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埼玉りそな銀行 上條 正仁 社長 インタビュー

お客様の期待にこたえる地域におけるリーディングバンクとして、埼玉県の経済成長を支える銀行

聞き手:リッキービジネスソリューション(株) 代表取締役 澁谷 耕一

■地域のリーディングバンクとしての存在感を示す

<澁谷>

埼玉りそな銀行の沿革、強みについてお聞かせください。また、営業エリアの特色についてもお聞かせください。

<上條 社長>

 当社は、平成15年3月に旧あさひ銀行の埼玉県内の営業基盤と人材を受け継ぎ、新しい銀行として営業を開始しました。設立の経緯については、一般的に生産性を高めるために企業再編・統合を進めるケースが多い中で、あさひ銀行という一つの器を2つに分け、一つは大和銀行と合併し、もう一つを埼玉りそな銀行という新しい器に分割するという非常に稀なケースであったと思います。

 そもそも、埼玉県の経済規模は都道府県別にみると全国第5位です。また、大手行が中心的なプレイヤーとなっている東京都、大阪府、愛知県を除いた、地域金融機関が存在感を示すことのできるエリアとしては、神奈川県に次ぐ全国で2番目のマーケットということになります。そこで我々は、埼玉県のリーディングバンクとして一定のシェアを確保していけば、地域金融機関トップクラスの業績を目指すことができると考えました。これが埼玉りそな銀行が設立されることになった理由のひとつです。

 埼玉りそな銀行を設立するにあたり、地域に根ざした銀行、つまり「リレーションシップバンキング」を経営ビジョンとして取り込み、当社の目指す銀行像として、「埼玉県の皆さまに信頼され、地元埼玉とともに発展する銀行」を掲げ、さらに、この銀行像をより具体化した5つの銀行像を示したわけです。社員一人ひとりがこの銀行像の具現化をより意識して行動することが、埼玉りそな銀行の県内での存在感を高め、県民の皆さまの信頼を得ることに繋がり、その結果、りそなグループ全体の企業価値向上に結びついていくものと考えています。

 また、りそなグループ全体としても、「真のリテールバンクの確立」に向けて地域に根付いたきめ細かな営業活動に取組んでいますが、りそな銀行の主な営業エリアである東京や大阪といった地域と埼玉県では、それぞれの地域性に適した戦略は異なるはずであると考えたことも、当社設立の理由のひとつです。

 設立に際しては様々な不安もありましたが、幸いにして、堅実であり寛容であるという県民性と、我々としてもその期待に応えるべくいろいろな施策を実行してきたことで、皆さまに受け止めていただける姿になってきたのではないかと思っています。

《埼玉りそな銀行/当社の目指す銀行像》 「埼玉県の皆さまに信頼され、地元埼玉とともに発展する銀行」

  • 埼玉県内への積極的かつ安定的な資金供給を第一の使命とする銀行
  • 健全で収益力の高い財務基盤を有する銀行
  • いつも真っ先に相談してみたいと思われるような商品・サービスや地域とのリレーションを備えた銀行
  • 地元埼玉県経済の活性化に積極的に関与していく銀行
  • 文化・教育・環境等さまざまな地域貢献へ取り組む銀行

■4つの地域営業本部体制~地域に根ざした営業戦略により、真のリテールバンクを目指す

 当社では、埼玉県内の営業エリアごとの地域性・特徴を踏まえ、4つの営業本部体制としています。具体的には、京浜東北線沿線を中心とした「埼玉中央地域」、東武伊勢崎線沿線と宇都宮線の延長線上にある「埼玉東地域」、西武線および東武東上線沿線を中心とした「埼玉西地域」、熊谷を中心とした県北と秩父地域を合わせた「埼玉北地域」です。

 一部に、営業基盤や製造拠点を埼玉に有する県外企業のお客さまや埼玉と経済圏が重複する近隣都県のお客さまとの取引もありますが、貸出残高の97.5%は県内向けが占めており、地元埼玉とともに発展するという当初の方針を徹底しています。

<澁谷>

本店を東京に移転後、埼玉りそな銀行として再び県内に本店を戻された点について、お客さまからの反応は如何だったのでしょうか。

<上條 社長>

 良い反応ばかりではありませんでした。そこで、先ほど申し上げた4つの営業本部体制を整え、各地域本部に地域営業本部長(地域担当役員)を常駐させました。地域営業本部長には営業店指導だけでなく、積極的にお客さまの声を聴くように指示しており、私を含め経営陣も参加する毎月2回の打ち合わせを通じて、お客さまの声を経営にダイレクトに反映する仕組みを作っています。

 そうすることで、機動的に機能、商品、サービス、組織体制等をマイナーチェンジできる環境を構築し、経営とお客さまとの距離感を縮めることができてきたと思っています。
 私も、2年間、埼玉東地域営業本部長としてお客さまのさまざまな意見を聴かせていただきました。その経験は今の私の経営方針にも生きているのではないかと考えています。

■お客さまにより一層お使いいただくための『埼玉りそな銀行 使いこなしBOOK』

<澁谷>

埼玉りそな銀行の『個人ビジネス』、『法人ビジネス』の重要項目についてお聞かせください。

<上條 社長>

当社の個人のお客さまの稼動口座数は現在450万口座となっています。埼玉県の人口は約720万人であり、多くの県民の皆さまに埼玉りそな銀行の口座をお持ちいただいています。

 このような状況において、個人ビジネスにおける最も重要なポイントは、お客さまに「いつも真っ先に相談してみたい」と思っていただける機能・サービスの提供を行うことです。お客さまのそれぞれのライフステージで生じるニーズに対し、機能、サービス、ネットワーク、コンサルティング機能において、メガバンクを含む他の金融機関に比較して遜色のないラインナップをご提供することが大切だと考えています。

 また、新たにお取引いただく個人のお客さまには、スターターキットとして「埼玉りそな銀行 使いこなしBOOK」をお渡ししています。この冊子をご覧いただくと、私たちが提供する機能について理解していただける内容となっており、お客さまが、「こんなこともできるんだ」と気づかなかったニーズを顕在化するきっかけにもなっています。我々はお客さまに知っていただくということからお取引は展開していくものと考えており、それを具現化したものがこの冊子ということなのです。

■胸襟を開き、経営者の持つ課題を一緒に考える。

 法人のお客さまについては、それぞれのお客さまの抱えている経営課題にきっちりとコミットしていくことが重要だと思っています。 昨今は、厳しい経営を強いられているお客さまも多い中、本当の意味で胸襟を開いて、「現在」と「将来」の二つの時間軸で対応策を一緒になって考えていけるような銀行の体制作りが重要だと思います。 これには成長支援だけでなく再生支援も含まれますが、これらに関しては融資管理部内に経営支援室を設置し、審査担当者を上回る人数の経営支援担当者を配置して本部と現場が緻密にお客さまのご支援を進めています。

 これに加えて、創業支援があげられます。埼玉県、さいたま市、ならびに経済産業省との連携によりバックアップを行う仕組みが出来ており、例えば、埼玉県においては創業・ベンチャー支援センターと、経済産業省とは中小企業基盤整備機構とタイアップを図っています。

 また、日本ベンチャーキャピタルなどと共同で「埼玉成長企業サポートファンド」を立上げ、埼玉県、さいたま市のベンチャー企業支援機能を活用し、ハンズオンで支援を行える環境を整えました。これは、まさに行政と金融がそれぞれの役割分担を明確にして手がけている好事例ではないかと思っています。 更に、昨年より開催しています「農と食の展示・商談会」については、埼玉県の農商工連携フェアとの共同企画として、農産物等の一次生産者、二次加工業者の方々に新たなマーケットを提供する場として、行政と金融がうまく連携をし、企業の方々に橋渡しするお手伝いをしている事例でないかと思います。

 しかしながら、昨今、多くの金融機関が掲げているビジネスマッチング機能の強化について言えば、本業をおこなっている事業者の方々が本来は情報を最もお持ちになっておられるわけで、正直なところ金融機関がお役に立つということは簡単なことではありません。 やはり、情報のアンテナを張り巡らし、さまざまな情報を集約し、いかに活性化していくかということが重要であり、最大の課題であると捉えています。まさにこれこそが、リレーションシップバンキングの肝の部分ではないでしょうか。

<澁谷>

上條社長のお話の中で、胸襟を開いてとのお話がございましたが、債権者でもある金融機関と本当に心を開いて話をしていただくためには、どうしたらいいとお考えでしょうか。

<上條 社長>

お客さまと普段接している担当者が、どれだけお客さまのことを知っているかということではないか思います。定量的なものに留まらず、物の流れ、金の流れ、強み、弱み、経営課題等を捉えて、どれだけお客さまのことを真剣に考えているかということなのです。その結果として、お客さまの琴線に触れる言動につながり、信頼感を得ることになるのではないでしょうか。

 法人営業の勘所とは、企業を見る目を養うことであり、それは一企業を見る目、業種を見る目、また経済環境の中における企業を見る目でもあります。そうした様々な切り口で客観的に見ることができるのは銀行しかありません。なぜならば、企業のBS、PLを見ているほか、かなり多くの場合、決済機能を利用していただいていることから、キャッシュフローも捉えているからです。法人営業担当者がお客さまのことを知らないということは、それだけで「罪」だというくらいの意識を持つべきだと思います。

 また、金融機関がお取引いただいている中小企業はマクロ経済の影響を受けやすいので、良い時もあれば、悪い時もあります。そういう中にあって、常に的確なアドバイスと資金供給を行うことが重要であり、その結果、将来にわたっての関係が築かれるのだと思っています。このたび金融円滑化法が導入されましたが、本来やるべきことをやってくださいと言っているものであり、地域金融機関として当然のこととして捉えるべきことだと思っています。
 従来に比べて気軽にご相談をいただける環境が整ったということではないでしょうか。 相談件数も増加傾向にあり、まさに躊躇するお客さまの背中を押していただく効果があったものとして評価しているところです。

■産学官と金融の連携が埼玉県を成長させる。

<澁谷>

 地域銀行の本来の役割、使命について、どのようにお考えでしょうか。

<上條 社長>

 埼玉りそな銀行で言えば、埼玉県全体の成長のお手伝いをすることが最も重要な役割だと考えています。産、学、官、金の連携の推進をお手伝いすることも地域経済の活性化に繋がると考えています。

<澁谷>

農業への取り組みは如何でしょうか。

<上條 社長>

 昨年2月より開催している「農と食の展示・商談会」は多方面から反響があり、非常に高い評価をいただいているイベントです。食のマーケットという点から埼玉県を考えてみると、埼玉県民720万人と近接している東京の人口1200万人を併せて約2000万人という大きな食のマーケットが身近に存在しています。

 今後の農と食を考える際に課題として第一に挙げられるのは、やはり「食の安全」です。これには生産者の顔が見えているということが重要になってきますが、埼玉県の一次生産者、二次加工業者にとって活躍の場はかなり大きいと思われます。豊かな水と自然、そして平坦な地形というこの上ない環境に恵まれており、埼玉に生産・加工拠点を置くことは非常に優位性が高いことだと思います。

 第二の課題としては、「環境」に対する配慮です。この点において、埼玉県産品は消費地までの交通アクセスも良好で、フードマイレージを短くすることが可能ということで非常に優位な環境にあります。更に、平成25年3月に圏央道の延長工事が完成すれば、常磐道にアクセスでき、関越道、圏央道、東北道、外環道が結ばれることで埼玉県環状道路が完成し、更に首都高速とも結ばれていることを考えれば、交通アクセスという点で全国屈指の交通の要衝になるわけです。

 これらのことをふまえると、埼玉の農と食には一層注目すべきだと考えています。農業に関しては、まだ単体の企業経営として成功するためには課題も多いと思いますが、商談会等を通じて、生産・加工・流通・販売といったネットワーク作りを今後ともサポートしていきます。

<澁谷>

2009年に社長に就任されてから、特に注力されてきたことについてお聞かせください。

<上條 社長>

 今までお話してきたことを支えていくのは、やはり人材です。現在、新しい研修の仕組み、特に"気付き"を与えるような研修の方向性を出していきたいと準備をしているところです。これまでは、知識やスキルに重点をおいた研修になりがちでしたが、今後はメンタリティや気付きにまで踏み込んで、お客さまの期待に応えるために何が必要なのかを明示していくことが重要だと考えています。

 現在、社内で協議を重ね、知識、スキル、行動、考え方という観点から研修の仕組みを作っているところです。また同時に、埼玉りそな銀行が5年後を展望したときにどういう銀行になるべきなのか、リスク、人材、顧客ポートフォリオ、財務諸表の観点から全体像を示すとともに、現在どのレベルにいるのかということを示すことで、今後何をすべきなのかを明確にすべく検討を重ねています。

 これについては、平成22年度のスタートに合わせて全社員が理解し、行動に反映できるよう浸透を図っていきたいと考えています。

■リーダーとマネージャーの役割を兼ね備えた人材の育成

<澁谷>

支店長に対する期待値はどういったものでしょうか。

<上條 社長>

 まずは、いかに顧客満足度を高めつつ、効果的かつ効率的に企業収益をあげるかを考え行動する「マネージャー」としての役割です。また、社員の心を一つにするとか、社会人、銀行員としてのあるべき姿を教示する教育者的「リーダー」としての役割にも期待しています。マネージャーの役割を十分こなしながら、リーダーとして将来の人材を育んでいくためにモチベーションを高めるような運営をしてもらいたいと考えています。

<澁谷>

上條社長が銀行に就職された理由、またお仕事を通じて最も印象に残った経験についてお聞かせください。

<上條 社長>

 私が銀行を選んだ最大の理由は、他の仕事と比べても銀行員が最も幅広い人達とお目にかかってお話が聞けると考えたからです。多くの経営者の方々や個人のお客さまから学ぶことで自分の人間形成に役に立ちそうだと考えました。加えて、当時の協和銀行が国際部門に力を入れていたこともあり、いずれはそうした分野で活躍してみたいという思いも持っていました。

 印象に残った経験を申し上げますと、一つは、規模が小さい頃からご支援をさせていただき、また苦境を乗り越えるお手伝いをしていた企業が株式公開に至った際に、経営者から「感謝の気持ちを込めて」ということで名前入りのボールペンを頂戴したことです。もう一つ申し上げますと、ロンドン支店勤務時代に非日系渉外業務を担当していましたが、シンジケーションの組成で一連の業務を全て完了した際に、お客さまのほか、弁護士やその他関係者の皆さまからグッドディールだったと賞賛をいただいた時です。いずれも非常に達成感を得たことから鮮明に記憶しているのだと思います。先ほども述べたリーダーの役割の一つとして、社員の皆さんがやりがいや達成感を感じられるような環境作りと人材育成が重要なのでしょうね。

<澁谷>

ありがとうございました。

(2010/2/8 取材 | 2010/3/15 掲載)

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