第10回 中国商人との付き合い方|中国ビジネス講座
●中国社会における 「 面子 」 の大切さを知る
人間関係が大きな意味を持つ中国社会では、様々な人間関係トラブルもまた日常的に発生する。そこでわれわれの眼には解決困難に見える混沌とした複雑な状況を、一言で仕切る伝統的なキーワードが 「 留面子 」 ( liu mianzi ) という言葉である。 中国社会のトラブルの多くは 「 面子 」 に原因を発している。「 面子 」 を日本語に訳せば、その人の 「 立場、信用、自尊心、プライド ( honour ) 」 のことである。「 留面子 」 という中国語の意味することは、相手をいくら激しく攻撃あるいは反撃しても、相手の面子だけは尊重して、最後までつぶさずに留める (残す) ことをいう。
中国社会においては、このように 「 面子 」 の大切さをよく理解しておくことが大切で、「 面子を重んじ、面子を立てること ( 留面子 ) 」 を最優先すればたいていの問題やトラブルは解決することを知ることである。たとえば、数分前まで棍棒を握り締め口から泡を飛ばして路上で大声で喧嘩を始め、引っ込みのつかなくなっている中国人どうしに、通りすがりの通行人が 「 そんなことをしていたらあなたたちの面子は丸つぶれですよ 」 と一言仲介するだけで、何事もなかったように急に真顔になって別れる不思議さがここにある。また、商取引においても、信頼関係にある相手の面子を尊重して、ある程度の取引上のロスは黙認する商習慣もある。
言い換えれば、どんなに激しい議論をしても、相手に恥をかかせたり、人格や誇りまでを傷つける言動はタブーであり、交渉の場では決して相手を最後まで追い詰めることをせず、逃げ道を残しておく配慮が必要と言える。
●「道理」 を語る能力を持つ
誇り高い中国商人たちは職場の中でも外でも話し好き、大変な理屈好きで交渉や議論が大好きである。たとえ規則違反を注意される場面でも、自分の誤りは最後まで認めようとせず、様々な 「 屁理屈 」 まで動員して徹底的に自分を正当化しようとする。 ここで、中国語には 「 有道理 ( youdaoli ) 」 という、頻繁に使用されるもうひとつのキーワードがある。「 道理 」 とは真理のことであり、日本語で言う 「 ことわり 」 である。中国社会では、現代日本のような 「 まず法律ルールありき 」 ではなく、「 まず事実は何か 」 を認識することから始まる。つぎに、その事実に対してどう対処するか。その基本原則を 「 道理 」 と呼ぶといってよいだろう。万人を説得し得る論理であれば、「 道理がある ( 有道理 ) 」 と言われ、道理が通れば、中国人の少なくとも大人 ( daren ) は道理の前に面子をおろす。これが道理と面子の基本的な関係であり、これは立法と取締り、処罰という法治関係を超越したレベルに位置する。このように国の法律よりも面子と道理のほうが優先する、中国はいわば一種の道徳社会と言ってよいかもしれない。事実、中国では、多くの弁護士、検察官、判事が法律とともに必ず道理を語る。
中国人社員を管理し、指導する経営者としての立場にたつ場合は、どのような場面でも相手の面子を重んじ、同時に自分の道理を明確に語ることのできる能力が不可欠の資質として求められる。日本人によくありがちな 「 沈黙は金 」 、「 不言実行 」 、「 面子にこだわらず実質をとる 」 という姿勢は、中国社会では、「 自分の非をすぐに認める理解しがたい人 」、「 会話したがらない面白みのない人物 」 という風によく誤解されがちである。
日中の習慣の違いから、中国人の徹底した議論に日本人はややもすると辟易してしまいがちだが、よく耳を傾けて彼らの語る 「 道理 」 を聴いていれば、その実は、議論を通じて真の忠誠や友情を説き、信頼を求めていることにも気づくはずである。このような彼らの問いかけに対して、こちらもきちんと受けとめてやらないと、「 あなたには情も理も無い 」 ということになってしまう。また、たとえ相手が間違っていたとしても、その場で何の反論も説得もせず黙って無視する態度をとれば、内容はどうであれ、結果としては相手の側に理があるという結論になってしまうので注意したい。
●攻守のバランスが大切
銀行は、リスクをとって収益を上げていくという一面と、リスクコントロールを徹底して財務の健全性確保に努めるという一面があります。不良債権処理を終え、銀行業界でもリスクを取ろうとする動きが顕著になってきています。優良といわれる金融機関ほど、都市銀行・地方銀行・信用金庫等の別なく積極的に営業人員の増強と新店舗出店を行い、新規取引先の確保に全力をあげるなど規模の拡大・攻めの営業に取り組んでいます。しかし、リスクをとった攻めが行き過ぎれば不良債権が発生し、その処理に忙殺されることとなりますので、健全性の確保を重視したサウンドバンキングという守りの考え方も重要です。銀行として攻めと守りをバランス良く配することが必要です。
「合情合理」にもとづく信頼関係の構築
中国の激烈な競争社会に生き延びている中国商人たちとホンネで会話し、スムースな人間関係を構築していくためには、あまり気負って衝突せずに、気軽に語り合える環境(信頼関係)を作り上げていくことがまず大切である。企業内では中国人スタッフから強い信頼を得て、偉ぶることなく、同時に迎合することもなく、全体をリードしていくことのできる強い指導力が経営者に求めらる。常に「情」(人間性)を持って周囲に対処し、同時に情に埋没することなく「理」(客観的真理、理性)をもって判断し、敢然と問題解決に立ち向かう姿が「合情合理」と呼ばれる経営者の理想像である。言い換えれば、「情」と「理」を使い分けることのできる能力を持った管理者と言えるだろう。
「合情合理」とは言うは易く、実行することはかなり難しい。また、自分一人だけの問題ではなく、必ず組織や相手のあることである。まず最初のうちは中国ビジネスの場に「情」をやたらに持ち込むことは極力避け、基本的に損得の「理」詰めで対処すべきだろう。当面の「情」はビジネス外で深めていけばよいことである。時間が経過し、実績ができ、相手の事情がよく理解できてから、ようやく「合情合理」の関係が通じるようになってくる。
以上のような日中の社会環境、国民性など互いの相違をよく知り、相違の中に浮き立つ彼我の個性と才能を十分に発揮させ得てこそ、中国ビジネスに成功する企業経営者たり得ると言える。人の面子を重んじ、情をもって接し、自己の道理を整然と説き、敢然と実行することのできない人物は、中国では企業経営者として成功することは難しい。自己を確立せず、面子と道理を軽視する人物は、欧米人流に言えば「無宗教の無神論者」と等しいレベルに周囲から軽く見られると言ってよい。
【中国ビジネスマン 10の資質】
- 中国の風俗習慣・国情をよく理解し、上手に適応できる人
- 優れた技術専門性を持ち、みずから率先垂範し、人に教えることが好きな人
- 中国語を学び、中国人スタッフに教えを請い、感謝することのできる人
- 国籍や民族を超えて厳しく、明るくユーモアのある人
- 海外から日本本社にはっきりものが言え、的確な要求ができる人
- いつも前向き思考で、将来に夢を持つ人
- 愛情、尊敬、信頼の心を持つ人
- 創業(工場立ち上げ)経験があり、即断即決のできる人
- 自己管理に優れた人
- 失敗してもあきらめずに3回はトライする人
【成功する中国事業経営者 10の資質】
- 中国事情に通じ、中国を理解する人
- 外国に偏見を持ち、差別しない人
- 広い情報網があり、人間関係管理能力に長けた人
- 偉ぶらず、迎合せず、組織を仕切る指導力をもった人
- 相手の面子(立場、信用、プライド)を第一に重んじる人
- 「情」をもって対処し、「理」をもって判断実行する人
- 素直に自省し、恥を知る勇気を持つ人
- 豊富な経験、自信と度胸を持つ人
- 着実さ、大胆さ、柔軟さを兼ね備えた人
- 情報に敏感で、法律ルールを熟知し、実務ノウハウを現場で活用できる人