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FinTechを活用した金融ビジネスの変革に向けて

SBIインベストメント株式会社 代表取締役執行役員社長 川島 克哉 氏

SBI ホールディングス傘下でベンチャーキャピタル事業を手掛けるSBI インベストメントが、FinTech(Finance×Technology)の活用を目的とした新たなベンチャーファンドの組成に向けて動いています。SBI ホールディングスは、個人取引の国内トップシェアであるSBI 証券やインターネット専業銀行でトップの預金量を誇る住信SBI ネット銀行等を傘下に持つ、国内最大手のインターネット金融グループです。グループ内でベンチャーキャピタル事業を手掛けるSBI インベストメントを通じて世界的なFinTech の革新を取込み、国内の金融サービスの発展に繋げていこうとする取り組みについて代表取締役執行役員社長の川島克哉氏にお話を伺いました。

なぜ今“FinTech”なのか

(澁谷)

今回、このような取り組みを実施するに至った背景について教えてください。

(川島社長)

国内ではインターネットのブロードバンド環境が当たり前となり、スマートフォンも急速な勢いで普及しています。モバイルバンキングを通じて、ユーザーはいつでも、どこでも銀行取引が出来るようになり、銀行店舗への来店客数は減少し、店舗戦略の再構築が求められています。このような傾向は欧米においても同様に進んでいます。モバイルバンキングに限らずIT 分野の技術革新は留まることを知らず、更に進歩していく中で、欧米では金融サービスに関わるテクノロジー、通称inTech を金融機関が積極的に取り込んでいく動きが活発化しています。インターネットを介した非対面取引が拡大する中で、ネットとリアルの融合によるサービスの最適化、顧客とのリレーション強化を目指すオムニチャネル化の重要性が増しています。

上記の課題を解決するにはFinTech の活用が非常に有効ですが、従来の勘定系等のレガシーシステムの開発・運用と、顧客の利便性向上に繋がるインターフェースの開発やSNSを通じた顧客接点の拡充、ビッグデータを活用したOne to One マーケティングといったものとは全く異なるアプローチとなります。

米国ではリーマンショック後に金融IT 系の人材がベンチャーに身を投じ、多くのFinTech 関連のベンチャー企業が生まれました。中には銀行のビジネスモデルを侵食する企業も出てきており、銀行も独自でサービスを開発するだけで はなく、ベンチャー企業の新しい発想を活用することで新たなサービスを開発していくというオープンイノベーションの動きを加速化させています。ウェルズ・ファーゴをはじめ、欧米の多くの大手金融機関はFinTech 関連のベンチャー企業との協業プログラムを行っており、中にはベンチャー企業自体を買収するといった事例も出てきています。

FinTech 分野のベンチャー企業への投資金額も年間1兆4,000億円を超え、5年前の7倍程度まで拡大しています。この動きは、インターネットや革新的な技術によって従来のビジネスモデルが根幹から覆されようとしていると言っても 過言ではないと思います。Amazon.comをイメージして頂ければ分かりやすいと思いますが、IT を活用したサービスは、国境を越えて普及するスピードが速く、規制業種である銀行といえども例外ではないと考えています。弊社グループのインターネット金融サービス事業も、国内外の先進的な技術を積極的に取り込んでいくことで、革新的で利便性の高い金融商品やサービスを提供し、今後更なる飛躍に向けて事業を展開していきたいと考えています。

FinTechの活用に向けた取り組み

(澁谷)

SBI インベストメントが実施しているFinTechの活用に向けた取り組みについて教えてください。

(川島社長)

弊社がハブとなってFinTech のベンチャー企業に投資するファンドを設立し、国内外のFinTechの情報を収集すると共に、有望なFinTech のベンチャー企業への投資や金融機関のニーズ発の新たなFinTech ベンチャーの立ち上げを行い、これらの技術を取り込むことで、国内の金融サービスの高度化を図るものです。

FinTech の情報収集にあたり、投資活動は検討プロセスであるデューデリジェンスを通じて表面的ではない本質的な情報を獲得できることから非常に有効であり、また、FinTech分野は成長産業でもありますので、投資リターンも得やすい状況にあると考えています。

この取り組みは各行が単独で行うには情報量やノウハウ、資金面で限界があるため、複数の金融機関の参画を募り、皆様と同じ目的に向かって協働して取り組むことが効果的であると考えています。また、FinTech の取り込みに向けて協力が必要不可欠なIT ベンダーやサービスプロバイダー、セキュリティ企業の方々にもご参画頂き、単なる情報収集ではなく、実際の成果に繋がる取り組みとして展開をしていきたいと考えています。各行は、この取り組みで得られた情報やノウハウ、投資先の革新的技術を幅広く活用することで、先進的かつ顧客ニーズにマッチした商品やサービスの提供を実現し、金融サービスの高度化、顧客利便性の向上に繋げて頂ければと考えています。

◆川島 克哉(かわしま かつや)
1985年野村證券株式会社入社。事業法人営業を経て、95 年にソフトバンク株式会社に入社。
イー・トレード証券株式会社(現SBI 証券株式会社)、モーニングスター株式会社等の取締役を経て、2006年に住信SBIネット銀行株式会社代表取締役副社長に就任。創業期から事業拡大期に渡り同行の経営に従事し、10年代表取締役社長に就任。
14年SBI ホールディングス株式会社代表取締役執行役員副社長に就任(現任)、15年よりSBIインベストメント株式会社代表取締役執行役員社長。

(2015/8/21掲載)