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第8回 中国からの資金・利益回収|中国ビジネス講座

著者:筧 武雄

どんなビジネスでも、ビジネスである限りは利益が出なければ敢えて実行する理由はない。しかし、利益というものは、金銭だけでなく、様々なかたちでもたらされる。中国ビジネスでは一般的にどのような利益回収が期待されるだろうか。

中国への生産・調達シフトにより、コストダウンを実現する

国全体のGDPを比較すると日本は中国の4倍あり、総人口を比較すれば日本は中国の10分の1である。これを単純計算すれば、日本人一人あたりの平均所得水準は中国の40倍という計算になる。さらに中国の公式統計を見ると、在職者平均賃金ベースで最高の上海(18千元強)は全国平均の2倍であり、河南省など下位グループは全国平均の約半分である。この比率から単純計算すれば、中国沿海都市部の平均所得は日本の20分の1、全国平均で40分の1、内陸部地方都市に暮らす人たちの平均所得は日本の80分の1という単純計算になる。

極めて単純かつ乱暴な計算だが、これだけでも、中国の各地域でどの程度の労務費コストダウンが可能か、容易に想定し得る。しかも中国内陸部は慢性的な失業者で満ち溢れており、彼らが都市部に流入しており、単純労働を中心として実質賃金コストはそう簡単に上がらない。(注)これがすなわち、俗に言う「中国の脅威」、「中国発の世界デフレ」の原因であり、正体である。

中国の低廉で豊富な労働力だけでなく、現地調達の材料、部品をそのまま使用して現地の技術水準で部品、あるいは製品として合格品質のものが製造でき、安定調達ができるならば、中国に生産をシフトすることで大幅な生産コストダウンが可能となり、ひいては国際市場で強い価格競争力を獲得することができる。すなわち、中国工場製品を日本本社、あるいは輸出先国にある直営の販売子会社で引き取り、海外市場販売することで外貨建ての利益を回収する。これが典型的な中国事業の利益回収方法である。

もちろん大陸内のコストには大きな地域差、職業差、職位差、個人差があり、このような議論は非常に乱暴である。大都市の郊外にも低廉な労働力が存在する一方で、内陸部都市にも、比較的小さい割合ながら北京や上海並みの高額所得水準の人たちもいる。たとえば、四川省で日本の大手スーパーの経営が成功している理由も、人口1億人の0.5%、50万人の富裕層が存在しているからである。現代中国の現状では、それだけで立派なマーケットにもなりうるのである。

※(注)最近では、華南地方など、外資進出が減少し景気が悪化している地域ではコストダウンのために賃金水準が引き下げられているうえに、出稼農民労働者に対する賃金遅延、不払いなど労働環境の劣悪化が社会問題化しており、それを受けて出稼ぎ労働者が華東地域などに移動したため、局地的に労働力不足が発生している地域もある(「民工荒」)。

中国への機械設備、部品、材料、技術売却により利益回収する

会社から中国子会社に機械設備、部品、材料、技術を売却して利益回収する方法である。中国政府の定める奨励業種、ハイテク業種、100%輸出業種等に該当する場合は、自家用設備輸入関税、増値税の免税優遇政策を受けることもできる。また、中国に進出している外資系企業は、さらなるコストダウンと人民元資金の活用のため設備調達、部材調達の現地化を旺盛に進めている。もはや、そこに系列は存在しないため、中国市場で新規顧客を獲得する新しいビジネスチャンスに期待することもできる。

現地からロイヤルティ、マネジメントフィー等の手数料で受け取る

中国子会社に対する技術指導契約、商標使用許諾契約、マネジメント契約などのロイヤルティ契約にもとづく契約手数料を受け取る利益回収法である。中国にはまだ独占禁止法が無く、韓国のようなロイヤルティ水準に対する法律ガイドラインは存在しない。この方法だと、現地は損益と関係なく、税引前の経費として計上することになる。日本に送金する際に10%の源泉税徴収があるが、日本国内で外国税額所得控除を受けることができる。なお、以前は技術ロイヤルティに対する営業税は非課税であったが、1998年に国家税務総局通達により1998年1月から一律5%課税されることとなった。営業税は日本国内での税額控除の対象とはならない。

利益配当金あるいは貸付金利息として受け取る

投資利益回収のもっともオーソドックスかつ確実な方法である。また、中国進出企業には親子間貸付が認められており、それに伴う金利収益も利益回収のひとつの手段と言える。ただし、公表市場相場から乖離した高すぎる金利水準の設定は、移転価格税制に抵触するリスクがある。

技術開発、設計、製図、技能教育、人材調達などの人材開発を行う

日本では獲得が困難な優秀な若い頭脳であっても、中国であれば比較的容易に獲得することができる。教育や育成に時間とコストはかかるが、これもひとつの利益回収法と呼ぶことができるだろう。中国に法人を設立することで可能となる人材の獲得、育成、確保はひとつの事業目的ともなり得るものである。

中国マーケットへの販売利益もしくは調達利益を得る

日本に比較して平均物価水準も平均所得水準も低い中国マーケット販売で、世界の強豪企業、あるいは強いコスト競争力を持った地元企業と同じ土俵で競争して大きな利益を得ることは容易ではない。やるならば、事前によく戦略を練っておく必要がある。たとえば現地調達を100%として現地価格競争力を持ち、ブランド名で市場シェアを掌握する(代表例は食品・調味料類、酒類、飲料類等)あるいは富裕層にターゲットを絞り、単価の高い、高品質、高付加価値商品を販売する(代表格にはブランド衣類、薬、化粧品、家電、自動車など)などのマーケットセグメンテーション戦略対応が必要である。

【「合作形態」における投資金の先行回収は利益回収ではない】

中国の「合作形態」は、合作契約にもとづいて利益配当とは別に投資金の先行回収が認められている(ただし、赤字決算のあいだ先行回収は認められない)。 この「先行回収」資金は資本の部勘定にある「既償還出資」勘定科目からマイナス残高で払い出される会計処理が会計法で定められている。すなわち、投下資本回収の実施と同時に資本金から仮払い(いわば、清算金の前借)をしているのと同じことである。これは税引き後利益を董事会決議にもとづいて出資者に配当する配当利益とは根本的に異なり、董事会決議不要で、契約にもとづく税引前の処理である。費用処理にはならないが、いわば「資本の減価償却」と類似している。

これが、もしも経営期限到来時あるいは事業中止清算時に債務超過になっていた場合、会計理論上では、すでに受け取った先行回収資金は合作企業に返戻しなければならなくなるケースが考えられる。なぜなら、退職金や弁護士報酬などの各種清算費用、税金は清算財産から支出し、清算配当も出資比率に応じて分配しなければならないからである。そのための原資として、資本のマイナス残高を埋め戻さなければならなくなる可能性も理論上は無いといえない。万が一の場合に、このような羽目に陥らないためには、あらかじめ合作契約のなかでその対処法について、外資側が合法的に一旦受け取った先行回収資金はいかなる場合も返戻しない旨、明確に取り決めておく必要があるだろう。