目指せ!「環境適応型人間」~海外で活動するために必要なこと~
今や海外は身近な存在
「来月からアフリカに赴任してほしい」突然社長から海外赴任を命ぜられたら、あなたはどうしますか?
多くの方はそんなこと自分に起こり得るはずがないと思うことでしょう。しかし、海外との距離は私たちが思っている以上に近いものです。A社の営業マンは駐在先のメキシコで取引先との価格交渉に苦戦している。またB社の社長は反政府デモに巻き込まれて、出張先のタイからまだ帰国できていない。このようなことはよく耳にする話ではないでしょうか。
日本にいる私たちもそのような方々と同じ視点でコミュニケーションを図ることが大切だと感じます。つまり、グローバルに活動する人と同じ視点で物事を考えて行動することは、国内で働く我々にも今まさに求められていることかと思います。
グローバルな視点で行動する人=「環境適応型人間」
では、「グローバルな視点で行動する」とはどういうことでしょうか。それは「どんな環境にも適応する」ということです。言い換えれば、どの地域に行っても生活ができ、どんな人ともコミュニケーションがとれ、そして任務を遂行して無事に帰ってくるということです。このような人を私は「環境適応型人間」と呼んでいます。
私自身、2年間、北アフリカのチュニジアで活動した経験があります。夏は気温50℃を超え、町には私以外に日本人はおりません。アジア人ですら私一人です。ここで体験した具体例を交えて環境に適応するためのグローバルな視点とその行動を説明していきたいと思います。
「時間を守らない」理由は…相手に対する気遣い!?
さて、海外進出する企業の方からよく耳にする話は、「相手が時間を守らない」という悩みです。時間のみならず、納期などの期限も守らず、いつになっても仕事が進まないという話をよく耳にします。私も現地のNGOでマイクロファイナンス(信用力の乏しい個人事業者への小規模融資)を担当していた時、返済日を守らない債務者の方と何度も出会いました。資金繰りに苦慮しているならばともかく、余裕資金があっても遅れる人が多々おります。その度にイライラしたものです。
では、なぜ彼らの中には時間を守らない人が多いのでしょうか。
ある日、私が同僚のジャミルと共に現地の役所を訪れた時のことです。相手との面談は10時からでしたが、だいぶ時間に余裕があったので、二人で近くのカフェに入ることにしました。コーヒーを飲みながら雑談していると時間はあっと言う間に過ぎ、もうすぐ9時55分を迎えようとしています。が、彼はなかなか席を立とうとしません。そこで私が「もう時間だよ。行こう。相手が待っていて迷惑をかけるじゃないか!」と言ったところ、彼は次のような返事をしました。「それは違う!日本人はいつも待ち合わせ時間の前に行きたがるがそれがおかしいのだ。約束の時間前に行って相手がいなかったらどうする?相手に恥をかかせるだけではないか。また時間ちょうどに行ったら相手を急かすことにもなってしまう。多少遅れていけばそんなことはおきない。相手に余裕とゆとりを持ってもらうことで、気持ちよく面談ができるんだ」と。結局、相手と面談したのは約束の時間から15分ほど過ぎた頃でした。
チュニジア人が15分ほど遅れて相手のところへ行く理由は、相手に対する思いやりと気遣いからであります。不思議なことに、5分早く行動する日本人もまた同じく、相手に対する思いやりと気遣いからであります。同じ気遣いではあるものの、その行動に違いがあることが興味深く感じます。
時間感覚は人によってさまざま
一方で、時間を守るチュニジア人ももちろんおります。首都チュニスに住む大学生の友人モンダーは時間を正確に守る青年です。いつも10分前行動です。彼とは10回以上も待ち合わせをしましたが、彼が時間に間に合わなかったのは路面電車が遅れたただ1度だけです。しかも彼は私よりも必ず先に待ち合わせ場所に来ておりました。もちろん彼の友人も一緒です。彼になぜ時間通りに来るか尋ねたところ、「規則正しい日本人を尊敬しているからだ」と答えが返ってきました。
必ずしもチュニジア人全員が時間にルーズなわけではありません。日本人全員が時間をきっちり守るわけではないのと同じです。何事にも個人差があることは誤解しないで頂きたいと思います。
さらに時間に遅れる理由も様々です。たとえば、約束事の優先順位が低くて遅れる人も多々おります。近所の方とばったり会って立ち話が弾んで遅れること、家族に急用ができて約束をドタキャンすること等、様々です。彼らにとってみれば、仕事や友人との約束よりも近所の人や家族との時間の方がはるかに重要なのです。
大切なことはイライラしないこと
時間感覚一つとってみても、彼らの視点や行動は我々とは大きく異なります。ではそのような人たちと出会ったら、どうしたら良いのでしょうか。
まずは、イライラしないこと。これが何よりも大切だと感じます。遅れることが当たり前だと思い、あるがままを受け入れることです。しかしながら、どうしても時間を守りたいならば、余裕を持ってアポイントを設定することで対処できると思います。たとえば、10時に面談したいならば9時に約束をしておくこと。さらに相手が遅刻した場合はその時間を楽しむことです。私は相手が時間通りに来ないときは、待ち合わせ場所の周りをブラブラ歩いておりました。すると、今まで知らなかったその町の新たな一面を発見できることがあります。これらの発見はその後の面談において大いに役立つこととなりました。
日本の常識も海を越えれば非常識
今回は時間感覚における視点と行動の違いについてお話させて頂きました。このような日本と異なる状況を理解して、臨機応変に対応できる人が「環境適応型人間」であります。これは海外でビジネスするためには必須であり、また海外で活躍するお取引先の方と悩みを共有するためにも必要なものです。
いずれにしましても、大切なことはイライラしないこと。相手に合わせること。何よりもその環境を楽しむことです。日本の常識も海を越えれば非常識。それくらいの感覚でいれば、世界がもっと身近になり、険しい異国での道も拓けてくるかと思います。
帰国して久しぶりに都内の地下鉄に乗っていると、1分電車が遅れただけで何度も謝る駅員さんのアナウンスが聞こえてきました。これもまた私にとってはカルチャーショックを受けた体験です。
2004年、千葉銀行入行。法人融資・渉外業務を担当。銀行退職後、青年海外協力隊に参加。
北アフリカのチュニジアにて2年間村落開発普及員としてボランティア活動を実施。地域間の所得格差是正のため、一村一品運動やマイクロファイナンス業務に従事。
帰国後、大手経営コンサルティング会社を経て、リッキービジネスソリューション㈱入社。事業計画策定に伴うコンサルティングや銀行向け研修を担当。現在、グロービス経営大学院在学中。