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金融庁監督局長 三國谷 勝範 氏 インタビュー

第3回『日本の金融市場の今後』について

<澁谷>

グローバル化の中で、今後日本の金融はどのような方向へ向かっていくべきとお考えでしょうか?

<三國谷局長>

日本の金融資本市場は、経済のグローバル化の中で拡大を続けています。その背景にあるものは、情報通信の発達、産業経済活動のグローバル化・高度化等、さまざまな取引の中に金融というものが表裏一体のものとして存在しているということです。その背景を踏まえれば、金融の機能も幅と厚みが必要になってくることは容易に想像できます。

 また、昨年、金融商品取引法が施行されたということも、グローバル化の中で当然の流れであると思います。かつての証券取引法は、有価証券に該当するかどうかで法の適用があるかが決まり、該当すればワンパッケージの規制体系が適用されました。しかし金融が幅と厚みを持っていく中で、そういったものに対して、法の隙間を漏れなく埋めてアプローチしていくことが必要で、これが「横断化」というものです。同時に広くルールを適用というのは、その属性、厚みに応じた変化を持たせることが必要となります。それはいわば「柔軟化」という動きです。この「横断化」と「柔軟化」が、日本の金融市場におけるキーワードだと思います。

 日本の金融市場については、4つの視点で捉えることができると思います。4つとは「土俵」、「プレーヤー」、「行司」、「環境」です。 まず「土俵」は、そのプレーの基盤といえます。取引所における取扱商品の多様化、プロ向け市場の枠組みの整備等の措置を講じています。同時にそこでプレーをする「プレーヤー」 がよりプレーをしやすくするように、ファイアーウォール規制の見直し、あるいは銀行、保険会社のグループの業務範囲の拡大、それから海外マネジャー誘致のためのPEリスクの排除といったことにも取り組んでいます。

 次に「行司」ですが、これはベター・レギュレーションの話にもなります。まさに「行司」役としての金融庁の取り組みが金融市場の中で重要になってきています。 4つ目の視点として、市場をめぐる周辺「環境」 の整備において、人材の問題、あるいは国際的な金融センターとしての都市機能の向上等、さまざまな課題があります。 いま、世界の金融市場は混乱していますが、それに対処するとともに、大きな流れとしての金融資本市場の機能強化にも努めていかなければいけないと考えています。

<澁谷>

金融市場の混乱というお話がありましたが、今回のサブプライム問題から始まってリーマンの破綻に至る今回の金融危機ですが、回復にはどのくらい時間がかかるとお考えでしょうか?

<三國谷局長>

 願いとしては一刻も早く世界的な金融機能を早く回復して、金融活動と実体経済活動がうまく回転していけばいいと思います。
 ただ、現実にはさまざまな事象が現在進行形で起こっています。日本は過去に同様の経験をしてきたと言われます。日本の10年前の経験と比べますと、今回の危機は21世紀型というか、市場発であると思います。従って1カ所に集中しておらず、それが拡散しています。その意味で新しい事態に対処するためのさまざまな枠組みが必要です。また一方で国際協調ということが大変重要になっています。

 今回の危機はグローバル化した中の事象ですから、国際的にも金融安定化フォーラムなどの場を通じて、各国が協調しながら対応していくことが必要だと思います。今回の危機では、日本国内のみならず、日本と海外当局との連携、金融庁と関係当局との連携、日銀と財務省の連携といったように、さまざまに連携しながら対応してきています。厳しい状況ではありますが、願いが早期に実現するべく行動していくことが大切だと思っています。

<澁谷>

やはり世界との連携は、以前にも増して密になっているということですね。

<三國谷局長>

そういうことが必要な時代だと思います。 それはやはり金融産業自体が、いわば情報通信の発展の中で年々進化してきて、逆にその行き過ぎが、今回のこの現象を招いた面もあるわけです。それに対して例えば証券化商品であれば、原資産のトレーサビリティーをどう確保するか、あるいは格付け機関の在り方等、さまざまなことが今回提示されたわけです。気を付けなければいけないことは、こういった事象がまたいずれ姿形を変えて出てきたときに、それに対してできるだけ前広に注意深く対応しなければならないということだと思います。

<澁谷>

金融庁という組織の在り方について、ご意見をお聞かせください。

<三國谷局長>

金融庁の使命は金融システムの安定であり、利用者の保護・利用者利便の向上であり、公正・透明で活力のある金融資本市場をつくるということだと思います。そのときの置かれている状況で、環境は常に変化していきます。特に今この時期は非常に厳しい環境下にありますが、金融庁の基本的な使命は変わりません。与えられたミッションを果たしていくことがやはり基本だと思います。

<澁谷>

監督局長として、どういった部分に重点を置いた監督体制を目指していらっしゃいますか?

<三國谷局長>

 基本的に企画立案、監督、検査、監視と分かれており、それぞれの機能は異なりますが、目指すところは同じだと思います。私は去年まで総務企画局におりましたが、監督局におきましても、基本的な金融庁の使命は変わっておりませんし、各局で連携しながら、全体を通して金融庁のミッションを果たしていくということかと思います。

 特に今さまざまな事象で、「横断化」しているという現象があると思います。監督局の中でもさまざまな課室がありますが、それぞれの固有の問題がある一方で、やはりそこの問題が相互に「横断化」していることがありますので、それを全体として包括化、体系化していくことを意識しながら対応しています。

 今起きている事象は金融庁全体で取り組んでいかなければいけない課題が多くて、横の連携、他局との連携を取りながら対応していきたいと思っています。それから、我々は金融機関を監督対象とするともに、その利用者の方々ともさまざまな取り組みを行っていく必要があると思います。
 現在中小企業の円滑化という点につきましては、我々は貸し手の立場のみならず、借り手の立場の意見も聞きながら、実態をできるだけ丁寧に把握し必要な施策を打っていきたいということで取り組んでいます。いずれにしても、さまざまな方々との情報の発信・受信基地としての役割を果たすことを念頭に取り組んでいこうと思っています。

<澁谷>

 ベターレギュレーションについて、どのように進めていこうとお考えでしょうか?金融機関との対話という観点からご意見をお聞かせください。

<三國谷局長>

 ベターレギュレーションというのは非常に味のある概念で、さまざまな角度からさまざまなとらえ方ができると思います。ただ、1つ言えることはベター・レギュレーションという言葉の背景には、局面の転換という総括的な視点があり、日本がいままで経てきた経験の中から導かれてくるものがあると思います。

 ベターレギュレーションの4つの柱を見ますと、リスクフォーカスとフォワードルッキングという視点、プリンシプルの共有、金融機関の自助努力、それから行政の質の向上です。

 これは結局、それぞれが自己規律をしながら、お互いのルールの適用を最大効率化していこうという発想で、より限られたリソースを最大限に活用していこうというものです。その意味で、自助努力尊重と金融機関へのインセンティブが、行政の透明性の向上ということに繋がるのではないかと思っています。

 この4つの柱の下に5つの具体的取り組みがあります。それは方法論として対話の充実であり、情報発信の強化、海外当局との連携、市場動向の把握等調査機能の向上、職員の質の向上の5つが挙げられています。 この4つの柱と5つの具体的取り組みを一体としてとらえれば、監督当局と金融機関のあるべき姿が浮かび上がってくるのではないかと思っています。

<澁谷>

 預り資産販売等、金融機関におけるコンプライアンスの遵守体制について、ご意見をお聞かせください。

<三國谷局長>

 いろいろな制度の導入に当たって、導入の過程でさまざまな課題が生じたことは事実です。 金融機関が過度に反応したということもありまして、できるだけ早く誤解、疑義に答えていくために、金商法における「9つの疑問」に答えています。また内部統制についても「11の誤解」といったものを書面でお出ししています。

 私どもは今、この内部統制というものがある程度定着するまでの最初のうちは、やはりどこまでやったらいいのかという感覚的な部分で、皆さんそれぞれ迷いもあれば幅もあります。そういうことに対して、最初の数年はむしろ行政指導を中心にこの問題に対応していって、過度な反応がないようにしていきたいと思っています。「11の誤解」を出したということは、私どものみならず先方の現場の方に至るまで、同じテーブルで議論ができるということです。

 私は内部統制委員会のアメリカのCOSO委員会の方が来られて話をしたこともあります。その中でも話に出ましたが、何千人という企業を画一的にやれるものではなく、その企業の実体に応じた体制、言いかえれば中身が一番大事だと思っています。ただ、導入過程においてはさまざまな疑義もありました。
 私どもとしましても、その辺についてはゆっくり話を聞きながら、それまでの習慣に対しての見解を明確化する、あるいはそれまでの中で質問にもっともな点があれば柔軟に対処するという形を行ってきています。

 私どもルールを執行する側と、ルールを受ける側ではどうしても意識の違いはありますし、敷居の高さということもありますので、できるだけそういうものを越えた対応をしていきたいと思っています。

 

<澁谷>

 地域金融機関の果たすべき役割についてですが、デベロッパー不動産開発等、企業の経営破綻が続きまして、特定の業種や中小企業に対する銀行の貸し出し姿勢が非常に抑制的になっているという現状をいわれていますが、この状況に関してはどのようにお考えになっていますか。

<三國谷局長>

 私どもも中小企業でさまざまな声が上がっていることは承知しています。私どもは実は今年に入ってそのような声も伺うため、5月には商工会議所の皆さんにアンケートを始めましたし、8月にも同じようなアンケート調査もしました。

 また夏のうちには私も回りましたが、幹部が地方に出向いて貸し手のみならず、借り手から、さまざまな意見を直接お伺いするという形で、できるだけ現実の金融の中でどういう声が上がっているかを吸収するように進めてきています。

 すべてというわけにまいりませんし、また私どもが伺った中で直接お会いできる方は全体から見ればごく一部の人になるかもしれません。しかしながら、監督局の幹部もあちこちに出掛け、皆様からいただいた意見はだいたい共通でした。それは、やはり地域の人たちは地域の金融機関とお互いに同じ経済の土俵の中でやっていかなければいけないというようなご意見でした。また一方で、メガバンクは引き際がドライである、といったような、さまざまなお声をいただきました。

 私どもとしては、頂いたご意見を早速、「監督方針」に反映させまして、地域金融機関にあってはリレーションシップ・バンキングと、それから主要行にあってもきめ細かな対応を要請しているところです。この経済の現状は今でも続いておりますので、引き続きこういった活動に取り組んでいきたいと思っています。  それから私どもは今回、中小企業庁と合同で150カ所で中小企業者に意見を聞きに行くなど、本当に金融庁がこれだけやっているのも珍しいぐらいの取り組みをしていると思っています。貸し手の方も含め、両方の声を聞きながら対応していきたいと思っています。

 リレーションシップ・バンキングの一番の基本は、やはり長期的な関係の中でお互いができるだけ好循環の体制を構築していこうということです。お互いが1つの経済基盤であれば、お互いに助言したり、あるいは長期的な関係の中で、よりよい関係が出来ていくと思います。それぞれの立場でさまざまな努力が展開されておりますが、こういう作業は地道に展開していくことが必要です。

 一方で今回、いろいろな信用保証も導入されますので、信用保証協会とも連携しながらやっていくことも大事でしょう。この問題については一つ一つきめ細かく、金融機関にも情報を発していきたいと考えています。

          

<澁谷>

 銀行側にとってみると、貸し出しはしたが、それが不良債権になると、また検査で金融庁から厳しい指摘を受けるという、ある種ジレンマみたいなものがあると思うのですがいかがでしょうか?

<三國谷局長>

 検査の方も現状の検査基本方針を踏まえ適切に行い、本来の機能を果たすように取り組んでいます。9月2日に私どもの「中小企業金融の円滑化に向けた今後の対応について」という考え方を出しましたが、その中では、金融機関のみならず、検査官も方針を踏まえた適切な対応をするということを宣言してます。

<澁谷>

 今お話に出ましたが、メガバンク、地域金融機関、信用金庫等、各金融機関の役割の違いはどのようにお考えでしょうか?

<三國谷局長>

 これは歴史的に市場型金融と産業型金融という2つの大きなものがあります。クライアントとの長期的な関係の構築、リレーションシップ・バンキングという言葉は、実は昔から一部には使われている言葉でもあるわけです。

 そして今こういった時代だからこそ、特に地域金融機関の場合には、地域で産業と金融は同じ経済基盤でやっているので、両方が好循環になるような関係の構築が必要です。そうすると、やはり銀行にとっても相手のことをよく知るということが必要になってきます。お客様から預金を預かって、それをお貸しする。そこで利潤を稼ぎながら銀行としての機能を高めていくということは、実は大変厳しい仕事だと思います。

 でもだからこそ、今の時代にはそういったニーズは極めて強いわけであって、リレーションシップ・バンキングについても、「監督方針」等で、積極的対応を呼び掛けておりますが、その機能は非常に重要だと思っています。メガバンクの場合でも、それを地域と置き換えるか、全国と置き換えるかだけのことであって、共通するものがあります。

<澁谷>

 地域金融機関からは、地域でコミットメントコストを払いながらやっている企業に、メガバンクが入ってきて低利で貸し出し、融資を持っていかれるといった厳しさみたいなものがあるようですね。

<三國谷局長>

 そういうことも言われています。ただ逆にこういった環境下では、その地域で一部融資が思うようにいかなかったとしても、長期的視点でお付き合いをしていく地域金融機関との関係は大事だという認識は、借り手の方からもずいぶんお伺いしました。

<澁谷>

 メガバンクは統合されましたが、今後、地域金融機関の再編はどうのように進展していくだろうとお考えでしょうか?

<三國谷局長>

 これは基本的に経営者の経営判断であって、さまざまな地域の金融機能を発展させていくために、そのためのさまざまな選択肢の1つとして、当然再編ということもあるわけですが、それを最終的にどうするかということは、やはり基本的には各経営者の判断だと思います。

<澁谷>

 最後になりますが、若手銀行員や、今後銀行で働きたいという学生に対して期待することを教えてください。

<三國谷局長>

 金融だからとかいうことではなくて、一人一人自分の持ち味というものがあるわけで、その持ち味を発揮していくことが一番大事だと思います。人の真似はできませんけれども、逆に人も自分の真似をできない部分があります。だから人が真似できないところを大事にしながら働くことが大事だと思います。学生時代までは気の合った仲間と付き合いすることで済みますが、いったん社会に出れば、さまざまな方との付き合いが必要です。世の中に厳しくない商売はありません。仕事というものはそういうものだと思います。

<澁谷>

 本当にお忙しい中、お時間をいただきましてありがとうございました。

(2008/10/22 取材 | 2008/12/16 掲載)