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東京都民銀行 取締役頭取 柿﨑 昭裕氏インタビュー

東京都民銀行が経営統合によって目指すこれからの戦略

聞き手:リッキービジネスソリューション株式会社 代表取締役 澁谷 耕一

1951年、朝鮮動乱による特需ブームの反動で、中小企業は不況による金融問題に直面。そんな中、都知事の諮問機関である東京地方銀行対策審議会により新銀行設立案が検討され、東京都、東京商工会議所の支援の下、同年12 月、正式に「東京都民銀行」が設立されました。2014年10月には八千代銀行と経営統合し、金融持株会社「東京TY フィナンシャルグループ」を設立、2016年4月には新銀行東京も加わることになっています。経営統合の経緯や今後の展望について、同行の柿﨑頭取にお話を伺いました。

経営統合の経緯

東京都民銀行  取締役頭取 柿﨑 昭裕 氏

▲東京都民銀行  取締役頭取 柿﨑 昭裕氏

<澁谷>

八千代銀行と経営統合し、「東京TYフィナンシャルグループ」が設立されてから1年が過ぎましたが、統合の狙い、1年間の成果についてお聞かせください。

(柿﨑頭取)

日本の人口が減れば、おのずと預金が減っていくことが予測されます。東京は他の地方に比べるとまだパイが大きいとは言え、競合は厳しい状況に置かれており、中小企業事業金融の使命を果たしていく為には、ある程度体力を付けなければ生き残れません。八千代銀行とは八千代信用金庫(昭和)の時代から人事交流が盛んでした。八千代銀行の外為部門の立ち上げに当行から人を出して規程を作成したり、2000年に業務協力の検討に関する覚書を結び、当時はあまりなかったATM の相互開放やメール便の共載、共同の商品の取扱いなど、色々な部署で交流がありました。統合というのは気心の知れた所との方が良いとはいえ、お互い違うところもありますから、まずはフィナンシャルグループの傘下で情報交換・人事交流していこうと決めました。

この1年間では、両行での合同研修等を行っています。なかでも、当行と八千代銀行の支店長15 ~ 6名での上海視察研修は好評でした。現地での人事交流やお客様への訪問も行い、上海の現状を肌で感じられた研修となりました。他にも様々な階層での研修、共通商品の販売、情報交換、ビジネスマッチングなどをしています。世の中の経済環境の変化など色々ありましたが、1年目はまずまずの滑り出しかなと思っています。また、この4 月には新銀行東京がグループに加わることもあり、さらにステップアップし、「東京TYFG」として新たなステージに向けてスタートを切る準備をしているところです。

<澁谷>

第二地方銀行で信用金庫から銀行になったのは八千代銀行だけですが、御行と八千代銀行とは以前から交流があったんですね。

(柿﨑頭取)

ニューヨークに支店を持っていた頃にもトレーニーを受け入れたりしていたんですよ。今の八千代銀行の田原頭取も当行の市場営業部に半年間トレーニーとして来ていただいたこともあるんです。

統合に際して店舗・顧客層の競合はあるか

<澁谷>

近年の地方銀行同士の統合を見ると、常陽銀行と足利銀行のように地盤の違うところで、より広域をカバーし ようという意図がありますが、御行と八千代銀行はエリアが重なってくるのではないですか。

(柿﨑頭取)

八千代銀行と当行は店舗が10 ヶ店ほどしか重ならないんですよ。もともと八千代銀行は相模原・町田エリアに強く、城東地区(皇居より東部)などは重ならないです。都内の店舗は当行は73で八千代銀行が50。東京以外は当行が5 店舗、神奈川では八千代銀行が33店舗と、あまり重なっていないので丁度良いのです。客層も、大きな法人は重なることも多いですが、基本的に当行は中堅・中小、八千代銀行は中小・零細のお客様が多いので、それほど重なることはありません。

<澁谷>

競合する店舗もほとんどなく、もともと人事交流もあったということで、この統合は割合スムーズに進んで、シナジー効果も出てきているところでしょうか。

(柿﨑頭取)

シナジー効果を出す体制ができてきたというところです。まだまだやろうと思っていることはあります。そこに新銀行東京が加わることになるわけですが、同行はたまたま1 店舗で当行の新宿支店の隣ですし、信託の機能を持っています。また、東京都と包括連携協定を結んでいますので、それを含めると色々なことができそうです。何をするかはまだ言えないのですが、新銀行東京側も力が入っています。

「知的資産経営支援」で企業の競争力を可視化する

<澁谷>

経営統合の基本方針の中に「首都圏における都市型地銀マーケットにおける競争力を高める」とありますが、「新たなビジネスモデル」について、どのようにお考えですか。

(柿﨑頭取)

基本的には現在グループで取り組んでいる金融プラットフォームサービス「ClubTY」がベースとなります。この低金利時代、金利競争は体力勝負の様相を一段と強め、どこの銀行でも同じことを考えて同じようなサービスを提供する中で、これからは「サービスの付加価値」がより重要になると思います。我々の一番の強みは、産官学と連携する際、専門家集団が非常に近くにいるということです。様々な取り組みを行っていますが、そのひとつとして現在、都立産業技術研究センター(都産技研)と組んで「知的資産経営支援」というものをやっています。知的資産経営とは、企業固有の知的資産を認識し、活用することで、より戦略的な経営を実践していく経営概念のことです。

※知的資産…企業における競争力の源泉である人材、技術、技能、知的財産(特許、ブランドなど)、組織力、企業理念、顧客とのネットワーク等の財務諸表に表れにくい経営資源

例えば事業承継の際、我々は第三者として企業の知的資産を見える化し、将来のビジョンや中期経営計画を経営者と一緒に作成します。その過程で、現在の経営者であるお父様が苦労してきた経験を、これから事業を引き継ぐ息子さんに話す機会になったり、逆に息子さんが何を考え、事業を継いで将来どんなことをしたいと思っているのかを聞く機会になったり。親子ですとなかなかお互いに胸襟を開いて話すことはありませんからね。最終的に「これで安心して息子に将来を任せられる」と言っていただいたこともありました。

東京都民銀行 取締役頭取 柿﨑 昭裕氏

また、ある鉛筆屋さんが「今まで捨てていた削りくずを何かに再生できないか」と考えていたので、我々も一緒に事例やアイデアを出したり提案したこともありました。今まで無駄だと思って捨てていたけれど、他の業種から見たら「なんで捨てていたの? こっちでは垂涎の的だ。」と言われ、そうした意見を会議のテーブルに乗せ、従業員を交えて意見交換を行うことによって、彼ら自身もその価値に気付き、誇りを持つようになり、社内が一変して活気づいたのです。売上に直接的 な効果があった訳ではありませんが、担当者がお客様の懐に入り込み、「どういうことをすればお客様が喜ぶか、リレーションを築いていけるか」を知る機会になり、行員教育の点でも良かったと思っています。

この4月から「meets note」というものを営業担当に配付しています。これは全員の営業マインドを変えるためにやっている知的資産経営の手法なんです。担当者が取引先について作成した「meet snote」を本部指導者等が添削し担当者に還元します。「次にこんなことを訊いたらどう?」と赤ペン先生にアドバイスをもらい、担当者は次回訪問時に、その内容を参考にして話を聞くなどして、スキルを高めていけるのです。また、支店長、担当者、専門家、都産技研等と一緒にSWOT 分 析を行い、しっかりとした中期経営計画を作るという取り組みを毎期(半年間)12~13社やっています。これを中期経営計画で50社作ろうという目標を掲げ、その50社に関しては、当行が非常に詳しく、そしてコンサルティングできる状況にしようとしています。

<澁谷>

外部としてその会社を最もよく知っている存在になるわけですね。

(柿﨑頭取)

この取り組みについてはずっと続けていきたいと思います。今は当行だけの取組みですが八千代銀行にも働きかけています。

都民銀行らしさとは何か

<澁谷>

東京を地盤とした地方銀行として、設立以来、注力されてきたことはなんでしょうか。

(柿﨑頭取)

当行には5 つの方針があり、ずっと守ってきました。

  • 貸出資金は当行預金で賄う事を基本とし、日銀借入に依 存しない。
  • 大口預金よりも少額預金の獲得に重点を置く。
  • 地元で吸収した預金を地元へ還元する。
  • 多くの中小企業の要望に応えるため、大口融資を自制、小口融資に特化する。
  • 審査と手続きを簡素化して貸出の迅速化をはかり中小企業のニーズに応える。

また、都民銀行らしさとしてキャッチフレーズを作りました。「提案力のヘッドワーク」「機敏性のフットワーク」「設立以来培ってきたお客様への温かいハートワーク」。この3 つのワークを兼ね備えているのが都民銀行だよ、と若手行員に言っています。

仕事→使事→志事 / AKB+B

東京都民銀行 取締役頭取 柿﨑 昭裕氏

<澁谷>

最後に、頭取の経営哲学をお聞かせください。

(柿﨑頭取)

担当者レベルでは仕える「仕事」を、マネージャークラスは使う「使事」を、経営者になれば志の「志事」を、というのが経営哲学です。また、「当たり前のことを 当たり前に 徹底して全力でやる」ために、「目標を立てたら99% で満足するのではなく、99%まで来たら絶対100%達成にこだわること」と言っています。お水は99℃だとただの熱いお湯ですが、100℃だと沸騰して何十倍にも体積が広がります。それから、「AKB+B」(諦めず、工夫して、ベストを尽くせ+ベストを疑え)。一番最後の「ベストを疑え」は経営者クラスにだけ言っています。

<澁谷>

貴重なお話をどうもありがとうございました。

●グループ概要

名 称 東京TY フィナンシャルグループ
創 業 2014年10月1日
本店所在地 東京都新宿区新宿五丁目9番2号
資本金 200億円

●会社概要

名称 株式会社東京都民銀行
頭 取 取締役頭取 柿﨑 昭裕
本店所在地 東京都港区六本木二丁目3番11号
創 業 1951年12月18日
ネットワーク 77か店
資本金 481億20 百万円
従業員数 1,591人

(2015年 年9 月30 日現在)

●会社概要

名称 株式会社八千代銀行
頭 取 取締役頭取 田原 宏和
本店所在地 東京都新宿区新宿五丁目9 番2 号
創 業 1924年12月6日
ネットワーク 84 か店
資本金 437億34百万円
従業員数 1,629人

(2015年 年9 月30 日現在)

(2015/12/09取材 | 2016/01/13掲載)

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