第10回 成長企業はここが違う|『借金力』をつけるにはどうしたらよいか
これまで、9回にわたり、銀行員を取り巻く環境の変化を踏まえ、銀行員との信頼関係をどのように構築していくべきか、そして、いざという時にスムーズに資金調達を行うためには、どういった心構え、準備を心がけておくべきなのか等について、お話をさせていただきました。
最後に、第10回では、この激変の時代においても成長を続けている企業、経営者における共通点とは何なのか、についてお話をさせていただき、「借金力をつけるにはどうしたらよいか」という命題で連載してきましたコラムを締めくくらせていただければと思います。
企業の成長力を支える原点は、何よりも経営者です。
経営者が、企業の現状をあらゆる角度から把握し、大局的な世の中の方向性を捉える中で、どこに成長の機会があるのか、そのために現有する企業資源を効率的に活用し、或いは新たな資源を投入するべきなのかを見極め、果敢にチャレンジを行うことだと思います。
つまり、情報力を駆使し、発想力を展開し、決断力をもって、行動力に繋げていくことです。その基本的考え方には、企業家としての「社会的使命」、「社会への貢献」という意識が軸に据えられているということだと思います。
そして、その経営者の考え方を、明確なビジョン、経営理念として掲げ、経営方針、行動指針に落とし込み、強いリーダーシップのもとで社員への企業意識を高め、ひとつのベクトル(目標)に向かって、一致団結したチームワークを形成して挑戦を続ける企業集団、これが成長企業の姿ではないでしょうか。
この成熟化社会においては、大量生産⇒大量消費、大規模展開⇒効率販売、という時代ではなくなってきています。
また、顧客嗜好の移り変わりが激しい中で、安易に市場ニーズだけを鵜呑みにして、商品・サービスを提供したとしても、時間の経過に伴い、時代遅れの商品を世に送り出す結果を招くことにもなりかねません。
今の時代においては、潜在的なニーズ、変化を捉えた新たな市場をしっかりと認識し、そこに、果たして社会的な意義が認められるのかどうか、企業の強みを十分に発揮しえるのかどうか等を十分検証し、他社との競争にも耐えうる市場を開拓していくことだと思います。
例えば、新規ビジネスの成功のキーポイントとして、以下の3点が挙げられると思います。
1、社会構造の変化、弊害を招いてきた規制の緩和等による新しいビジネスの創造。
たとえば、人口構造の変化、高齢化による介護保険の創設を受けたシニアビジネスや、環境問題への世界的な取組に伴う環境関連ビジネス、海外製品により脅かされてきた食品の安全問題に対し、国内自給率低迷に対する危機意識の醸成と日本ブランドへの安心感の強まりにより、俄然注目されてきた農業ビジネスなど、「社会に求められるもの」という共通項の中で、「安全、安心、環境、介護、福祉、教育、農業」といった分野が挙げられると思います。
たとえば、「和民」チェーンで知られるワタミフードザービスは、食の安全に対する企業責任の追求から、農業経営に参入するほか、介護施設での食に対する不満を改善するべく、介護事業にも参入し、自社グループで生産する安心安全食材をグループ企業に提供することにより、農業ビジネス、介護ビジネスを大きなグループの柱に育て上げてきています。
2、新たなビジネスモデルによる市場価値の創出。
たとえば、ヤマト運輸の宅急便、楽天の楽天市場、セブンイレブンのコンビニエンスストア、アスクルの文具の翌日配送など、これらに共通することは、すでにベースの市場があるものの、そこに無駄があったり、サービスに閉塞感があったり、不便さがあったりといった、従来のビジネスモデルと社会のニーズにズレが生じてきている局面を捉え、パラダイムシフトを起こしたものであるということであり、そうすることで、ズレを解消し、顧客の流れを大きく変えることに成功した事例といえるでしょう。
3、逆境をチャンスにかえる発想力。
たとえば、エヌシーワークスという電子部品メーカーは、この金融危機の影響による受注の大幅減による製造ラインの稼動低迷という逆境を、電子部品という精密機器を制作していた技術力を生かし、高い精度を要求される手作り菓子の製造ラインに切り替え、新規ビジネスに展開するという発想の転換を行い成功を収めています。
以上のように、1では、先に述べた、「安全、安心、環境、介護、福祉、教育、農業」といった時代の新たなテーマが、2では、顧客の利便性、3、では、雇用の維持・確保といった、それぞれにおける「社会的使命」へのあくなき追求が、結果的に成功の鍵になっていることがわかります。
尚、繰り返しになりますが、これらの成功は、一瞬の判断で成功に導かれたものではないはずで、経営者が、常に高いアンテナを張り巡らし、改革、改善の機会を窺う貪欲な経営意欲と、それによって導かれた新たなビジネスチャンスを実践する能力を備えることで、初めて実を結ぶものです。
また、経営者一人で実現するものではなく、経営者のそうした感覚を敏感に嗅ぎ取り、瞬時に経営者のベクトルに同調できる従業員を育成しておくこと、つまり企業内での信頼関係の構築こそが、最大の成功の鍵であることを忘れてはなりません。
(2009/9/18 掲載)