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山本 有ニ 金融担当大臣 インタビュー


▲ 山本有二 金融担当大臣 

(澁谷)

グローバル化が進む中で、大臣が銀行に求めることについてお聞かせ下さい。

(山本)

資料(1)は将来の労働力人口の予測図ですが、2004年から2050年までの間に、日本の労働人口は6,600万人から4,400万人まで約2,200万人減少する見通しです。
そして資料(2)が、年齢別人口の図になります。赤い部分が労働人口、そのほかの部分が労働に携わっていない人たちを表しています。人口のピークは56~57歳の団塊の世代で200万人を超えていましたが、去年、赤ちゃんが生まれた数は106万人です。ですから、極端に言うと将来は約半分の人口になってしまうということです。
だから逆に言うと、こういう宿命を帯びた国で、経済成長を持続しなければならないという観点に立った時に、我々は今、何をすべきかということが、この1番の答えではないかと思います。つまりグローバル化の中で世界と戦える、競争力ある銀行となることが人口減少、社会を支える唯一の道だと思っておりますので、そういう銀行になってほしいと思います。
(※資料は、それぞれクリックすると拡大画像が見れます。)

▲ 資料(1)

▲ 資料(2)

▲ 資料(3)

資料(3)は、今現在の総人口の詳しい分類図です。総人口は1億2,000万人で、完全失業者は2.2%の275万人、雇用者数は42.8%の5,472万人となっています。
資料(4)は1990年から2006年までの間の、世界の証券市場の時価総額を示しております。右の白い四角に書いてあるように、1990年には世界全体の株式の時価総額は、8.9兆ドルでありました。うち、日本の株式時価総額は2.9兆ドルございました。つまり、日本で全体の30%を引き受けていたのです。それが2006年には、世界全体の時価総額は49.9兆ドルで、うち日本は4.6兆ドルですから、1割にも満ちません。それだけ金融機能が低下したということでございます。各国の市場の伸び率を見ると、ニューヨークはその2006年までの16年間に5.73倍となりました。世界一のGDPと3億人の人口と、コンプライアンスコストが高いとの指摘がありながらも、5.73倍の維持をしたのです。対して東京マーケットは世界第2位のGDPと1,500兆の個人金融資産があっても1.58倍です。上海は55倍、香港は20倍、シンガポールは11倍、そしてロンドンは4.4倍の伸び率ですから、世界各国の主要株式市場の中で、最も低迷したというのが日本という現状であります。
資料(5)はカナリー・ウォーフについてです。カナリー・ウォーフとはロンドン東部の造船所跡地の再開発により誕生した新しい金融センターで、面積はわずか0.4平方キロでありますが、新シティーともいわれ、UK金融庁を中心として、主だった金融機関が集まって、ロンドンマーケットをより国際的に拡張した場所です。このカナリー・ウォーフは後で話しますが、日本の銀行が世界と戦える銀行になるためのヒントになると思います。
資料(6)はより具体的にイギリスの経済成長に対する金融業の貢献について示したものです。グリーンが金融公人向けサービス業の経済成長に対する寄与度、ブルーが製造業の寄与度、そして黄色が実質GDP成長率でございます。1985年から1989年にかけては、金融業が1.0%で製造業が0.8%ですから、金融業も製造業も、ほぼ横並びで経済を押し上げていました。ところが1990年から製造業はほぼゼロに張り付いております。対して金融業は徐々に伸びておりまして、2005年以降イギリスの経済成長は2.4%で、ヨーロッパでは、上位にありますが、そのうち1.4%が金融業によるもので、二重括弧の中にも書いてありますように、英国の1990年以降の実質GDPのうち約半分は金融業の成長によるものです。またビッグバン以降の20年の英国労働人口の増加数、448万人のうち、約6割にあたる283万人は金融業のものでありますから、雇用も創出できるということになるわけです。

▲ 資料(4)

▲ 資料(5)

▲ 資料(6)

資料(7)は、グローバル金融ビジネスの市場規模についてです。そして、この丸は2000年から2005年までの金融業の最終利益です。すなわち全世界の最終利益は、6260億USドルあったわけでございますが、うちアメリカが約半分の2930億USドル。そして西ヨーロッパが1580億USドルですから、もうこの2つで世界の6~7割のシェアがあるわけです。アジアを見てまいりますと、日本が390億USDでございますので、全世界のもうけ分のうち、5%をいただいているということになります。
しかしアジアは総じて、あまり高くはなく、つまり金融の収益力というのは、アメリカ、ヨーロッパに、現在アジアはかなわないというわけになりますが、日本はより西洋に近い存在でありますから、その技術を学べば我々も伍して戦える産業となるのではないかと思っております。
資料(8)ではEU諸国を中心に1人当たりのGDPを比較しております。世界一はルクセンブルクで、7万3,961USドルでございます。日本はその約半分以下の、3万5,215ドルでありまして、いわば日本はルクセンブルクという小さい国に負けてしまったといえます。2番目以降を見ると、アイルランド、デンマーク、スウェーデン、オーストリア、フィンランド、オランダ、英国と続きます。英国までは人口が極端に少ない非常に小さな国となっています。
すなわち人口減少や、人口が小さいことが、我々はデメリットだと思っていたけれども、むしろ、このような国にやり方を学べ、逆にチャンスなのではないかと思います。人口が少なければ、その国家意思の形成過程の中のスピードは短くなり、応用動作、すなわち効率化した政府になります。そこに、金融業というインテリジェンスと新しく特化した情報産業が加われば、我々日本というのはルクセンブルクやアイルランドに匹敵するのではないかと思います。
特に2番目のアイルランドはイギリスを抜いてしまいました。従来、工業製品でも農業製品でも、アイルランドは全部、二~三流だといわれておりました。イギリスと比べると、鮮度が低かったわけでありますが、イギリスの存在に対比した法人税の税率の在り方、あるいは証券の在り方等について、特徴を持たせたことで優位に立ったのです。
これと日本とシンガポールの関係は近似しています。シンガポールは日本の市場を意識しながら、証券税制や法人税制や、あるいは富裕層に対するプライベートバンクなどを考えています。我々にとりましては、こうしたことを学習しながら成功に導いていかなければならないと思っております。
さらに資料(9)の株式市場への外国企業の参入状況を見ますと、1990年には、東京の証券市場で外国企業が参入していた数というのは、125社ありました。ニューヨーク証券市場は、96社ですから、かつては買っていた側なわけですね。国際化が遂げていられたのです。ところが、この15、16年で我々は国際化を否定してしまっています。何がそうさせたのかということは別にしまして、結果としてこうなっていますので、再び、1990年前まで巻き戻しが必要だろうと思います。そして、やってやれないことはないということが、この資料からも分かると思います。

▲ 資料(7)

▲ 資料(8)

▲ 資料(9)

こうしたことをベースとして、世界と戦える競争力のある銀行とはどんな銀行か考えたときに、私としましては国家的な政策として、この日本における国際金融機能強化というものを、まずは明確に打ち出す必要があるだろうと思います。その具体例として、都市再生本部、すなわち日本における「カナリー・ウォーフ」を東京の一部地域で宣言する必要があるだろうと思います。その萌芽はすでに見られていまして、我々政府が宣言しないまでも、すでに新丸ビルのオープンにその兆候が表れています。これは恵比寿ガーデンプレイス、六本木ヒルズ、ミッドタウンと同じぐらいのインパクトがあるわけですが、この新丸ビルのテナントのうち多くが外資系金融機関なのです。
この「カナリー・ウォーフ」では、普通の小さなテナントビルの発想とは逆で24時間、出入り自由で深夜でも、朝5時でもレストランやスポーツクラブが開いています。つまり、時差を前提としたビジネス、24時間働ける場所、そして人間の知的能力、身体的能力を衰えさせないような都市の機能、そういったものを備えたものでしか、この地域は生き残れないのです。そして、その隣にもし新しいビルが建つならば、レストランやスポーツクラブはより安いコストで運営できるでしょう。こうしてゾーニング(区画)され、また「カナリー・ウォーフ」が拡張していくということを考えたときに、我々はその合理性を感じるわけです。

(澁谷)

地域密着型金融のコンセプトの中、各金融機関はリテール部門の強化や、ABL等の新商品の取組を行っていますが、今後どのような役割を果たしていくべきかお聞かせ下さい。

(山本)

地域金融機関のコンセプトの中で、リテールの強化というのはどうしても必要な役割だと思います。それは地域金融機関の使命の中に、(1)ベンチャー育成機能、(2)企業再生機能、(3)企業存続のためのランニングコスト等に対する融資機能の、大きく3つがあったからだろうと思います。昭和30年代、40年代には、ホンダであろうが、松下であろうが、たぶん直接金融ではなくて、目利きというものの存在があった間接金融によって、町工場から大企業へ成長していったのです。
しかし、ベンチャー育成機能や再生機能は、地域銀行にはそれほどノウハウがないと言われてきました。しかしベンチャー育成機能や再生機能が加味されたリテールを行わないと今後再び、地域銀行が再生するかどうかについては、危ういと私は思っております。最近では大都会、東京でないともうからないという神話は崩れましたし、有能な人を集め、地域を活性化させていくことによって、地域銀行も共に発展するということが大事です。
まして、地域銀行が運用に長けたといっても、石油やガスやウランなどのエネルギー部門における先物取引の値段について、肌感覚で理解することは地域に住めば住むほど困難です。運用というのは、肌感覚で理解するといった考え方が出てこないと、最終利益を取ることに、今日はリスクが大き過ぎますので、やはり地域銀行はリテールに特化すべきで、それが本来の業務だろうと思います。
海外の銀行を見ても、大きな人件費コストがあるにもかかわらず、リテールで収益力が高い銀行があります。どうしてかというと、リテールの部門で人がアドバイザーになっているからでしょうし、やはりそのガバナンスにおける強さ、CSRの強化ということが地域の信頼を得て、収益力を高めているのだと思います。幕末に日本の咸臨丸がカリフォルニアへ行きまして、三条実美が最初にここで資金調達をしているという紙が、まだロサンゼルスのカリフォルニア銀行に残っているそうです。三条実美以下の近代国家をつくった人たちが学んだビジネスモデルが、地域銀行にとって一番私は必要なことだろうと思いますので、日本の地域銀行にとっては、やはり事業会社や、これからビジネスを始めるという方にとってのアドバイザリーの要因を強化していくことが大切な役割だと思っております。
動産担保のABL、新商品の取り扱いについて、地域銀行が個々に考えてリスクを取ることは、コストも掛かり難しいでしょうから、それは地銀協や第二地銀協、信用組合連合会といったネットワークで勝負していくことに、期待をかけております。
それから今後の世界の傾向を見ますと、全体的に証券化が始まってきています。特にアメリカの地方の州単位では証券化によって不良債権を証券化することが活発になってきています。デューデリジェンスを徹底化させて、一般の地域でも政府や都道府県・州の主導でなく、産業再生機構の地方版みたいなものが登場してきているのです。そういうビジネスがあり得るということにおいて、スクラップ&ビルドが可能になってきているともいえます。やはり生物に新陳代謝が必要なように、企業寿命も30年ということであれば、当然企業のスクラップ&ビルドの部門が今までないのがおかしかったわけです。ですから、今後この部門に関する新商品開発は必要なことだろうと思っております。

(澁谷)

優越的地位の濫用等が起きていますが、金融機関のコンプライアンスについてどのようにお考えでしょうか。

(山本)

デリバティブを押し付けるなどといったことがありましたが、ここはまさに利用者保護を第一とし、金融機関のコンプライアンスについて徹底しなければなりません。やはり金融機関というのはインテリジェンスと信用があります。特に信用という字は、人偏に「言葉」と書きますから、その「人」の言葉が正しくないとだめなのです。と同時に、人偏と「言葉」の隣に「者」を付けて「儲ける」と書くわけですから、そういう意味では、まさに言うことが正しい人たちをつくっていくコンプライアンスというのを徹底してほしいと思っております。

(澁谷)

銀行のCSRについてお聞かせ下さい。

(山本)

CSRについては、各金融機関が取り組んでいると思います。今後、金融機関は収益力を上げると思いますし、世界では、単に銀行という固定的な古いモデルの金融機関だけでなく、数人でやっているファンドの収益はさらに大きくなるでしょうから、その富の使い方について、我々は興味を示さなければならないと思っています。
この富の配分という問題は、スフィンクスの昔から永遠に歴史的なテーマであったわけです。中世フィレンツェの人たちは、芸術に使いましたし、大英帝国も、ビッグ・ベンのほか、建物や都市計画に、そしてルイ14世以降のパリでも素晴らしい街並み作りに富を使いました。ですから、富を得た人が、今後21世紀後半に何に使うかということが、今後の世界の課題になろうと思っております。
先日、ある金融機関の支店を拝見しました。お客様にいつでも見に来てほしいと店舗にシャガールの何億円もするような絵を掛けています。また、ATMを利用する人が自由にコーヒーを飲める応接間があり、これは面白いなと思いました。今度は、50億円以上を掛けまして、コンピューターの素晴らしいバックアップシステムを作ると同時に、その場所を美術品の倉庫にもするそうですが、今やサザビーズと取引する日本の企業で5本の指の中に入っているそうです。
その人もサラリーマン頭取ですが、収益を得たら思い切って美術品を買うそうです。その理由は、収益を投機的なものにしてはならないということです。リーズナブルな価格のうちに、自分たちでやれることをやっておきたいのだそうです。しかも、世界の評価が定まったものを我が国が保有するということにおける文化的な価値、そして日本のリテール、プライオリティーというものが高まることは、後生必ずあるだろうというのです。ゴッホが浮世絵を集め、エカテリーナがいろいろなものを集めたように、歴史的に評価を逆にされる時代が来るだろうということなのでしょう。
こういった美術品の購入も私はCSRの一環の中に歴史的に含まれていたようにも思っております。今後それぞれの金融機関が、各分野でCSRの独自性を主張することによって、日本の文化が高まると思いますので、CSRの全国大会、これが行われる地域銀行であってほしいと思います。

(澁谷)

各地銀がCSRを競い合うということですね。

(山本)

ある地方銀行が4年間の産休を行員に認めましたが、そういったものはおそらく国の制度等、あるいは市町村、都道府県のお願いごとで、4年というのはないと思います。しかし民間で、むしろそれを率先してやるということは、CSRに私はなると思います。ある証券会社が、非正規社員に全部アンケートして、正規社員になりたいという方を全員採ったそうです。別に会社としては非正規でも正規でも、働いてくれさえすればいいんだという感覚があるということは、再チャレンジ担当大臣としては驚きですよね。だからやはりCSRというのは、全国大会でいいのではないかと思います。

(澁谷)

若手銀行員、これから金融業界を目指す学生、そして女性銀行員に対して期待することをお聞かせ下さい。

(山本)

安住になられたり、放逸をむさぼったりせずに、常に向上してほしいと思っています。金融業界というのはインテリジェンスと情報が大切です。過去の情報はインターネットや本で学ぶことができますが、現在の情報はフェース・トゥ・フェースの人間関係からしか得られませんから大事なのです。また、自らのアイデアや問題意識、創造性を持たないと相手は興味を示さないし、魅力を感じません。ですから知的魅力ということに対して、飽くなき探究をしていただきたいです。魅力ある人間に育ってもらうことによって、魅力ある銀行になるし、魅力ある国家になるだろうと思っています。
特に女性行員であれば、銀行に勤める方々自らが最も幸せになれるというモデルをつくられたらどうでしょうか。アメリカで、あそこのレストランの女の子は行儀見習いがすごいし料理もおいしいからうちの息子と結婚させたいという話があるようです。まさにそういう企業であり、そういう女性行員であるならば、幸せモデルができるはずです。自らそういうモデルを作っていかれればいいのではないかと思っています。

(2007/05/21 取材 | 2007/07/26 掲載)