TOP > インタビュー > 大塚 耕平 内閣府副大臣

大塚耕平 内閣府副大臣 インタビュー

<澁谷>

 金融機関のあるべき姿とはどのようなものとお考えでしょうか。

<大塚副大臣>

 ビジネスに奇跡はありません。王道に徹するのが基本であると思います。「儲ける」という漢字がありますが、信頼の「信」と「者」が組み合わさった漢字です。これは「信頼される者が儲けることができる。」ということだと思います。まさしく、これがビジネスの原点ですね。
 過去の財界の重鎮の方々は含蓄ある言葉を残しておられますが、中でも松下幸之助翁の「損して得とれ」という言葉は「儲ける」の本質を示唆していると思います。これはすべてのビジネスに共通していることですが、金融機関がその言葉に最も象徴されるビジネスではないでしょうか。

 金融機関はお預かりした資金を運用することでビジネスが成り立っています。つまり、歌舞伎で言えば、舞台役者はお客様(クライアント)であり、金融機関は黒子であるべきです。「いかに舞台役者に良い演技をしていただき、その信頼を勝ち得るか」ということではないでしょうか。

 金融は経済にとって普遍的で重要な産業であることは間違いありませんが、金融だけでは世の中は成り立ちません。実物経済があり、その成長をサポートしていくからこそ、金融は有効かつ有益な役割を果たすことができるわけです。

 つまり、金融機関こそビジネスの原点に忠実であるべきであり、こうした考え方、カルチャー、経営姿勢が、どこまで各々の金融機関に浸透しているかが問われます。言い換えれば、「利他の精神」です。

 例えば、現在、話題となっているゆうちょ銀行の預入限度額の引上げについて、金融界の幹部の皆さんは「民間金融機関の経営が立ち行かなくなる。」と指摘しています。たしかに経営の立場からそのように主張することは理解できますが、この指摘には国民、顧客側の目線が感じられません。利用者の立場から考えると、異なる視点があるはずです。

 金融機関は本来の黒子としての立場において経営基盤を確立することが基本であり、その基盤を確立したうえで、ポジティブに他の業務を展開するべきです。この主客を転倒してはいけないと思っています。

              

<澁谷>

 大塚副大臣は、日本銀行にご勤務されておられましたが、日本銀行を選ばれた理由、またに日本銀行でのご経験が、その後の政治活動にどのように影響されているのかお聞かせいただけますでしょうか。

<大塚副大臣>

 就職に際して、金融を通じて経済の成長や発展に貢献したいと考える中、中央銀行の公的な役割に非常に興味を抱いて日本銀行を就職先として選びました。日本銀行というのは黒子の金融機関のさらに黒子役です。金融業界の様々なことを吸収、勉強するには非常に恵まれた職場であったと思います。

 また、私は旧営業局という部署に長く在籍しましたが、ここは、いわゆる民間金融機関を「顧客」とするRM担当部署です。大手金融機関を担当させていただく中で、金融ビジネスの最前線について幅広く見聞させていただきましたし、ガバナンスの難しさについても学ぶことができました。また、システム部門にも在籍しましたが、金融機関は装置産業であり、ITインフラの整備が安定した経営の根幹となることも実感しました。他にも、マーケット関連の業務なども担当させていただき、結果的に今の仕事において非常に役立っていると思っています。

 余談ですが、私は仏教本を執筆しています。とくに関心を持っている弘法大師の言葉の中に「医王の目には途(みち)に触れてみな薬なり。解宝の人は鉱石を宝と見る。」という名言があります。仕事に置き換えて申し上げれば、「どんな仕事でも、そこから何を見い出すかは本人の心がけ次第である。」という不変の真理を説いたものです。加えて、金融機関の場合、色々な業界のことを間接的に学ぶことができる職場です。「金融機関で得られる経験が、計り知れない財産であるということを、どれだけ自覚できるかが重要である。」ということを、これからの金融界を担う若い方々には是非認識していただきたいと思います。

<澁谷>

 以前、大塚副大臣は、「これからの監督・検査では、借り手の育成を重視する。」とおしゃっておられましたが、「借り手の育成」とは具体的にどのようなことをお考えでしょうか。

<大塚副大臣>

 昨年、施行した「中小企業等金融円滑化法」に込められたメッセージは、「金融機関の原点とは何かということをもう一度見つめ直してほしい。」ということなんです。もう少し実務に照らして申し上げると、「担保主義からの脱却」といわれて久しいわけですが、相変わらず担保至上主義から脱却できていないのが実情であり、これでは「Banker」ではなく「Lender」ですね。

 厳しい経済情勢の中でクライアントをどうやって育てるかということを常に意識して、その中でパフォーマンスをあげられない金融機関は、全体のパイが小さくなる中では、やがて体力のある競合相手に吸収されてしまうことになります。このことを明確に認識していただき、独立独歩の道を歩むためには、金融機関の原点に立ち返って、クライアントをいかに育てることができるかという点にかかっていることを自覚するべきだと思います。

 たしかに、これらを実践することは簡単なことではありません。例えば、営業エリアが限定される中小金融機関であれば、自分の営業エリアだけでビジネスを行い、クライアントをサポートするには限界があります。そこで、広い地域において営業支援をいかに行っていくかを考えた場合、例えば、ゆうちょ銀行と提携して彼らのプラットフォームを有効に活用することも重要な発想です。固定観念に囚われず、これまでの「常識」が発想の限界につながっていないかを自問自答していただきたいと思います。

 金融行政当局としては、金融機関の皆さんに財務や資金計画のプロとしてクライアントを指導していただきたいと思うと同時に、ポジティブな営業力を導き出すような発想で金融機関自身が新たなチャレンジを行っているかどうかが大切だと感じています。当局自身も、コンサルティング機能を発揮する金融機関のコンサルタント、つまり黒子の黒子という立場で、しっかりと仕事をさせていただきたいと思っています。

(2010/3/29 取材 | 2010/4/5 掲載)