意欲と熱意のある地方を全力で支援~ 地方創生に求められる『自助の精神』~
聞き手:リッキービジネスソリューション(株) 代表取締役 澁谷 耕一
地方創生について
<澁谷>
地方創生を進めるに当たっての大臣の基本的なお考え・理念等についてお聞かせください。
(山本大臣)
地方創生はいよいよ本格的な事業展開の段階に入って参りました。各地方公共団体の地方創生に関する計画の策定もほぼ完了しており、もうこれからは成果が問われる段階です。そのような意味で、この大事なときに今一度地方創生の理念について再確認していただき、そして積極的な取組みをしていただきたいと考えています。
皆さんには、地方創生を「地方の平均所得を上げること」と簡単に定義して、一生懸命取り組んでいただきたいと思います。様々な要素があると思いますが、稼がなければ持続はしません。稼ぐことが必要条件です。ぜひ稼ぐ取組みをしてほしいと思います。また、それには「自助の精神」が必要だと考えています。トップを含めた地域住民全体が「自分たちの地域に関することは自分たちの力で取り組むのだ」という思いを持つことが重要です。
サミュエル・スマイルズの『Self-Help』を啓蒙思想家の中村正直さんが翻訳した『自助論』という本があります。彼は明治維新の時にイギリスに留学をいたします。当時はイギリスが世界を制覇していたわけでして、中村正直さんは問題意識として、「あの小国イギリスがなぜ世界を制覇することができるのか。何かそこには隠された秘密があるのではないか。それを知ることができれば、これからの日本の生き方を指し示すことができるのではないか」と考えてイギリスに渡ったわけです。その答えはなかなか見つかりませんでしたが、二年の留学期間が終わる直前になって、 あるイギリスの政治家から一冊の本を手渡されて、「中村さん、あなたが探していることはこの本に書いてあるのではないか」と言われました。その渡された本が、サミュエル・スマイルズの『Self-Help』という本でした。
彼の翻訳した『自助論』は、明治時代の2 大ベストセラーの1 つです。当時、人口が約3,500 万人しかいなかった日本で、イギリスの4 倍の100 万部が売れたそうです。もう1 つのベストセラーは、福沢諭吉の「学問のすゝめ」で、当時の日本人は皆、この2 冊を読んでいました。『自助論』には、「他人に頼ってはいけない」「自分自身の努力でしか道は開けない」といったことが、様々な事例を用いて書かれています。中村正直さんは、明治維新という大変革のあと、生き方の指針を定めかねていた日本人に対し、「自助の精神」の重要性を唱えたのであり、私はこの「自助の精神」こそが明治維新後の日本を強くした原動力だったと思っています。私は地方創生にも、この「自助の精神」を取り戻すことが重要だと考えています。極端に言えば、精神論になるのかもしれないですが、「自助の精神」を取り戻すことが地方創生には欠かせないのです。したがって、地方創生が進んでいないという地域に関しては、その地域のトップが悪いと思っています。トップが「自助の精神」を持って取り組んでいないため、地方創生が進んでいないのです。
<澁谷>
地方創生には、自分たちの地域経済は自分たちでなんとかするという「自助の精神」が必要ということですね。
「地方創生版三本の矢」
<澁谷>
意欲のある自治体への国の支援策についてお聞か せください。
(山本大臣)
私たちは、意欲と熱意のある地域の取組みを「情報」「人材」「財政」の三つの側面から「地方創生版三本の矢」として支援しています。情報面では、リーサス(RESAS)という地域経済分析システムを使って、各地域に情報を提供しています。リーサスから得られるデータによって、各地域がどのような状況にあるのかを把握することができるのです。データを分析し、各地域の強みや弱みを見つけ、各地域でどのように取り組むべきかを考えさせるようにしています。
そして、人材支援では、役人や学者などが欲しいという地方公共団体に、地方創生人材支援制度という形で、人を送り込んでいます。トップのサポーターとして、様々な地方創生の取組みに携わっていただくなど、実際の取組みをリードできるような人材支援を行っています。また、人材支援をさらに拡充するために、昨年12月には「地方創生カレッジ」という事業を立ち上げました。地方創生カレッジでは、地方創生のノウハウを身につけ、実践に活かしてもらうために、自治体の職員や一般企業に勤務しているサラリーマン、地域のNPO リーダーなど、地方創生に関心のある方を対象に、e- ラーニングの講座を開講しています。
さらに、プロフェッショナル人材事業により、地方の中小企業への人材支援策も行っています。各道府県に設けたプロフェッショナル人材センターで、過去に企業経営等を経験した方々にセンター長としてご活躍いただいています。その方々が、地方の中小企業のニーズを調べ、経営者と会って、成長に必要なプロフェッショナル人材の採用をサポートします。また、地方企業の経営者から、東京の大企業と提携できないだろうかなどの相談もあります。既に相談企業延べ11,000 社以上、プロフェッショナル人材の地方還流実績は800 件を超えています。
<澁谷>
中小企業の経営者にとって、良き相談相手ができる良い仕組みですね。
(山本大臣)
この仕組みの良い点は、企業経営等を経験した人が、中小企業の経営者と話をすることで、中小企業において新たな発見が生まれる点です。中小企業の経営には、経営者の思い込みが存在することがよくあります。例えば、中小企業の経営者から「私の会社は良い技術を持っているので、問題は商品のデザインにある。工業デザイナーとなる人材がほしい」というケースがありました。それに対し、企業経営の経験者は「御社には技術力があっても、品質管理ができていない」と回答したのです。「デザインに問題がある」と思っていた中小企業に対して、「品質管理にもっとしっかり取り組まないといけない」とアドバイスする人が現れたことで、その企業の業績は瞬く間に良くなったそうです。
<澁谷>
それは、非常に面白い事例ですね。確かに、企業経営の中には、経営者の思い込みによる部分があると思います。しかし、その思い込みを社内の人間が指摘するのは、現実的に難しいことも考えられますので、外部から来た人に指摘していただければ、非常に効果的ですね。
(山本大臣)
最後は財政支援、つまり交付金です。当初予算1,000億円、補正予算900億円ですが、これらの予算を活用して、稼ぐ取組みをしている地域には全面的に支援するように指示しています。政府が「人口ビジョン」と「総合戦略」を掲げ、昨年度から各地域で地方版総合戦略がつくられ、今年から実際に動き出し、地域によってはその成果が出始めていると思います。
ただし、私たちが常々申し上げているのは、KPIを自ら設定して、運用・見直しのサイクルを徹底してほしいということです。
地方創生に取り組む自治体の成功事例
(山本大臣)
私は大臣就任以来、1 月までに54 市町村、126施設を見てきましたが、地方創生に意欲のある地域では、地方創生が結構進んでいると感じています。頑張っている地域はいっぱいあります。「自分たちでできるようなものではない」と泣き言を言う地域もありますが、それに対して、私は「冗談ではない、島根県の海士町を見てごらんなさい」とお話しています。離島にある人口2,400人という小さな町でも、町長がリーダーシップを発揮し、職員と一緒になってお金を生み出しているのです。
<澁谷>
そうですね、人口が少ない町や小さな町でも、地方創生に積極的に取り組んでいるところはたくさんありますよね。地方創生に取り組む自治体の成功事例などをお聞かせください。
(山本大臣)
海士町では、特殊な冷凍装置を使用することで、東京の市場へも牡蠣やイカなどが次から次へと良い値段で売れるようになり、結果として漁民の生活が安定しています。そして、漁民の生活が安定すれば、「次は教育だ」という話になって、町に塾ができています。また、地元の高校と協力して、単なる勉強だけではなく、「自分たちの町の問題は何であるのか」を考えさせ、フィールドワークや外部との意見交換をさせたりしています。
例えば、一橋大学の大学生を交えて意見交換をさせることで、地元の子どもたちの意識が高まるだけではなく、一橋大学の大学生も海士町に興味を持ち、大学卒業後に海士町でナマコの養殖などをしています。さらに、海士町では、現在本土からの「島留学」を実施しています。その結果、町内の高校生の人数は倍になっているそうです。
また、宮崎県日南市にある「油津商店街」は、漁港の商店街として廃れてしまっていましたが、市長が「プロに頼んで、再生しよう」ということで募集をかけ、応募者300人の中から1 人を選んで再生を目指しました。公募条件となる月額の給料は90万円と、かなりの金額がかかったわけですが、その代わりに「4年間で最低20店舗を埋めてくれ」とお願いしたそうです。採用された人もプロですので、商店街に人が集まるような様々な仕掛けを施した結果、今年1月には目標を達成し20店舗が埋まったそうです。
<澁谷>
各地域で、創意工夫を凝らした地方創生への取組みが実施されているのですね。
地方ならではの魅力を引き出し、人を呼び込む
<澁谷>
今後の地方創生の方向性についても教えていただけますか。
(山本大臣)
昨年12月には、総合戦略の改訂版が出ました。改訂版にて、私は「仕事をつくることで空き店舗などの遊休資産をなくせ」と強調しています。空き店舗や空き地、耕作放棄地などをなくそうと、号令をかけて取り組んでいるのです。
その他には、景気が良くなったことも要因の一つかもしれないですが、東京一極集中がどんどん進んでいます。2012年以降、4年連続で転入超過数が増加し、2015年には約12万人の転入超過となっています。2016年には、5年ぶりに転入超過数は若干減少しましたが、その多くを占める進学・就職を控えた若年層(15~ 24歳)は、むしろ増加しています。東京一極集中を是正するため、「地方大学の魅力を引き出そう」「地方に就職する学生は、奨学金を返さなくてよい」といったことや、東京23区における大学の新設・増設を抑制するようなことを検討しています。
また、インターンシップなどを活用して、学生と地方企業との関係をしっかり構築し、就職に役立てたいと考えています。「働き方やライフスタイルを見直しましょう」とか「地方の生活の良さ、地方の文化や伝統、コミュニティの温かさなど、地方の良さを見いだして、郷土に誇りを持つような取組みを考えましょう」といった働きかけを行っています。
<澁谷>
地方にも、魅力のある地域はたくさんあると思いますが、東京には本当に多くの人が集まっていますよね。例えば、徳島県はインターネット環境を整えることで、IT企業を上手に誘致できていますよね。
(山本大臣)
徳島県には、神山町と美波町という町があり、神山町は山の中に、美波町は海の側に、数多くのIT企業がサテライトオフィスをつくっています。IT企業に勤め ている方々は、毎日長時間パソコンと向き合って仕事をしているため、頭がパンクして、鬱病になったりする方が多いそうです。そこで、IT企業の社長が「これは困ったな」ということで、自然環境の良い美波町で、古民家を改修してサテライトオフィスをつくったところ、社員の病気が治ったらしいのです。IT企業の方たちはどこにいても仕事ができますので、美波町でも不自由なことはありません。
美波町は、サーフィンが好きな方にはたまらないようです。休日だけでなく、仕事終わりにもサーフィンができ、そのうち近所の漁師から「今度、魚を取りに来いよ」と言われて漁師のもとへ行くと、そこでも歓待され、最終的には漁船を一隻いただいたということもあるようです。
また、ある企業は本社も徳島県に移して、東京よりも徳島県の方が人材を確保できると言います。神山町や美波町であれば、求人広告を新聞にも掲載できるので、とても優秀な人間が採用できたというお話もお聞きしました。
そして、地元には世話好きな方がいて、都会から来た若者と地元の人たちの交流を積極的にもたせようとする動きも見られます。そのような関わりの中で、「人生というのは、もっと人間同士の付き合いをすることが大切」であるとか、「歴史を勉強して、楽しくのんびり過ごす生活も魅力的ではないか」といったことを、都会から来た若者たちが学ぶそうです。
地方への移住や定住がうまくいくコツは、そのようなコミュニケーションにあります。地元の人たちとの交流がうまくできなければ、都会から来た方たちが「せっかく来たのに、なんだ」ということになってチャンスを逃すことになります。
<澁谷>
そうですね。そのように、世話をしてくれる地元の方がいることは、いいことですよね。
(山本大臣)
昔は、お見合いなどを企画する世話好きな方が多くいました。そのような方は、移住者や定住者との交流をはかれる貴重な存在といえますが、最近は少なくなっています。
地方創生における地域金融機関の役割
<澁谷>
地方創生に関して、地元の金融機関は地域経済を担う存在として、非常に責任が重い立場にあると思いますが、大臣が地方銀行や信用金庫などの地域金融機関に期待するところ、或いは足りないと感じるところはどのようなことでしょうか。
(山本大臣)
先日、「地方創生に資する金融機関等の『特徴的な取組事例』」として、34の金融機関の取組事例を取り上げ、表彰しました。都市銀行から地方銀行、信用金庫など、各金融機関が様々な業種で、非常に面白い取組みをしていました。
例えば、大阪シティ信用金庫では「シティ信金商店街PLUS 事業」として、延べ2,000 を超える地方の事業者や公共団体、信用金庫などとネットワークを形成し、商店街にある空き店舗の出店誘致、有効活用をする取組みをしていました。また、山陰合同銀行では、障害者の芸術的才能を上手に活かした取組みをしていました。障害者の中にも、芸術的才能を持った方は多くいらっしゃいます。銀行が支援して、それらの芸術作品で使用料収入を得ることができる仕組みにしたのです。障害者の芸術作品を事業化することで、税金を使用せずとも障害者の雇用を生み出すことができた好事例です。
リスクを取らない金融機関に存在価値はあるのか
(山本大臣)
リーサス(RESAS:地域経済分析システム)を活用して地域を元気にする「地方創生☆政策アイデアコンテスト2016」では、「金融機関はお金を貸してくれない」「金融機関が提供するベンチャーファンドはあまりリスクをとってくれない」という不満の声が聞こえました。私は「金融機関もリスクをとってほしい」とお願いしたいです。そのうえで、大阪シティ信用金庫や山陰合同銀行のように、単に融資や投資といった考え方だけではなく、地域の良さを活かして事業化を助けるような取組みまでしていただければ、非常に有り難いと思っています。
地方銀行をはじめとした地域金融機関というのは、その地域でのリーダー的存在です。地域金融機関が、本気で地方創生に取り組んでいただければ、地域経済は良い方向に向かっていくと思います。最初は、慈善事業のように感じることもあるかもしれませんが、後に事業として大きく発展するかもしれません。小さいながらも、少しずつ事業が育ち、地域経済が活性化してくることが大切です。ぜひ地域金融機関には、積極的に地方創生に参加してもらい、リスクをとった行動をしてほしいと思います。
<澁谷>
地域金融機関は、もっとリスクをとって事業化を支援することが大切ということですね。
(山本大臣)
極端に言えば、「リスクを取らない金融機関に存在価値はあるのか」と思ってしまうほどです。金融庁の森長官が担保主義ではなく、事業性評価に基づいた支援をするべきだと仰っている通りです。ぜひ各地域の金融機関には「地域に愛される」、そして「地方創生をリードする」金融機関になっていただきたいと思っています。
<澁谷>
「地方創生をリードする」金融機関はいいですね。
これからの地域経済を担う若手への期待
(2016/11/18取材 | 2016/12/08掲載)