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東京中小企業投資育成株式会社 代表取締役社長 望月 晴文 氏インタビュー

聞き手:リッキービジネスソリューション(株) 代表取締役 澁谷 耕一

エグジットが目的ではない投資!

(澁谷)

当社は2011年に投資育成会社より投資して頂いていますので、貴社のことは良く存じ上げていますが、改めて貴社の特徴をお聞かせください。

(望月社長)

投資育成会社は世界的にも大変ユニークな会社ですよ。当社の生い立ちは、1958年にアメリカで「スモール・ビジネス・インベストメント・アクト」(中小企業投資法)が制定されたことがきっかけとなっています。当時、旧通産省の若手官僚が「ぜひそれを日本に取り入れたい」という想いから研究し、1963年に法律を作って、日本版として設立したのが当社です。アメリカではベンチャーキャピタルに近い立場で作成された法律ですが、当時の日本ではまだベンチャー企業は稀だったので、日本では将来性豊かな中堅・中小企業の経営基盤を強化する仕組みにしました。日本の風土に合わせていますので、アメリカとは随分違った制度になっています。

(澁谷)

それでは、貴社はベンチャーキャピタルとは異なるやり方をしているということですか?

(望月社長)

はい。例えば、一般的にベンチャーキャピタルは株式の保有期間を定めた投資を行うのに対して、投資育成会社では期間を定めない投資を行っています。ですから、当社は長期安定株主となって、投資先企業の社長に寄り添う形で企業をサポートできるのです。また、当社は経営の自主性を尊重しながら支援します。よって、無理して上場することを求めることもありません。

日本の中小企業は、上場して規模の成長を追い求めるという方向性ではなく、未上場のまま「ニッチ分野で勝ち残って行きたい」という会社も多く存在します。日本を代表する大企業をお客様にし、ある部分においては頼りにされ、ひとつの分野に特化して中小企業がイノベーションを起こしていく。これは、おそらく世界にはあまり例を見ない、日本の中小企業経営者特有の稀な資質だと思います。規模を大きくして上場し、キャッシュを手に入れて自分自身もエグジットして次の仕事をやろう、というアメリカの若手企業家の目標とは少し違うんですよね。

日本経済の大きな特徴の1つは、中小企業がベースを支えているところだと思います。日本の中小企業は、その存在がユニークなんですよ。これはアメリカで若い人達がベンチャービジネスを起こしてアメリカの活力の基になっているといったユニークさとは少し違います。しかし、経済の基盤を支えたり活性化させたりするという役割は同じで、日本においてこのような中小企業を支えるのは、意味があると思います。アメリカのベンチャーキャピタリストに説明しても全く理解してもらえませんが(笑)。

(澁谷)

それぞれの起業家の考え方が根本的に違うというのは、大変興味深いですね。

(望月社長)

「投資育成」という社名には、「投資」と「育成」という2つの意味が込められています。投資をするだけでなく、投資後には身内として経営者に寄り添い、ありとあらゆる支援をするのです。

(澁谷)

中小企業はその8割が赤字と言われていますが、貴社の投資先企業は経済の基盤、日本経済の技術力を支えるような優良企業が大変多いです。

(望月社長)

日本の雇用の7 割は中小企業が担っています。赤字だからといって排除してしまうと、中小企業で働く人の多くが生活に困ってしまいます。ですから、雇用を支える中小企業、零細企業は、たとえ赤字でも社会の安定上非常に重要です。

他方で、世界第3位のGDPを支える企業という観点で見ると、やはり日本を代表する大企業と、それを支える強い中小企業群という構図になります。典型的な例では日本の自動車産業があげられます。最終組立メーカーが全体の付加価値の1割くらいしか作らず、2次、3次、4次の下請けの部品産業が支えていて、それがコーディネートされて1つの自動車という製品となるのですが、その部品産業は必ずしも全部が子会社ではなく、かなりの数が独立した中小企業です。上のニーズがコスト低減だとしたら、その方法を自分たちで考えたり、「こういう素材の方がうまくできる」といった提案を含めて、イノベーションの基を支えているのです。これは機械産業や電機産業でも同じです。そうした実力を持った中小企業が地域社会の喚起、産業の活性化、あるいは経済の活性化というファンクションを果たしており、日本の中小企業のもっとも価値のあるところだと思っています。

(澁谷)

中小企業がイノベーションの基を生み出しているのですね。

(望月社長)

そのためには、やはり企業ですから利益を上げ、付加価値を生み出さなければいけません。中小企業の半分以上が赤字かも知れませんが、そうではない、産業のイノベーションを支えている珠玉のような企業もたくさん存在します。ところが、そういった中小企業は大企業と比べると、すべての要素がパーフェクトに整っているわけではありません。例えば、技術はあるのにお金がない、技術もお金もあるけれど人材がいないなどといった問題です。だから私たち投資育成会社があるのです。

長期安定株主として次の代も、その次の代も

(澁谷)

「何かがあったらメインバンクへ相談に行く」ということが、昨今は非常に薄れています。ではどこに相談に行くのかというと、やはり株主である投資育成さんのところでしょう。貴社のポジションがよりメインバンクに近くなっているように思います。

(望月社長)

それはすごく感じますね。例えば、銀行にいきなり「資金繰りが」という話をするのは大丈夫かな?という不安があるでしょう。その点、弊社は「投資をしたら一心同体」ですから、社長と同じ立場に立って「銀行にはこう言った方が良いのではないですか」という話をします。

私が中小企業庁にいた頃、一時期「スコアリングモデル」という、金融機関が財務諸表や外形的なデータを見ながら確率論で信用リスクを評価するという話を聞きましたが、上手くいかないんですよね。用事がなくても社長のところへ行って、社長の顔色を見て「この人は大丈夫だ」とわかるというのが、結果、一番確実な審査になることがあります。科学的ではありませんが、その手間を掛けられるかどうかなんです。データに偏った付き合いでは、企業とも間接的な関係になってしまいます。弊社では約1,000社の投資先企業の株式を保有していますが、投資先担当は50 人です。つまり1人20社平均くらいですと、社長と大体心を通わせることができる距離を保てるのです。金融機関では、融資先数が多いですから、当然1 人が受け持つ社数は桁違いだと思います。

(澁谷)

:弊社へ投資して頂く前に審査がありまして、突かれると痛い所を質問されるなど非常に厳しい訳です。ですが、答えていくうちに「開かれた企業としてきちんとやらなければ」という気持ちになりました。私が驚いたのは、「配当を払ってくださいね、でも払えなかったら払わなくていいですよ」と仰っていただいたことです。ベンチャーキャピタルは逆ですよね。非常に感銘を受け、「払えるようにしよう、より経営に対してきちんとやろう」と思いました。

(望月社長)

きちんと利益を上げて配当をするというのは、経営の一つの目的だと思います。そういった意識が曖昧ですと会社のマネージメントの部分で、大事なところが少し欠けてしまう場合があります。本当はここできちんと利益を乗せて、売るだけの競争力を持たないと会社が持続する可能性がないのに、痛痒は感じないという状況になります。私の言う「開かれた企業として健全である」というのは、自分を知る測定器みたいなものなんですね。経営者が自社の健康状態を知る上でも透明性は重要です。ですから、その考え方とやり方をアドバイスすること、これが我々の育成でもっとも大きな要素です。

また人材育成に関して、中小企業はオンザジョブトレーニングを行っていますが、1つの中小企業で育てなければいけない経理の人材は1人か2人です。そこで中小企業の経理担当者を集めて大企業と同水準の研修を提供したり、同じ境遇の人たちを対象にレベル向上の研修やディスカッションをしています。最近は企業の後継者が娘さんというケースもあるので、「跡取り娘の会(女性後継者の会)」というのをやっているんですよ。

(澁谷)

「跡取り娘の会」ですか。面白いですね。

(望月社長)

娘が自分の父親と同じ職場で、しかも経営者の一翼として働くことは、息子とはまた違った困難があるようです。数十人が集まると、お互いの悩みをよく理解でき、また異業種ですからお互い助け合える。これはどこのセミナーに行ってもなかなかない、得難いものです。

(澁谷)

貴社が投資することによって、経営者の開かれた経営やガバナンスに対する意識が高まって、結果として優良企業・成長企業になっていくという好循環が生まれるのでしょうね。

(望月社長)

その通りです。経営者として答える必要があるから、きちんとした筋を見てくるし、分析もし、意見も持っています。また、先のことについても語る必要があるわけです。それによって頭の中が整理され、経営者としての基本資質みたいなところが顕在化してくる。それが後継者に対する大変なトレーニングにもなるのです。投資育成会社は、できればお父さんの代も、息子さんの代も、その次の方の代も、長期安定株主として支える立場でいたい。投資育成会社がそれをやれるかどうかは、結局のところ信用の問題です。投資育成会社が国の監督下にあるというのは、当社がお預かりした株式を含めて「それなりの意味を持つものとして引き継いでいきます」という意味です。安心できる株主で、変なことはしませんという証だし、現にそれが歯止めになっています。50年やっていて、当社が株主であることによるトラブルは殆どありません。

(澁谷)

貴社の投資先は90%が黒字企業とのことですから、やはり50 年かけてやってこられたブランドがあり、安心感があると思います。また、投資先にもユニークな会社も多いように感じます。最近はメーカー以外にも、私どものようなコンサル会社や食品会社などにも業種を広げているのですか。

(望月社長)

もともと弊社は、50年前には法律で投資できる業種が製造業に限定されていたので、今でも製造業の投資先企業が多いんです。現在は、5 割が製造業、卸・小売が2割、その他が、情報通信業、サービス、運輸業、建設業、などで、幅広い業種に投資しています。

(澁谷)

最近の投資先企業の傾向などはいかがでしょう。

(望月社長)

昔は、最終組立メーカーが倒産したら途方に暮れてしまうという企業がよくありました。電機産業でいうと、最終組立メーカーに部品メーカーや加工会社がびっしりと連なっていて、親会社が中国生産に移行すれば、付いていくか辞めるかの二択でした。しかし最近では「付いて行けと言われれば行ってもいいが、きちんと量を出すのか」ということを見極めて決める、その他にも自分の技術で新しい分野を開拓して作らせる、事業転換をして別の機械産業に部品を入れているところもあります。高い技術力を持っていると、その辺はすごく強いですね。

迷ったら難しい道に進め

(澁谷)

望月社長の経営哲学を教えてください。

(望月社長)

経営者はどういう決断をするかがとても大切だと思います。そして、経営の重要な局面で、決断に迷うこともあると思います。そうした時、私は迷ったら難しい方に進むように決めています。難しい道でもより良いと思った方に向かって進むと、意外と新しい世界が見え、新しい対応策が出てくるものです。ただし、これが重要なのですが、判断を誤ったことに気付いたら直ちに撤退すること。撤退は自分の決断の過ちを認めることですが、それが許される世界ではないかと思っています。これは役人時代からやっていることです。

(澁谷)

最後の質問です。望月社長は経済産業省中小企業庁長官をされて、中小企業政策をずっとやってこられましたが、いま中小企業の社長に期待していることは何でしょうか。

(望月社長)

ご自身のそれぞれの仕事が日本経済の根幹を支えているのだという誇りを感じて欲しいと思います。先ほど申し上げた通り、中小企業というのはすごくユニークで、日本経済のイノベーションの基になっている人たちが多いのです。中小企業は立ち止まったら潰れてしまいます。ですから、どんなに調子の良い時でも経営者は「明日は潰れる可能性がある」ということを忘れず、必ず次のことを考えて、常にチャレンジされておられる。それは、本能的にやられている部分もあると思いますが、私は「あなたのチャレンジが日本経済の根幹を支えている」ということを、是非どこかで感じて欲しいと思います。

(澁谷)

どうもありがとうございました。

(2016/07/20 掲載)

望月 晴文(もちづき はるふみ)
昭和24年生まれ。神奈川県出身。昭和48年京都大学法学部卒業後、通商産業省(現経済産業省)入省。
原子力安全・保安院次長、商務流通審議官、 中小企業庁長官、資源エネルギー庁長官、経済産業事務次官等を務める。
平成25年6月に東京中小企業投資育成株式会社 代表取締役社長就任。