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金融庁監督局 銀行第ニ課 課長 西田 直樹 氏 インタビュー

第2回『地域金融機関に対する監督方針』について

■地域金融機関に対する監督方針について

<澁谷>

地域金融機関を監督する西田課長が考えていらっしゃる監督方針とはどのようなものでしょうか?

<西田課長>

 監督方針については、毎年、監督に当たっての事務年度当初における重点事項を「中小・地域金融機関向け監督方針」として示しています。先般、平成20事務年度の監督方針を策定・公表しました。この1年間の監督上の重点事項というのは、まさしくこれに集約されていると思っています。昨今の地域金融機関を巡る状況を踏まえ、庁内で十分議論し、今事務年度はこの方針でいこうと決めたものです。

 この「中小・地域金融機関向け監督方針」では、重点事項として3つの柱を立てています。その柱とは、“地域密着型金融の推進等を通じた中小企業金融の円滑化”、“地域の利用者の安心と利便”、そしてもう1つは自らの財務の健全性ということにも繋がりますが、“リスク管理と地域における金融システムの安定”というものです。この3つを大きな柱にして取り組んでいきたいと思います。

 この3つの大きな柱に取り組むに当たっては、ベター・レギュレーション(金融規制の質的向上)の考え方を基本として進めていく必要があると考えています。直接、地域金融機関の監督に当たっているのは各現場の財務局ですので、我々と財務局とが監督目線をしっかり合わせながら、できるだけ効果的、効率的な行政をやっていく必要があると思っています。

 また、そのためには、我々自身が銀行経営者や利用者である企業等の方々との対話の機会をできるだけ大切にして、地域金融の実態をお聞きしながら行政を進めていくことが重要ではないかと考えています。私としては、その点を大切にしながら、3つの柱にしっかりと取り組んでいきたいと思っています。

 現在の国内景気は大きく下振れするリスクを抱えており、中小企業の業況はかなり厳しい状況にあります。そういった状況だからこそ、地域金融機関においては、適切かつ積極的な金融仲介機能を発揮していただきたいと思っています。

 地域金融機関は、借り手企業の経営実態や特性に応じたリスクテイクとリスク管理をきめ細かく行って、中小企業に対する円滑な資金供給を確保していくことが一層重要となっています。またそうすることが、自らの財務の健全性を確保していくということにも繋がると考えています。この2つの課題を「好循環」をもって実現していくことが大事だと思います。ですから、地域金融機関の監督においては、そういった視点を念頭に置いて業務にあたるようにしています。

 ちなみに、「好循環」があれば「悪循環」があるわけです。過去一時、貸し渋り問題がクローズアップされた時期がありました。あの時は、金融機関はリスク管理が不十分な中で融資を行い、その後、積みあがった不良債権を処理する過程で、期間損益では足りず内部留保を取り崩し、自己資本が大幅に減少することになりました。本来であれば、期間損益により不良債権の処理を行うわけですが、当時はそれでは足りなくて、そのような状況が生じてしまったのです。そのことで金融機関のリスクテイク能力が下がってしまい、円滑な資金供給に影響を与えることとなりました。

 現在の厳しい経済情勢の下でこの「悪循環」という状況を起こさないようにするための舵取りが、地域金融機関の経営者の方々のリーダーシップに求められていると思っています。

■金融機関との対話について

<澁谷>

西田課長は実際に地域金融機関との対話というものをどのようにお考えでしょうか?

<西田課長>

 対話という面では、月に1度、地方銀行協会や第二地方銀行協会の例会で、頭取の方々が東京に来られた際に、できるだけお時間を頂戴して、意見交換をさせていただく機会を大切にしています。
 また、「監督方針」の中にもありますが、我々も地域に出向いてその地域の実態を聞く必要があると感じています。今後も時間があれば、こちらからお邪魔して、フランクな対話をさせていただき、ご意見をいただくということをやっていければと思っています。

<澁谷>

ベター・レギュレーションの取組みにもあります、金融機関との対話というのは西田課長にとってどのような位置づけなのでしょうか?

<西田課長>

 監督行政を行っていく上で、基本の一つだと思っています。

 私は、昭和57年に大蔵省に入省したのですが、その後、東海財務局、北陸財務局、関東財務局、近畿財務局に勤めました。直接現場で金融機関の方々と対面して行政を行ってきた経験が長いこともあってか、金融機関の方々との対話が大切だという思いは強い方だと思います。

 私は、平成8年から昨事務年度まで、金融機関の破綻処理に携わってきました。監督行政の中でも、金融機関の破綻処理にエネルギーと時間を費やしてきたというのが自分の実感で、そういうことを経験する中で、つくづく思ったことがあります。それは、金融機関自身の財務の健全性の重要性です。これは、地域金融システムの安定、地域の利用者の安心を図りながら、同時に金融仲介機能を安定的、継続的に発揮していくために重要なものだと考えています。

 地域金融機関の経営は、現在のような厳しい環境の下では、経営者の方々の舵取りが重要となってきます。その意味でも、地域金融機関の経営者の方々と直接対話する機会を大切にしていきたいと思っています。地域金融の実態を確認できる機会をなるべく多く作って、自分が地域金融機関を監督する上での考え方と実態との相違点や距離感を少しでも埋めていければと思っています。

<澁谷>

金融機関との対話という中で、地域の中小零細企業の方とも実際に会われてお話をされているとのことですね。

<西田課長>

 金融監督行政に携わる者として、地域の中小企業の業況等の把握に努めることも必要と考えています。
 実際に、商工会議所等に対するアンケート調査を行ったり、中小企業関係者の方々と直接お会いし意見交換をしたりしています。また、中小企業庁と連携して全国約150カ所を目標に意見交換する場を設けています。そういった取組みを通じて、中小企業金融の実情、あるいは地域金融機関の融資の動向等を少しでも肌に感じながら実態を把握しようと考えています。
 私としては、そういった機会に寄せられる声も受け止めながら、監督行政をやっていく必要があると思っています。

■金融機関の地域との関わりについて

<澁谷>

地元経済の状況によって各地域金融機関の経営努力にもかかわらず、業績や企業体力に格差が出てきていると思いますが、それについてはどのようにお考えでしょうか?

<西田課長>

 地域ごとに経済情勢や産業構造などが異なっているので、そうした環境の下で事業を行っている金融機関ごとに業績に差があるのは当然のことと思います。ただその中で、いかに地域に密着して自身の経営基盤やビジネスモデルを構築していくか、という努力を行っていただくことが大切ではないかと思います。

 地域金融機関は、ここ数年、地域密着型金融の取組み等により、地域とのつながりを大事にしながら収益性の向上や財務の健全性の確保に努めてきています。

 ただ、現在は、米国のサブプライムローン問題に端を発して内外の金融市場が大きく変動したり、地域経済や中小企業はかなり厳しい状況にあり、足元では、与信コストが増えたり、有価証券の減損処理が必要となって減益となっている金融機関も多く出てきています。

 私としては、そういった状況をよく認識した上で、地域経済あるいは金融市場の動向が金融機関に与える影響や、金融機関の財務の健全性について、注意深くきめ細かにフォローしていかなければならないと思っています。

■地域金融機関の収益モデルについて

<澁谷>

資金需要が伸び悩んでいる中で、金融機関としてなかなか収益が増えないという実情があります。昨今では減少した資金利益を補うために投資信託の販売等、役務収益を伸ばしてきましたが、金融危機が叫ばれる今はそれにも限界があり、地域金融機関としての収益モデル自体が非常に難しくなってきていると思います。そのあたりについてはいかがでしょうか?

<西田課長>

 確かに地域金融機関の経営環境は厳しいと思います。ただ私は、こういう厳しい環境の時にこそ、地域密着型金融というものの真価を発揮することが期待されていると思っています。

 地域金融機関が収益をあげるのは一朝一夕にできることではありません。例えば、各取引先の経営の実態や成長性などをよく見て、こういう形であれば融資ができますよという提案をするとか、あるいは中小企業ではなかなか商圏を広げられないので、地域金融機関が率先してビジネスマッチングのような形で企業の経営改善をサポートしていくというような取組みが、中長期的には金融機関自身の収益にも繋がっていくのではないかと思っています。そういった企業に対するソフト面のサポートも大切だと思います。

 私は“信用機構対応室”というところで、足利銀行の一時国有化に係る業務に長く携わってきました。当時、一時国有化の下で足利銀行の陣頭指揮をとってきた池田頭取は、「自ら靴底を減らして、地道に顧客と対面しながら営業するのが地域金融機関である。そういった取組みが、将来の足利銀行の営業基盤を固め、収益を生み出す構造を作っていくんだ」という趣旨のことを行員の方々に繰り返し伝えながら、全行一丸となってやってこられました。これこそが地域密着型金融の基本ではないかと思っています。

 経済情勢の厳しい今こそ、地域金融機関が自らの真価を発揮する機会でもあります。地域や取引先とのリレーションを大切にし、継続的な取引関係を構築することが大切ではないか考えています。

■地銀の再編について

<澁谷>

 今、メディアでは地域金融機関の再編が取り沙汰されています。経営統合についてはもちろん経営者の判断になるでしょうが、この地銀再編の機運についてはどのようにお考えでしょうか?

<西田課長>

 経営統合等の再編については、各金融機関の自主的な経営判断に基づき決定されるべきものです。一般論として申し上げれば、例えば、経営統合は、店舗や人材の効率的な配置やシステム投資の効率化、両者が持っているノウハウを共有することで金融機関として金融機能の強化が図られるといった効果が期待できます。
 また、経営基盤の強化等を通じて、金融仲介機能を安定的、継続的に発揮できるようになるといった効果も期待できます。そういう意味では、各金融機関において、将来を見据えた経営戦略の構築や経営基盤の強化を検討されるに当たっての有効な選択肢の1つではないかと考えています。ただそれを決めるのは、経営者の高度な経営判断だと思います。

■地域金融機関の果たすべき役割について

<澁谷>

 都市と地方の格差は金融に限らず、日本全体の問題になっていますが、地域経済活性化のために、地域金融機関の果たすべき役割はどのようなものでしょうか?

<西田課長>

 一言で言えば、地域密着型金融の機能をいかにしっかりと発揮していくかということだと思います。

 我々が地域密着型金融の重点として取り上げている一つに、「地域の情報集積を活用した持続可能な地域経済への貢献」というものがあります。地域の情報が最も集積されているのはやはり地域金融機関であり、取引先との長いリレーションシップの中でいろいろな情報が蓄積、集約されています。その情報を地域のために有効利用し地域の活性化に結び付けていくことは地域金融機関の果たすべき役割の一つであると考えています。

 またそういった取組みによって、地域金融機関が地域において信認を得て、さらに取引先との結び付きを強くして、それを通じて地域全体が活性化されていくことが期待されます。地域活性化のためには、地道に地域密着型金融を推進していくことが大切だと思います。

■地域密着型金融の取組みの成果について

<澁谷>

 リレーションシップバンキングの成果はどのようなものでしょうか?

<西田課長>

 各金融機関の取組みを見てみると、様々な形でその地域の特性等を踏まえながら選択と集中を図っています。地域金融機関における取組みについては、これまで総じて着実に実績があがってきています。

 我々は、地域密着型金融の推進という観点から、こういうことをしなさいと言うよりも、現在はむしろ、環境整備や動機付けに力を入れています。例えば、全国の地域金融機関の様々な取組みを事例集として集めて公表したり、各地域でシンポジウムを開いて地域密着型金融の取組み事例を紹介・議論する、といったことをやっております。そういった環境整備、動機付けをしっかりやっていくのが、我々の仕事だと思っています。

 また、私は、地域密着型金融の推進に関する最初のアクションプログラムの策定に携わった一員です。当時は、地域金融機関が不良債権処理をどう進めるかということが大きな課題で、不良債権をオフバランス化するのは、地域とのつながりを大事にしている地域金融機関にはなかなか難しいということもありました。従って、地域密着型金融を推進することによって、不良債権問題を解決し、自らの収益性の向上、財務の健全性の確保を図っていくという取組みを行ってきたわけです。

 従前はどちらかというと、我々の方がアクションプログラムの策定・実施という形で積極的に地域密着型金融を推し進めてきましたが、これからは金融機関の方々自らがそれぞれの地域に合った選択と集中を進めていただき、さらに深化・発展させていただきたいと思っています。

 そういった取組みを通じてしっかりとした礎を築いておくことが、今後激しく変動する経済情勢の中で弾力的に経営をやっていける、いわば「経営の弾力性」を培うことにも資するのではないかと思っています。

■若手銀行員へのメッセージについて

<澁谷>

西田課長から、若手銀行員の方やこれから銀行で働きたいという意欲を持った学生に対して期待することはどんなことでしょうか?

<西田課長>

 自分が監督している地域金融機関に限って言いますと、やはりこういった厳しい環境の中で若い意欲のある方々に対して期待することは、地域に根ざした金融機関なので、なによりもその取引先とのリレーションを大事にするという気持ちで取り組んでいただきたいと思います。
 金銭的な面だけではなく、経営全般に踏み込んで色々なアドバイスができるスキルを身に付け、専門性を高めて仕事に取り組んでいただきたいと思います。 私は、金融機関にとってそこで働く方々が財産だと思っています。その方々のノウハウの蓄積が利用者の信認にもつながっていくのではないかと思っています。スキルをしっかり蓄えていただき、お客様としっかりと対面していく。そういった努力を続けていくことが、将来、金融機関自身だけでなく、地域をも良くしていくことになるではないかと思っています。
 地域金融機関は地域経済の血液と言われますが、まさしく要なので、そこがしっかりしていなければ地域経済もしっかりしないというぐらい重要なものであると思います。地域に対するプレゼンスの大きさを考え、誇りを持ってしっかりと取り組んでいただきたいと思います。

(2008/10/22 取材 | 2008/12/8 掲載)