能性がある、チャンスはあるということが分かりましたから、そういう前提に立って、実のある地域特化、地元特化戦略を進めていこうと思っています。
ただ、それは県外を重視していないというわけではなく、福島県とかかわりのある県外のお客さま、東京地区も含めてそういったお客さまを中心にしっかりとお手伝いしていくということは貫いていきます。
また、メガバンクの再編がほぼ終わり、これからの金融再編の問題は道州制論議も含め間違いなく地域金融に移ってきます。一方少子高齢化等を考えると地域のパイは小さくなってきますから、そうした環境の変化の中で感度を高めた動きをしていかなければいけません。

<澁谷>

若手行員に期待されることは何ですか。また目指すべき東邦銀行員像についてお聞かせください。

<北村頭取>

志をしっかりと持って成長してほしいと思っています。ある程度で妥協すると、間違いなくそこで進歩は止まってしまいます。地域に生きる地元の銀行の発展のために、ぜひ先ほど申しましたようなこだわりを持ってやってほしいですね。それがまた企業の論理、銀行の論理ではなく、お客さまのためにやっていけば、成長があるだろうと思います。

<澁谷>

特に銀行、金融機関というのは、ある意味、物がないといいますか、差別化をどこでするかというと、やっぱり人ですね。

<北村頭取>

5年、10年、30年先に差がでますから、人材には間違いなく私はこだわっています。
当行は中途退職者が極めて少なく、これは一番の誇りです。
私は、新卒者の採用活動にあたっては、最終面接等は担当役員に任せ、地元や東京地区での会社説明会の時だけかかわります。ある程度絞り込まれた段階で、頭取として自らの考え方を話して、その後質疑応答を行いますが、トップ自らが直接話すということは学生さんに響くものがあるのか毎回予定時間を大幅に超過する程好評です。
人事部門には、効果が無ければいつでもやめると言っていますが、今のところ引続き是非やって欲しいと言われています。

<澁谷>

学生が頭取に会う機会はなかなかありませんから、頭取のお考えを直接聞けるというのは学生にとっても安心感につながるでしょうね。

<北村頭取>

そうですね。
中途採用もしていますが、こちらも定着率は極めて良く、今のところ退職した人はおりません。非常にいい雰囲気、風土だから仕事がやりやすいと言ってくれているようです。
私は、仕事は厳しくても、根っこに温かさを持っている組織は絶対大丈夫だと思っています。これがやっぱり地銀のいい部分で、いざというときはそういう風土が強みになると思います。

<澁谷>

女性行員の活用については、どのようにお考えですか。

<北村頭取>

女性は意識も高いし、潜在能力もいいものを持っていますから、活かすのは当然だと思います。例えば結婚とか出産、育児というのは女性行員の雇用としてはある程度考えておくべき前提条件となるわけですから、いかにそのための環境を作るかを考えなければいけませんね。資産運用とか、個人のローンといった部門は、女性の独壇場になりつつあります。当行はローン特化店舗を強化してまだ6年足らずですが、6カ店で残高が1,500億円になりました。ここ2年間で特化店舗だけで500億円伸びていまして、その窓口のほとんどは女性ですから、大変活躍してくれています。

<澁谷>

昨今の金融市場はアメリカ発の金融危機にさらされています。日本の地域金融機関への影響についてはどのようにお考えでしょうか。

<北村頭取>

突き詰めていくと、サブプライムに行き着いてしまいますが、2007年の秋頃までは、サブプライム問題は極めて限定的だと言われていましたし、私もそう思っておりました。向こう岸の火事程度に考えており、まさかこんな形で広がるとは思いもしませんでした。そういう意味では油断もあったと思います。
ただ当行は、有価証券運用についても、良く理解できない商品は扱わない、分からないことはやらないというスタンスでしたので、サブプライム問題の直接的な影響は無かったのですが、引き金はやはりリーマンブラザーズの破綻でした。これも自己責任ですがいい勉強にはなりました。これで世界の様相も急激に変わってしまいましたからね。
福島県の経済を牽引していたのは製造業で、それも世界との関わりの中での製品が殆んどですから、今回のこの問題は地域への影響はかなりあると思います。影響がどれだけになるかは読めない部分もありますが、国内問題ではなく世界の問題で、かつ、非常にスピードが速いですから、感度を高めて緊張感を持って、我々もアドバイスをしなければならないと思っています。
ただ、あまり悲観してもいけません。これもある意味与えられた試練の時と考え、いろいろな意味で企業体質を見直すいい時期だと考えられたらいいのかなと思います。長い企業の歴史の中で、永久に右肩上がりでいけるということはあり得ませんし、どこかで必ず底や谷があります。大変なことですが、事業のゴーイングコンサーンのため、将来を見据えこの事態を切り抜けることが大切です。
地域への影響はこれから出てくるでしょう。また、投資銀行業務の評価は様変わりし、伝統的な商業銀行が見直されている時ですから、ある意味ではこれからが地域金融機関の出番、そして試される時期になると思います。単純なお願い営業ではなく付加価値のある金融仲介業を目指せば、地域金融機関も大きな役割を果たすことができると思います。
我々は地域あっての地銀ですから地域から逃げるわけにはいきません。地域の底力を上げ、貢献するために何をすべきかを考えると、おのずと地元特化、地域特化ということに尽きるわけです。これがこれからの30年、50年の当行の歴史になり、また、そこを支えるのは人だということが言えると思います。

(2008/11/17 取材 | 2009/01/23 掲載)