TOP > 連載 > 澁谷耕一's EYE

第1回 企業経営者に求められる「三つの目」|澁谷耕一's EYE

著者:リッキービジネスソリューション株式会社 代表取締役 澁谷 耕一

企業経営者に求められる「三つの目」

私は仕事柄、経営者にお会いする機会が多いのですが、ある企業経営者の方から、企業経営者に求められる「三つの目」という話を伺ったことがあります。三つの目とは、
  【1】鳥の目
  【2】虫の目
  【3】魚の目
のことです。

「鳥の目」とは、政治や経済情勢、社会システムなどについては全体を鳥瞰する"マクロ"的な視野が必要であることを示しています。

これに対して「虫の目」は精緻な"ミクロ"の目であり、一つひとつのビジネスのあり方や戦術に関して細心の注意や配慮が要求されるというわけです。

一方、「魚の目」とは"潮目"を読むことを意味します。潮の流れは一定不変ではなく、止まることもあれば逆流することもあります。社会や環境も同様であり、その変化やうねりを読んで即応し自らのビジネスのやり方を変えていかなければ生き残ることはできません。

銀行員に必要なのは「エコノミスト、アナリスト、コンサルタント」の三要素

この「三つの目」は企業経営者のみならず、銀行の職員、とりわけ融資担当者にも不可欠な要素といえるのではないでしょうか。三つの目を持つということは、換言すれば「銀行員はエコノミスト、アナリスト、 コンサルタントの三要素を兼ね備えるべし」ということにほかなりません。銀行に就職した動機として、「融資を通じて企業を成長させ地域に貢献したい」と語る銀行員が多いですが、与信リスクを取って融資する以上、銀行員には当該企業・産業が今後どのように推移していくのかを読み取る能力が要求されます。そのためには、経済や世の中の流れをみるマクロの目、企業の成長可能性や経営者の資質・実力を見極めるミクロの目、そして融資実行後に当該企業の経営課題を解決し経営者の相談相手・指導役となるコンサルタントの機能が求められているのです。

しかも銀行員には、【1】融資がきちんと返済されるよう"債権者"として経営者を指導していく側面がある一方で、【2】"共同経営者"的な立場でよき相談相手になり企業の成長を促すという違った立場を両立させなければなりません。だからこそ「(事業性)融資担当者の仕事はむずかしい」といえるでしょう。

銀行員は情報武装が大切

かつて銀行内には、調査部門が設けられ、名エコノミストを数多く輩出していました。現在では経済・産業の調査はグループ内外のシンクタンクに外注化され、銀行の調査部門といえば個別の融資案件審査に通ずるような事業調査部のみというのが実情です。

反対に、競合相手の間隙を縫って 地元経済・産業の動向をつぶさに調査・研究し、情報を蓄積して地銀の攻勢を寄せ付けない信金もあります。銀行員は銀行内にある膨大な情報を整理し「情報武装」したうえで営業を行うべきですが、例えば情報を持っていない地域金融機関の職員は、メガバンクや外資系金融機関などと素手で戦えといわれているようなものです。情報武装しなければ、お願い営業になってしまうでしょう。

若手行員たちの"創造性"を高めるには

情報を持っていけば顧客は多忙でも会ってくれるはずですし、銀行員を丁重に扱ってくれることでしょう。そういうチャンスを銀行員がみすみす見逃し、情報を有効に活用しきれていないという現実があります。銀行員は日々多くの企業経営者と接することができ、様々なビジネス上の貴重かつ有用な情報に近いという恵まれた地位にあることを再認識し、情報に対する感度を上げて「感性を磨く」必要があります。

感性を磨くには、現実に起こっているビジネスの事象や各社の経営戦略について「なぜだろう?」という問題意識を常に持って考えることが第一歩であり、そうすれば"洞察力"は必ず身に付きます。そして、この企業の悩みや経営課題はこういうことではないか、と推察できるようになります。こうして洞察力が向上していけば、今度はその企業に対しこうした提案を行えばよいのではないかという"創造性"が高まっていきます。

私が銀行の経営者層の方に申し上げたいのは、若手行員が自分で目標を設定し、自分達で問題意識を持って考えることで"洞察力"を高め、"創造性"を発揮する機会を与えていただきたい、ということです。環境の変化はすさまじいので、企業を伸ばすためのアイディアが泉のように湧き上がってくるような銀行員を育成してほしいものです。銀行員の弱みは自分の意思で考え行動することが乏しく、自分で目標設定できないことです。若手の行員が自由にアイディアや考えを表明し自分で設定した目標に果敢に挑戦できるような環境を作っていただきたいと思います。

(2006/06/09 掲載)