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第四銀行 小原雅之 取締役頭取インタビュー

地域に貢献し地域と共に発展する総合金融サービス業を目指して

聞き手:リッキービジネスソリューション(株) 代表取締役 澁谷 耕一


▲ 第四銀行 小原雅之 取締役頭取

<澁谷>

現存する銀行法上最古の銀行として永い歴史を持つ御行の強み、特色をお教えください。

<小原頭取>

歴史の長さというのは、すなわちお客さまからの信頼の歴史でもあり、信頼いただいているからこそ、135年間続いてきたのだと思います。当行の経営理念は、創立当時から一貫しており、"地域経済を支え、発展させる"ということで、全役職員が共通した認識を持って日々業務を行っています。一方で、「第四は硬い」「敷居が高い」といったご意見もありますが、そういったご意見は真摯に受け止め、お客さまのご期待にお応えしていきたいと思います。
この135年間は"順風満帆"というわけではなく、戦争を含め様々な事がありました。当行は『第四国立銀行』という名称から国立銀行であると思われがちなんですが、国から認可を受けた民間発券銀行であり、全て民間資本です。これまで当行が合併した銀行や信託会社など間接的なものも含めると58社を数え、再編・統合が繰り替えされて、今日の第四銀行となっています。ですから銀行法上最古の銀行ではありますが、新潟銀行と名乗った時代もあり、第四銀行の歴史は変革の歴史であると認識しています。
もちろん、当時からの名前を冠して続いていることは、諸先輩の並々ならぬ努力の上に現在があるとの思いから、思い入れもありますし、プレッシャーも感じています。
当行の強みとしましては、県外支店も含めて123店舗のネットワークを有し、ブロック制、エリア制を取り入れながら、広い新潟県を隈なく、隅から隅まで 熟知しているところではないかと思います。

<澁谷>

地方銀行の中でも住宅ローンに注力している銀行、預かり資産の販売に特化している銀行等、各銀行によってそれぞれ銀行のカラーを出してきていると思いますが、今年4月に頭取にご就任されまして、小原頭取の目指す第四銀行の将来像、今後のビジョンについてお話をお聞かせください。

<小原頭取>

地域内の二番手、三番手の銀行であれば、各行の持ち味を活かして、ある特定分野に注力することも可能でしょう。その分野のクオリティ面ではトップバンクを凌駕し、更に専門色を強めていくという戦略もありますが、我われは何かに特化し、注力していくのは難しいと思います。「地域に必要とされる銀行」で在り続けるためには、あらゆる金融商品・サービスをタイムリーに提供しなければなりません。銀行商品と証券商品をワンストップで提供する新潟証券との共同店舗化もその試みの一つです。これからも第四銀行グループ各社との連携を強化し、総合金融サービス業の確立を目指していきます。
また、時代の変遷と共にマーケットが変化してきますと、地元だけではなく、県外にも展開を広げていくという戦略もありますが、我われは面を広げるのではなく、新潟県にこだわっていきます。
道州制という大きな問題も含めて、新潟県自体がどういう変化を遂げていくか、その方向性によって我われ自身も変化しなくてはなりませんが、地元である新潟県をもう少し深堀していきたいと考えています。新潟県にこだわって、トップバンクとして営業や経営の質を更に高めていきたいと思っています。

<澁谷>

頭取としては、やはり地元にこだわって、深堀りをして、総合金融として業務を拡げていこうという。

<小原頭取>

そうですね。我われがお客さまのニーズを探し当てるのではなく、お客さま自身が新しいニーズを創造する「きっかけ」となるような提案や活動をしていきたいですね。先程、道州制のお話をしましたが、新潟県は行政や公共インフラなど現状の区割りから考えると様々な可能性があります。建設行政は北陸地方、金融行政は関東地方、郵政事業は信越地方、電力事業は東北地方と、それぞれの地域と深いつながりがあります。言い換えれば、新潟県には「多様性」があるのではないかと思うのです。この新潟県特有の多様性は、他県の方には、なかなかご理解いただけないと思いますので、もう少し全国に向けて、「新潟情報」を発信していきたいですね。地味な県民性ではありますが、インターネットを始め、あらゆる伝達手段を駆使して国内にとどまらず、世界に向けて新潟の底力を見せていきたいですね。

<澁谷>

今期は中期経営計画「だいしアドバンスプラン」の最終年度にあたりますが、その成果はいかがでしょうか?銀行の収益力という観点からお聞かせください。

<小原頭取>

3年前に中期経営計画を策定した時には、全く想像がつかないような経済環境になりましたので、収益項目については劣勢です。しかしながら、健全性の項目はおおむね目標通りに推移したと自負してます。
収益性を高めることは非常に難しい状況になっていますが、これからも収益性と健全性のバランスを保ちながら、お客さま並びに株主から信頼を得ていかなければなりません。そのためにはリスク管理能力が不可欠であり、信用リスクを始めとして、マーケットリスクなどに関しても、管理体制を更にブラッシュアップしていきます。
信頼性と収益性の関係はトレードオフだと仰る方もいますが、私はそうではなく、様々な方法論がある思います。
現在、当行では「AAAA(フォーA)」運動を実施しています。4つの[A](=[あ])は、「足」・「汗」・「頭」そして「ありがとう」です。お客さまのもとに足繁く通い、粘り強く行動し、質の高い提案を行い、ありがとうの気持ちをお伝えするという当行の行動指針であります。「ありがとう」は、お客さまに心から「ありがとう」の気持ちをお伝えすると共に、お客さまから「ありがとう」と言っていただくのが究極の目標です。お客さまの「ありがとう」の中には『自分のニーズを的確に満たしてくれた』『プラスメリットを感じた』『何だか得をした』など、あらゆる感謝の気持ちが含まれて「ありがとう」の一言につながるのです。我われがご提供する金融商品やサービスに、いかに付加価値を付け加えて商売をしていくのかが課題です。極論を言えば、仮に貸出金利を引き上げたとしても「ありがとう」と言っていただけるような、お客さまとの信頼関係の構築していく必要があります。
そのためには「想像力」を働かせることが重要です。一つ目はお客さまに対する想像力。つまり、我われの対応にお客さまがどのように反応されるのかを想定すること。二つ目は未来に対する想像力。常に将来を頭に描きながら仕事をすることが重要だと思います。

<澁谷>

想像力を高めることで、付加価値をお客さまに差し上げることにより、「ありがとう」と言って戴ける、それが収益に繋がると。

<小原頭取>

そうなんです。つまり「お客さまとの信頼関係を強化しなさい」ということなのですが、「信頼関係」と言っても、「具体的には何をしたら良いのか?」という話になるので、いくつかのプロセスに分解して説明する必要があります。
まずは信義ですね。信義を尽くすことによって信用が生まれる。その信用を一つ一つ積み重ねて、やがて信頼に至るのではないのかと思います。信頼を得れば、更に信義を尽くしていく、そういうサイクルでアウフヘーベン(止揚)していくものだと思うんです。
次期中期経営計画では、最重要戦略として営業店の強化を挙げています。まずは営業店を変えていこうと考えています。銀行の仕事は、お客さまに対する説明義務、保護体制、利便性、リスク管理などと年々多様化し、オペレーションも非常に複雑になっています。その結果、お客さまと向き合う時間が徐々に減少しているのではないかとの思いがありました。そこでシステム関連への戦略的投資を行い、新しい営業店端末を導入します。様々な負荷を軽減して、お客さまに相対できる時間を捻出します。私は現場主義ですから、営業店で見たり、感じたりしたことが、経営する中で一番大事なことだと思っていますので、この計画を軌道に乗せ、営業店を強化していきます。
次は、人の問題です。「銀行は人なり」と言われますから。≪人財の再構築≫と命名しましたが、人材も材料の「材」ではなくて財産の「財」だと。一般的な人材育成という位置付けではありません。既に当行には素晴らしい人財がおりますので、それをいかに構築し直すかを考え、昨年の7月から新しい人事制度を導入しました。以前は資格と職能を結び付けた制度でしたが、現在は職員の意識も多様化しています。将来、経営の屋台骨を担ってバリバリ働きたい人、家庭も大事にして通勤可能エリアで一生懸命働きたい人、あるいは自分の出身エリアで定型的業務を担当し働きたい人、と様々なニーズがあります。三つのコース別人事制度を設け、出来るだけ職員のニーズに応えていこうとしています。

<澁谷>

平成18年3月に新潟証券と資本提携されていますが、その効果と今後の戦略をお聞かせください。

<小原頭取>

資本関係が明確になったことで、第四銀行のグループ会社として新潟証券の信用力が高まってきたと認識してます。新潟証券との共同店舗である既存2ヶ店を見ますと、証券口座開設が増加しており、同社の話では地方都市の独立支店としては驚異的な伸び率だと聞いています。共同店舗化の効果が徐々に出てきているのではないでしょうか。
今まで新潟証券は、地場の証券会社として個人のお客さまを中心に営業してきました。これからは、我われが目指す総合金融サービス業を目指し、グループ企業の一員として、将来的には当行の強みである法人ビジネスのノウハウをうまく活用して、法人取引やお客さまサポート体制など連携を深めていきたいですね。

<澁谷>

地方銀行にとって、いま地域において求められている役割とはどのようなものでしょうか。

<小原頭取>

いろいろな意味を含めて『気概を持って新潟の経済を支える』ということです。それしかないと思います。百年に一度と言われる厳しい経済環境の中ですが、お客さまと真摯に向き合う、そういう中で「真の信頼関係」が構築されるのだと思います。
今の新潟県は徐々に人口も減少しており、産業も元気がありません。ですから既存の構造を大きく転換することも必要でしょう。これからは企業の業種転換や再編にも向き合わなければなりません。また、新しい産業を興していくことも必要です。特に新潟県は「食」をキーワードとした様々な企業があります。県内の上場企業41社のうち、8社が「食」に関連した企業です。全国区の企業もありますし、中小零細企業もあります。そういった産業をどのように育てていくかが大きな課題です。金融面を支えるということだけではなく、ガバナンスの問題なども含めて、多面的にバックアップしていきます。地域金融機関として地域を支え、地域の更なる発展を目指して、精一杯やっていきたいと思います。

<澁谷>

昨今は、地方銀行の再編が取りざたされていますが、それについてはどうお考えですか?

<小原頭取>

昔から地銀はオーバーバンキングだとのご指摘もありますからね。地銀の再編は、道州制の議論などを含め、新潟県の変化とも密接に関係してきますし、金融安定化に向けた様々な施策から、今後いろいろな動きが出てくるでしょう。
当行も58の銀行や信託会社が集まって現在の姿となっています。再編そのものは、金融の効率化という大前提の上では、避けて通れません。ですから、あらゆる可能性を検討していきますが、新潟県経済がどのような方向に動いていくのかを見据え、まずは営業力を強化し、営業基盤を磐石なものにしておくことが先決ではないかと考えています。

<澁谷>

女性の活用について、小原頭取のお考えをお聞かせください。

<小原頭取>

先程の≪人財の再構築≫にもその狙いが含まれています。当行の行員、約2,500名の中で女性管理職は28名、全体の僅か1%程度です。それを5%程度に引き上げたいと考えています。
女性の持つ個性や資質を十分に発揮していただき、今までの職務経験を生かして人財を育てる役割を担ってもらいたいと考えています。どの職種においても管理職に登用することは難しいと思いますが、積極的に行っていきます。
また、家庭の事情などで一度退職された方々を対象に、再度行員として復帰をしていただく「リワークプラン(再雇用制度)」も実施しています。現在、約1,000名いるパートスタッフの半分程度が、当行のOB・OGですからね。このような制度を設け、積極的に女性を活用し、成果を出していきたいですね。

<澁谷>

女性で支店長になるような人が出てきたりするんでしょうか。

<小原頭取>

現在、女性支店長は7名おります。先日、女性支店長が営業店業績表彰を獲得しました。なかなか女性支店長が表彰を受けることがなかったので、非常に嬉しかったですね。

<澁谷>

そうすると、女性支店長の数はまだ増えていきますよね。

<小原頭取>

これから更に増えていきますよ。あとは本部管理職ですね。女性に適している職種は、まだたくさんあると思うので職種開発なども積極的にやっていきます。女性にどんどん活躍してもらいたいと思っています。

<澁谷>

頭取としては女性にどんどん活躍してもらったら、そういうバックアップをされるということですよね。

<小原頭取>

そうですね。女性管理職を増やしていくには、どの能力をどう伸ばしたらよいか、ある程度イメージしてバックアップしていく必要があります。
女性管理職の不得手の部分は、業務内容よりも、やはり男性行員も含めた組織をどのようにマネジメントするかだと思うのです。各自がこれまでの銀行員生活の中で「私は預金業務のプロだ」「預かり資産のセールスは誰にも負けない」など、必ず何か得意技を持っているはずです。それを武器にすれば、部下に対して十分リーダーシップを発揮できると思います。私も営業はあまり得手ではありませんでしたが、融資業務については誰にも負けないという自信がありましたので、それを武器に部下指導してきました。自分の得意技を切り口にしていけば、管理職経験がないからといってマネジメントできないことはないのです。

<澁谷>

最後に、若手銀行員や銀行で働きたいと思っている学生に対して、期待されていることを教えて頂けますか。

<小原頭取>

昨年の入行式でもお話しましたが、まずは「共創力」ですね。これは「新しい価値を共同して創り出す(創造する)ことが出来る力」という造語です。言ってみればチームワークですよね。既存の枠組みにとらわれることなく、生きがいを持って役割を遂行して欲しいという思いです。
それからコミュニケーション力、相手に対する想像力をベースとした対話力です。その人の持つ人柄や魅力を、コミュニケーションを通して相手に伝えることができる力を高めて欲しいですね。
最後は、財界総理といわれた土光敏夫さんの言葉で「パワーフリー」です。コンプライアンスの問題もありますが、人間は精神的に自由な時に一番力を発揮できると仰っています。私もそう思います。
今までの銀行員生活を振り返ってみますと、上司は厳しい人ばかりでしたが、何でもチャレンジさせてくれましたし、色々な経験をさせてくれました。現在の銀行員はみんな何かに萎縮している気がします。私が全店を周り、お客さまとコミュニケーションを取って、積極的に行動しているのは「何かを気にして萎縮したり、逡巡するのではなく、もっとチャレンジしていこう!」というメッセージを伝えたい、との思いから続けています。職場に「パワーフリー」の状態を醸成することが私の役割ですね。

<澁谷>

変な思い込みや押さえ付けといった、マイナスになることをしないということですね。

<小原頭取>

上司と対立したら、自分の人生はおしまいだと、そんなことは考えるなと言っています。私も若手行員と一緒にお酒を酌み交わす機会がありますが、割といろいろなことを言うんですよ。
上司がそういう機会を設ける配慮が不足しているのではないかと思いますね。上司として「この部下は私が育てた」と胸を張って言える部下が、少なくても五人はいて欲しい。上司一人が自信を持って太鼓判を押せる部下を五人育てあげたら、大変な財産となり、当行のかけがえのない人財になると思うのです。日々、そんな気持ちを持ちながら「ベースはフリー」の精神を大切にしています。

<澁谷>

ありがとうございました。

(2009/01/14 取材 | 2009/03/19 掲載)

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