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NPO法人コヂカラ・ニッポン 代表 川島 高之 氏インタビュー

聞き手:リッキービジネスソリューション(株) 代表取締役 澁谷 耕一

共働きの家庭が増え、昨今、男性の育児休暇取得も話題になっています。しかし、制度は整っても、上司の理解が得られないケースも存在します。そうした中、育児と仕事を両立させてきた経営者2 人が「これからの働き方」や「仕事と家庭を両立させるマネジメント」について考えます。

ワーク・ライフ・ソーシャルの3本柱

(澁谷)

川島さんの略歴と、育児に興味を持たれたきっかけなどを教えてください。

川島

私は1987 年に三井物産に入社して、20 代の頃は総合商社のご多分に漏れず「24 時間戦えますか?」という状況で働きました。33歳になって子供が生まれましたが、妻も総合職で勤務しておりましたので、特に子育てをシェアするようになりました。ただ、親としての責務というよりも「子育てをしてみたい」という気持ちの方が強かったですね。ですから、子供が生まれたことをきっかけに、自然に子育てに関心を持ったと言えます。

(澁谷)

お子さんはおいくつになられたのですか。

川島

もう大学1 年生です。子育てをしていると、地域活動を自然とやるようになります。私の場合は小・中学校のPTA会長と、少年野球のコーチをやっていました。地域活動に携わることで、本当の意味で社会の課題が見えてきたのです。特に関心を持ったのが子供教育に関する課題で、「地域を超えてやってみたい」と思い、イクメンNPOのファザーリング・ジャパンに入って、すぐに理事になりました。それから澁谷さんに監事をしていただいているコヂカラ・ニッポンを4 年前に立ち上げ、次第にソーシャルの方に入っていったという形です。私はよく講演で「仕事(WORK)、自分事(LIFE)、社会事(SOCIAL)の3本柱の人生をやりましょう」という話をしています。私生活を取るか仕事を取るか、二者択一のように言われますが、生活の部分がしっかりしていれば、仕事の成果も高まると思うのです。私自身の経験として、この3本柱の相乗効果を強調してお話しています。

(澁谷)

私も15 年前に妻を亡くしたのでPTAに参加しましたが、お母さんがほとんどですね。PTA活動に積極的に出ようというのも自然な流れでしたか。

川島

自然でした。学校教育の現場を見ていると、やはり先生たちに負荷がかかり過ぎているし、モンスターペアレンツなどと呼ばれる、困った親御さんも結構います。その大きな要因の一つに、先生と親との間に距離があり、コミュニケーションが取れていないとうことがあると思います。また、最近は地域もあまり学校に関与しません。本来なら学校・子供・地域が三位一体となり、その中でPTA が潤滑油として機能することが理想です。そこで私がPTA 会長の時に行ったのは、「働いているご両親が出席できるよう、会合を平日午前や土日に設定してもらうこと」と、「会議内で結論を出すようにマネジメントすること」でした。例えば、会議が1 時間だとしたら、始めの20分は皆さんにどんどん言いたいことを言ってもらいます。そして次の20 分で論点を絞り、最後の20分で結論に持っていくのです。PTAの会議では、専業主婦、ワーキングマザー、学校の先生、地域の重鎮など、皆さんの属性がバラバラです。この多様な人々をまとめる役割を6年間やってきたお陰で、会社でも会議を1 時間以内に必ず終わらせて、しっかり結論を出させることができるようになりました。

(澁谷)

PTA 活動をやると良いというのは、本当によくわかります。

川島

少年野球のコーチもやりましたが、これは部下の育成に役立ちました。今どきの子供たちには「根性論」は通じないので、1 人1 人の個性に合わせたり、「なぜこの練習をするのか?」ということを理解させたりする必要がありますから。

(澁谷)

私は少年サッカーのコーチをやりましたが、社長と全く同じことを学びました。ニューヨークのチームでも日本のチームでも、強く言うとショックを受けてやる気をなくす子供もいれば、叱咤激励で伸びる子もいます。会社においても、女性は比較的褒めて伸びる人が多く、男性は褒めながらも、厳しく指導すると伸びるというような使い分けがありますね。

川島

本当にそうですね。先ほどの組織マネジメントも、MBAの教科書を読んで、机上の空論でやろうとする人もいますよね。それをどう自分の中で腹落ちさせて加工していくかは人それぞれ違いますが、教科書を読むだけでマネジメントが出来たら、こんなに楽なことはないです。

(澁谷)

ビジネススクールはどうですか。

川島

私はよく「MBAよりPTA」と言っています。「人の役にも立てるし、奥さんも喜ぶし、みんなハッピーだよ」と。澁谷:確かにPTAは人をまとめたり、子供たちに指導したりを実際にやりますからね。川島社長のお話は本当に説得力があります。子育てから学んだことはありますか。

(澁谷)

確かにPTA は人をまとめたり、子供たちに指導したりを実際にやりますからね。川島社長のお話は本当に説得力があります。子育てから学んだことはありますか。

川島

一番は「人生のあり方」みたいなものです。漠然としていますが、人として何が一番大切かと言ったらやっぱり家族だと。そして人生のもっと深い所や豊かさを知ったのは、子供を育てたからだと思います。

時間効率

(澁谷)

子育てをするためには、仕事の効率を考える必要がありますね。

川島

仕事を6時までと決めれば、それまでの段取りを逆算して主体的に仕事ができるようになると思います。例えば、「社長、どうしましょうか」ではなく、「社長、こうしましょう」という提案型になっていく。段取り上手になるし、集中力も高まりますよね。私は商社でもずっと営業だったので、「1回の訪問で決めてやる」という気迫が身に付きました。

(澁谷)

私も地方銀行の頭取や経営者の方々にお会いする時には、事前の下調べをきちんとして、一回の訪問で話がまとまるように準備しています。

川島

日本人は表敬訪問というものが好きですが、頭取や経営者もお忙しいですから、挨拶だけのために時間を取らせるのもご迷惑です。1回目でよい話ができれば、お互いにとってメリットになります。

女性の活躍

(澁谷)

ご著書『いつまでも会社があると思うなよ』を拝読して、本当にその通りだなと思いました。銀行でも人員削減や合併、統合することもあります。私も自分が就職した銀行がなくなってしまうなんて思いもしませんでした。「アベノミクス」や「3本の矢」、「女性活躍」などが叫ばれていますが、それについてはどうお考えですか。

川島

女性も男性も活躍すればいいのに、なぜわざわざ女性なのか。女性に失礼ではないのか。最初は「女性の活躍」という言葉自体に違和感がありました。しかし、男性よりも女性は私生活に使わなければならない時間が多いので、配慮するのは当然かもしれませんね。

(澁谷)

もはや、男性社会の中で補完的に女性の意見を聞くという時代ではなく、積極的に女性の意見を取り入れなければならない段階に来ています。

川島

GDPの60%が個人消費ですが、その73%は女性が決定しているという調査があります。我が家を振り返ると、買い物には私が行っても、どの醤油にするかは妻が決めますから、7~ 8割という数字はなんとなく正しいような気がします。ということは、経済の大半を女性が握っているということです。今日何が売れて、明日からどんなニーズがあるか。経営戦略の中心に女性を取り入れず、男だけが会議室に籠っても、まともな意見は出てこないと思います。

(澁谷)

いま、女性が活躍していない業界ほど業績が下がっています。これは女性に責任のある仕事を与えなかった日本社会や企業が原因でしょう。男性は営業、女性はアシスタント的な内部事務を行うなんておかしいですよね。

川島

女性ならではの営業の仕方もあるし、相手も安心します。地方銀行でも「融資担当者に女性は嫌だ」と言う中小企業の経営者が少なくないそうですが、それはそれで「わかりました」と男性を送り込めば良いわけです。

(澁谷)

以前は融資担当者が女性に替わると、「うちは低く見られているのだな」と言う人がいました。けれど今は「女性の方が明るくて話しやすく、安心感がある」という声が増えているように思います。

子供の力で地方創生を

(澁谷)

子供の力をビジネスに活かすという「コヂカラ・ニッポン」の活動報告をいつもメールでいただいて、興味深く拝読しています。

川島

子供の発想力やエネルギー、想像力をビジネスや地方創生に活かしたいと思い、「コヂカラ地方創生」という取り組みをしています。例えば、秋田県の三郷町というラベンダーが有名な地域があるのですが、そこの中学生たちに授業の一環で、ラベンダーを使った商品開発からデザイン、包装、パッケージ、販売、「日本一のラベンダーの町三郷」のようなブランディング作りまでをやってもらおうと思っているのです。また先日は、沖縄の高校生たちが東京に来て、地元の産品を一生懸命売りましたが、これも商品開発から入ってもらいました。

(澁谷)

コヂカラで地方創生というのは良いアイディアですね。

川島

山陰合同銀行の前頭取で現会長の久保田さんと、イクボスの講演でお会いした際にこの話をしたら、久保田会長にも「ぜひやりましょう」と仰っていただきました。

(澁谷)

地方銀行の頭取は、観光協会の会長や商工会議所の副会頭などもなさっていますからね。

川島

ですから、まずは商工会や観光課などと一体になってやる。先日、荘内銀行の頭取に伺ったのですが、荘内銀行のある鶴岡には映画村があるそうです。子供たちがそこで作品を作り、自主上映して東京で放映してはどうかと話していたんですよ。

(澁谷)

「おしん」や「おくりびと」の舞台にもなりましたし、藤沢周平さんの生まれ故郷ですよね。鶴岡は私の田舎なんです。父親の家系は十五代ほどずっと鶴岡で、そのご縁もあって國井頭取とは親しくさせていただいています。

川島

是非やりませんか?

(澁谷)

やりたいですね。庄内には「だだ茶豆」や茄子など良いものがいっぱいあるのに、PR があまり上手くないんですよ。

川島

地域の特産品や観光スポットなど、地方にはまだまだ隠れた資産がたくさんあります。それを子供たちが開発してプロモーションをし、実際に役に立つことで、達成感やオンザジョブトレーニングのキャリア教育になるのです。キャッチコピーを考えるとか、高校生だったらSNSを用いる。修学旅行とキャリア教育を兼ねて、高校生が日本橋でモノを売る。官公庁と地方銀行が組めば、教育と地域創生を絡めたものができるはずです。この話を是非広げていこうと考えています。

(澁谷)

10年前から地方銀行と弊社で連携して行っている『地方銀行フードセレクション』も、ほとんどの地方銀行が参加するイベントに成長しました。今年は新たに6 行が加わり日本地図が一気に埋め尽くされました。

川島

地方の人口減少、高齢化が進む中、「地産地消」だけでなく、「地産東京消」や場合によっては「地産グローバル消」など、地方のモノを海外で売ったって良いと思います。

(澁谷)

東京で売れるとブランド力が高まって、全国で売れるようになります。

川島

そうしたら海外に持っていっても良いですね。海外でも「日本フェア」が多く開催されていますから、そこに子供たちを行かせればグローバル教育にもなります。国内で英語を学ぶというのではなく、実際に海外に行ってもらうのが良いと思います。

(澁谷)

子供の将来のためにもとても良い経験になりますね。

川島

コヂカラの活動の一例ですが、以前、12歳の子供たちが洋菓子のヒロタでお米のシュークリームを作ったことがありました。パッケージの色は大人の意見では白が出されたのですが、子供たちから「そんなんじゃ目立たない、赤だ」とブーイングが出たのです。理由はシンプルですが、その真っ赤なパッケージと同じT シャツを着て、子供たちが地元の夏祭りや駅中で売ると、それが飛ぶように売れました。大人にはない自由な発想で成功したという一例です。

(澁谷)

大人は既成概念がありますが、彼らは真っ白だから何でも出来てしまうのですね。

川島

そして当時12歳の子たちが16歳で高校に入学したのですが、早くに教師とぶつかるんですよ。一方通行な教育に対して「僕はこうやりたい、ああやりたい」と。日本だと少数派ですが、非常に自発性と主体性のある子に育っているようです。

仕事・自分事・社会事を両立させる

川島

地方銀行でも、行員が本業とは別に活動ができることが理想だと思います。ある銀行では地域創生を担う課があり、今はCSR部に当たる行員が業務として取り組んでいます。ですが、6時には仕事を終わらせて、平日の6時半から家の近くで子供塾みたいなものを開き、一緒になって商品開発をするとか、週末も地域コミュニティーの活動にもっと参加する方が良いのではないかと、私は思っています。そのためには管理職が「イクボス」でないとダメなんです。働き方改革や長時間労働削減は、子育てと仕事を両立させるためだけでなく、地域活動と仕事を両立させる時間を持つという上でも必要ではないかと思います。

(澁谷)

本当にその通りです。今の時代の働き方、イクボスの役割について有意義なお話ができました。ありがとうございました。

(敬称略)

●「イクボス」とは?
職場で共に働く部下・スタッフのワークライフバランスを考え、その人のキャリアと人生を応援しながら、組織の業績も結果を出しつつ、自らも仕事と私生活を楽しむことができる上司


(2016/07/21 掲載)

川島 高之(かわしま たかゆき)
1987年、慶應大学卒、三井物産入社。子育てや家事(ライフ)、商社勤務や会社社長(ビジネス)、PTA会長やNPO代表(ソーシャル)という3つの経験を融合させた講演が、年間140本。
著書 『いつまでも会社があると思うなよ!』 PHP 研究所、2015年9月発売。