第6回 借りるための事業計画|『借金力』をつけるにはどうしたらよいか
今回は、銀行から資金を調達するためには、どういった事業計画が求められるのか、事業計画における、重要な諸項目についてお話させていただきたいと思います。 まずは、第5回でも申し上げました通り、経営者と銀行員の視点はかなり違いますので、貸し手である銀行員の視点にたって計画を策定することが重要です。 そういう意味では、事業計画だけにスポットを当てるのでなく、銀行の内部で決裁を仰ぐステップを想定した資料作りを心がける必要があります。 銀行員は、2、3年で異動するのが通常ですので、たとえ銀行との取引が長いとしても、本部の審査部門から支店の担当者までの関係者を考えれば、だれかは企業を初めて見ているのだと認識しておくべきでしょう。つまり、会社の設立の経緯や、経営者の履歴、組織体制、過去の実績など、銀行の融資稟議に求められる事項をすべて網羅した事業計画を作成しておくと、非常にスムーズに銀行内での手続きが進むものと思います。
一般的には、次の流れと認識してください。
【1】会社概要(1.資本金、役員、本社所在地など、会社案内に相当する事項、2.沿革、3.組織体制、4.当社の理念、特徴、戦略など)
【2】業界事情(1.業界の現状、特徴、2.業界の抱える問題点、3.今後の展望、4.斯業界における当社の位置付けなど)
【3】業績推移(1.B/S、2.P/L、3.キャッシュフロー、4.銀行取引状況、5.販売先、6.仕入先、等の推移(できれば3-5期分とし、変動要因については、適宜説明を付記)
【4】事業計画(1.事業計画の概要、2.事業計画のB/Sへの影響、3.P/Lへの影響、4.キャッシュフローへの影響など)
【1】については、まずどういう会社なのかを簡潔にまとめることが重要です。沿革については、単に創業からの時系列の流れを並べるのでなく、これまでの歴史をいくつかの時代に分けて、例えば1.創生期、2.変革期、3.拡大期、4.転換期などに分類して示すことで、更に時代背景や、大枠の流れが把握しやすくなります。また、企業理念、特徴、戦略といったものは、企業文化を読み取る上で最も参考になるところであり、銀行として、その企業との取引意義を明確にする上でも、非常に重要なポイントとなります。
【2】については、全体の業界の流れを把握することが趣旨となります。銀行においても審査部や調査部といった部署で把握はしていますが、企業サイドにおいて、どう捉え、どういう問題意識を持っているのか、それが銀行の考え方と合致しているのかどうか、また、当社の立ち位置がどこにあるのか、といった点を整理する上で必要な項目です。
【3】については、銀行が最も重視するところです。
銀行の企業評価の80%はここで決まるといっても過言ではありません。
つまり、ここを丁寧に説明できるかどうかによって、銀行員の事業計画に対する評価に大きな差が生じるといっていいでしょう。
できれば、過去3-5期分の実績を項目ごとにビジュアル化し、グラフを使って流れを把握しやすくすることも一案です。項目によっては、大きく変化しているところも出てきているはずです。単なる数値の変動だけでなく、財務分析指標(例えば、流動比率(流動資産÷流動負債)、売掛債権回転期間(ヶ月)(売掛債権÷月商)など)にも大きな変動があった場合には、なぜそうした事態が生じたのか、適宜コメントを付記することが肝要です。特に、売上や利益が減少傾向にある、自己資本が脆弱である、売上規模に対する借入規模が過大、不明瞭資産がある、等の場合には、十二分に銀行に理解してもらえるような丁寧な説明が必要です。特に新規事業計画、新規設備投資計画など、新たな借入が発生する場合には、なぜそうした投資が必要なのか、計画の確実性が認められるのかどうか、など説得力のある資料策定が必要になってきますので、現状認識が曖昧であれば、銀行としても結論が出せないまま時間が経過することになりかねません。また、銀行取引の安定性も重要なポイントになります。メインバンクがない、取引銀行が期毎に変わっている、といった場合、新たに取引をしようとする銀行の場合には、今後の資金調達に不安があるとして消極姿勢にならざるを得ません。これらの3点をきっちり整理し、現状に問題ないと認められてはじめて、事業計画の検証に入っていくのが通常の流れです。
事業計画においては、先ほど述べたとおり、新規の借入が発生する場合には、どういう理由なのかをまず明確にする必要があります。
新規事業なのか、売上増加に伴う前向きな運転資金なのか、資金繰り逼迫のための後ろ向きな運転資金なのか等、資金使途の明確化です。
また、事業計画と、これまでに説明した、業界事情、過去の実績とが整合性を持って結びつくのかについて簡潔明瞭に説明する必要があります。 また、その事業計画の規模、事業計画による財務(B/S、P/L)への影響がどの程度なのか、更に事業計画に要する資金の調達方法、規模、返済スケジュールに無理がないのかどうか等、いわゆる事業計画自体に妥当性が認められるかどうかです。 やみくもに実行ありきで走っていないか、身の丈にあった計画であるのかどうか、また返済ピッチに無理がないのかどうか、ある程度余裕をもった計画である要があります。
さらに、銀行は、企業の想定するシナリオをそのまま容認することはないと考えておくべきです。常に、想定外の結果(悪いケース)を視野に入れた分析を行います。 つまり、企業は、メインシナリオを描きながらも、リスクシナリオも準備しておく周到さが求められます。
例えば、5年後に借入金を返済するとすれば、一般的には5年間の事業計画を策定することが求められますが、リスクシナリオでは、5年後の返済がギリギリ履行される水準、つまり現金が枯渇する水準のシナリオを描いておきます。
そうすれば、そのシナリオが銀行返済を滞りなく行える下限ということになりますので、銀行は、このケースに対してどういうトレンドで実績を上げてきているのかをモニタリングすることで、事業の継続性の可否を判断できるわけです。
もし、このシナリオを下回るようであれば、銀行は、撤退も視野に入れつつ、コストの削減、或いは売上改善に向けた施策等を求めてくることになります。
こうした備えをしておくことで、企業が銀行員の目線でシナリオをしっかりと描き、リスク管理意識が徹底されていると評価されるでしょうし、銀行としても、適切なアクションが取りやすくなることから、事業に対する安心感にも繋がってくると思います。
また、現金水準だけでなく、P/Lが赤字にならない水準をもう一つのシナリオとして準備しておくと万全でしょう。銀行は、基本的に赤字になった場合、要注意先という目線で企業を評価します。つまり、資金繰の観点(現預金水準)とP/Lの観点(収益)から、リスクシナリオを作成しておけば、このシナリオが銀行と事業再検討を行うメルクマール(判断基準)として合意することも可能であり、企業がこれに合意すれば、その明確な意思をコミット(誓約)したとして、事業推進を後押ししていただける大きな材料にもなるわけです。
以上の通り、事業計画を策定する場合には、よどみない流れを作り、事業計画の内容のみならず、企業としての信頼感を醸成させるチャンスとして、十分に練りこんだ資料を準備されることをお勧めいたします。
(2009/8/24 掲載)