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第5回 銀行との信頼関係構築方法、銀行員は過去を経営者は未来を語る|『借金力』をつけるにはどうしたらよいか

著者:リッキービジネスソリューション株式会社 代表取締役 澁谷 耕一

今回は、いかにして銀行との信頼関係を構築していくのか、そのポイントをお話したいと思います。

まず、最初に、銀行員の視点と経営者の視点が大きく異なっているということを理解する必要があります。

経営者の方々は、営業、販売、新製品、新規事業といった面から、売上をいかに高めていくのか、或いは株価、外部格付など、どのように自社が評価されているのか、また資本政策、M&A戦略など企業規模をどのように拡大していくのか、といった将来に向けた戦略に関心を持つ傾向があります。

一方で、銀行員は、財務内容、銀行取引状況、資金繰り状況など財務面での安定性や収益性に関心が高く、どちらかといえば現在、過去の実績を重視します。(資料1)

例えば、経営者が関心の高いことをいくら論じたとしても、銀行員は、「それはよくわかりましたが、ところで、足元の財務状況は大丈夫なんですか?。また、それがどの程度将来の業績にプラスになるのか、数字で把握させてください。」とかわされてしまいます。

つまり、銀行員は、まず計数に表れる結果を分析し、粗方の企業の評価を行います。その上で定性的な要因を加味することにより、総合的な企業の評価を行います。経営者がいくら将来に対する明るい見通しを示したところで、その計画の妥当性が検証されるだけの計数的根拠が必須となってきます。

また、昨今の状況激変が続く中では、黒字倒産も頻発している通り、資金繰りがどうなっているのかどうかが、最大の論点になってきています。

企業存続には、資金循環が正常に行われていることが前提ですので、銀行との安定した取引が継続されるのかどうか、日々の資金決済に問題が生じる懸念がないのかどうか、といった点については、経営者は特に注意を払う必要があります。 つまり、現状のような資金調達環境が厳しい状況下においては、銀行員の視点を理解し、銀行に理解を得られるだけの、計数的な武装、複眼的視点が求められるのです。 次に、情報開示に積極的になるということです。

決算書は、企業の成績表です。成績表が良ければ積極的に人に開示したくなるのは万人共通です。しかし、成績表が良くないとどうでしょうか。恐らく、できることなら見せたくないというのが本音だと思います。また、何か失敗したとしても、できれば知られたくないと思うのが一般的ではないかと思います。 しかし、開示義務が厳しくなってきている現状においては、開示に積極的でない企業は、何か隠しているのではないかという疑心暗鬼を銀行に植えつけてしまう恐れがあります。

銀行との信頼関係を高めていくためには、企業が隠し事なく、すべてをあからさまに開示し、相談を持ちかけるというスタンスが望まれます。

銀行側も、正直悪いニュースは聞きたくないのが本音でしょうが、それは事実として受け止め、どうすれば改善するのか、そのために銀行としてどういう施策を打っていくべきなのか、協働して対応を検討していくことが重要です。時間が経過すればするほど、その選択肢はどんどん狭められてくることになりかねません。

常に、いいニュースも悪いニュースについても、同じスピード感で開示し、情報の共有化をする意識付けが、結果的に銀行からの信頼感、安心感を得ることになる訳です。

次に、経営者が高い意識を持つことです。 経営者が、いかなる状況に置かれても、経営に対する高い責任感をもって、熱意と実行力を常に示すことです。

特に、オーナー企業の場合には、オーナーの考え方=企業の考え方といって過言でないことから、オーナーである経営者が、どう企業を捉え、それに対し的確な行動を起こしているかどうかが、銀行にとって、企業をサポートしようとするかどうかの重要なポイントになります。 また、後継者を育てるために、教育、権限委譲などが施されているかどうかも重要です。

つまり、経営のスムーズな継承のための施策が、経営者として実践されているかどうかということです。

また、昨今においては、事業計画の重要性が高まってきています。 特に業況が厳しい企業においては、将来にかけての業況改善のための施策を具体的に数字に落とし込み、銀行員の理解を求め、それにより安定的な資金の確保に結びつけることが必須となります。

いくら、言葉で"改善します"、"新規顧客をこれだけ増やします"等といった、具現性に欠ける説明は、銀行員からすれば、全く評価に値しないどころか、現状を真摯に受け止めていないとして、マイナスに受け止められかねません。

また、業況が順調な企業であっても、将来を見据えにくい現状においては、積極的な投資が裏目に出ることも想定されます。

銀行の融資スタンスが厳しくなっている現状においては、常に、収益的にも、資金的にも、リスクシナリオを想定した現実的な計画を策定し、銀行の納得を得られるように万全の準備を整えておくことが求められます。

最後に、自分の置かれているポジショニングを常に意識しておくことです。 業績が順調でも、それが業界全体の業績や、或いは他社に比べ技術力において見劣りするような場合、何が原因なのか、改善するためには何を強化すべきなのか、そのためには具体的アクションをどう組み立てていこうとしているのか、といったところを冷静に分析できる力を備えておくことが必要です。銀行は、必ず企業の強み、弱みといったところや、業界での位置付けがどうなのか、といった点を必ずチェックし、将来的な関係構築を維持していくべき企業かどうかを、常に見ています。

常に、問題意識というアンテナを張って、客観的に自分を見つめる心がけが必要です。

銀行員は、スーパーマンではありません。多くの企業を担当し、業務も多様化している中で、経営者が思っているほど、企業のことを理解している訳ではありません。 そういう現実を十分認識し、できる限りコミュニケーションをとって、企業の理解を得られるよう日頃から心がけておく必要があります。 有事に慌てて銀行に駆け込んだとしても、遅きに失することになりかねません。 是非、取引銀行との信頼関係を構築するために、銀行員の視点を理解するとともに、それに対処した行動を常に念頭においておくことが肝要です。

(2009/8/14 掲載)