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金融庁 監督局銀行第二課 課長 石田 晋也 氏 インタビュー

柔軟な捉え方で変化の時代に対応する

聞き手:リッキービジネスソリューション(株)代表取締役 澁谷 耕一

これからの地域金融機関の役割

金融庁 監督局銀行第二課 課長 石田 晋也 氏 ■金融庁 監督局銀行第二課 課長
  石田 晋也(いしだ しんや)氏

<澁谷>

地域活性化、地域創生のために地域金融機関に求められる役割は何でしょうか?

(石田課長)

地域経済の活性化は本当に大きなテーマです。私は出身が長野県で、若い時には青森県庁に行っていた経験があります。自身の体験から思うのは、どこの地域でも地場企業は売上減少だけでなく、構造的な様々な問題を抱えているということです。例えば、公共事業や建設業だけでなく、多くの企業が人材不足に悩んでいます。また、高齢化と後継者問題も大きな課題です。

業を興すだけでなく、苦しい会社は他社が引き継いだり、隣の会社と協力して一緒になったりするといった新陳代謝も必要かもしれません。しかし一方で、「あの会社と一緒になるなんて絶対嫌だ」というようなこともあるでしょう。そこにこそ地域金融機関の重要な役割や立場があると思うのです。

金融庁も銀行も不良債権問題で大変だった頃は、不良債権か正常先か、また保全がしっかりしているのか、していないのかと、目の色を変えて実態把握をしていましたが、こういった話は現在は一巡しています。ですから、地域金融機関の皆様にはお取引先企業に対して、財務的な分類では正常先であっても、例えば、社員の年齢構成がどうなっているのか、内在する課題は無いか、企業の本当の状況を把握して頂き、地域からの信頼を活かして、是非、前向きに地域の企業・経済の底上げをして頂きたいと思います。

銀行が地域の核になる会社の状況をよく把握し、足りないこと、改善すべき点、手を打っておくべきことを、外部の専門家も利用しながら応援することが出来れば、その地域に持続的な企業が徐々に増えていきます。

単に融資するだけでは金利競争になってしまうし、過剰融資になってしまいます。他の地域から来た銀行の方が金利が安いから、と金利競争になってしまわないためにも、地元の企業を育て、自分たちの将来の収益の源泉にしていく好循環を作って頂きたいと思うのです。

<澁谷>

どうしても銀行は、債権に問題のある企業か収益をあげられそうな一部の企業にばかり接触し、普通の取引先との接点が少なくなりがちですね。

(石田課長)

新規参入銀行との競争においては、既存銀行も差別化しなければなりません。他業態やネット銀行に比べどこで差別化ができるのか。できないのであれば大競争の中でやっていかざるを得ないですから。

地元企業のことであれば先代、先々代の社長から事業の中身や経営者の人間性をよく知っているので、「今はちょっと業績が芳しくなくてもこういうことだから大丈夫」ということがわかり、逆に経営者からは「この銀行はよくわかってくれている、いざという時は守ってくれる、親父のころからそうなんだ」と思っていただける、こういった信頼関係が築けていれば、地域金融機関の方が有利になると思います。地域全体を俯瞰し、地域のネットワークを生かすことが大切だと思います。

<澁谷>

ネット銀行ではface to face の関係は築けないですからね。ただ、実際には前の支店長とは仲が良かったけれど次の支店長は振り向いてもくれないということがあります。するとそこで関係が切れ、またマイナスからスターするようなことになってしまいます。

(石田課長)

確かに、そういう話を聞きます。今年のモニタリングでは、「事業性評価を重視した取り組みをしているか、担保や保証に必要以上に依存せず、事業成長の評価をして融資やアドバイスが出来ているか」を我々行政の側でも重点的に確認していこう、という方針になっています。
 支店長によって言っていることが違ったり、経営トップは素晴らしいことを言っているのに、地元のお客様に聞くと全く違う状況ということもあります。個々の事業性をよく見て融資やアドバイスをするということを、銀行全体の体制の中で、現場レベルでも組織的にできるようになってもらいたいと思っています。

もし、組織としてできていないとしたらどこに問題があるのか。トップが言っていることは素晴らしいけれど、結局銀行内部の人事評価が数字数字になってしまっているのかもしれません。銀行全体にいかに浸透しているのかを、検査や監督業務を通じて議論していきたいと思っています。

もちろん、簡単なことではないと思います。だからこそ我々も悩みながらやっているところがあるのですが、どうしても現場では、支店長が変わるたびに方針が変わり、色々な取り組みをしても、結局続かないということがあるようです。そこをいかに組織全体の取組みとして定着させられるか。良い取組みがあればそれを全体でレベルアップするような形でつなげていくことが、我々の大きな課題だと思っています。

<澁谷>

何千億円と言う資金運用を、昨日まで融資をしていた運用のプロではない人たちが行うことが本当に良いのか、ということもありますよね。外部の専門家を採用する必要もあるかもしれません。

(石田課長)

 そうですね。運用の話ではないのですが、某地域銀行では取引先の製造業へより専門的なアドバイスをするために、メーカー出身ですでに一線を退いた地元の外部の方を顧問に招いたそうです。そして特許のことなど専門的なアドバイスをしていただき、お客様から感謝されているとのことです。考えてみれば、銀行員が特許のような特殊なことを専門的なレベルまで勉強することは難しいし、そこまで時間をかけていられませんよね。今回のようにメーカーを退職された方が地元にいらっしゃるというケースは少ないかもしれませんが、非常に良い話だなと思います。

地域金融機関の統合について

<澁谷>

肥後銀行と鹿児島銀行、横浜銀行と東日本銀行、少し前だと東京都民銀行と八千代銀行など、地域銀行の統合の動きについては、「金融庁の後押しがあるのではないか?」と思われているところもあると思いますが、このような動きに対してはどのようにお考えでしょうか。

(石田課長)

個別行の経営に関することなのでコメントは差し控えさせて頂きますが、一般論として、統合等は基本的に各行の経営判断です。私たちがどうこうという話ではありません。私たちが申し上げているのは、地域銀行が地域の経済や企業に対して、いかに自分たちの機能(コンサルティング、金融仲介)を高め、地元企業のお役に立てるのかということです。つまり、地元の企業とともに成長していけるのかが、地域銀行の存在意義だと思っています。「地元経済を応援し、育てていくために何をしたら良いのかを考えてください」ということを金融庁としてもずっとお話してきました。

色々な方法があると思うのですが、先々のことを考えて経営統合を選んだ銀行というのは、統合によって地元経済のために機能アップしていこうと真剣に考えてこられた結果のひとつだと思っています。だから、ただ統合したというのではなく、目標の効果が出るように発展して欲しいと我々も期待しています。

<澁谷>

単独でやっていくことを標榜する銀行もあると思いますが。

(石田課長)

もちろん、色々な考え方があると思います。統合や業務提携を行う銀行もあれば、某地域銀行のように外部の人間を入れて銀行自身が変わっていく銀行もあるでしょう。いずれにしても地元あっての地域銀行なので、地元にいかに貢献していくことが出来るのか、統合や変化によってどれだけ力を発揮し、効果・結果につなげられるかが大事だと思います。

<澁谷>

横浜銀行と東日本銀行の統合を見た場合に、横浜銀行の資金量と効率性、東日本銀行の東京東地区を中心とした78店舗の店舗網を生かした経営を行えば、ずいぶん効果があるのだろうなと思います。また、鹿児島銀行と肥後銀行の統合のニュースにも驚きました。

(石田課長)

個別の経営に関することについてはコメントを控えさせて頂きます。九州といえば新幹線ができて、鹿児島と福岡の移動時間は最短で77分になったそうで、今では鹿児島、熊本から福岡なんて、あっという間です。だから若い鹿児島の人は福岡に買い物に行けてしまう。経済圏的にものすごいスピードで変化してくるので、様々なことを考えなければいけなくなってしまう。

<澁谷>

福岡―鹿児島が東京から神奈川の平塚ほどの時間で行けますからね。

(石田課長)

そうですね。私も平成10年に青森に赴任していた時、新幹線は盛岡までだったので、青森から仙台に行くには盛岡で在来線に乗り換えなければならず、3時間もかかっていました。かなり遠いと思いましたが、今では東京から青森まで3時間で行けてしまいます。東京から仙台まで1時間半。青森から仙台も1時間半。どちらからも日帰りで簡単に行かれる。ちっとも距離感がなくなってきますよね。

<澁谷>

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北陸新幹線が来年3月に開業します。このエリアでも変わってきますね。

(石田課長)

東京から2時間半で金沢に行けるようになるのですから、劇的に変わると思います。新幹線だけの影響ではないにしても、こうしたインフラの影響で人の流れが想像もつかないくらい大きく変化します。

<澁谷>

少子化や高齢化といったものに新幹線というインフラが加わることによって、社会改造みたいなことが起きますよね。

(石田課長)

そういうものが思った以上に早くなりました。お客様は、新幹線が出来ればあっという間に今までと違うところに買い物に行ってしまいます。ビジネスでは、人が動いたらスピード感を持って対応しなければなりません。そういう意味でもそのスピードをよく見ていかないと、金融機関としても手遅れになってしまいます。

若手の金融機関職員へ

<澁谷>

地域金融機関で働く若い行員に対して一言お願いします。

(石田課長)

銀行に入られる方というのは皆さん、間違いなく優秀な方だと思います。ただ、10年前、20年前がこうだったから、10年後、20年後もこうだろうということが今日では無くなってきています。例えば、人口もそうですし、あるいはインフラの整備による影響もあるでしょうし、IT革命みたいなものにも影響されます。変化していくスピード加速度が増しています。それは地域経済もそうですし、お取引先企業もそうです。もちろん良い物や伝統は大事にしていかなければいけないのですが、一方でこの変化というものを見失えば本当に置いてきぼりになってしまいます。歳をとると変化についていかれなくなるのは仕方がないのですが、若い人は色々な意味で新鮮に物が見られますし、変化を柔軟にとらえ、柔軟に思考してどんどん伸びていって欲しいと思います。

これは役所の後輩にも言っているのですが、私が入る時には、まさか大蔵省ではないところに勤めるなんて思ってもいませんでした。特に金融の世界は劇的に変わっています。地域銀行は今まではそれほどの変化はなかったかもしれませんが、平成初期からは考えられないくらい、本当にものすごいスピードで今、変化してきています。

<澁谷>

メガバンクの人たちは認識しているけど、もしかすると地域銀行の方はあまり認識していないかもしれないですね。

(石田課長)

これまで守ってこられたということは、もちろん、良い面もあると思います。しかし、単純に、次の10年も同じようにいくという訳にはいかないと思うのです。色々変わってゆかなければ、また、考えてゆかなければという時に、思考停止に陥ってしまうと悲劇になってしまいます。

自分のことですがどうしても年齢を重ねればだんだん頭は固くなりがちで、自分の今までの経験に引きずられやすいものです。若い方々には、これからの銀行員生活の中で、大きな変化がきっと来る、その時に自分たちが何をやらなければいけないのかということを柔軟かつ新鮮に考えられる力を持っていただきたいと思います。

石田 晋也(いしだ しんや)
平成2 年大蔵省入省。IMF、青森県庁 財務省、金融庁等で勤務。 同25 年より銀行第二課 課長(現職)。

(2014/12/16取材 | 2015/2/27掲載)