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セブン銀行 二子石 謙輔 代表取締役社長 インタビュー

「共存共栄」の考えで金融インフラとしてのATM サービスを提供する

セブン- イレブンは誰もが知るコンビニエンスストアですが、「セブン銀行」というと、その実態をよく知らない人も多いのではないでしょうか。今回の巻頭インタビューでは、二子石代表取締役社長に、セブン銀行の業態や今後の展望につい てお話を伺いました。

聞き手:リッキービジネスソリューション(株)取締役副社長 小原 光男

1)セブン銀行の業態

従来の銀行とは異なる金融サービスを展開

山梨中央銀行 進藤 中 頭取

▲ セブン銀行 二子石 謙輔 代表取締役社長

<小原>

 まずは貴社の業務内容についてお話しいただければと思います。

(ニ子石社長)

 弊社はセブン- イレブンを初めとするセブン&アイグループの店舗や、グループ外の商業施設・空港・駅など、全国に1 万9,000 台以上のATM を設置しています。収入の95% は ATM をお使いいただいた結果、主に提携している金融機関からいただく手数料です。

 他のコンビニATM と異なる点は、弊社がATM 運営会社ではなく銀行だということです。弊社は銀行免許を持っているため、自社の意思で全国に同一のATMサービスを提供しています。また、 ATM に詰めている現金は、すべて弊社の資金です。これは当然調達する必要がありますが、セブン銀行に口座をお持ちのお客様の預金で調達できています。今は預金の金利が大変低いので、助かっています。
 本来銀行というのは、預金を集めて融資をして、その利ざやで利益を生むというストック商売です。しかし、弊社では融資はほとんどおこなっていません。そういった従来の定義でいうと、我々 は銀行ではないかもしれません。「銀行」であるということのメリットを活用させていただきながら運営している「金融サービス業」ということになりますね。

2)創業経緯~業界からの反応~

気付かれていなかった身近な場所でのATM ニーズ

<小原>

 御社の創業時は、既存の金融機関からの「そんなに上手くいくわけないじゃないか」といった批判的な声も多かったと思いますが、その中で成功した要因というのはどこにあるのでしょうか。

(ニ子石社長)

 当時反対されていた理由はいくつかあると思います。元より「融資しないの?手数料だけで稼ぐの?そんなの聞いたことない」という先入観がありました。更に、「すでに相当数の金融機関の支店やATM コーナーがあるので、お客様は特に不便を感 じてないのではないか」という意見もありました。
 セブン- イレブンでATM を始めるきっかけの一つには、それに先立っておこなっていた料金収納があったと思うんです。公共料金などを、レジでピッとやって支払えるでしょう。料金収納は それまで銀行がおこなっていた業務です。それがコンビニの窓口でできるようになった。しかも、銀行窓口で処理するよりも待たずにできる。全国各銀行の頭取にお会いする際に、「あの読み取り機を貸してほしい」「銀行窓口でやれたらどんなに助かるか」と よく言われるんですよ。この頃からコンビニに対するお客様の目が変わったような気がしますね。セブン- イレブンが年に1回、1万人のお客様に実施していた要望アンケートで「ATM を置いてほしい」という声が毎回上位に出てくるようになったんです。意 外かもしれませんが、セブン- イレブンのお客様は7割以上が固定客です。その方たちから見たら" いつも行く場所"であり、そこにATM があれば、それはその方が便利なんですよ。銀行の支店やATM コーナーというのは、お金をおろすために"わざわざ"自分の行動範囲から外れて行かなければなりませんから。そうい う要望から、「お客様にとって最も便利で身近なATM サービスを提供する方法を検討しよう」となったわけです。様々な検討の結果、最終的にATM運営会社でなく、銀行を設立することになりました。
 いろいろと反対意見はありましたが、振り返ってみると、セブ ン- イレブンはATM に対するお客様のニーズがあることをわかっていました。しかし銀行は「お客様は現状に満足しているので、あまり使われないだろう」と思っていた。ここにギャップがあったのでしょう。

<小原>

 二子石社長が在籍されていた旧三和銀行も当時、都銀の中ではATM 増設の戦略をとっていましたよね。

(ニ子石社長)

 そうでしたね。ところがその戦略を指示した会長と後に雑談していたら、「以前はATM を増設したが、もうそういう時代じゃない。」と言っていました。「人々の生活スタイルも変わってきた。これからは24 時間稼働のATM が当たり前になると思う。 しかし銀行が24 時間稼働のATM を作ることには限度がある。したがって、(ATM を)共通インフラにして、各行がそれを使えばいいんだ。もうATM を競って増やす時代は終わった」と言うわけです。これは、本当に印象に残っていたんです。その後、セブ ン- イレブンからこの話が来た時に、「あ、これはあの時会長が言ってた共通インフラの話だな」と思ったんです。セブン- イレブンとしては来店客の利便性を向上させるためのものだったわけですが、銀行側から見ても、これは非常に有意義で、良い話だと思い ました。そういう考えもあって、一生懸命にお手伝いしていました。それがご縁でその後セブン銀行に入ることになりました。

3)他の「新規参入銀行」との相違点

従来の銀行業態ではなく、徹底したインフラづくりを

<小原>

 金融自由化の中で、楽天銀行やソニー銀行など「新規参入銀行」といわれる銀行がありますが、その中で御社の特色はどういう部分でしょうか。

(ニ子石社長)

 これははっきりしています。他の新規参入銀行は預金を集めて融資するなど、いわゆる「銀行の本業」をインターネット上でやっておられます。一般の銀行と、商品面では同じサービスを提供しているため、他行とは競合関係にあるわけです。一方で我々にとって銀行は競合先ではなく「お客様」です。

<小原>

 競合関係にないといったところが金融機関等への提携先約590 という数字に繋がるのですね。御社もしようと思えば融資もできると思いますが、それをしないというのがポイントとなっているのでしょうか。

(ニ子石社長)

 金融機関に提携をしてもらわないとお客様にATMを使ってもらえないわけですから、当社のビジネスモデル上、金融機関との提携が大前提になります。そこで全国の銀行をはじめ各金融機関と1つ1つ提携をしてきた訳ですが、その際に「御行 にインフラを提供します」「いつも立ち寄るコンビニにATM があればお客様も喜ぶでしょう」「場合によっては御行のATM を減らしてもいいかもしれませんよね?」という話を粘り強くしたわけです。その考え方をずっと貫いてきています。これが途中から住 宅ローンでも始めるようなことがあれば、それはもう企業としての生き方を間違えていると思うんです。我々は、提携先とは文字通りWIN-WIN の関係を望んでいるわけです。

<小原>

 御社の提携先には、同地域に地方銀行が複数いらっしゃる場合もありますね。銀行同士はある意味ライバル関係ですから、なかなか難しい様に思えるのですが、そのどちらとも提携されているのはすごいですね。

(ニ子石社長)

 これはお店のことを考えているからです。同じセブン-イレブンのお客様なのに、使える銀行と使えない銀行があるというのは、セブン-イレブンのオーナーさんとしてとても困るわけです。「いつでも・どこでも・誰でも・安心して」ご利用頂ける、「みんなのATM。」がコンセプトになっていますから。だから我々は規模の大小に関わらず、すべての銀行と提携したい。「誰でも」というのはそうでないと実現できないんですよ。

4)今後の展望(1)海外送金

ATMインフラを活かしたサービスを提供する

<小原>

 現在1 万9,000 台以上のATM をお持ちですが、このインフラをさらに何かに利用していくという戦略はお持ちですか。

(ニ子石社長)

 提携金融機関から手数料をいただくというビジネスはBtoBtoC(セブン銀行to 金融機関to そのお客様)ですが、既存の銀行がしない、あるいはしたくないということをBtoC(セブン銀行to お客様)で提供することにより、もっとお客様に喜んでほしいというのが本音です。
 そういう考え方で始めているひとつは、海外送金サービスです。 これはお客様から直接手数料をいただいていますから、BtoC になります。日本の労働人口が減る中で、海外から働きに来ている方が増えているわけですよね。そういう方たちが国に仕送りをするとき、現状の送金システムが大変不便であることは明らかです。 この不便を我々が解消することによって、彼らの生活を支えることが出来ればと思っています。全国の提携金融機関、とくに銀行の取引先には、外国人を雇用しているところがたくさんあります。ですから、そうした外国人向けのサービスを当社がやれば提携金 融機関にも喜ばれると思います。取引先の人材確保にプラスに働くわけですから。この事業にもそうしたWIN-WIN の考え方が背景にあります。

<小原>

 実際には、個々のお客様にどのような営業をされているんですか。

(ニ子石社長)

 グループの取引先にはお弁当工場などがあります。その工場に当社の社員が訪問して、昼休みなどに対面で営業しているわけです。また、日本に住む外国人の方々は週末になるとフェスティバルや集会をしていますので、その場に行ってお話しすることもあります。最近では非対面での営業活動も強化し、徐々に利用者を増やしているのですが、今後はもっといろいろな方法でこのサービスの良さを知って欲しいと思います。
ATMの活用
~コンビニATMは金融機関とお客様のコミュニケーションの場~

<小原>

 海外送金をするときに、お客様の利用は、ATM・インターネット・モバイルの3種類のチャネルから利用できるそうですが、最も多いのはどの方法ですか。

(ニ子石社長)

 95% はATM での送金です。もしかしたらパソコンを持っている人が少ないのかもしれません。また、パソコンでセキュリティなどを気にしながら送金するよりも、仕事や出掛けた帰りがけに、お弁当を買ったついでに、ATM で送金する方が早いし、簡単なのかもしれませんね。バーチャルなネット送金よりも、リアルなATM の送金の方が、おそらく便利に感じているのでは ないかなと思います。

<小原>

 ATM が95%というお話しを伺うと、やはりATM を持っている御社の仕事になりますね。

(ニ子石社長)

 3種類揃えているのにそうなんですからね。最初はATM よりもネットで送金した方がいいんだろうなと思っていたのですが、これは予想が違いましたね。こういった事例もある通り、我々は提携銀行と競争しないところで、新しいサービスを探していく。そこに新しい価値が生まれると思っているわけです。

<小原>

 でも勇気がいりますよね。

(ニ子石社長)

 ええ、「価値の創造」「新しい価値の提供」って言葉では言うけれども、本当にそれをやるのは大変なんですよね。目先の利益を追うだけでなく、次の新しいものを考えるというのはそう簡単ではないです。

<小原>

 与信は今後もしないというお話でしたが、運用商品の販売などはお考えでしょうか。

(ニ子石社長)

 自らはしませんが、「ATM をうまく使ってください」と提携先に声掛けはしたいですね。ネットやコンビニATMを利用されるお客様が増える一方で、銀行の支店でお客様とのコミュニケーションをとる機会や、アピールする機会が減っていると思うんです。ですから、お客様が日頃使っているセブン銀行のATM で、モニターやレシートを使ってアピールしていただきたいんです。
 ただ、投資商品はお客様に十分な説明をしないといけない。これはATMでは難しいと思うんですが、少なくともこういう商品がありますよ、というアピールぐらいはできるのではないかと。高齢社会になって、自分の財産を守りたい、できれば少しでも増やしたいと思うお客様が銀行の支店に説明を聞きに行く1つのきっかけになればと思います。

5)今後の展望(2)海外発行カード

訪日外国人の利便性に貢献する

(ニ子石社長)

 セブン銀行のATM は、海外で発行されたキャッシュカード・クレジットカードで日本円を引き出すことができます。 海外からの観光客が増加する中、様々な場所で設置ニーズが高まっています。昨年は、飛騨高山の地方銀行支店にATM を設置させていただきました。飛騨高山では海外からの観光客が増加する一方で、海外発行カードが使えるATM があまりなく、観光客の「お金をおろしたい」というニーズに応えられずホテルや旅館は困っていたそうです。しかしながら地方銀行が自行単独で海外カードを使えるATM を開発するには、費用も時間もかかります。とはいえ私も元々銀行出身なのでわかるのですが、銀行の顔ともいえ る店舗に他社のATM を置くなんて、ありえない話なんです。高山の観光振興・地元振興を考えられての決断だと思います。非常に頭が下がりますね。
 また、現在は観光地だけでなく、空港・駅・ショッピングモール・家電量販店などでも、多くの方々に海外発行カードをご利用いただいています。2020 年の東京オリンピック・パラリンピック開催に向けて、訪日外国人の利便性向上と経済活性化に貢献したいと考えています。

6)ビジョンや経営計画に対する考え

数字目標は立てない

<小原>

 今後の戦略、例えばATMを何万台つけるといったビジョンはありますか。

(ニ子石社長)

 6年後の東京オリンピック・パラリンピックというのは、ものすごく遠くはないし、逆にものすごく足元でもない、結構良いターゲットなんです。社内で「2020年にこんな風になっていたい」というのを社員それぞれに考えてもらっています。経営トップは【将来ビジョンを語り、従業員に夢を与える】と言いますが、「何年後に(ATMを)何万台にしよう」とか「世界一になろう」というのは私の性分ではないし、言ったことはないですね。「目指せATM3万台!」だとか、社内のどこにも書いてないですよ(笑)。数字を目標にすると数字が独り歩きしてしまうので、あまりニーズのない所にまでボンボン置いてしまう。ちゃんと使われる所、お客様に求められているような所にきっちり置いていけば、数字は後からついてくると思うんです。

7)経営哲学

【共存共栄】の考え方

<小原>

 社長の経営哲学を教えてください。

(ニ子石社長)

 ベースとなる考え方は【共存共栄】です。これは提携先との関係をはじめ、業務を委託しているパートナー企業との関係も、地域社会との関係もそうです。すべてお互いにメリットがないと、長く続かないわけです。長く続くインフラをきっちりと間違いなく運営していくためには、【共存共栄】という考え方は絶対に必要です。これが一番考えていることです。
 もうひとつ、ここに働く社員たちに絶えず成長してほしいと思っています。人の成長なくして会社の成長はないし、逆に会社の成長なくして人の成長もないと思うんです。つまり新しく、 次々にチャレンジする仕事や舞台が出てくるような会社でないと、自分の自己実現を図ろうと思っている人の意欲が出て来ません。だから会社の成長がないと人が育たないと思うんです。
 海外進出・新規業務などでは社員が自ら事業を立ち上げていくという「創業の精神」を持って、業務に励んでくれています。マニュアルも何も出来ていない仕事を辛抱強く育てていくから人間は成長していくわけで、会社としてそういう仕事を与えられるかどうかが重要なんです。そしてその責任が私にはあるわけです。当然会社としてきちんとコンプライアンスやガバナンス の体制を整備していきますが、やはり社員が成長できるような舞台づくりをしていきたいと思っています。

<小原>

 どうもありがとうございました。

●インタビュー内での企業名につきましては敬称略とさせて頂きました。

(2014/4/取材 | 2014/5/28掲載)

金融機関インタビュー