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きびだんご株式会社 代表取締役 松崎 良太 氏インタビュー

インターネットを介して不特定多数から広く資金を集める「クラウドファンディング」が注目を集めています。都内でクラウドファンディングサービスを運営するきびだんご株式会社の松崎良太氏にお話を伺い、クラウドファンディングが広がる背景、現代の人々のニーズについて考えます。

サービス名の由来と創業のきっかけ

――貴社が運営されている購入型のクラウドファンディングについてお伺いします。「きびだんご」とはユニークなネーミングですね。

松崎

昔むかし、桃太郎は鬼が島に鬼退治に行くという「目的」を達成するためにイヌ・サル・キジという「仲間」を集め、「支援」を得ながらやりたいコトを実現しました。そして支援してくれた仲間はもれなくきびだんごを受け取りました。「現代の桃太郎」とも言える、自分自身がやりたいコトを持っている人達も、桃太郎と同様に沢山の仲間を集めて目的を達成し、その実現に協力した人たちは魅力的なきびだんごを手に入れられるわけです。

人は誰でも自分のやりたいことを持っているはずです。言い換えれば、全人類が桃太郎になれるチャンスを等しく持っているのではないでしょうか。そうした想いから「きびだん ご」という名前をつけました。

――クラウドファンディング事業を始めたきっかけを教えてください。

松崎

11年間勤めていた楽天を退職し、次に何をやろうかなと考えていた時に、このクラウドファンディングの仕組みを利用していた「Kickstarter」という会社が急成長していました。アーティストやクリエイターが、何かやりたい、しかしそれに先立つ資金がないという時に、アイディアを先に公開してお金を集め、実現するというサービスでした。最初は音楽イベントやコンサートの開催、CD、映画の製作など、クリエイティブな世界の人向けのサービスという色が強かったのですが、時間が経つにつれ、より多くの人々が「これは面白いサービスだ!」と気付き、一般的なビジネスの世界の人々にも利用されるようになりました。例えば、「自分のレストランを開きたい」とか「こんな物をつくってみたい」といった夢を持つ、多くの人たちがこの新しい仕組みを活用するようになり、Kickstarter はものすごい勢いで伸びていったんです。その様子を見ていた私は、日本でもクラウドファンディングはうまくいくのではないかと考えたのです。

楽天では、多くの店舗がそれぞれの想いを持って、様々な手法で商品を売っていました。すごくクリエイティブなことを考えている方が大勢いるのですが、皆さんが大規模な事業社とは限りません。ごくごく小さいけれど面白い商品を作っている方もいます。小規模ビジネスに特化したクラウドファンディングサービスがあれば、面白いモノづくりをしている小規模ビジネスを拡大し、世に出すスピードも加速できるのではないか。そんな風に考えたのです。

当時、日本にも既に「READYFOR」を始め、いくつかのサービスがありました。しかしそれらは、社会貢献に特化していたり、アートやクリエイティブが中心だったので、ビジネスに特化したクラウドファンディングの仕組みも日本に作りたいと思いました。

――貴社はどこで収益を得ているのですか?

松崎

プロジェクトのお金が集まった時のみ、10%を手数料として頂戴しています。

プロジェクトの具体例

――実際に実現した事業の例を教えてください。

松崎

先日、あるプロジェクトオーナーが6回目の資金調達に成功しました。彼女は家業がベーグル屋さんで、ネズミ退治のために猫を飼っていたことがきっかけでご本人も大の猫好きになったのですが、年間8万匹もの猫が保健所で殺処分されていることを知り、これは由々しき事態だと思ったそうです。そこで、保健所に保護された猫を預かって岐阜県の大垣で猫カフェを開き、気に入った猫に出会えたお客さんには里親になっていただくなどして、自分の猫カフェを通じて猫の殺処分に関する問題をもっと多くの人々に知ってもらいたいと考えたのです。

彼女は他にも色々なアイディアを持っていて、猫の動画を映画館の大画面で観る「猫の映画祭」や、去勢・避妊手術をした「さくら猫」と呼ばれる野良猫を認知してもらう啓蒙イベントなど、次々と新しい企画を成功させ、2015 年には東京にも猫カフェをオープンさせました。

今回計画したのは、大阪で経営してきた既存の猫カフェを、アクセスしやすい駅近くの場所に移転するとともに、5階建てのビル全体を「猫ビル」にしようというプロジェクトです。カフェや猫と遊べるスペース、猫グッズが買えるお店などをつくるため、当初は目標1,000万円で出資を募りました。そして1,000万円が集まった後、さらに5階には「(猫に邪魔されるので)世界一仕事に集中できないネコワーキングスペース」、屋上には「パーティースペース」を作るため800万円の追加出資を募ることになりました。ストレッチゴール1,800万円はクラウドファンディング6回目の猛者からしても高いハードルだったようで、締切直前まで苦戦していましたが、最後の数時間に駆け込み支援が集中し、ついに終了30分前に1,800万円を達成。感動のフィナーレを迎えることになったのです。

「きびだんご」では、プロジェクトオーナーは募集期間内に目標の金額が集まった場合のみ手数料を除いた全額を受け取ることができ、集まらなければ1 円も受け取れないという「All or Nothing」制度を採用しています。「このプロジェクトは絶対達成させなければ!」と、プロジェクトオーナーも、支援者も、そしてきびだんごスタッフも気合が入る仕組みが、この「All or Nothing」制度なのです。

――必ずしも目標金額を達成できなくても、80%とか90%とかでも良いとは思いませんか?

松崎

そうしたサービスの会社も中にはありますが、All or Nothing は、集める側も応援する側も一生懸命になれるひとつの仕掛け、ルールのようなものです。私たちも達成しなければ手数料をもらえませんし、サポートも無駄になってしまうので必死になります。

ファンディングでお金を集める過程は、新しく事業を立ち上げる過程とよく似ています。市場を調査し、どんな人に商品を届けたいのか、どのくらい売れるだろうか、それに対してどういうマーケティングをするのかを全て考える必要がありますので、起業の予行練習のように使って頂くのも良いのではないでしょうか。日本にはまだ、失敗した人に対する制裁やレピュテーションダメージなどがありますが、クラウドファンディングで目標を達成できなくても、むしろその過程を通じて何が足りなかったのか、どうすればよかったのかを考える良いきっかけになると思うのです。

――出資はいくらからできるのですか?

松崎

1,000万円を集めるプロジェクトであっても、いくつかのプランから選ぶことができます。先ほどの猫カフェの例だと、ポストカード10枚セットで2,222 円を買われた方が186人いらっしゃいました。猫カフェで使える30分チケットを買った方もいますし、また、自分の名前をビルのどこかに刻む権利といった形のないものを、5,622円で購入した方も358人いました。単に猫が好きなだけでなく、動物愛護の観点から賛同されている方もいると思います。人々がモノを買う基準は「安く」「早く」だけではないように思います。猫ビルに名前を刻む権利などは、どこにも売っていない、まだこの世に存在しないものです。

――アイディアが実現した時、「これは私が応援していた商品だ」とか「まだ売れてないときから応援している」という気持ちが生まれそうですね。相撲でいうタニマチ(相撲界の隠語で「ひいき客」のこと)に似ているかもしれません。

松崎

そう、現代のタニマチですね。タニマチというと昔は富裕層の特権でしたが、ここでは数百円、数千円から支援ができ、皆が仲間になれます。投資型や貸付型のクラウドファンディングも重要だとは思いますが、私たちが行うのは、今はないモノや何かわくわくするモノを求める人々が、お金儲けとは違った形で出資し、それによって自分にも価値が返ってくるというものです。

――個々のプロジェクトページについては貴社がアドバイスされているのですか?

松崎

そうです。まず、すべてのプロジェクトについて、公開前に公序良俗違反や違法性がないか、約束したことをきちんと実行できるプロジェクトオーナーかどうかについて審査を行わせていただきます。また、実現したい内容がきちんとターゲットに「届く」かたちで表現されているかどうかも確認しています。一方で、出資者(支援者)に「刺さる」企画かどうか、つまり「これはあんまり売れない(人気が出ない)んじゃないかな?」といった根本的な部分の判断は、我々は行わずにインターネット上の皆さまに委ねています。

――今までお金を集めて履行されなかったというケースはありますか。

松崎

我々のサービスではありません。海外を含めると、債務不履行が発生した際にどうするかというのは問題になっていて、議論にもなっています。私たちも、先ずそれをなくすにはどうすれば良いかというところからスタートしています。

金融機関とクラウドファンディングの関わり

――貴社は等価交換の仕組みですから金融の免許も特段いらないのですよね。貸出型は免許がいるとか。

松崎

貸出型の場合は貸金業免許、株式投資を募る場合は金融の第二種免許が必要になります。しかし、貸金融や投資型は私たちのやりたいサービスとは異なります。「お金に色はない」とよく言われますが、私たちは「お金には色がある」と思っています。皆がプロジェクトに賛同し、期待を込めて出資しているので、受け取った側も大きな責任を感じ、「皆さんの期待になんとかして応え、期待以上に返していかなければいけない」と思うのです。直接金融と言われるような株式・債権投資や間接金融と言われるような融資とも、そして商品販売とも違う、新しい形の資金調達の手法であることには間違いないと思います。一方で、きわめて商取引に近いスタイルなので、金融の免許は必要ありませんが、例えばインターネット上でモノを売る場合には特定商取引という法律を遵守し、誰が売っているのか、キャンセルの場合には何をしなければならないのか、ということをきちんとプロジェクトオーナーに表示していただいています。そこまでやっているのは、実は私たちだけなのです。

――貴社のサービスは、銀行や金融機関とは競合しないということですね。

松崎

資金を調達して配当を得るタイプのクラウドファンディングや貸付型は競合するかも知れませんが、「きびだんご」のモデルでは全く競合しません。クラウドファンディングだけで資金調達を完結させるのではなく、銀行からお金を借りながらプロジェクトを進めるという方法もあります。クラウドファンディングで調達できる資金は、銀行が融資する資金と比較したら、金額自体は少ないかもしれませんが、クラウドファンディング成功の背景には、例えば猫ビルプロジェクトがそ うだったように1,400 人を超えるファンがいて、Facebook等の「いいね!」よりもずっと強い共感の現れとして、実際にいくばくかのお金を支援しているのです。ここには、銀行でお金を借りたり、資産家からの投資とは本質的に異なる、特別な価値があると考えています。

また、銀行にいたときも感じていましたが、需要を予測することはとても難しいことです。既存事業であれば、現在こういう形で成功しているので、将来はこれぐらい伸びるのではないか、等の予測が成り立ちます。しかし、「猫ビルを作ったとして、お客さんはどのくらい入るだろう?」なんて予測は、なかなか立てられないですよね。しかし、クラウドファンディングを利用すると、普通のビルを猫ビルに改装しようとするプロジェクトを「これだけの人が応援して、これだけのお金が集まりました。」というデータも集めることができます。このようなデータは将来的に、金融機関から設備投資や運転資金を借りようとする時に、役に立つデータなのではないかと思うのです。

――将来的には擬似資本のような形で、「クラウドファンディングで100 万円集まれば1,000 万円融資します」という金融機関が出てくるかも知れませんね。

支援の根底にある「共感」

――プロジェクトのオーナーや出資者はどのような方ですか?

松崎

共通しているのは、プロジェクトでお金を儲けたいという人ではなく、「事業をやりたい人、自分の夢を実現したい人」が共感を得ているということです。お金が集まるというのはクラウドファンディングの一番の要素ですが、お金を出してでも支援したいというユーザーやファンが集まってくるのです。毎日サイトに顔を出したり、名前を残したりしてプロジェクトに関わりたいと思ってくださる方はとても大事なお客様ですし、そういった方の様々なメッセージやアイディアは、実はすごく事業のためになるのです。

――クラウドファンディングはローカルですか? グローバルですか?

松崎

それはよく質問を受けるのですが、両方の要素があると思います。大阪の猫ビルや新潟のワイナリーなどは、本来ならば地元の人たちが支援すると考えがちですが、日本中からわっと支援が集まる。ローカルでやっているものではありますが、実はグローバルに、全世界どこからでも支援ができます。逆に、それをやることによってローカルに自分の旗が立つと感じられます。「今度大阪に出張に行く時には、絶対に猫ビルに行きたい」とか、「なんとか出張にならないかな」と人々が考えること自体がすごく面白いのです。地方のプロジェクトを地方だけで支援するのではなく、いかに他の人たちも共感を得られるようなフックや切り口を見つけることができるか、というのもとても大事なことになっています。

今や価値観が多様化し、一つの会社がすべてを独占・寡占する時代ではなくなってきています。定義上はどんなものでもクラウドファンディングにできてしまいますが、サービスを提供する側が、自分たちが何を大事にするか、そして何を大事にしている人達に集まって欲しいか、改めて考える必要があるのではないでしょうか。「きびだんご」では、アーティストでもクリエイターでも、自分のやっていることを継続可能なモデルとして事業化したいと考える人たちにどんどん成功して欲しいと考えており、それが実現できる場であり続けたいと思っています。

(2016/08/03 掲載)

松崎 良太( まつざき りょうた)
きびだんご株式会社 代表取締役Chief Momotaro 日本興業銀行( 現みずほフィナンシャルグループ) で投資銀行業務に携わった後、ニューヨーク支店を経て2000年に楽天に入社。
執行役員ネットマーケティング事業庁 兼 事業企画・調査本部長を経て2011年に独立し、サードギア株式会社を設立。
ベンチャー企業の育成、エンジェル投資を行う。2013年にゴールフラッグ(現きびだんご)株式会社を設立。