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北國銀行 安宅建樹 頭取インタビュー

お客様中心の発想で真に価値ある銀行へ

聞き手:リッキービジネスソリューション(株) 代表取締役 澁谷 耕一


▲ 北國銀行 安宅建樹 頭取

<澁谷>

御行の特色、強みをご説明ください。また、営業エリア(石川県、富山県、福井県)の特色についてもご説明ください。

<安宅頭取>

当行は、昨年65周年という節目の年を迎えましたが、創業以来、地域密着を事業の柱に据え、健全経営に徹してきました。行員バッジに象徴されるシンボルマークは、北國銀行のイニシャル"H"をモチーフとして、北國銀行の創造性、信頼性を表したブルーの楕円と豊かな自然と文化を持つ地域社会を表したグリーンの楕円をオレンジ色の力強いストロークで繋ぎ、地域社会との信頼の架け橋になれるようになりたいとの強い思いが込められています。反面、健全経営に徹するあまり、慎重すぎる経営を行ってきたことへの反省もあり、創業精神に今一度立ち返り、健全な財務内容を基盤に地域産業の活性化をバックアップしていきたいと考えています。
本店を構える金沢市は、今年1月19日に「歴史都市」第1号として認定を受けました。また、藩政期からの工芸技術の高さと新たな産業、文化創造への取組を踏まえ、ユネスコの「創造都市ネットワーク」のクラフト(工芸)分野で登録申請に動いています。私が副代表幹事を務める金沢経済同友会が中心となり、「城下町金沢の文化遺産群と文化的景観」と「霊峰白山と文化的景観」の世界遺産への登録運動を行うなど、世界に向けた仕掛けを地域をあげて推進しております。そうした中で、金沢経済同友会において発足しました「企業市民宣言の会」にも参画し、地域と共に地域を活性化していこうという思いを強く持って日々活動を行っております。とにかく、「地域」というキーワードを強く意識し、それを具現化していくのが我々の務めであると考えています。
具体的には、昨年度県経済全体の活性化を目的に「いしかわ産業化資源活用推進ファンド(略称:活性化ファンド)」を国からの100億円、県からの20億円に加え、当行が80億円を拠出し立ち上げました。
このファンドの運用益が10年で20億円強見込まれることから、運用益を助成金として活用し、新たなビジネス創出の支援、農商工連携産業の創出、医商工連携産業の創出に総力を挙げて取組んで行きたいと考えております。
また、CSR活動を中心とした社会貢献活動の重要性を謳い、積極的にさまざまな地域交流事業に携わってきています。支店においては、「地域の中で何ができるのか」を考えさせ独自のアイデアを出させ、自主的に地域への参加を促すようにしています。更に、地方は少子化、人口減少という、ある意味では環境問題よりも深刻な状況に直面しています。そんな中、「子供」を重要なキーワードとして、子育て支援や子供向けの金融教育を実施しています。金融教育では、今の日本の子供達は、働くことで糧(おこずかい)を得るという経験をせず、甘やかされて育ってきているとの思いから、お金の大切さを子供達に理解してもらい、働く意味を植え付けたいと思っています。
営業エリアの特徴としては、北陸3県の経済シェアは全国の3%、石川県で1%という非常に小さな地域ではありますが、ものづくりの優れた技術力が集積している地域です。加賀百万石の時代から、前田家は徳川家から睨みをきかされていたこともあり、武力でなく伝統工芸といった技術力に力を注ぎ育ってきたという歴史があります。つまり、ものづくりへのこだわりは非常に強く機械工業が盛んな地域です。日本工作機械工業会の会長企業である中村留精密工業㈱を始めとする工作機械、コマツに代表される建設機械に加え、全国の9割以上のシェアを誇る回転寿司コンベア機械やボトリングシステム、豆腐製造機械などのニッチな分野でのトップ企業が多いことが特徴です。回転寿司コンベア機械は、地域の食文化と従来の製造力がうまくマッチした結果かもしれませんね。尚、ニッチトップ企業は50社を数え、全国でも東京、大阪に次いでいます。また、デリケートな作業を要するコンピューター用モニターについては、加賀友禅の時代からの色彩に対するこだわりかと思われますが、㈱ナナオのディスプレイは世界一との評判です。こうした比較的資金需要の高い産業を抱えていることもあり、金融機関にとりましても、これまで預貸率の高い地域(2008年9月期約76%)として恩恵を受けてきました。しかし、今般の金融危機においては、その影響が比較的大きい地域と言えるかもしれません。

<澁谷>

安宅頭取の目指す御行の将来像、ビションについてお考えをご説明ください。

<安宅頭取>

頭取に就任してまず最初に感じたことは、スピードこそがお客様に対する最大のサービスであり、問題を先送りせず決断することが顧客サービスに繋がるということです。
スピードを出すためには、まずコミュニケーションを良くすることが重要であり、最初に着手したことは、役員間、役員とマネージメントクラス、支店内での会議を頻繁に行うよう指導しこの2年半改善を図ってきました。
それから、行員には、センスのある行員になってほしい。感度の高い、センシビリティをもった人間になってもらいたいと思いました。感度の高い行員とは、おしゃれなんですね。
服装だけでなく、心の中から、言葉に至るまでセンスを高めることが、感度の高さに繋がる訳です。服装では相手に不快感を与えない服装。支店で玄関にごみが落ちていればそれを片付けて万全の体制でお迎えしようという姿勢でしょうか。
また、後継者がいなくなって困っているというお客様がいらっしゃったとしましょう。それをお客様から言われる前に、会話の中からそのニーズを掴んで事業承継やM&Aといったお手伝いに結び付けていく。つまり、これが感度の高さであり、行員一人一人がこうしたお客様のニーズを感じ取れる、そういう銀行になりたいと思っています。

<澁谷>

頭取のメッセージの中で、情報収集力を高め、お客様の立場で考えることは、行員が提案力を磨き、質を高めていく上で不可欠な要素とおっしゃっておられますが。

<安宅頭取>

厳しい経済情勢の中で、行員に言っていることは、お客様の現状を把握し、まめにお客様のもとへ伺いなさいということです。感度は動かなければ磨けません。話を聞いていく中で、感度のいい人間として成長し、お客様の要望にもスピード感をもって対応していけるのだと思います。
また、これまでボリュームを追った経営、投資信託などの新規商品の出現による新規獲得偏重の経営を重視してきたあまり、既存のお客様と継続してお取引いただくことや、取引の小さいお客様との関係を維持していくといったことを疎かにしてきたことは、非常に反省すべき点であります。現在作成中の中期経営計画では、原点に立ち返って、例えば、既存顧客の継続率や金額偏重によらない評価基準等を取り入れることにより、多くのお客様にファンになっていただき、永久に当行のファンでいただけるような施策を打ち出していきたいと考えています。

<澁谷>

中期経営計画「スリー・ステップ・アップ2009」の最終年度となりますが、その成果と課題についてご説明ください。

<安宅頭取>

数値的には、自己資本比率を除き惨憺たる結果となり残念ではありますが、努力してこなかったということでなく、色々な要因が重なり合った結果だと思っています。その中で、スピードアップという第1段階については、ある程度お客様からお褒めの言葉をいただけるようになりました。
また、いろいろな施策を実現していくことについてはある程度達成できたのかなと思います。今後は、現状認識をしながら、次の中期経営計画に結び付けていきたいと考えています。
古い殻を破っていくという意味では、この3年はいい試みができたと思っています。
例えば、旧態依然とした考え方であった総務部を廃止し総合企画部に組み込むことによって、銀行との方向性、スピード感が一致してきました。これまで店舗出店に際しての店舗設計において、マンネリ化、ワンパターンといった考え方で進めていた感がありました。しかし、総合企画部内に組み込むことで、経営者の声が聞こえてくるようになり、経営者の視点で物事を考えていくという風に変わってきました。これまで、業者任せの部分が多かった店舗設計が、支店のコンセプトに合わせてこちらから業者に投げかけていくというスタイルに変わってきており、まさに経営者の考え方が店づくりに生かされるようになってきています。
現在、金沢では武蔵ヶ辻地区の市街地再開発が進んでいます。これは金沢市民が注目しているプロジェクトですが、その中に、北國銀行創立時本店であった建物があります。この建物は、昭和を代表する建築家の一人で文化勲章受賞者村野藤吾氏の現存する数少ない初期の作品です。「曳(ひ)き家」作業を行い、この4月に新装オープンします。1階フロアに店舗と和風カフェ、3階フロアではアートの発信基地として様々な催しを行なっていきます。これも、総務部を総合企画部内に組み込んだことで新たな店づくりが行なえるようになったと思っています。
システム部についても、一旦廃止して総合企画部内に組み込み、利害関係のない企画の人たちに見てもらうことで、色々と問題点が炙りだされ、非常に効果があがり体制を一新することができました。また、旧来はシステム屋という意識が強かったのですが、企画に組み込むことで、"私も銀行の中枢でやっているんだ"という意識付けを彼らに行い、非常にモチベーションが高まったと思っています。正直、システムというのは銀行の心臓部であり、私も毎朝、システムが正常に起動しているのか確認できないと落ち着きません。こうした意識改革も行えたことから、1年前にシステム部を復活させています。
この抜本的対症療法を行ったことで、銀行の体制整備はかなり進んだと思っています。

<澁谷>

法人営業戦略と個人営業戦略について、ご説明ください。

<安宅頭取>

法人戦略は、基本は「お客様のニーズ」、「地域の発展」をキーワードにおいて、あらゆることをやっていきたいと思っています。
企業再生サイドでの財務支援、アドバイスという役割は従来より果たしてきていますが、本来お客様が求めており、最大のニーズがある売上サイドでの支援については、十分なサポートができていないことにジレンマを感じていました。そこで、北陸3県の地銀3行でFITネットという業務提携事業を立ち上げ、ビジネスマッチングの機会を提供する商談会を実施し、最近では東海地方からも出店いただいております。ここ3年で取組の成果が出てきており、今後もお客様の売上向上にむけたこうした取組に力を注いでいきたいと思っています。
また、お客様のニーズに応えるための人材育成も必要であり、個人部門も含め、常時10名程の行員をメガバンク等にトレーニーとして派遣しています。彼らには、401Kや事業承継等のプロとして戻ってきてもらい、本部渉外という専門部隊に据え、感度を高めた支店行員と同行することで、お客様の支援を行っていくという体制を作っていきたいと思っています。支店長、支店行員の感度には、まだまだばらつきがありますが、徐々に行員のレベルアップは図られてきており、ソリューションビジネスにおける充実度は着実に前進していると実感しています。トレーニーの対象者は、30歳から35歳で業績表彰を受けた、吸収力が最も高く、支店の戦力である人材です。トレーニー派遣期間は人繰りも大変ですが、彼らが戻ってきてからは、貴重な戦略として目覚しい成果をあげてくれています。
一方、個人部門については、彼らに加え女性が重要です。
特に、店頭ビジネスが重要な部門である中で、お客様のニーズも多様化してきており、窓口のレベルアップが喫緊の課題です。窓口リーダーを育成し、リーダーが周囲に影響を及ぼしていくことが大切です。複数の生損保にお願いして窓口リーダーに研修を行ってもらっており、応対力、販売力において効果が現れてきています。
今年度、年金保険の獲得に関しては、従来主力であった渉外営業を逆転し、店頭で60%を獲得するまで力をつけてきています。
また、当行は石川県唯一の地銀であることから来店客が非常に多いです。これは店舗営業の効果が大きいことを意味しています。そこで、現在リテール店舗では、電話セールスによりご来店いただいた上で、じっくりと金融商品をセールスする態勢を整えてきています。

<澁谷>

2006年に頭取に就任されてから、安宅頭取が最も力をいれてこられたことはなんでしょうか。

<安宅頭取>

残念ながら、サブプライムローン問題の影響でややトーンダウンしてきていますが、一番やりたかったことは、行員には銀行という職業に誇りをもってもらい、また誇りを持てる銀行にしたいということでした。 その裏には、コンプライアンスを含めて地域、お客様に対する責任感を持つということがあるわけです。
昔は、行員各自がプライドを持っており、お客様からも尊敬されていた時代であったわけですが、バブル崩壊以降、バブルの責任が銀行であるという銀行バッシングを受け、銀行員としてのプライドが落ちてきている気がしています。 しかし、銀行は社会にとってなくてはならないものであり、誇りを持ってやるべき仕事だと思っています。
我々は、お客様の命の次に大事なものを扱っているんだということを最近の行員は忘れかけていると思います。
私が頭取に就任した時は、当行が不祥事続きにより業務改善命令を2回受けた後であったこともあり、行員が自信を失っているという気がしていました。そこで、誇りをもって、そして責任をもって仕事をしてほしいと、全行員に対し就任挨拶をいたしました。
また、今年度は厳しい決算を受けて、行員に疲弊感が見られることから、3月、4月に 各地域を回り中期経営計画の説明会で、改めて銀行員として果たす役割の大きさ、誇りと責任感をもって仕事をするように訴えていくつもりです。
例えば、通帳ひとつとっても、魂を込めて取り扱っているのか。通帳は、お客様の命の次に大事なお金が記録されたものなんだと肝に銘じなければなりません。また、誰のお陰で飯が食えているんだということ、つまりお客様に対する感謝の気持ちが大切です。こういったことを意識することで、頭の下げ方ひとつ変わってくるはずです。
残念ながら、まだまだ、お客様第一という意識がない行員もいます。ある年金の日の出来事ですが、年金を受け取られる方々はあまりATMを使わず、また感謝デーとして品物をお配りしたりすることから、店頭が混雑します。ある支店では、渉外担当を窓口応援に回し緊急体制を敷いて対応した結果、思いのほか早く対応していただいたとのお褒めの言葉をいただきましたが、別の支店では、従来と変わらない体制で対応した結果、待ち時間が長いとの苦情を頂戴いたしました。こうした臨機応変な対応ができるかどうかが、まさにお客様目線で対応するということではないかと思います。
どうしても銀行員が考えたお客様目線になりがちですが、そうではなく、どうやってお客様目線にまで落としていくかということが大切なんです。
ただ、支店を廻っても、頭取である私には残念ながらいい話しか聞こえてきません。支店の本当の現状を知るというのは難しいことなんですが、4月には支店支援部を立ち上げ、是非お客様の生の声を入手していきたいと考えております。

<澁谷>

御行の女性行員、若手行員に対して、期待されていることはどのようなことでしょうか。

<安宅頭取>

女性行員は、戦力として銀行業務における重要性が益々高まってきていますので、女性の働きやすい職場にしていきたいと思っています。平成18年8月には「Women's style」を発足させ今は2期目なりますが、現在15名がそのメンバーとなり、色々な女性の声を吸い上げ、女性の活躍の場を広げるべく活動を行っております。先日も役員との意見交換の場を持たせていただきました。私としては、女性の方々にも多くの機会を提供し、益々成長していただきたいと願っています。
若手行員にも、とにかくチャンスを与えていきたい。私は4年間ニューヨークに駐在していましたが、その時色々な人々と出会い、多くの人的な財産、経験をいただきました。 特に、人脈という財産は何にも代えがたいものです。 是非、多くのチャンスを生かして、成長してもらいたいと思っています。

(2009/02/10 取材 | 2009/02/27 掲載)

金融機関インタビュー