第3回 変わるメインバンクの定義 -「提案や課題解決のソリューション」を提供する銀行-|澁谷耕一's EYE
メインバンク
「メインバンク」―― 企業にとってメインバンクは、業績が好調な時も不調の時も最も頼りになる資金の貸し手であり、なんでも相談できるパートナー。日本では長い間、間接金融が事業会社の資金調達の中心であ り、最も融資シェアの高い銀行がメインバンクとしての役割を担ってきました。通常、企業は複数の銀行から融資を受けていますが、メインバンクは企業経営のモニタリングを行い、経営不振に陥った場合には役員を派遣したり、経営再建に向けて追加融資を行うなど、正に、企業の命運を握る存在でした。どの銀行がメインバンクなのかによって、企業の信用力にも差が出るほどの影響があったのです。
中堅・中小企業の資金調達は、依然として銀行や信用金庫からの融資が中心ですが、大手企業ではエクイティ・ファイナンスや社債の発行などによる直接金融が盛んになり、資金調達が銀行から市場へとシフトしました。また、中堅・中小企業にとっても、ベンチャーキャピタルや事業パートナーである企業からの出資を受けるなど、資金調達の方法は以前より多様化してきています。収支・財政状態が問題のない企業であれば、資金調達はそれほど大きな問題ではなくなってきています。「資金調達をしようと思えば、いつでもできる」と多くの企業経営者は考えているのです。
メインバンクは融資シェアでは決まらない
このような環境の中で、企業経営者にとってのメインバンクの定義が変わってきています。銀行は「融資シェアが最も高い銀行がメインバンクである」と考えていますが、企業経営者から見ると「融資シェアが高くても、相談に乗ってくれなかったり、提案をしてくれない銀行はメインバンクではない」ということです。「お金を貸してくれること」の付加価値が相対的に低下し、提案や経営課題解決のためのソリューションの提供が企業経営者にとっては大きな付加価値となってきています。コア業務以外はアウトソーシングしたり、試験研究や開発に特化して生産は委託するという流れは、今後ますます進展していきます。資金をあまり必要としない経営へと移行しています。
有利な資金調達に関する提案はもちろん、新規事業や事業展開・M&Aなどに関する提案や情報、多くの経営課題に対するソリューションの提供を企業経営者は待っているのです。有益な提案やソリューションには、企業経営者は「アドバイス手数料」を払いますし、銀行に対する信頼も大きくなっていきます。
安定的収益をもたらす提案営業
資金収益が伸び悩む中で、銀行や信用金庫も収益性の向上のために、役務収益(手数料)の拡大に全力で取組んでいます。投資信託・年金保険の販売や、外国為替の取り込みに懸命ですが、役務収益を上げるための特効薬はデリバティブなどの金融商品の販売です。融資などでは考えられないような収益を計上することができます。金融商品の販売を本格的に始めた年度は大きな収益を上げられますが、問題は翌年以降です。金融商品は収益の先取りとも言えますし、銀行からの金融商品購入の依頼に対する企業側の協力にも限界があるのです。金融商品は企業のリスクマネジメントや運用などの企業ニーズに対応して販売されるべきで、銀行の収益増強のための手段ではありません。
「提案営業やソリューション営業」は時間もかかり即効性も無い場合が多いですが、企業経営者の信頼を勝ち得て、一年後、二年後に安定的な収益として収穫できるものです。企業のニーズにあった金融商品や運用商品の販売によって役務収益を確保しながら、顧客である企業経営者や個人の「困っていること」を見つけ出し、解決のための提案やソリューションの提供をすることが必要です。
これからの「メインバンク」は「最も融資シェアの高い銀行」ではなく、「資金調達も含め、最も多くの有益な提案やソリューションを企業に提供できる」銀行だと思います。
(2006/08/23 掲載)