第7回 貸付|中国ビジネス講座
基本事項
(1)国内の長期資金市場の未育成と業務規制
外資系銀行支店から見て、中国国内にはまだ資本市場、債券市場、コール市場など人民元の資金市場が十分育成されておらず、地元銀行からの個別資金枠供与以外に安定した人民元資金調達(特に長期資金)は難しい環境にある。
また、外銀支店の外貨預金保有残高には上限規制があり、人民元エクスチェンジも持ち込み資本金の範囲内に限られている。なお、中国国内貸付は金利のスプレッド部分に営業税(転嫁不可)が課税される。
(2)中国内での保証担保の問題
中国の土地はすべて国有もしくは集団所有であり、私的所有は国籍を問わず一切認められていない。上物、付属物は私的所有が認められているが、法律上は土地と一体のものとして取り扱われる。このような事情から、邦銀を含め外国銀行は中国の不動産をもともと担保価値評価しないので、これらの不動産を担保として活用できるのは現地のローカルバンクのみということになる。
また担保法(1995年6月施行)により、中国の国営企業を含む公的機関、組織は借入に対する債務保証の提供が禁止されている。事実上、中国内での有効な債務保証は地元の私営企業、個人あるいは、外商投資企業に限定されることになる。
(3)借入枠の規制
前回解説したとおり、外商投資企業には登録資本金額に応じて、一定割合の借入(残高)限度枠が定められている。借入金額が制限金額を超える場合は増資せざるを得ない。
(4)外貨管理局への外貨借入登記(外債登記)の義務
外貨借入契約書はあらかじめ外貨管理局への登記が要件として義務付けられており、これを徒過・失念した場合、契約は法律上無効となり、元利金の返済送金も許可されない。
(5)国内企業間貸借の禁止
国外にある親会社からの親子間海外借り入れは認められているが、中国国内での借入先は金融機関のみに限定されており、企業間の国内貸借は禁止されている。企業間貸借に銀行を介在させる「委託貸付」という銀行サービスは正式な銀行業務として認められている。
(6)外貨借入金の両替規制
借入人が外貨借入金を人民元に両替するのも、人民元資金を外貨借入元利金返済のために外貨に両替するのも、資本取引として政府外貨管理局の事前許可が義務付けられており、銀行窓口で自由にできない。すなわち、借入金は自由に両替することができない。
- 外貨借入資金⇒人民元への両替が認められているケース
- 中国内で調達する設備・原材料代金の中長期借入
- 貿易決済代金の短期借入(前年度短期運転資金平均残高の30%以下に限られる)
- 人民元資金⇒外貨借入返済への両替が認められているケース
- まず手元にある外貨資金から優先して元利金返済に充てることが義務付けられており、不足資金に限り、営業収入人民元を外貨両替して返済に充てることが認められている。
- 借入金を、そのまま元利金の返済に充てることは禁止されている。
中国における保証の法的効力
保証に関しては担保法(1995年6月施行)第7条で個人保証と法人保証の2種類が認められている。また、主たる債務者が債務を履行できないことを前提とする「一般保証」(第17条)と、主たる債務者が債務を履行できるか否かを問わず保証人に債務請求ができる「連帯保証」(第18条)の2種類が認められている。
前者「一般保証」の場合は、主たる債務者に対する強制執行判決をもってしても債務が履行できないような場合にしか保証人に対する履行請求できないので注意が必要である。同時に、保証債務の消滅時効は、特段の定めが無い限りは主債務の期限到来後6ヶ月以内と非常に短期間である。たとえ裁判で勝訴しても、半年間に債権が回収できなければ判決は元の木阿弥となる。このような法律規定があるため、結局のところ、個人保証をとっていても保証人に逃げられておしまいということも少なくないようである。
法人保証についてはすでに説明したとおり、資格上の問題から債権保全策とはならないことが多い。純粋な中国の民間企業、私営、個人事業の場合は何の保証も政府の保護もなく、むしろ物的担保、預金担保のほうが確実と言わざるを得ない。
中国における物的担保
担保法上では、抵当権、質権、留置権の物的担保については、債務不履行の発生時に金銭換価し、債務弁済の優先権を取得することができるものとされている。ただし、金銭評価する際には市場価格を参考にする(担保法第94条)とされているだけで、明確な基準が設定されていない。したがって取引契約時に担保設定する場合には、処分リスク、価格変動リスクを負うことになる。この点からも現預金担保がもっとも確実と言わざるを得ない。
現実に最も有効な抵当権設定可能目的物といえば、土地・建物であるが、中国の土地所有権は国もしくは集団に帰属し、その使用権には譲渡質入が可能な土地(有償払い下げ土地使用)と、処分権を持ち得ない、すなわち抵当権を設定できない土地(無償割当土地使用権)の二種類が存在する。契約に際しては、このような土地種類区分、権利関係の調査が必要不可欠であることは日本以上である。土地の上に建物・付属物が存在する場合には、土地使用権および建物それぞれ別個に抵当権を設定することはできない。担保処分する場合も、上物はすべて土地と一体として扱われる
外債登記と借入契約
現地法人が外貨借入(海外借入および国内の外貨ローン)を行う場合は借入契約後15日以内に地域所轄の外貨管理局に外債登記を行うことが法律で義務付けられている。外債登記には借入(「Loan Agreement」締結の場合)に対する登記と借入枠(「Facility Letter」締結の場合)に対する登記の2種類があり、銀行または親会社との間で締結した中国語の契約書をもって登記手続を行い、「外債登記証」の交付を受けなければならない。
外債登記の手続きは、中国系の地元銀行から借り入れた場合は銀行がおこない、外資系銀行の中国支店あるいは海外の親会社から借り入れた場合は借入人がおこなうものと定められている。外債登記を怠った場合、現地法人側からの元本や金利の支払いが不可能となる。1998年に広東省国際信託投資公司(GITIC)が破綻した際にも外債登記された債務について優先して返済するとの人民銀行の公告されている。
外債登記で提出する借り入れ契約書には、外債登記をもって契約が法的効力をもって成立することが明記されていなければならず、かつ、繰り上げ返済条項が契約に記載されていない場合は、事後の借入金繰上げ返済が一切認められなくなるので注意が必要である。
なお、人民元借入について外債登記は不要であるが、借入枠残高管理には計上される。
ローンのスキーム
中国進出企業が借り入れをおこす場合の典型的なスキームは下図のとおりである。
人民元借り入れスキームについては、外貨借入金資金を外貨預金として銀行担保に差し入れ、外貨預金担保で人民元を借り入れるスキームのほか、外国銀行から連帯保証書(Stand by Letter of Credit)を差し入れてもらい、これを担保に中国にある銀行から借り入れる方法、所有する土地使用権・建物所有権を担保に借り入れるスキーム、親子ローンなどが挙げられる。
【A】 人民元借入スキーム
※本スキームで借り入た人民元は運転資金、設備投資に利用できるが外貨転換は原則として不可。
※担保預金を借り入れずに、自己の運転資金の中から提供することも可能であるが、この場合は基本口座の外貨保有枠内の残高として計上される。また、本スキームで借り入た人民元は運転資金、設備投資に利用できるが外貨転換は原則として不可。
【B】 親子ローン
※外債登記に際して、現地弁護士意見書の添付を要求されるケースもある。また、親子ローンの金利水準は市場レートに設定しないと移転価格税制で日中税務当局に指摘される可能性もある。なお、中国内に親子、兄弟会社がある場合でも、国内での直接の企業間借入は禁止されている。