第4回 銀行から借りるために銀行の企業格付けを知る|『借金力』をつけるにはどうしたらよいか
これまで3回にわたり、金融危機を引き起こした原点ともいえる金融構造の変化(資金不足から資金余剰)および、金融危機が銀行の経営にどのような影響を与えてきているのかについてお話させていいただきました。 今回は、銀行が企業を客観的に判断する指標として利用している格付けについて、そのロジックをお話させていただきたいと思います。
バブル以前から、銀行は企業に対し格付けを付与していましたが、精緻なものではありませんでした。財務データを使い、銀行独自のロジックに落とし込んだものに、定性的な(例えば規模や業界特性など)判断を加味するという基本的な考え方は変っていませんが、かなり雑駁な区分けをしていました。 また、不良債権という定義も不明確でしたし、最終的に担当者や支店長などの裁量で判断されていたケースが多かったと思います。
しかし、現在では、銀行の健全性を担保するために、銀行の持つ債権を厳格に評価することが求められ、各銀行は、格付けを精緻化するほか、金融庁のマニュアルに沿って自己査定を実施し、貸出先ごとに債務者区分を決定しています。 格付けについては、別表1のような区分になっています。
正常先については、正常先の中で、いくつかの細かい格付けに分類されます。 格付け作業にあたっては、まず、業種ごとに定量的なモデルを用います。例えば、流動比率(現預金などの流動性の高い資産(流動資産)÷総資産)や自己資本比率(自己資本÷総資産)といった財務の健全性を測ったものや、経常利益率(経常利益÷売上高)やインタレストカバレッジレシオ((営業利益+受取配当金+受取利息)÷支払利息)等の収支の健全性を測ったものなど、いくつかの指標を組み合わせて企業評価を数値化します。これに、定性的な要因、例えば、市場の成長性、業界地位、金融機関取引状況などを勘案して格付けを付与します。
格付けの見直しは、決算データが更新された場合など、定期的に行われるほか、格付会社による外部格付けが変更になった場合や、業況に大きな変化が生じた場合など、信用力に変化が生じた場合、随時見直しが行われます。 また、格付けごとに、それぞれ信用コスト(企業の倒産確率を金利コストに織り込んだもの)が決められており、企業が借入を行う場合、銀行は、市場金利にこの信用コスト分と銀行の収益分を積み上げて金利を決定します。尚、担保がある場合は、この信用コストが担保の割合に応じて、軽減されるのが一般的です。 つまり、格付けが良ければ、信用コストは低くなり、借入金利も低くなる反面、悪くなれば、借入金利もどんどん引き上げられることになります。
特に、正常先の下位の格付けから要注意等へ下がるに従って、信用コストは乗数的に高くなることから、業績が大幅に悪化した場合などは、新たな借入を行おうとした際、従来の金利に比べ、とんでもない金利を提示されることもあり得るわけです。 また、気をつけなければいけないのが、格付けが過去3年のデータをベースに判断されているということです。足元の業績が急速に回復していたとしても、あくまで決算ベースのデータに基づいて判断されることから、業績回復途上の企業に関しては、足元の業績が格付けに十分反映されにくいシステムになっています。一方で、業績が急速に悪化するような場合には、先ほどお話した随時見直しによって、格付けを適宜引き下げるという、一見不公平とも思えるロジックをとっています。 債務者区分については、別表1の定義が基本的な考え方ですが、実際は、さらに精緻な財務状態の分析に基づいて決定されることになります。
別表2をご覧ください。まずは、実質自己資本(決算書をベースに含み損益を加減した自己資本)と損益、キャッシュフローのマトリックスから債務者区分を判定します。さらに、債務償還年数が妥当な水準かどうかといった観点からも判定を行います。正常先と判定されるためには、このマトリックスの正常先の分類項目を原則全て満たす必要があります。但し、実際は、親会社や金融機関などの支援状況など、企業の実態を十分勘案した上で判断することになります。また、中小企業の場合には、金融庁が出しています金融検査マニュアル別冊「中小企業融資編」に詳細が記載されていますが、財務内容からだけでなく、企業の技術力、販売力、成長性、代表者報酬の支払い状況、収入状況、資産内容、保証状況、保証能力の有無など、総合的に勘案して判断する必要があると金融庁は指導しています。また、金融庁は、金利減免や返済期限の延長などの条件緩和について、従来不良債権に分類される要管理債権以下と判定することを原則としていましたが、そうした場合においても、不良債権としない取扱を拡充しています。
特に、この金融危機が表面化して以降、金融庁は、査定ルールに基づいた厳格な債務者区分判定から、企業の実態をより反映し、客観的視点に基づいた判定に大きく修正してきています。
中でも、中小企業に対する査定については、代表者の状況、企業の成長性や技術力といった定性的な部分をより重視し、表面的な判断のみによる判定ではなく、多角的視点から柔軟に判断をするよう指導しています。
つまり、昨今の情勢を反映して、銀行としても、従来よりも緩やかな判定をすることが可能になってきているということです。但し、経営者は、定性的な部分、つまり、自社の強みが何なのか、また自社のおかれている業界の状況がどうなのか、今後どういった戦略を考えているのか、また、新製品、新技術の開発を計画しているのであれば、その製品、技術が業績にどれほどの効果を及ぼすのか、など、積極的に銀行に対してアピールを行い、理解を得ておくことが肝要かと思います。例えば、技術力があると銀行が判断するためには、製造業の企業であれば、工場や研究施設などを見学してもらい、どういった製品を製造しているのか、どのような新製品を企画しているのか、また独自の技術や販売チャネルの優位性などについて、経営者自ら銀行に対し説明し、十分な理解を求めるよう日頃からコミュニケーションを密にするよう心がけておくべきです。
以上のように、格付けや債務者区分について、原則的には厳格なルールが定められていますが、最終的な判定は、従来以上に現場(つまり担当部署)の判断が重要になってきています。継続的に安定した借入を行うためには、今回説明をいたしましたロジックを十分理解した上で、銀行の担当部署の方々とのリレーションを、今まで以上に高めておく心がけが重要だと思います。
(2009/8/7 掲載)