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与謝野馨 経済財政政策担当 金融担当 国務大臣 インタビュー


▲ 与謝野金融担当大臣

(澁谷)

郵政民営化や政府系金融機関の統合、銀行代理店制度の導入などをはじめ、銀行を取り巻く環境は大きく変化していますが、今後求められる銀行のあり方とはどのようなものでしょうか。

(与謝野大臣)

バブル崩壊後、金融界は苦難の道を歩んできました。それには自らの責任という部分もありますし、世界の経済情勢の変化に対応できなかった部分もあります。しかし現在では、主要行では不良債権比率が3%を切り、その他の金融機関でも5%前後に近づいています。本来銀行が果たすべき金融仲介という役割を自分たちの天職だと認識ししっかりやってもらいたいと思っています。
また、繰延資産をなるべく早く処分し税金を払えるようになってもらいたいですね。預金者も一定の預金金利を期待していますので、現在のような低金利では富の配分の方法としてはまだ正常な姿には戻っていません。もう一歩体質を改善していただきたいと願っています。

(澁谷)

新聞などでも「リスクを取る金融仲介を」と求められていますが、担保や保証に頼らない貸出をするためには企業やビジネスの目利きをする能力が問われます。融資担当者が企業経営者やビジネスを見抜くポイントとは何でしょうか。

(与謝野大臣)

担保や保証が急になくなるとは思っていません。しかし銀行経営として"担保さえ取っていれば良い"とか"保証人さえいれば良い"というような形式主義に流された審査は時代遅れです。貸出先がどのようなビジネスを行っているのか、そのビジネスモデルが現代的であるか、生き残れるのか、また将来有望な見通しがあるかどうか、などの点で評価するべきです。
リスクを取るということは、企業の将来性に関しての判断が当たるか否かということに対するリスクであり、担保や保証というものはリスクに入りません。貸出先のビジネスの実態をよく理解し、収益力があるのか、また今は収益力がなくても将来的には期待できるのかどうか、というような判断がなければお金を貸すという仕事も楽しくはないでしょう。「リスクを取る」という意味を図りながらやっていただきたいと思います。
 

(澁谷)

現場の支店長たちは、高い収益目標があるためにデリバティブなどを売ろうとし、経営者と膝を詰めて事業の内容を話したり相談相手になることができないジレンマに苦しんでいる状態です。

(与謝野大臣)

デリバティブでも、顧客のニーズに合った商品があるはずです。例えば、長期借入に際し企業側は固定金利で借りたいが銀行としては応じることができないような場合にデリバティブでヘッジしておくようなケースは顧客のニーズに沿ったものです。お客様本位であれば良いのですが、利益を上げるために無理矢理買ってもらうような商法はもう通用しないでしょう。

(澁谷)

企業経営者側からすると、困ったときにはやはり銀行に頼らなくてはならず、現実的には必要のないデリバティブでもやむなく買っていることがあります。

(与謝野大臣)

一昔前には分積両建があり、表面金利とは別に実質負担金利はずっと高いことがありましたが、それはいけないことです。デリバティブについても、先ほど申し上げたようにお客様のニーズに合ったものであれば良いのですが、本店からの指示のままに売るということは、オーソドックスなやり方ではありません。

(澁谷)

メガバンク、地方銀行、信用金庫とも統合・合併が進み、数は減っていますが規模が大きくなっています。業態ごとの役割の違いも鮮明になってきました。地域金融機関ではリレーションシップバンキングとして地域密着型の経営が志向される一方でお客様はどんどん海外に出るなど、ギャップが生じています。

(与謝野大臣)

やはり規模によって役割は違ってくるでしょう。信用組合や信用金庫などで働く人たちは皆さん地元のことを隅々まで知っており、経営者の人柄や性格までよく知っています。
その中からビジネスチャンスが生まれ、健全な貸出が行われます。これは、大手にはできない金融をできることに自信をもっていただきたいです。
大手企業が十分な自己資金を持っている現状において、(大手企業が)むしろお金の出し手になっています。間接金融から直接金融への移行もやむを得ないことであり、メガバンクはメガバンクなりに大企業相手ばかりでなく中堅企業を育てるという使命があるのではないでしょうか。
昔はお金を持っていても高い金利を払って借りてくれたものですが、今は有望企業であればあるほど十分な自己資金があり直接金融に走りますから、銀行としても大変でしょう。
ただそのような中でも、今後日本は毎年2%以上成長していくので、金融機関のビジネスチャンスは確固たるものがあると私は信じています。

(澁谷)

1,400兆円とも言われる個人金融資産を"貯蓄から投資へ"ということで、金融機関としても投資信託の窓販に力を入れていますが、その面でも金融機関としての役割は重要になりますね。

(与謝野大臣)

今は、金融機関は投資信託だけでなく保険も販売することができます。今後は、それぞれの支店が地元の方をよく知っているかどうかなど人間的な側面がビジネスの飛躍の大事な土台になるでしょう。

(澁谷)

若い銀行員たちにとっても、企業経営者や個人顧客との人間的な絆が大切になるということですね。

(与謝野大臣)

私は、若手の方は、9割は泥臭い仕事をすれば良いと思います。しかし、残りの1割は、世界の金融や金融理論、新しいファイナンスの手法などの勉強や新しい知識の吸収に使うべきだと思います。
私と同世代の人間は、大学を出て銀行に入り、自転車に乗って預金集めばかりし、まったく勉強をしませんでした。それは、金融機関に働く若手の在り方ではありません。金融においても、人間関係や人の話をよく聞くというアカデミックでない部分が相当部分を占めるのも当然のことであり、その中から学ぶことは多いはずです。そして一週間のうち1時間でも2時間でも理論的なことも勉強し、将来に備えておくのです。これが、これから求められる銀行員像ではないでしょうか。

(2006/03/01 取材)|(2006/4/25 掲載)