第2回 不動産取引|中国ビジネス講座
中国で不動産投機は法律上不可能
土地使用権を単体の商品とする不動産取引は法律上認められていない。これは、「土地転がし」を防止するための原則的措置でもある。土地は、その場所を利用する事業プロジェクト計画の認可と常に一体のものとして扱われる。もし土地利用プロジェクトの認可が得られなければ、すでに借地権の払い下げを受けていても、政府に無償で返納しなければならなくなる。また、その土地に設立される企業の経営期限(プロジェクト期限)も、土地使用権の期限と原則として一致しなければならない。
別途、中国の公司登記管理条例第62条には「会社設立登記後、正当な理由がなく6ヵ月を越えても営業開始をしないもの、又は開業後継続して6ヵ月以上操業停止するものは、登記機関が営業免許証を取消す」という定めがある。また、土地契約に定められた開発開始期限を1年以上経過しても土地開発に着手しない場合、政府は土地遊休費として払い下げ価格の20%以下を徴収し、2年以上過ぎても着工しない場合は土地使用権を無償で没収できるという法律規定(都市不動産管理法25条) もある。このように中国では事実上、投機目的の土地投資は不可能である。さらに、少額資本の企業による大規模な土地取引を防ぐという目的で、最近では土地面積に比例した規模の最低資本金(最低プロジェクト投資額)が義務付けられている例も多い。たとえば、上海西側にある江蘇省の地方都市では、1畝(ムー=200坪)あたり最低20万米ドルの最低投資総額(最低資本金14万米ドルに相当)という内部規定が存在することが確認されている。
以上のように、中国では土地と地上建築物、付属物は一体不可分の関係にあり、日本の借地借家法とは趣をまったく異にする。中国では、土地または地上建築物の権利のどちらかが移転すれば、無条件に他の一方の権利も付随して移転する。これは売買、抵当権の設定・実行、政府収用の場合など、すべてのケースにおいて適用される。
土地使用権には二種類ある(不動産取引の落とし穴)
中国の土地は、もともとはすべて譲渡・質入不可能な国有地、集団所有地である。1990年5月の国務院令第55号にもとづき、民間への払い下げが始まったが、いまだに国土の大半はリース権の譲渡・質入が不可能な国有地、集団所有地である。このように、中国の借地権には以下の二種類が存在する。
- 無償割当の国有地:譲渡・質入不可の計画割当地(無償割り当て)
- 有償払下の国有地:譲渡・質入可能な期限付の払い下げ地(有償払い下げ)
もともとすべて「無償割当地」である中国の土地を、外資系企業などで民間使用するためには、土地種類を「有償払下地」に種類変更して、国から払い下げを受ける土地種類変更の法手続きが必要である。ところが、地方政府や中国企業にその資金(「土地種類変更のために中央政府に支払う開発費、登記費、立退き料等」)がなかったり、その費用を出し惜しんで無償割当地のまま「なんら遜色はない」と外資側に虚偽の説明をし、あるいは説明すらせず、そのまま違法に「売却」、「賃貸」もしくは「現物出資」したいと申し出るケースが往々にしてある。
あるいは地方政府が「建設用土地使用書」、「開発許可証」といった名前だけの証明書を発行し、農村集団所有地(土地権利証の写真参照)を無償割当地のままで外資に「占拠使用」を認めるケースもある。ところが、この無償割当地は有償払下地のように土地使用権の譲渡、賃貸、担保設定ができないばかりか、使用期限すらない。したがって、いつでも国家に収用されるリスクにさらされており、例えば、マンション開発や高速道路建設、インターチェンジ設置などの都市計画に引っ掛かってしまった場合、何の補償もなく即刻収用され、使用者は一言の文句も言えない。市街地に近い、大きな面積の場所ほど、そのリスクは高い。「万一事業に失敗して撤退する羽目に陥っても、この辺りは将来都市部の拡張に従って、土地の値上がり益も見込めるから、まあいいか」、あるいは「不要な土地もついでに買い込んで一儲けするか」という考え方は、ここでは根本から成り立たない。
借地期限が到来すれば、土地は建物付属物とともに政府に無償返還
期限付き土地使用権の払い下げ制度が中国に導入されてまだ20年程度であるが、本制度の確立にはまだまだ多くの課題が残されている。たとえば「国有地使用権払い下げ暫定条例」第40条では「土地使用権の借用期間が満了したとき、土地使用権および地上建築物・その他付属物の所有権は政府が無償で使用者から取得する」と定められている。続く第41条で土地使用権の延長申請も可能とはされているが、その場合は期限到来前に継続使用許可を再度取得し、契約を結びなおし、使用代金も再度支払うことが義務付けられており、既得権は保証されない。数10年後に現実に会社の経営期限とともに土地使用期限が到来したとき、何らかの延長費用だけで済むのか、もしくはその時の時価で再契約となるのか、それとも有無を言わさず建物設備施設もろとも政府に収容されるのか、多くの外資系企業は先の見えないまま「見切り発車」せざるを得ないのが現状である。