第1回 契約の締結|中国ビジネス講座
中国での契約は署名
よく、中国で契約するのに印鑑の持参や印鑑証明の提出は必要ないかと聞かれることがあるが、中国での対外契約は本人が面前で自署するだけでよく、同時に日本の印鑑、印鑑証明書は意味をなさない。外国人、外国企業が捺印しても有害ではないが、中国法上の効力は無い。
米国と同様、署名筆跡を証明する公的な証明書も存在しない。必要であれば、公証人、弁護士を立ち合わせ、同時に契約署名させることで本人自署を証明することができる。
ちなみに、契約調印式を日本で開催することができれば、日本側にとって安全で有利な契約調印条件を引き出せる可能性が高くなる。
事者の署名だけでは、契約の効力は発生しない
中国契約法(1994.7)の第3章「契約の効力」の冒頭第44条では「法律および行政法規において許可、登記等の手続きを経なければならないと規定されている場合は、その規定にしたがう」と政府の許認可、登記など行政面での法定手続きが契約発効の条件と定められている。
たとえば、当事者間の合意にもとづく合弁契約でも、合弁法の定める手続きに沿って所轄政府の設立許可を得て、工商登記も済ませていなければ、その合弁・合作契約は無効ということになる。
契約調印までにこれだけは合意しておけ
契約に「日中で友好的に解決する」(=全面的に中国側の申し出通りとする)とか「董事会で決定する」(=問題は先送りする)という表現をすると、事業がスタートした途端に頓挫してしまう危険が高い。以下の点は、必ず調印前に合意しておきたい。
調印前の注意点 | |
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(1) | 出資の内容と方法、スケジュール ・現物出資の現物は確認したか |
(2) | 企業組織の大枠、経営権の所在 ・経営を任せるのか引き受けるのか |
(3) | 董事会の構成、総経理派遣元および総経理の権限 ・どちらから総経理を出すのか、そのサポート体制は ・中国パートナーから役員以外の幹部社員は受け入れない |
(4) | 日本からの派遣社員の給与と住宅 ・中国側とのバランス、所得税率を勘案して決める。 |
(5) | 中国側職員の給与 ・国籍は異なっても同じ職位は同じ給与。 |
(6) | 企業の解散の基準と清算時の対応方法 ・離婚条件を客観的に決めたか |
(7) | インフラの整備、内装、建築などの手順と責任 ・インフラ条件の数値化、図面化 ・出資停止、事業中止条件とする |
(8) | 借用する不動産の手順と条件 ・現地法人名で取得する具体的手順 ・相手先工場の一部を借りるのはトラブルの元 |
(9) | 販売先、品目、数量と価格 |
(10) | 設備、冶工具、金型、設計、技術研修 |
(11) | 特許、ノウハウ、商標の使用と管理ルール |
契約調印前の確認事項 | |
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(1) | 事業目的が明確に謳われているか。事業ビジョンが眼に浮かぶか |
(2) | 事業を実施するメリットとして何が具体的に期待でき、利益回収の方法は保証されているか |
(3) | 事業を成功に導くような積極的、協力的な条項として何が謳われているか |
(4) | 製品の販売価格と数量は決まっているか |
(5) | 契約に対する双方の違約は、それぞれ具体的にどのようなケースが想定され、どのような対処が約定されているか |
(6) | 当方が負う損害賠償責任の範囲はどれだけか。 |
契約交渉と調印の心得12か条
第1条
日本国内の日本人どうしの取引・契約交渉とはまったく違う「国際間の取引・契約交渉である」と明確な認識を持て。
第2条
成約度の高い案件は、営業・技術・製造などでプロジェクトチームを組み、共同責任で進めよ。営業の指示だけで作業…はどこか無責任となり、欠陥のある仕事となりやすい。
第3条
交渉時間とスケジュールについて、日本本社・営業所は現地スケジュールに合わせて対応せよ。
第4条
現地から依頼事項を受けたら、処理の緊急度合いを必ず相手に確認し、その処理を最優先せよ。
第5条
海外契約書類のすべては完全・無欠でなければならない。特に貿易取引契約は物品の売買と同時に書類の売買でもある。見積書、仕様書、部品リスト、図面、取説、カタログと契約書類は必ず一致した表現とせよ。
第6条
喧嘩は先にしておけ。詳細まで契約前に相手側と完全に詰めて合意しておけ。
第7条
うそ、ごまかしは絶対にするな。特に仕様書など文書にうそ、ごまかしをすれば、あとあと会社をつぶすことになると心得よ。
第8条
事前の覚書、合意書などがある場合、たえず紙に記録して携帯せよ。電子書類ではだめで、常にどこでも眼で確認できるようにしておけ。
第9条
交渉ごとは相手の国情、習慣をよく勉強し、理解したうえで臨め。日本の常識は海外では非常識かも知れぬ。
第10条
囲碁の格言にある「彼我の境は穏やかに打て」の余裕ある態度で、大局を見ながら交渉に臨め。そのためにこちら側の準備、態勢を周到に整えよ。
第11条
いかなる場合でも交渉の態度は礼儀と誇りをもって紳士的であれ。威嚇する言葉使いいや態度はまったく逆効果と心得よ。
第12条
空白、空欄は勿論、曖昧さを残す不完全な書類には署名するな