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第9回 借金力=自社を知ること|『借金力』をつけるにはどうしたらよいか

著者:リッキービジネスソリューション株式会社 代表取締役 澁谷 耕一

今回は、借金力をつけるといくことは、自分の企業を客観的に評価すること、言い換えれば、「自社をあらゆる角度から分析し、自己評価を行うことが重要であるということ」、についてお話したいと思います。

第6回の「借りるための事業計画」とも重複するところもありますが、客観的な観点から自己分析を行い、自分の実力を知り、その実力に合わせた借入形態、借入規模等を知っておくということです。
自己分析を行う上でのポイントを整理してみましょう。

1、自社の業界事情、業界内でのポジショニングを知る。

銀行が融資を検討する際には、殆どの銀行は、その企業の業界事情につき、過去、現状を踏まえ将来的にどのような状況が想定されるのかといった業界分析を行い、当該企業を取り巻く業界環境を評価します。
加えて、その業界におけるポジショニングがどこに位置するのか、強み、弱みはどこにあるのかといった点について、財務指標に基づく定量的な分析に加え、経営能力、商品開発力、ブランド力、展開力等といった定性的な分析により評価を行っています。 つまり、経営者として満足のいく自己評価であったとしても、業界全体や、地域内での相対比較において他社に劣後する場合には、各社から資金ニーズが同様にあった場合、経営者が考えるよりも不利な条件提示がされる可能性もあるわけです。 つまり、経営者としては、直接、銀行から定期的にこうした情報を入手するか、関連資料(例えば、中小企業庁が発行している「中小企業の財務指標」等)から客観的データを入手する等、こうした事態に備えておくことが必要です。

2、自社の「強み」をアピールする。

1、でも、自社の強みを押さえておくことの重要性を申し上げましたが、これを自己満足的に認識していても、銀行が同じ認識をしているとは限りません。
つまり、自社の持つ強みを、客観的なデータ等から、積極的に銀行にアピールすることが重要です。「長年の取引だから分かってもらっているはずだ。」と高を括っていると、後で後悔することにもなりかねません。
銀行員は、2-3年で担当が替わることが通例ですし、経営者と同等の専門知識も備えていません。そこは、「当社は○○といった理由から価格競争力が他社に対して優れているんだ。」など、銀行員に理解を得やすいようにアピールしておくことが必要です。

3、P/L(損益計算書)だけでなく、B/S(貸借対照表)にも強くなる。

企業経営者の多くは、P/L、中でも売上について、多くの関心があり、数字の中身についても良く理解をしているものの、B/Sについては、あまり関心が強くなく、内容に疎いといった傾向が見られがちです。
一方で、銀行員は、P/Lよりも、どちらかというとB/SやC/F(キャッシュフロー)を重視する傾向があり、B/SやC/F(資金繰りの状況)について、経営者がどの程度理解しているのかをチェックしています。
B/Sは、これまでに積み上げてきた企業業績の集大成であり、その通信簿とも言えますので、銀行は、その通信簿の中で、どこに弱点があるのか、中に隠された不明瞭な資産が隠れていないのか隅々までチェックを行い、表面上の通信簿から、回収不能の売掛金、長期的に凍結状態となっている貸付金、時価と乖離している有価証券、不動産などを修正し、実力ベースでの通信簿を評価します。
C/Fにおいても、今後、本業収益から予想される営業ベースでの資金供出力と、投資計画、調達・返済計画がバランスしていくのかどうか、資金繰りに問題がないのかどうか、注意深く確認をしていきます。
この点を十分に認識し、自社の実態ベースの通信簿や資金繰りを常に意識しておくよう心がける必要があります。

4、P/Lでは、売上、収益、コスト構造を押さえておく。

経営者の中には、売上が伸びており、利益も確保できていれば、あまり心配がないと思っている経営者も見受けられますが、売上においては、商品構成別に、単価、数量がどういう推移をしてきているのか、そこに問題が潜んでいないのか、経費については、同業他社と比較して異常値がないのかどうか、そうした問題がある場合に、それを問題と捕らえ、適切な改善施策を検討しているのか等、銀行員は、あらゆる角度からデータを分析し、経営者に質問を投げかけてきます。
その場合、的確な回答ができなければ、「この経営者は、どんぶり勘定で事業を行っており、潜在的なリスクがある。」といった評価を与えかねません。
決算書の数字は、あくまで最終形の数字であり、個別の事業の収支の積み上げであることを認識し、常に、個別の取引や費用項目において、問題点が内在していないかどうか、チェックを怠らないようにするべきです。

以上の4点を押さえておけば、「この経営者は、企業の実態を良く分析し理解しており、万が一、突発的な問題が生じたとしても、適切な対応ができる管理を行っている。」との評価を受けるはずです。そうすることによって、銀行からの信頼感も高まり、融資を受けるにあたっても、「この経営者は、企業の内容を十分踏まえた上で、適切な借入を行おうとしているはずだ。」という安心感を与えることになり、いざという時においても、その信頼をベースとして安定した資金供給の提供が受けられることに繋がります。
更に、そうした信頼関係が出来上がれば、銀行も提案に際して、銀行都合による無理な要請もしにくくなりますし、企業にとって実のある、有効な提案が常に持ちこまれることに繋がってくるはずです。

(2009/9/11 掲載)