八十二銀行 清水 重孝 執行役員インタビュー
今回は八十二銀行の清水執行役員に、その経営方針や今後の法人向け業務の戦略などをお聞きしました。地元長野県は国内外で高い評価を受ける優良メーカーも多く、八十二銀行は名実ともに長野のトップバンクとして堅実な歩みを進めていらっしゃいます。
メガバンク等他行との競争が厳しい東京地区においても、数よりも質を重視し、じっくりと顧客のニーズを聞き出す誠実な営業スタイルには定評があります。地方銀行として東京地区でどのように存在感を出そうとされているのかなどについてもご説明いただいています。
資本金 | 522億円 |
---|---|
総資産 | 5兆6981億円 |
当期純利益 | 221億円 |
連結自己資本比率 (国際統一基準) |
11.36% |
連結不良債権比率 (リスク管理債権ベース) |
8.60% |
長期債格付(JCR) | A(フィッチ)、AA-(R&I) |
従業員数 | 3,211人 |
拠点数 | 国内153店舗、海外:支店1 駐在員事務所2 |
東京地区での営業方針
<澁谷>
首都圏、特に東京地区における営業の進め方についてお聞かせ下さい。
<清水執行役員>
歴史的には、昭和6年8月に第十九国立銀行と第六十三国立銀行が合併して八十二銀行になりましたが、十九銀行は上田に本店を置き長野県の主産業である生糸産業に密接な関係を持ちながら、明治時代から東京に支店を置いていました。一方、六十三銀行は千曲市に本店を持つ地域の富裕層を主な顧客とした銀行で、この二つの全く違う銀行が合併してから長く東京のマーケットに参入してきました。
当初合併の仲立ちをしたのが三菱銀行という関係上、三菱系列と言われていますが、三井住友系などさまざまな系列の会社と取引していただいてきました。現在東京営業部では、5,300億円ほどの貸出資産を持っていますが、首都圏地盤以外の地方銀行としてこれはかなりのボリュームです。対象企業先も350先程あり、業種的にも金額的にも幅広い。
東京都内には東京営業部と合わせて、新宿、池袋、青山、八王子にも支店がありますが、これも古い歴史があり30年くらいになります。他の地銀さんが支店統合など県内回帰といった動きをする中でも、当行の場合には一つも店を潰さなかったということで、いま都内・大阪・名古屋で9千億円以上の貸出資産があります。当行の強みとしては、このようなことがあげられます。
<澁谷>
長野に関係がある企業とのお取引が中心でしょうか?
<清水執行役員>
そうですね、基本的には長野の企業、そして長野から東京に出てきた企業ですが、それ以外の企業とも業種的にバラエティに富んだ広いお取引をいただいております。
<澁谷>
上場から地場の未公開の企業含めてということですね。
<清水執行役員>
ええ。ただ、お取引をするならお客様に影響力のあるポジションを持とうということを方針としています。大手企業相手でもシェアでは地銀で3番以内に入り影響力を持つことで情報も得られますし、またこちらから提供もできますから、このような位置を目指して今まで実績を積み上げて参りました。ですから東京地区全体での貸出シェアは低いですが、地方銀行の序列のなかでは高い位置にいると思います。
<澁谷>
それから特に県内関連企業を中心に、メイン銀行としての位置づけをしっかりと示して参りました。これも、当行の歴史の重みとその後のお客様とのコミュニケーションがうまく取れていたためと思います。
法人新規開拓について
<澁谷>
今はインターネット関連等IT業界など新しい企業にも新規開拓していらっしゃいますね。
<清水執行役員>
新規開拓については、ここ2年ほど東京営業部のほか都内や関東の支店の法人新規開拓の担当者が、月に1、2回集まって情報交換をするなど、当行全体で力をいれております。従来の飛び込み営業はやはり難しいですから、僚店との連携で新しい成長産業をいかに見つけ、その情報をいかに集めるかを考えたり、あるいはインターネットや新聞広告で興味深い企業を見つけて訪問もします。そのほか、会計士や税理士、取引先より、新しいベンチャー企業も含めてご紹介いただき開拓しております。
正直申しまして東京エリアの代表拠点である東京営業部には小規模な取引を行う役割はございません。ロットも3~5億円というまとまったロットを狙うというのが基本線です。つまり、実際に新規先へ貸出すのは難しいという状況ですね。
<澁谷>
3~5億円で新規となると、優良会社でかつ、かなりの規模の会社になりますね。
<清水執行役員>
そうですね。しかしそれぞれの支店長の考え方にもよりますので、例えば新宿支店は、5千万円くらいのロットでもベンチャー企業との取引を掘りおこすことを考えて活動しています。営業部と支店では役割が違うので、ターゲットやロットが変わってきますね。
地元長野に対する認識とコンサルティング型営業について
<澁谷>
これはある意味地銀の強みだと思いますが、東京と長野の間の情報のやり取りで注力されている活動はありますか?
<清水執行役員>
業務をとり行なう上で情報が必要だということは皆承知しておりますが、日々の活動に追われる中で、そのような情報を元に新しくお客様に提案したり、新規開拓の糸口にするために割く時間、あるいは気持ちの余裕が少なくなっているのは事実です。
そのような中で業績表彰などに組み入れて情報発信を指示ずると結構集まりますが、それをやめると情報があまり流れてこなくなり、「もっと長野から情報があっても良いのではないか?」という声も東京の現場では耳にすることもあります。本当は長野からの情報を当行の強みとして活かさなければいけないことですが、現実的にはなかなか難しいですね。
<澁谷>
長野県に本社のある会社は優良なメーカー系企業が多く、しかもその分野で非常に高いシェアを持っている会社が多いと思いますがいかがですか?
<清水執行役員>
長野県の企業は、メーカー系では中堅で小粒ながらきらりと光る物を持っています。東京の大手企業からも長野県企業の技術力については非常に高い評価をもらっているにもかかわらず、長野の企業は宣伝PRが下手だと感じますね。
それ以外にも観光事業では、恵まれた自然環境に胡坐をかいて、新しいアイデアを出すことや商品化の努力がまだ弱いと思います。あれだけの宝を持っているため、我々としてももっと提案をしたりすれば、より魅力あるサービスが生まれてくると思います。当行の頭取も『長期的な「次につながる」地場産業を育成することが八十二銀行の重要な役割だ』と申してますし、そこを意識して活動をしています。
<澁谷>
そのような新しい産業の育成のために、例えばファンド組成やベンチャー企業への出資など、積極的な活動はありますか。
<清水執行役員>
投資組合は、県外専用も含めて5ファンドがありますね。この内の二つは、投資額はもう枠一杯になりました。ベンチャー企業育成のための行内体制としては、銀行本体の営業推進部、関連会社八十二キャピタルで、M&A推進・上場支援含め10人程度はいます。
例えばM&Aに関しても力を入れています。日本では、M&Aを前向きにとらえる向きがまだなくて、買収される側も「持っていかれた」というイメージを持っているようですが・・・。当行としては長経(長期経営計画)のなかでM&Aのほかコンサルティングにも力を入れていこうと明確に謳っております。
<澁谷>
やはり、貴行は『課題発見解決型企業グループを目指す』方針のもと、コンサルティング型の営業をとる訳ですが、具体的に取組みは始まっていますか。
<清水執行役員>
そうですね、組織的には7月の組織改正から審査第一部・審査第二部から企業再生支援機能、産業調査・企業調査機能を分離して「企業コンサルティング室」を作り、実際にM&Aや企業の再建計画策定コンサルティングを行っています。
このほか、16年度の業推評価ではコンサルティング営業ですぐ収益に結びつかなくても、顕著な活動内容が認められれば経営成績表彰のなかでもプラスになるなど、表彰体系のなかに盛り込まれておりますので、意識的にはかなり高くもって動いています。
このほか、16年度の業推評価ではコンサルティング営業ですぐ収益に結びつかなくても、顕著な活動内容が認められれば経営成績表彰のなかでもプラスになるなど、表彰体系のなかに盛り込まれておりますので、意識的にはかなり高くもって動いています。
<澁谷>
企業コンサルティング室では海外進出支援も行っているのでしょうか。
<清水執行役員>
それも当然入っています。当初の考えでは更に海外進出やビジネスマッチング、あるいは私募債といった直接金融の関係も含めて、ある程度何でも担当することを目指し、総称して「コンサルティング」と銘打ちましたが、あまり最初から何でも盛り込みすぎると明確さを欠くと思い、第1弾としてM&Aと企業再生中心にしました。二月にはもう1弾加えた形を出そうと、今本部で検討中です。
八十二銀行の営業スタイルについて
<澁谷>
どうも最近、銀行の提案営業というと金融商品の販売や融資を借りてくださいとお願いする、場当たり的なものがあるように感じますが、貴行の行員の方々とお付き合いをしていると、他行と比べてじっくり相手のニーズを捉えたりお話を聞いたりという、情報交換を密にしながら活動しておられるイメージを受けます。そのような点が経営方針のあらわれだと理解させていただいてよろしいのでしょうか?
<清水執行役員>
企業ニーズに応えるためにも、しっかりとした「取組み方針書」を作ることを、期の初めにかなり詰めて行っています。その他どこの支店でも「商談管理」を大切にしています。要するに、一人だと担当者が行き詰まることもあるのでグループ部長が間に入り、こういう切り口で攻めたらどうか、あるいは同じような業種でこういうニーズがあるがどうか、といった商談管理を行います。その中で、ただ単純にお金を貸すのではなく、お客様のニーズにあったご提案をしていこうという体制作りをしっかりと行っています。
<澁谷>
私共も、貴行の依頼で企業を紹介させていただくと、後に紹介先の社長や役員の方から、「八十二銀行さんを紹介していただいてよかった」とよく言われます。特に貴行からは、新しいビジネスモデルで注目されている企業を紹介して欲しいとのご依頼があり、じっくり企業を研究されているなという感じがします。
ところが他行さん特にメガバンクの場合では、とにかく新規の件数や収益額にばかり注目した営業が多く、借りてくださる企業に多額の貸付をしてもその後はしばらく訪問さえしないということもあります。ですから業績評価は数や収益だけではなく、中長期的な取引関係を構築していくことが重要です。
<清水執行役員>
ここ数年、当行では業績表彰の中で、「取引先数の増加」という点にあまりウェイトをおいておらず、収益という観点からそれぞれの店にあった活動をするようにしております。私どもも新規企業開拓には非常に魅力がありますが、ただ数を追うだけではなく、次の私どものメイン、サブメイン、あるいは地銀として三番目に入れるポジションをとれる先を開拓するスタイルが、かなり定着してきていると思います。一度限りのお付き合いは、中長期的には何の足しにもなりませんからね。
<澁谷>
企業の経営者側も銀行に対して、安定的な資金供給だけではなく相談相手になってもらいたいという意識がとてもありますね。税理士が経営者の相談相手とよく言われますが、税理士の方は社長の節税対策や会社の経理・税務対策の相談相手にはなります。しかし経営者が悩んでいるのは、将来に向けてどのような事業展開をするかを相談する相手がなかなかいないことです。
以前はメイン銀行の支店長がじっくりと話を聞きましたが、最近は決算報告に行きたくても忙しいと断られます。やはり統合続きで担当数が何百という社数になり、とても全部お話を聞くことはできなくなりました。ですから、相談相手やビジネスマッチングに対する顧客企業のニーズは、とてもたくさんあります。特に、企業経営を取り巻く環境も、これまでのように「とりあえず行動した後で、もしダメなら撤退すればいい」という場当り的でなやり方ではリスクが大きすぎる時代になっていると思います。ですから経営者としてはそのリスクを冒し行動する決断が、本当に正しいのかどうか銀行員に確認して欲しいのですね。
貴行の良いところは、そのような時にお話を聞いていただけるところのようです。どうも他行では、今おっしゃったようなメイン・サブメインを狙っていくという新規開拓は案外少なく、逆に既存先の高すぎるシェアを他行に分散させたいとか、デリバティブの販売、売掛債権を流動化させてくれというような営業スタイルが多いように感じます。
<清水執行役員>
もちろん例えば当行でも、ロットを狙ってシンジケートローンへの参加なども取り上げてはおりますが、未取引企業が持ち込まれた場合は将来相対で取引展開がどこまで行けるのかというようなことを含めて検討し、シンジケートに参加を足がかりに情報を取りながら取引展開を図るという活動を行ってます。それがだんだん繋がっていくんだろうと思います。
<澁谷>
スモールビジネスローンやスコアリング融資についてはどのように取り組んでいますか?
<清水執行役員>
個人については、ご存知のようにまずはアコムとの提携からスタートし、今回は当行独自のスコアリングモデルを作りまして、10月から試行を始めています。今一番課題になっているのは事業性の資金。これは私も携わっていろいろ引き続きいろいろな議論をしています。保証協会やスコアリングは手間隙は非常にかからなくて採り上げは簡単ですが、企業を見る目がそれで将来本当に失われないかということを大変危惧しています。最終的に人が見ますが、5,000万円までスコアリングでやっちゃうとなると・・・企業の見方自体が非常に粗くなってしまうのではないかと懸念しています。
やはりバブルになって初めていろんな企業が倒産するのを我々も経験し、その前はみんな右肩上がりですから、どこでも資金を使ってもらえればいいという営業スタンスが大きく変わりました。ですから、新しい業種を見る目も必要ですが、今お取引している先の動向をウォッチする目を、日々の行動の中で積上げていかないと。
最後に
<澁谷>
最近お客様と接して感じられる変化について教えてください。
<清水執行役員>
お取引先の業況が回復してきているので、とにかく返済をして財務リストラをしたい、というニーズが非常に多く辛いですね。
<澁谷>
中国経済の好調などを受け、少し日本の企業の収益もよくなってきていますしね。
<清水執行役員>
そうですね。ただ一方では企業収益は二極化してきています。メガバンクさんも不良債権処理も目処がついたということですが、地方銀行の場合も特に県外が先に不良債権処理が進んだので、私共の県外のお取引先では今それほど心配する企業さんが少なく、そういう意味ではありがたいなと思います。ですが、ただこういう競争が激しい中ですから、常にしっかりとウォッチしていかないといけない。
<澁谷>
若手銀行員の方々に伝えたいことなどございますか?
<清水執行役員>
私たちの若い頃というのは預金集めから始まり、断られたり失敗したりというなかでいわゆるセールスの基本というのが体に染み付いてます。また先輩行員から怒られたり、いい悪いは別にして、一緒に麻雀したりというコミュニケーションの中で育ってきました。今の若い人たちというのはなかなかそういう団体の中で過ごすことも少ないですし、入行してすぐ「即戦力」と言われてお客さんの前に放り出され、お客さんとのリレーションの取り方というのも教わっていない。苦手という訳でもないのでしょうが、顧客とのコミュニケーションをあまり好まない。したがってお客さんとの付き合い方が非常に表面的で突っ込みがたりない、つまりは人間関係ができていないということを最近特に感じております。そういう意味で、商売の基本というようなところを、もう少し若いときから教育をしていかなければいけないのかなと思います。
それから当行に限らず若手銀行員全体的に明るさや元気さが無い。やはり企業を訪問したときにまず大きな声で明るい挨拶ができれば、人間というのは自然にコミュニケーションが弾みますよね。難しい話じゃないので、この辺を実行して欲しいと感じています。
<澁谷>
バブルの崩壊後十数年の間、銀行と企業の間というのは難しい関係が続きましたのでね。今の35歳より下の方というのは、顧客企業との間で人間的でウェットな関係を経験していないのでかわいそうだなと思う面もちょっとありますね。
<清水執行役員>
ですからなんでもかんでも支店長のトップセールスで、というやり方をしていると若手銀行員は育たない。やっぱり自分で長い間苦労してリレーションを作りあげて行くということを、理屈じゃなくて経験をして身につけていかないと・・・・と思っています。
(2004年 掲載)