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ミャンマーはタイを超えるか沸騰するミャンマーの現状と将来

一般社団法人日本ミャンマー文化経済交流協会 理事長 井畑 敏氏

「チャイナ+1」「タイ+1」

~注目を集めるミャンマー~

 「チャイナ+1」、あるいはこの頃では「タイ+1」とも言われ、日本から大いに注目されているミャンマーだが、日本だけではなく、世界各国の注目を浴びている。2012、2013 年のミャンマーへの直接投資では、日本は10 位以内に辛うじて入っている程度で、シンガポール・香港・タイ・韓国・英国・ベトナム など、他の国々の後塵を拝している。しかし日本政府・大企業・中小企業がオールジャパンで同国への進出を考えているのは前例のないこと。そのため、この2014 年からは日本は直接投資で上位に入ってくることが予想される。要はどうしても他の国々と比べ日本は出足が遅くなるのだ。"NATO(No ActionTalk Only)"と言われる所以である。

 先日、ある電子部品メーカーの方が来られ、ヤンゴンに工場を建設すると言う。聞くところによると、現在、中国に工場があるのだが、人件費がかなり上がり、かつ現在の日中関係の摩擦もある。そこでまず、ヤンゴンに「プラス1」の工場を作り、将来は中国の会社を売って、ミャンマーに工場を集中したいとのことであった。「チャイナ+1」の典型的な例であるが、ま ずは中国の約6 分の1 の賃金のメリットを享受すると共に、大の親日家であり、勤勉家であるミャンマー人の良さを味わっていただけたら良いと思う。

2 つの疑問

~政情とインフラの問題~

 ミャンマー進出でよく聞く疑問が2 つある。
 一つは政情に対する不安だ。1988 年に社会主義政権が倒れ、軍事政権が誕生した。この政権に対する西欧の制裁を受け、その後「鎖国」状態であったミャンマーが、2011 年3 月のテイン・セイン現大統領の就任から劇的に変わることになった。あれか ら3 年、今年のASEAN 議長国でもある同国は開放化・民主化を力強く進めている。まだまだ政治の完全民主化までには時間を要するが、もう「鎖国」には戻らず、経済の民主化・経済の開放化はもう後戻りしないであろう。なにしろ、開放化・民主化で一番の恩恵を受けているのが、政治のトップに立つ人たちであり、かつ彼らは真面目で賢いようなのだから。

 もう一つが、インフラの脆弱さだ。電気・水・道路・鉄道など、近隣のアジア諸国と比べても、相当劣っている。もちろんインフラ整備には日本のODAをはじめ、かなりのお金がつぎ込まれており、まずは電気が劇的に変わっていくと考えられる。インフラは未整備だが、競合他社がほとんど存在しないうちに進出し「先行メリット」をとるか、整備されるまで待ち、安全に リスクを避けていくか、それは考えどころだろう。資本力も技術力もあり、先行メリットを取る必要のない会社であればリスクを避けるのも良いだろうが、「最後のフロンティア」とよばれるのは先行メリットが有る、あるいは有りそうだからである。これを摘み取らない手はないのではないかとも思う。

近代的工業団地開発

〜「ティラワ工業団地」が登場〜

 ところで、工業団地インフラだが、ここへきて近代的工業団地が目の前に見えてきた。「ティラワ工業団地」である。ヤンゴンの南東、市街地からは車で1 時間ほどの所にある。日本側の会社(三菱商事、丸紅、住友商事の3 社が均等出資して設立) 49%とミャンマー政府及び民間51%で、開発会社Myanmar-Japan Thilawa Development Ltd.(MJTD)を作り、このMJTD が開発を進めている。

 現在進めているのは全2400 ヘクタール(約730 万坪)のうち、400 ヘクタール(約120 万坪)。これを3 期に分けて開発を進めているが、第1 期は来年2015 年春入居可能になる。さすが日本の企業が作るだけあって、電気、水、地盤の強度、台風災害に対する浸水対策など、一通りの基準をクリアしている。 また価格は他のヤンゴンの工業団地に比べて安いぐらいだ。

 工業団地側としては、やはり一番欲しいのは多くの雇用を生む工場である。もちろん装置産業もOKだが、多くの水を使う、例えば製紙工場などはもう少し待ってほしいと言う。(なお、王子製紙は既にミンガラドン工業団地に工場を建てたが、それは製紙工場ではなく製品梱包用の段ボール製造工場)

メリット

~関税の免除~

 ティラワ工業団地は特区である。したがって、法人所得税の無税あるいは軽減、土地使用期間の延長などのメリットも取れる。また特区の恩恵ではないが、ミャンマーが開発途上国であるので、同国から日本への輸入には関税がかからない。子会社から日本の親会社への配当送金は95%が非課税といった特典もある。

 人口はタイとほぼ同じ約6000 万人(現在国勢調査を進めているので間もなくそれなりにしっかりとした数字が出てくるだろう)。今は工場としてのメリットのほうが大きいが、あと5 年もすれば6000 万人の中から中間層が育ってくる。そうすると、市場としての魅力も出てくる。ミャンマーはタイを超えるのか。超えるとするとそれは10 年後なのか15 年後なのか。面白いところである。

◆井畑 敏(いはた さとし)
1973 年米国コネチカット州ハートフォード大学でMBAを取得後、帰 国後経営コンサルタント業などを経て、1982 年米国で当時スタート したファイナンシャルプランナー事務所を日本で最初に立ち上げる。
1985 年、ダイヤモンド社と共に、日本FP 協会を設立。AFP・CF P資格制度を日本で確立させた。また、財団法人ロングステイザイダン の理事も歴任、ロングステイアドバイザー制度の導入にも尽力。近年は 発展が著しいミャンマーへの交流のため、2012 年日本ミャンマー文化 経済交流協会を立ち上げ、日本企業のミャンマー進出を後押ししている。
■ミャンマーに関するお問い合わせ先
一般社団法人日本ミャンマー文化経済交流協会 TEL: 03-5545-5923 mail: staff@lifeplus.asia URL: www.j-myanmar.jp