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SBI ホールディングス  代表取締役執行役員社長 北尾 吉孝氏インタビュー

 

 
 
昨年12 月に、本誌の巻頭インタビューにご登場いただいたSBI ホールディングス株式会社 代表取締役 社長 北尾吉孝氏。
大好評だった前回インタビューに続き、今回改めてSBI グループが投資するフィンテッ クベンチャー企業の技術などを活用した地域金融機関の新たな金融サービスの創造や、地域経済の活性化についてお伺いしました。

聞き手:リッキービジネスソリューション(株) 代表取締役 澁谷 耕一

30行の地域金融機関と提携

(澁谷)

前回、地域金融機関との連携をテーマにお話いただきましたが、現在の提携状況についてお聞かせください。

(北尾社長)

SBI 証券が金融商品仲介業サービスを提供している地域金融機関は、現在30行まで増加しています。提携先の地域金融機関のお客さま一人ひとりの資産形成をサポートすべく、SBI 証券の有する顧客便益性の高い多様な金融商品やサービスを提供しています。 

さらに、SBI 証券の金融法人部を通じて、地域金融機関に向けて内外債券の売買や、投資信託、仕組債などの販売を強化しています。一年前と比べ、株式取引は1.3倍、投資信託販売は3.8倍、新発・既発債取引は2.3倍と、金融機関との取引は順調に拡大しています。

●提携先地域金融機関

また、清水銀行と筑邦銀行では、SBIマネープラザが共同店舗を開設しています(清水銀行:2017年10月開設、筑邦銀行:2018年6月開設)。清水銀行の浜松東支店内に開設した「清水銀行SBI マネープラザ」では、2018年6月実績を2017年11月実績と比較すると、預り資産4.8倍、口座数2.7 倍と順調に拡大を続け、収益はなんと7.9倍まで拡大しており、確実に効果が出ていると言えます。SBIマネープラザでは、今後も地域金融機関との共同店舗 の新規出店や、SBI マネープラザの既存直営店の共同店舗化を推進していきます。

さらに、SBI マネープラザでは、地域金融機関37行と業務提携し、法人及び個人富裕層向けの商品を提供しています。例えば、オペレーティングリースや保険商品、不動産小口信託受益権といった決算・相続対策商品も取り揃えるなど、提供可能な商品は多岐にわたります。

生損保事業が急速に拡大

(澁谷)

最近では、生損保分野にも力を入れて取り組まれているとお聞きしました。

(北尾社長)

SBI グループの生損保商品をお取扱いいただくための業務提携は急速に進んでいます。損保では、岡﨑信用金庫、大光銀行、イオン銀行などが、SBI 損保の保険商品の採用を決定し、随時取扱いを開始しています。生保では、SBI生命の団体信用生命保険を中心に、山口フィナンシャルグループ、飯能信用金庫、豊田信用金庫、かながわ信用金庫、西武信用金庫などで導入が進み、2018年度内にはさらに複数行への導入が実現する見込です。

(澁谷)

信用金庫との提携もかなり進んでいるのですね。

(北尾社長)

そのほかにも、SBIRipple Asia が事務局を務める「内外為替一元化コンソーシアム」では、分散台帳技術を用いたスマートフォン用送金アプリ「Money Tap(マネータップ)」を開発し、住信SBI ネット銀行、スルガ銀行、りそな銀行の3行での試験運用が順調に進んでおり、間もなく一般公開予定です。

また、モーニングスターが提供するタブレットアプリ「投資信託INDEX」は、金融機関がお客さまに正しい商品内容、マーケット状況などを説明するのに非常に便利なアプリとして、大変好評です。タブレットアプリの提供社数、提供台数は急速に伸長し、2018年8月末時点での提供社数は 145社(うち地域金融機関51行)、提供台数は58,065台となっています。

そして、地域金融機関と共同で設立した「SBI地方創生アセットマネジメント」では、出資参加行が現在25行となり、出資元の地域金融機関を「顧客預り資産運用」と「自己資金運用」の両面からサポートするとともに、各金融機関の運用実務を担う「人材育成」も支援しています。メガバンクや証券会社に比べて、運用ノウハウやプロフェッショナル人材において不足している部分を我々がサポート致します。

横浜銀行と投資先ベンチャー企業が連携

(澁谷)

地域金融機関と投資先ベンチャー企業との連携状況についてお聞かせください。

 

(北尾社長)

例えば、横浜銀行からはSBI インベストメントへ出向者を受け入れ、投資を通じてのバリューアップ活動や金融機関及び他業種とのビジネスマッチングを一社員として2年弱にわたり従事していただきました。同行はすでに、我々の投資先である複数のベンチャー企業との間でコラボレーションを実現していただいておりますが、出向期間終了後は同行のオープンイノベーションの中心人物として大活躍されていると伺っています。現在、山口フィナンシャルグループからも出向者を受け入れています。今後も多くの地域金融機関から多様な人材を受け入れ、一層多くのことを学び、吸収していただきたいと考えています。

また、清水銀行、福井銀行、富山第一銀行では、Eコマースプラットフォームを提供するBASE社と事業提携しています。地域金融機関のお客さまが同社のE コマースプラットフォームを活用すれば、容易に低コストでネットビジネスを開始でき、全国展開が可能になります。地方産業が活性 化すれば、地域金融機関のメリットにもなるはずです。

SBIネオファイナンシャルサービシーズとは

(澁谷)

「SBI ネオファイナンシャルサービシーズ」の設立背景、及びその狙いについてお聞かせください。

(北尾社長)

SBI ネオファイナンシャルサービシーズは、SBIグループの豊富なオンライン金融の経験をもとに、国内外のフィンテックベンチャーとジョイントベンチャー(JV)を複数設立し、新技術・サービスをローカライズして提供していく中間持株会社です。これまでSBIインベストメントやSBI 証券などが構築してきた、地域金融機関とのリレーションシップを活かし、二人三脚で地方創生に寄与していくことを目的に設立しました。

SBI グループ各社との結びつきを強くするため、SBIネオファイナンシャルサービシーズや、その傘下で各フィンテックベンチャーと共同設立するJV 企業(説立予定を含む)に配属する予定の役職員を、既存のSBIグループ内の役職と兼務させる組織体制を敷いており、これまで以上に グループ一体となって取り組んでいく予定です。今後これらのJV 群をもっと増やしていきたいと考えています。

SBI FinTech Incubation は、SBIホールディングス60%、ソフトバンク20%、日本IBM10%、凸版印刷10%の出資比率で設立したJV で、金融庁が推進している「オープンAPI」のプラットフォームの提供を通じて、フィンテックサービスの導入支援体制を構築していますが、すでに複数の地域金融機関が同プラットフォームの導入を決定し、また多くの地域金融機関が導入を検討中です。フィンテックベンチャー企業の各種サービス及びシステムを既存の勘定系システムにスムーズに接続し、金融機関における導入コストの最小化を目指していますので、プラットフォームを導入する金融機関が増加すればするほど、各金融機関の導入コストが下がる仕組みになっています。

世界初のモバイル専業銀行として2011年に設立され、2013年に開業した米Moven 社ともJV を設立しました。JV のSBI Moven Asia では、Moven 社のサービスをアジア地域の規制や慣行、ニーズに合致するようカスタマイズしたモバイル銀行アプリを提携金融機関に提供する予定です。国内では、ホワイトレーベル形式(相手先ブランドで商品やサービスを提供)での展開になるかと思いますが、これにより地域金融機関は全国展開が可能になると考えています。

米LendingHome 社とのJV では、同社の技術を導入し、住宅ローンや不動産ローンの申込受付から審査、貸出に至るまでのプロセスの大部分を自動化することで、業務の効率化を図ります。このサービスを活用すれば、これまで地域内の顧客にしか住宅ローンを実行できなかった地域金融 機関が、全国のお客さまに住宅ローンを提案できるようになると考えています。また、このサービスを活用して住宅ローンを実行する場合には、SBI 生命の団信やSBI 損保の火災保険をセット提案し、地域金融機関のお客さまが満足できるような仕組みを構築できればと考えています。

世界最大級の民間金融機関である中国平安(ピンアン)保険グループとも共同でJV を設立し、地域金融機関の新たなテクノロジーの活用に貢献したいと考えています。平安グループのOneConnect社は、すでに2,300社以上の金融機関にフロントからバックオフィス業務までをカバーするフィンテックソリューションの提供実績があり、同社サービスの導入をJV を通じて、まずは日本で推進していきます。さらに、地域金融機関の中国進出のサポートも可能になると考えています。中国では、巨大なビッグデータを武器に様々なテクノロジーが進化しています。我々も彼らの先進的なテクノロジーには見習うべきところがあり、それらを地域金融機関の方々にも伝えていきたいと考えています。

シンガポールのAntWorks 社は、RPA(Robotic Process Automation)・AIを活用した業務処理の自動化を行うプラットフォームを提供しています。同社のAI 技術を活用することで、標準書式ではなく、企業内の書類の90%を占める非標準書式といわれる統一されていない形式の書類データの読み取りができるようになります。すでにインドの大手地方銀行や保険会社などの金融機関では導入されており、日本でもこの技術を広めていきたいと考えています。

地域の中小企業へのアプローチ

(澁谷)

地域産業の活性化に向けた、中小企業へのフィンテック技術やサービスのプロモーションについてお聞かせください。

(北尾社長)

先程少し説明しましたが、例えば、BASE社など、我々のファンドの投資先ベンチャーを通じて、地域産業の活性化を大々的に広めていこうと考えています。個人事業主をはじめ、地方事業者が初期費用・月額利用料なしで、簡単かつ無料でネットショップを開設できるBASE社のプラットフォーム(EC サイト)を提供し、インターネットを通じた販路拡大を支援していきます。

そのほかにも、ファンドから出資をしているトランビ社とSBI 証券に新設したM&A チームで、中小企業への事業承継サービスを地域金融機関を通じて展開していきます。後継者不足などの問題から、黒字でも廃業を余儀なくされる時代ですが、黒字企業の廃業は地域経済にとって大きなマイナスです。これをなんとか解決するために、トランビ社のM&A オンラインプラットフォームを活用し、スピーディーかつ低コストで小規模M&A の実現を目指した いと考えています。

完成系に近づく「デジタルアセット金融エコシステム」

(澁谷)

デジタルアセット金融エコシステムについてお聞かせください。

(北尾社長)

この一年間、仮想通貨の取引所運営から、セキュリティ、機関投資家向けの資産運用、情報提供、トークンの発行、ICO などに取り組むとともに、デジタルアセット関連のベンチャー企業に出資し、さらに各々がシナジーを創出する新たな生態系「デジタルアセット金融エコシステム」の構築に注力してきましたが、それが完成系に近づきつつあります。

例えば、SBI バーチャル・カレンシーズでは、仮想通貨の取引所に機関投資家を呼び込み、仮想通貨市場を投機的な市場から安定的な市場へ環境を整えていくとともに、さらなるスプレッドの縮小を図っていきます。また、フェアな条件で仮想通貨を取引できるよう、取引所ごとのスプ レッドが一覧で比較できるようにもしました。

そして、仮想通貨の実需を増やすために、米国Ripple社の送金プラットフォームや、米国R3社のブロックチェーンプラットフォームを活用したり、将来的には国内でのICO の制度確立を目指すなど、多方面でデジタルアセット関連の取組みを進めていきます。この分野についても、先程のSBI ネオファイナンシャルサービシーズ同様、各ベンチャー企業とJV を設立し、その技術・サービスをアジア全域にわたって展開していきたいと考えています。

地域通貨で商業活性化を促進

(澁谷)

「S コインプラットフォーム」についてお聞かせください。

(北尾社長)

地域金融機関に、S コインプラットフォームの導入を推進したいと考えています。Sコインとは、SBIの頭文字をとって名付けたものですが、地域金融機関がこのSコインプラットフォームを活用して、独自の地域通貨として「(地名など)コイン」という名前をつけ、地域の商業活性化に繋げていただきたいと思います。

SBIでは、すでにこのプラットフォームを活用し、UCカード社とともに「UC 台場コイン」と称した地域通貨の実証実験を行っています。UC 台場コインは、スマートフォン上で決済・送金・チャージが可能なプリペイド型の地域通貨ですが、UC カード社員を対象に、お台場のUC カー ドオフィス内や近隣施設の飲食店等で、「顔認証」や「スタンプ認証」にてキャッシュレスで決済できる仕組みです。

若手は積極的にチャレンジを

(澁谷)

最後に、新たな金融サービスの創造や提案を担う若手に対する期待についてお聞かせください。

(北尾社長)

我々の事業の推進には、若手の力が必要です。昨年、20代社員を中心に募集した「次世代金融スタディグループ」では、次世代金融のあり方や新たな金融サービスの展開について、チーム毎にディスカッションするなどの社内ワーキンググループを立ち上げました。地域金融機関の6 割が本業赤字を抱えている現実から、我々が投資するフィンテックベンチャーなどの技術を学んで、それを地域経済に貢献したいという若手が増えています。

若手に求めるものとして、もちろん能力が高いことは望ましいですが、能力以上に「意欲」や「意志」が大切です。「やりたい」という強い願望は、我々の事業にとって非常に重要で、そのような意欲のある若手の活躍に期待しています。SBIでは、実績を上げた若手には権限を与え、場合 によっては新設する会社の役員に抜擢することも検討しています。若い方々には、色々なことに積極的にチャレンジしてほしいと思います。

◆北尾 吉孝(きたお よしたか)
1951年兵庫県生まれ。74年 慶應義塾大学経済学部卒業。同年 野村證券入社。78年英国ケンブリッジ大学経済学部卒業。89年ワッサース タイン・ペレラ・インターナショナル社(ロンドン)常務取締役。91年野村證券企業情報取締役。92年野村證券事業法人三部長。95年孫正 義氏の招聘によりソフトバンク入社、常務取締役に就任。99年より現職。 現在、証券・銀行・保険等の金融サービス事業や新産業育成に向けた投資事業、医薬品開発等のバイオ関連事業などを幅広く展開する総合企業グ ループ、SBIホールディングス代表取締役執行役員社長を務める。公益財団法人SBI 子ども希望財団理事及びSBI大学院大学の学長も兼務。 著書に『成功企業に学ぶ 実践フィンテック』(日本経済新聞出版社)、『実践版 安岡正篤』(プレジデト社)、『何のために働くのか』(致知出版社) など多数。

(2018/10/05掲載)