中国視察ツアー
社会人になったのが2006年だった。当時、大中小問わず企業が今後進出する国はどこか、また個人に注目している投資したい国はどこがいいかと問われると真っ先に上がるのが「中国」であった。2000年代に入って以降、北京オリンピックを待つ中国の成長率が安定的に10%以上を推移してからというもの、ありとあらゆる資金の矛先は必ず中国へ向けられていた。
あれから8年が経過した今、中国の経済成長率は2014年で7.5%と大きく成長が鈍化した。2000年代で一番高い成長率が2007年の14.16%と比較するとおよそ半分まで落ちた。冷え切った日中関係と中国における未解決のシャドーバンキング問題があれば余計に企業進出はおろか、投資マネーは腰が引けていくだろうという推測のもと、「これからは東南アジアだ」と考える日本人は多くなってきた。しかし、日本の国土の25倍、人口は10倍を誇る大国「中国」を侮ってはいけなかった。後述するが、私も含めて多くの人はこれほどまでに大きな「中国」という国を「中国」とひとくくりで考えていることが大きな間違いであることに気付かねばならなかった。まず、はじめにお伝えしたいのは今回訪問した山東省は人口約9500万人、経済成長率は8.7%であるということ。
青島と煙台
青島
中国の海洋産業として栄える急成長港湾都市。また、2008年北京五輪の海洋スポーツ会場として選ばれヨットハーバーがある等観光地としても大きな役割を果たす。
古くはドイツの植民地時代があり、中国ビールとして有名な「青島ビール」はこの頃に誕生した。また、ドイツがこの都市に残したものはビールだけではなく建物や生活様式に至るまであらゆる文化を残し中国とは思えないほど西洋の香りが漂う都市となった。現在では山東省きっての産業都市でもあり、世界的企業の家電メーカー・ハイアール、テレビメーカー・ハイセンスの本拠地、そして先にも紹介した青島ビールの製造所が存在する。
煙台
青島と同じように急成長する港湾都市。青島とはライバル関係にあたる。(日本でいうと東京と大阪に近いものがあったような...)専門学校や大学が多く多数の優秀な学生を卒業させ就職させる等将来的な投資環境として素晴らしく整っている。ハイテク産業を多く有していることも大きな特徴であり日本の大手自動車メーカーへ部品輸出や逆に日本企業の進出も目立つ。街には日本でもなじみのショッピングセンターやコンビニが多く立ち並ぶ。
海産物が豊富で中国でも有数の魚介類が楽しめるほか、さくらんぼやリンゴの産地としてもそのままの果物だけでなく各種ジュースも堪能できる。また、ブドウの産地でもあり、世界第5位のワイン生産地でもある中国のけん引役でもある張裕ワインの生産地として名を広めつつある。
恥ずかしながら、山東省はもちろん中国へ行ったことが今回初めてだった。私のイメージする中国は「景気減速」「上海、北京は大都会。それ以外は田舎」「自転車」「日本でいうと昭和」「汚い(PM2.5等)」と日本に比べまだまだ遅れているというものであった。ただ、そのイメージは青島流亭国際空港に降りたところから変わり始める。
成田空港からおよそ2時間30分で到着する青島流亭国際空港の現代的、かつ清潔に保たれた空間は「日本に戻ってきてしまったのか?」と思うくらい想像していたものとは異なった雰囲気を持っている。中国はというと最近メディアでも取り上げられているPM2.5の影響が強く視界がとても狭いのを予想していたがそうでもなく、むしろ日本に比べ湿度は低いこともあってとても居心地のよさそうな土地に感じさせられた。あと、よく「中国人はマナーが悪い」と言われるが、入国審査の列には当然並んで待っているし、空港以外でも中国人のマナーの悪さを感じることは無かった。
空港を出発し青島市内へ向かうこと数分の景色で中国の、いや山東省のスケールの大きさが窺える。そこには始まったばかりの土地開発と近代的なビルの建設ラッシュの街並があるからだ。途切れることなく延々と続くその景色に日本はテレビや新聞でよく見かける「中国、景気減速」とは似つかわしくない。むしろ、これからますます成長していく街にしか見えないのである。この理由は後から知って納得することになるのだが、青島市は成長率が7.5%まで下がった中国の中でもいまだに10%の経済成長率を維持する市であるためである。
そして、青島に驚かされたのは街並みであった。中国というとなんとなく「赤」「自転車」「やたらでかい」といった北京の天安門広場周辺をイメージしてしまっていたが、まったくそんなことはない。前述したが、かつてドイツの植民地であったこの青島はとても西洋の香りがする都市であった。片道4車線をベンツ、アウディといったドイツ車が多く走り、自転車に関しては全くと言っていいほど見ることはない。海岸線を走れば西洋の雰囲気を強く残す家と近年急速に建てられた日本とは違い広大な土地に近代的なビルがとても力強く立ち並ぶ。2004年北京五輪の海洋スポーツ競技の会場ともなったヨットハーバーは訪中するまでは想像することもしえなかったほどに所狭しとヨットが浮かび、それを囲うように近代的なビルと数多くの商業施設が立ち並ぶ。日本でいう所の横浜や神戸がそういった場所にあたるのだろうが、規模や景観からするとそれらを凌駕するように感じた。
この港湾都市として栄える青島の経済的な最大の魅力は何と言っても中国の主要都市だけでなく日本、韓国の主要都市とのアクセスの良さと中国の中でも高い経済成長率を維持し続けていることだろう。
日本の大阪、韓国のソウル、同国では北京、上海から一時間の距離にあることはとても大きなメリットである。中国きっての企業ハイアールとハイセンス、そして青島ビールを有する青島にとっては輸出入のきっかけともなり、その恩恵により経済的な成長が見込める場所であれば多国籍企業が進出する大儀名分が成り立つ。
一方、その青島をライバル視する煙台はというと、同じように港湾都市として高いレベルの物流環境を有している。中国がいかにとてつもなく巨大な国土を持ち、豊富な資源がとれようにもやはり物流環境が整っていなければこのような発展はなかったであろうと思う。
煙台は自動車部品メーカーが多く進出しているほか、専門学校や大学が多く人材育成の場所として地位を確保している。その環境下、日本への人材派遣も活発に行われ国内のみならず国外への人材ネットワークを有している。前述したように煙台には既に日本の自動車メーカー、商社、食品メーカーが進出している。今では日本から108社の企業が進出しており日系企業にとっても進出しやすい環境が整っているとも言える。
産業面での中国はテレビや新聞、本で知っている人も多いとは思うが、この山東省のもう一つの港湾都市に私が最も興味をもったのが、フルーツや海産物も豊富に生産していること。そして、中国と言えば紹興酒、青島が近くにあるから青島ビールとしてなじみがないと思っていたワインの醸造地としても名を馳せていることである。
現地の人に中国人のワインに対する意識について聞いてみるとやはりワインはまだ「オシャレで高価で手を出しづらいもの」だということであった。しかし、日本で1990年代にワインブームが起こり一気に消費を拡大させ多くの日本人にとってワインは非常になじみのあるものになった。しかし、その当時よりも前は現在の中国人と同じように「オシャレで高価で手を出しづらいもの」と感じていたに違いない。もっと言えば今後の中国人の所得拡大による生活水準の向上から推測すれば、今後中国でワインの消費量が拡大することを予想するのは簡単である。
ところで、青島、煙台にもう一つ共通して言えることがある。それは進出している国で1位が韓国企業であること。日本の位置が決して低いというわけではないが、韓国との距離は大きく離されている。どうして、こんなに日本は韓国と離されているのか。これに関してはどうしても気になり現地の人数人に理由を聞いてみた。理由は次の通りである。
「日本人はとてもいい人が多い。しかし、とても慎重。慎重すぎてスピードがとても遅い。もし今、日系企業に進出認可が下りたとしても進出するのは早くて2,3年後。2,3年後では中国はとても発展してしまうからチャンスを逃してしまう。その点、韓国は早くて、ガツガツしている。スピード勝負ではとても歯が立たないだろう。」
おそらく私がこの中国山東省で一番得た収穫はこの言葉だった。たったこれだけで日本のこと、中国のこと、そして他国の現状を理解できる。特に私のように中国に対して無知な人には重く響くと思う。
- ・中国をひとくくりに考えてはいけない(私だけ?)
- ・中国はまだ発展途中である
- ・外から見ると日本は非力で、他国に遅れを取りつつある
かつて、「日本はまだ侍が歩いているのか?」と話す外国人を見て「バカだなあ。」と笑っていたものだ。しかし、「中国景気減速」と新聞の見出しを見て勝手に中国を知った気になって目を離すとビジネスチャンスを逃す。
もし、中国を既に見限って2,3年かけて他国への進出を考えているなら、一週間青島ビールか張裕ワインを片手にじっくり現地を知ってもう一度中国進出を考えるのも悪くないと思う。