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第6回 出資の方法|中国ビジネス講座

著者:筧 武雄

投資総額と登録資本金の概念

中国で法人設立する場合、「投資総額」という概念があり、法人登記の際に登記記載することが法律で義務付けられている。

「投資総額=登録資本金+借入金枠」

「投資総額」(「総投資金額」ともいう)とは、事業達成のために必要な総所要金額のことである。「登録資本金」(中国語で「注冊資本」)とは、いわゆる資本金のことである。 中国には授権資本と払込資本という概念はなく、登記した資本金は期限までに全額払い込むことが義務付けられている。外資系企業の場合は、先に法人登記と口座開設を済ませ、その後一定期間内の「後払い」で、資本金の全額払い込みが義務付けられている。

  一括振込 分割振込(第1回) 分割振込(払込期限)
独資企業 「営業許可証」公付日から6ヶ月以内に行う 総投資額の25%を下回らず、かつ「営業許可証」の交付日から90日以内に振込む必要がある 登録資本金によって払込期限が異なる。
払込期限は「営業許可証」発行日(法人登記)
50万米ドル以下 1年以内
50万米ドル超、100万米ドル以下 18ヶ月以内
100万米ドル超、300万米ドル以下 2年以内
300万米ドル超、1000万米ドル以下 3年以内
合弁企業 合弁各当事者が夫々の出資時分の15%を下回らず、かつ「営業許可証」交付日から3ヶ月以内に初回分を払い込む必要がある 1000万米ドル超 審査機関が
   

「借入金枠」については一杯まで借り入れる義務はなく、「投資総額-資本金=差額部分=借入枠」として捉えることができる。
この投資総額は「契約金額」として中国の公式統計に計上される数字であると同時に、工商行政管理局への登記も必要である。

中国では、投資総額に対する最低資本金比率が下表のとおり法律で定められている。ここで借入枠をゼロと登記して、必要資金の全額を資本金でまかなう(すなわち資本金比率100%とする)ことも可能であるが、税金優遇(注)や後日の登記変更の手間(董事会決議、当局の事前許可が必要)などを考えれば、たとえ使用しない借入枠であっても、法律で認められている最大金額をもって最初から登記しておく例が少なくない。

(注)中国政府の指定する奨励業種、ハイテク業種などに該当する場合、登記した投資総額一杯まで自家用設備の輸入関税と増値税が免税となる。

【中外合弁企業の登録資本および投資総額の比率に関する暫定規定(1987.3.1)】
投資総額  最低資本金比率
300万米ドル以下 70%
300万米ドル超~1,000万米ドル以下 50%(最低210万ドル)
1,000万米ドル超~3,000万米ドル以下 40%(最低500万ドル)
3,000万米ドル超 1/3(最低1,200万ドル)

本規定によれば、たとえば資本金が200万米ドルであれば借入枠は85万米ドルであるが、資本金を10万米ドル増やして210万米ドルにするだけで、借入枠は210万米ドルの設定ができる。

出資形態

中国では、現金だけでなく有形、無形資産による現物出資も認められている。

 現金出資
 現物出資:

機械設備など固定資産無形資産、無形資産(土地使用権、工業所有権など)

ただし、無形資産のうち、工業所有権、生産技術ノウハウなど知的財産権の現物出資比率は資本金額の20%以下と定められ、かつ以下の要件を満たすことが義務付けられている。

  • 現地法人における製造、輸出のために必要な生産技術ノウハウであること
  • 既存の生産効率を改善させることができること
  • 材料、エネルギーを節約できること

資本金払い込みの手順

1. 項目建議書に対する批准(内認可)の取得
2. 工商行政管理局に法人名称の仮登録
3. 銀行に臨時資本金講座を開設
4. 土地代金等、将来資本金に振り返る準備資金を送金
5. 正式営業許可証取得後、正式の資本金講座に振り替え
6. 残りの資本金を振り込み払込完了

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臨時口座、正式な資本金口座(詳細下記・外貨資本金口座の開設)のいずれのケースにおいても、資本金払い込みの事実は中国公認会計士が定款と銀行口座、銀行送金帳票を検査し、「験資報告書」(右図参照)を発行する。公認会計士による現物出資の評価金額は契約書類ではなく、通関時に税関の委託を受けた商品検験検疫局の価格評価に従わねばならないことが法律で定められている。

外貨資本金口座の開設

【1】 臨時資本金口座

現地法人の開設準備を進めるにあたって、現地法人の設立登記の前に、コンサルタント代金の支払、工場設立用地の:契約手付金、事務所用賃借契約に伴う保証金や家賃の支払、内装費用、派遣者用住居物件の敷金や賃借料の支払等、数百万円程度の先行費用の支払が必要となるのが通常である。これがもし、合弁事業であれば中国側のパートナーによって人民元で立て替えてもらうことが可能であるが、独資による進出の場合は立て替えてもらうにも相手がいない。

そこで多くのケースでは日本の親会社が立替金として処理しているが、必ずといっていいほど後日トラブルとなる。それは現地法人の設立後に、立替金を日本に戻す送金が中国の外貨管理局では許可されないからである。

この問題を解決方法のひとつとして、外貨臨時資本金口座を開設する方法がある。外貨臨時資本金口座は、現地法人の名称が工商行政管理局で正式に決まった段階で開設が可能となり、具体的には工商行政管理局から取得した「企業名称決定通知書」のほか「投資意向書」、先行費用の明細書などの必要書類を外貨管理局に提出し許可を得る。許可金額は開設準備費用の範囲内に制限される。

【2】 資本金口座の開設

現地法人設立後の資本金口座開設のためには、まず所轄の外貨管理局で「外匯登記証(外貨登記証)」と「外匯帳戸管理カード(外貨ICカード)」を申請し、取得した後に銀行で外貨資本金口座開設を申請する。

具体的には、外貨管理局から「国家外匯管理局資本項目外匯核准件(資本項目外貨業務許可書)」が交付され、会社設立の外貨管理局登記時に既に取得している「外匯帳戸管理カード(外貨ICカード)」、「外匯登記証(外貨登記証)」とともに銀行に提示すれば外貨資本金口座を開設することができる。地域によっては、「核准件」の代わりに「外商投資企業外匯帳戸開戸通知書」という外貨決済口座と共通の、手書き記載書類が使われる。

銀行から資本金口座番号を取得して、その口座宛に親会社から外国送金を実行することになるが、送金は日本の取引銀行から中国にある同行の支店宛であれば、翌営業日か翌々営業日には到着する。その後銀行が発行する「入金通知書」を持って会計事務所の「験資証明」の発行を受け、現地の工商行政管理局に提出して登記記載することとなる。

出資金の払い込みが完了するまでのあいだは、払い込み期日まで有効な臨時の仮営業許可証が発給され、全額払い込みが完了した時点で、経営期限まで有効な本免許証が与えられることになる。また、銀行に開設した資本金口座は資本金の資金を全額払い出した段階で閉鎖しなければならない。土地契約の手付金支払などのために、事前に臨時資本金口座を開設していた企業の場合は、臨時資本金開設時にすでに送金した金額を差し引いた出資金額を送金する。

【資本金送金の注意事項】

  1. 銀行の送金手数料などを差し引かれて払い込み金額が不一致とならないよう事前に銀行とよく打ち合わせ、送金目的は資本金と明記する。
  2. 送金が迅速・確実に行われるように、受入側銀行支店にあらかじめ送金銀行(コルレス先)を指定してもらうとよい。日本側銀行のコルレスは本店だけと結んでいるケースが多く、中国内で本店から各支店への振り替えに時間がかかるため、現地銀行支店が独自に保有している海外コルレス先銀行から直接送金するのが正解である
  3. 合弁事業の場合は為替相場の変動により、実際の出資比率に影響が出てしまう可能性が高い。リスクを回避するためには、できれば同日扱いの出資が望ましい。やむをえず差額が発生した場合は「資本準備金」勘定で調整することと定められている。