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みずほコーポレート銀行 産業調査部部長 山田 大介氏 インタビュー

日本経済・産業の直面する問題、復活に向けた課題について

今回は、中央官庁、地方自治体、政府関連委員会、経団連等の業界団体において、「東日本大震災が日本産業に与える影響」、「日本産業の成長戦略」等のテーマにて講演を多数行い、2020年に向け日本産業が輝きを取り戻すための方策について、産業振興、財政、通商政策、新興国戦略等の観点から分析を行ってみえる、みずほコーポレート銀行執行役員産業調査部長の山田大介様にインタビューを行いました。
インタビューした内容は山田部長にレポート形式でまとめていただきました。

聞き手:澁谷耕一(リッキービジネスソリューション)

▲ みずほコーポレート銀行
 産業調査部部長 山田 大介氏


はじめに

日本経済の凋落が言われて久しい。そうした状況下、東日本大震災は、原発依存度の高さや過度に集約されたサプライチェーンの脆弱性等、日本経済に内在する様々な問題を表面化させた。
日本経済・産業はまさに危機的状況にあるといえよう。このまま日本は衰退の一途を辿るのか、はたまた、戦後日本が示した「奇跡」とも呼ばれる復活劇を再現することができるのか。
以下、日本経済・産業の直面する問題、復活に向けた課題を述べ、その中で金融機関の果たす役割に関して私見を述べたい。

日本経済・産業の直面する問題

 日本経済・産業が直面する問題の一つは「空洞化」であろう。言うまでもなく「空洞化」とは、国内の生産拠点が海外にシフトし、それによって国内の生産、雇用、技術が失われることである。持続的な円高、割高な人件費、更には大震災後の電力価格上昇・電力供給不安などを背景に、生産拠点を海外にシフトする、もしくは、海外の生産能力を増強する日本企業の話題が新聞を賑わさない日はない。

生産拠点の海外シフトを促している要因として、人口動態などを背景に国内需要の先細りが確実視される中で、企業は需要を海外に求めざるを得ないという状況がある。更に世界経済を見渡すと、リーマンショック以降、牽引役が先進国からBRICsを始めとする新興国へと明確にシフトしている。実際、足元の状況をみても、欧州諸国は経済混乱からの出口を模索している最中にあり、米国は徐々に経済情勢を立て直してはいるものの、2013年以降は所謂「財政の崖」が控えており、景気回復の持続は予断を許さない状況にある。他方、中国に代表される新興国は、経済構造に様々な矛盾を抱えつつも、当面、高成長を続けることがメインシナリオとなっている。こうした中で新興国の需要を積極的に捕捉すべく、「地産池消」、すなわち需要地において生産を行うこと、の流れが加速している。例えば、インドの乗用車市場を概観すると、2012年上半期の乗用車販売台数は113万台であったが、そのうち、20万から50万インドルピー(日本円換算:30万円~75万円)のゾーンが80%強を占めている。この価格ゾーンは、日本から輸出するのでは価格競争において勝負にならず、結果、部品などの現地調達比率が上昇している。更に、従来は日本から部品を取り寄せ、現地で組み立てて販売していたケースでは、部品も含めた現地化が加速しているのである。


▲ (出所)内閣府、総務省、厚生労働省等より、
みずほコーポレート銀行産業調査部推計

更に為替の影響も無視することはできない。自動車産業を例にみると、図表1は「国内で生産した自動車を全て米国に輸出する」という仮定の下で、日本と韓国のコスト構造を比較したものである。売上高を100として各種コストを差し引く形で示しているが、この例では、日本が▲6.2ポイントの赤字であるのに対して、韓国は13.6ポイントの黒字となっている。電力料金や法人税負担などの差もあるが、為替の影響が圧倒的に大きいことが分かる。地産地消の流れと合わせて、円高が製造業の海外シフトを促す大きな要因となっている。では円高対策によって、海外シフトを止めることは出来るのであろうか。残念ながら、為替相場を人為的にコントロールできないことは、市場介入の効果が長続きしないことからも明らかである。更に、東日本大震災後、日本のエネルギー環境が大きく変わり、天然ガス等の化石燃料に多くを依存している中で、円安は輸出産業の競争力回復に繋がるが、一方で燃料輸入のコスト増をもたらすという視点も重要である。  日本企業の海外シフトは、プラザ合意以降から続く不可逆的なトレンドといえる。既にエレクトロニクス産業では、TV、デジカメ、DVD等の主要製品は軒並み90%程度の海外生産比率となっている。しかし、今回、「空洞化」が大きな問題となっているのは、とりもなおさず、自動車産業がクローズアップされているからである。自動車は日本の産業構造において「食物連鎖」の頂点に位置付けられており、その動向は部品などの関連産業に留まらず、全ての産業に影響を及ぼし得る。中でも、雇用への影響が懸念される。自動車生産の海外シフトが加速し、現在960万台の国内生産が600万台に落ち込む場合、部品メーカーを含む関連産業を含めて110万人の雇用減少に繋がると試算される。もちろん、これはリスクシナリオであるが、自動車のモデルチェンジが平均すると5年周期であり、2020年までにあと2回程度モデルチェンジの機会があるとすると、それを機に大規模な生産拠点の海外シフトが行われる可能性は否定できない。

日本経済・産業の復活に向けた課題

企業の海外移転を止めることができない一方で、国内の雇用問題にも対応して行かなければならない。この問題にどのように取り組んで行けばよいのであろうか。

まず、企業を国内にとどめることに、カネや時間を浪費すべきではない。むしろ、企業が海外に進出して活躍することを支援すべきである。図表2にあるように、日本企業の海外での収益は、リーマンショックによる落ち込みはあるものの、均してみれば増加傾向にある。問題は、そうした海外での稼ぎが国内の設備投資や雇用の増加に殆ど結びついていないことだ。日本は対内・対外直接投資ともに諸外国比で低水準に留まっているが、これは日本国内に魅力的な投資機会が少ないことが一因と思われる。

 そこで、日本の中で新しい産業を育成し、投資機会を創出することが必要となる。産業振興を図る際には、成長ポテンシャルの高さ、他の産業への波及効果の大きさ、内需依存型かどうか、既に産業集積があるかどうか、などが重要な視点となる。そのような視点に立つと、有力候補となり得る産業として、大規模農業、再生可能エネルギー、医療・介護を挙げることが出来る。また、各種インフラ・建設物の耐震強化に加え、老朽化したインフラの整備などの投資も重要と考えられる。
 一国の経済規模を図る統計にはGDP(国内総生産)とGNP(国民総生産)の2種類がある。成長率を議論する場合、一般的にはGDPが使われるが、日本企業の活動がグローバル化する中で、日本企業が海外で稼いだ収益をも含むGNPでみるべきではないかとの議論があるが、より重要なことはGDPとGNPの乖離を埋める、即ち、日本企業が海外で稼いだ収益を国内に還流させ、国内の設備投資や雇用増に結びつけることである。同時に、日本企業の海外収益のみならず、海外諸国の投資資金を国内に呼び込むことも重要である。内需型新産業の育成と海外成長の取込みを同時に図ることが強く求められているのである。

金融機関の果たすべき役割

以上、日本経済の抱える問題及び取り組むべき課題を述べてきた。最後に、こうした状況に対して、金融機関はどのような貢献ができるかを考えてみたい。
(1)リスクマネー供給機能の強化
 新産業を育成する上で、金融機関に求められるのはリスクマネーの積極的な供給である。そもそも、金融機関が顧客や産業の成長の触媒としてリスクマネーを供給することは社会的な責務であるが、日本経済が危機的状況にある今こそ、企業や産業の将来性やプロジェクトの社会的意義を踏まえ、新産業育成などを金融面からサポートすることが過去にも増して強く求められている。特に再生可能エネルギーや大規模農業の育成に際しては、長期間にわたる安定した資金供給が産業振興のポイントになると思われ、その面で金融機関の果たすべき役割は大きい。

(2)企業のグローバル化の支援
 世界経済の成長の中心が新興国にシフトする中で、我が国の企業がその果実を得るために海外へと進出する流れは不可避であることを述べた。金融機関がそうした動きをしっかりサポートすべきであることは言うまでもない。現地の経済情勢、各種規制・制度等の一般的な情報から、ビジネスに直結する実践的・専門的なノウハウ等、日系企業の現地展開を支援すべく、金融機関には情報生産機能を発揮することが求められている。とりわけ、中小企業の海外展開においては現地の各種情報を入手するルートが限られており、金融機関には情報の提供はもとより、経営面・金融面における肌理細やかなサポートが求められている。
(3)高齢化社会への対応
 周知の通り日本は既に人口減少社会に入っており、同時に世界でも例をみないスピードで人口構成の高齢化が進んでいる。高齢化社会という場合、労働力人口に及ぼす負の影響や、医療・介護財政負担の拡大など、どちらかという負の側面が強調されることが多いが、見方を変えれば、確実な需要拡大が予想される大きな成長分野が広がっていることにほかならない。高齢者に対する医療・介護、高齢者の様々なニーズを満たすための産業を金融面から支援すべきであることは言うまでもない。金融仲介という観点でみれば、これは高齢者層に偏在している金融資産を日本経済・産業の成長に資する分野へと振り向けて行くという問題に繋がる。更に、地域社会の再生を視野に据えたコンパクトシティ作りへの資金供給など、金融機関ならではの視点に基づく高齢化社会への貢献が必要とされる。
(4)リスク管理体制の強化

 新産業の育成、日本企業の海外進出支援などを金融面からサポートすることは、金融機関にとっては新しいリスクをテイクすることにほかならない。個別企業の動向はもとより、マクロ経済環境、産業動向に関する深い理解をベースに、取るべきリスクはしっかり取り、また、その管理をしっかり行う体制を整備することが重要となる。

(おわりに)
日本経済の閉塞感が強まる中で、実体経済を支えるという金融本来の役割が今ほど求められている時はない。同時に、金融自体が成長産業として日本経済に貢献して行くことも必要とされている。そのためには、まずは「顧客の実需重視」という大原則に立ち返ることが重要である。複雑化する顧客のニーズに対応すべく、マーケットイン的なアプローチで、個々の企業の価値向上、あるいは個々人のライフスタイルの実現に向けた最適なソリューションの提供、更には価値創造に取り組むことが重要である。「実体経済」と「金融」の両輪が相補いながらうまく回ってこそ、日本経済・産業の復活劇は実現するのである。

(2012/12/05 取材 | 2012/12/27掲載)