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徳島銀行 代表取締役頭取 𠮷岡 宏美 氏インタビュー

新事業の提案を行い、取引先の事業成長と地域経済の活性化を目指す

聞き手:リッキービジネスソリューション株式会社 代表取締役 澁谷 耕一

今回は、平成30 年3 月3 日に創業100 周年を迎えられ、事業性評価を通じた取引先への新事業の提案や、女性活躍推進に向けた働き方改革、地域の子どもたちの教育など、地域金融機関として様々な取組みに積極的に取り組まれている徳島銀行の<𠮷岡頭取>にインタビューを実施しました。

奉仕する銀行 創造する銀行 錬成する銀行

<澁谷>

徳島銀行の経営理念「奉仕する銀行」「創造する銀行」「錬成する銀行」についてお聞かせください。

<𠮷岡頭取>

「奉仕」とは、お客さまにサービスを提供することであり、「創造」とは、時代に合うサービスを自らが創り出すことです。そして、「錬成」とは、お客さまに対してサービスを提供する上で、お客さまが何を求めているのかをしっかりと理解するために、提案力やお客さまのニーズを聞き出す力、専門知識の習得など、職員一人ひとりのレベルを高めることです。「お客さまにとって本当に必要なサービスを創造し、提供するために、勉強してください」という想いを込めて、当行は「奉仕する銀行」「創造する銀行」「錬成する銀行」という経営理念を掲げています。

事業性評価を通して、取引先へ新事業を提案

<澁谷>

事業性評価に対する取組みについてお聞かせください。

<𠮷岡頭取>

事業性評価シートを策定し、それに基づいて貸出業務を行っていますが、当行が最も意識して取り組んでいることは、事業性評価を行い、お客さまに対して「このような新たな事業を始めませんか」という提案をすることです。単に、事業性評価に基づいて貸出条件を出し、資金面の支援をするのではなく、お客さまの既存事業の中から、何か新しい事業を生み出し、事業の幅を広げていく提案をしたいと考えています。いつまでも同じ事業を続けている だけでは、時代とともに環境が変われば、その事業はいずれ衰退してしまうでしょう。当行では、そうなる前にお客さまに対して、新しい事業を始めていきましょうという提案をしています。

このような当行の取組みは、金融庁が求めているものとは少し異なるかもしれませんが、銀行が企業体力や事業の成長性などを見極め、必要があればいつでも融資をしますというだけでは、お客さまのさらなる成長や地域経済の活性化には繋がっていかないと思います。事業性評価を通して、新しい事業を生み出し、それが雇用の創出に繋がり、お客さまの売上や利益の源泉になるような提案ができればと考えています。

また、当行では、要注意先に対する事業性評価にも力を入れて取り組んでいます。お客さまがなぜ要注意先の状態にあるのか、どのような改善策に取り組めば正常先に格上げできるのかをお客さまと一緒に考えています。お客さまに経営課題を提案するだけではなく、どのようにして売上や利益を上げていくのか、或いはコストを抑えるのかをお客さまと一緒に考え、事業計画書の策定から実行に至るまで、金融支援も含めた総合的な取引先支援に取り組んでいます。業績の良い成長企業に対して様々な提案をすることは、他の金融機関でも取り組まれていると思いますが、当行では要注意先など業績の厳しい企業に対しても、正常先 と同様に事業性評価を行い、支援するよう取り組んでいます。事業性評価を行うにあたり、正常先であっても要注意先であっても同じ対応をすることが、銀行として一番大切なことだと考えています。

<澁谷>

事業性評価を通して、取引先に対して新事業の提案をするというのは、銀行の担当者にとってもチャレンジングな取組みですね。また、新事業の提案ができるようになるためには、職員の方々にも相応の専門スキルが求められると思いますが、銀行として職員のスキルアップにも取り組まれているのでしょうか。

<𠮷岡頭取>

例えば、医療の専門部署では、医療に関する指導などができる資格を保有した職員がいます。また、REVIC に職員を派遣して企業再生の勉強をさせるなど、専門スキルの習得に向けた外部機関への職員派遣にも積極的に取り組んでいます。お客さまに対して様々な提案を行うためには、当然知識や経験に長けた人材が必要になると考えていますので、職員に勉強する機会を与え、専門資格の取得などを促しています。

創業支援に関しては、補助金申請の手続き支援などをはじめ、他の金融機関と比較しても積極的に取り組んでいると思いますが、既存のお客さまに対する新事業の提案にもっと注力していく必要があると考えています。事業性評価を行ってビジネスプランを策定し、新たに事業分野を開拓していくことは簡単なことではないので、外部機関のサポートなども受けながら、取り組んでいきたいです。

取引先が独り立ちできるまで徹底的にサポート

<澁谷>

地方創生への取組みについてお聞かせください

<𠮷岡頭取>

最近、よく「地方創生とは地域経済の活性化」と言われますが、地域で様々なイベントを開催したり、物産展を開いてバイヤーを集めるだけでは、本当の意味での地域経済の活性化には繋がらないと思います。例えば、お客さまが県外への販路開拓を求めた場合、銀行が商談会やビジネスマッチングの機会を提供するだけではなく、それらに直接関わり、お客さまとともに取り組んでいくという姿勢でいなければなりません。最終的には、お客さま自身で県外に販売できるようになっていただく必要がありますが、入口の段階では、銀行がビジネスマッチングの機会を提供し、お客さまを主体的にサポートすべきだと思います。

<澁谷>

商談会の案内をするだけではなく、お客さまが独り立ちできるよう、銀行が一歩踏み込んだサポートをする ことが大切ということですね。

<𠮷岡頭取>

商談会の案内だけであれば、誰でもできますし、商談会に参加して頑張ってくださいだけでは、成果はあま り期待できないと思います。また、商談会に出れば、販路が開拓できるというほど、世の中は甘くありません。商談会に出ることで何件かの成約はできるかもしれませんが、そこから大きな成果を上げようと思えば、銀行が一緒になって取り組んでいかなければなりません。また、商談会後は、お客さま自らの力でもっと大きなレベルの話に繋げていくことができるよう、銀行がフォローしていくことが大切だと考えています。

事業性評価を通して新事業の提案を行うというお話にも関連しますが、当行では、そのほかにも「徳島新鮮なっとく市」の開設支援や「木質バイオマス発電事業」への取組支援など、地方創生に繋がる様々な取引先支援を行っています。

●「 徳島新鮮なっとく市」のイメージ

                 

<澁谷>

「徳島新鮮なっとく市」とは、どのような施設なのでしょうか。

<𠮷岡頭取>

徳島県の新たなランドマークとなる、観光食堂や物産館、観光案内所等の複合施設です。施設では、浜焼きバーベキューが楽しめたり、釣り堀で釣った魚をそのまま調理して食べることができたり、様々な形で「食」を楽しむことができます。

元々は、徳島県内で相応の知名度を誇り、地元徳島県産の旬の野菜や魚介類等(=地域資源)を使用した弁当・給食等の製造販売を営む企業が、ランドマークとなる観光施設が少ない徳島市内において、観光食堂や物産館等を設置した複合施設を設けて、地域経済の活性化、延いては自社 の新たな事業の開発を行いたいということが発端でした。

当行は、お客さまとの対話の中で同社のそのようなニーズを捉え、徳島県の「マリンピア沖州にぎわいづくり事業」への公募開始に伴い、公募申請書類の作成や官公庁関係機関との連絡等、一貫した支援を行いました。その結果、平成29年3月に、同社は同事業の実施者に選定されました。 また、施設設置に係る設備資金等に関しても、当行からの資金調達に加えて、「地域経済循環創造事業交付金(総務省)」を活用するよう同社に提案し、当行がそれらの公募申請書作成等もサポートした結果、平成29年9月に採択されました(交付金の支給は平成30 年4 月を予定)。

「徳島新鮮なっとく市」開設支援の取組みは、徳島県の豊かな農産・水産資源を活用し、観光客誘致や経済循環の実現を目指した地方創生にも繋がる案件であり、取組意義の大きい成功事例だと思います。

<澁谷>

「木質バイオマス発電事業」への取組支援とは、どのような支援だったのでしょうか。

<𠮷岡頭取>

昭和31 年に徳島県下の主要林業経営者が中心となって設立した老舗企業に対する支援ですが、同社は木材需要の低迷や外材との価格競争の激化によって、取り巻く環境が厳しい状況にありました。一方で、同社は相応の資産を有し、「遊休不動産の活用」と「間伐材の有効活用(無から有の創造)」を経営課題として抱えていたため、当行が新たに「木質バイオマス発電事業」を提案しました。新工場建設や木質バイオマス発電設備導入にあたり、当行は事業計画(収支計画)の策定支援に留まらず、関連事業者や協調融資予定金融機関(日本政策金融公庫)との協議にも同席するなど、当行主導で事業実現に向けた取組支援を行いました。同社の遊休不動産を有効活用するとともに、市場性の低い間伐材をチップ化し、発電に繋げることで新たな利益を生むビジネスモデルに転換できた成功事例です。これも、徳島県産材の有効活用、県内林業者の活性化、自然エネルギーの供給等、地方創生に繋がる案件として、非常に取組意義は大きかったと思います。

●「 徳島新鮮なっとく市」の取組構造



● 木質バイオマス発電事業に係るビジネスモデル

                                                                 

金融教育の集大成としてキッズタウンを開催

<澁谷>

平成30年3月3日に創業100周年を迎えるそうですが、創業100周年記念事業の取組みについてお聞かせください。

<𠮷岡頭取>

創業100 周年記念事業として、子どもに対する教育に取り組んでいます。子どもたちを対象にした野球・サッカー・卓球のスポーツ教室を開催したり、銀行やお金のことを知ってもらうための金融教育を行っています。平成30年3月から4月にかけては、徳島新聞と当行が連携して、小学生を対象にしたキッズタウンのイベントを開催する予定です。キッズタウン内では、子どもたちが買い手と売り手になってもらい、何を売るのかも子どもたち自身で考えてもらいます。当然、銀行も設ける予定です。そして、キッズタウンで使用するコインとして、徳島銀行の「とくぎんコイン」を準備し、子どもたちには自分たちで商売を して幾ら利益が上がったのかなどを経験してもらいます。当行は、これまで子どもたちに対して、銀行に来てもらい、実際にお金に触れてもらう機会を提供するなど、十数年間子どもたちへの金融教育に取り組んできましたが、キッズタウンの開催はその集大成的なイベントになると考えています。

●「 キッズタウンとくしま」の仕組み

女性が活躍できる金融機関を目指して

<澁谷>

吉岡頭取の働き方に関するお考えをお聞かせください。

<𠮷岡頭取>

当行は、「トモニン」「プラチナくるみん」「えるぼし」という厚生労働省の認定マークを取得しています。「トモニン」とは、仕事と介護を両立できる職場環境の整備促進のためのシンボルマークで、「プラチナくるみん」とは、子育てサポート企業の認定マーク「くるみん」を取得した企業の中でも、特に高い水準でその取組みを継続している企業が受ける認定マークです。そして、「えるぼし」というのが、女性が活躍している企業が認定される、女性 活躍推進法に基づく認定マークです。

当行は、女性が活躍できる企業を目指し、育休や産休の取得などの環境整備を行い、女性のリーダーや管理職を増やそうと取り組んできた結果、この3 つの認定マークを同時に取得することができました。当行の男性と女性の平均勤続年数は同じであり、これは女性がいかに退職せず、継続して働いているかという結果だと思います。現在も女性の管理職の人数は順調に増えています。

また、当行は職員の定年を60歳とし、65歳までの延長を認めないようにしています。職員には、60歳で退職金を受け取ってもらい、それから改めて自分の人生を考えてほしいと思っています。定年の延長を認めてしまうと、65歳まで働くのが当然のようになって、65歳まで仕事を辞められない職員が出てきますので、そうならないように60 歳で一度退職してもらうようにしています。ただし、退職してもまだ働きたいという職員には、退職後に継続雇用をします。60 歳で一度退職はしてもらいますが、元気でまだまだ仕事をしたいという職員には、ずっと働いてもらえるような環境を整えているのです。

60歳で退職金を受け取ってもらい、改めて自分の仕事や給料を選択してもらい、再雇用しますので、退職した3年後に63歳で再び支店長に復帰した職員もいます。再雇用するのは役席者だけではなく、一般職(事務職)の方もいますし、退職前と同じ役職で再雇用している職員もいます。

<澁谷>

それは非常に珍しい取組みですね。また男性と女性の平均勤続年数が同じということにも大変驚きました。

<𠮷岡頭取>

金融機関で、男性と女性の平均勤続年数が同じというのは非常に珍しいと思いますが、女性の管理職比率も上昇しています。目標は男性と女性の管理職比率を同レベルにすることです。当行では、出産や親の介護などで働けない時期は、原則休暇制度を適用できるようにしています。職員には、休暇制度を有効的に活用してもらい、復帰できるようになれば、復帰していただきたいと考えています。

<澁谷>

男性と女性の管理職の比率を同レベルにするというのも凄いですね。

<𠮷岡頭取>

女性比率を上げようという計画を立てて積極的に取り組んでいきたいと考えています。ただし、女性でも早く帰って家事をしたいという職員には帰っていただきますし、もっと働いて上を目指したいという職員には、そのフィールドを用意し、チャレンジしていただくようにしています。

<澁谷>

そのような取組みの結果、もっと働きたいという女性職員は増えてきているのでしょうか。

<𠮷岡頭取>

当然増えてきています。当初は、女性職員に支店長を目指すよう勧めても、女性職員から「無理です」といった言葉が返ってきましたが、最近は女性の支店長も珍しくはありません。「管理職になりたい」という女性職員が増え、支店長だけではなく、女性の部長クラスもいます。女性の場合、子育てに一段落がつき、余裕ができて、さらに女性の先輩ができたりすると、私も上を目指してみようかなという職員が出てくるようです。

● 管理職級(支店長代理職)以上に占める女性の割合

趣味を大切にしてほしい

<澁谷>

吉岡頭取は多趣味で、行内に写真倶楽部を創るなど、趣味を持つことも大切にされているとお伺いしました。最後に、趣味についてお聞かせください。

<𠮷岡頭取>

職員や子どもたちには、出来る限り趣味を持ってほしいという想いがあり、写真倶楽部やパソコンクラブを創ったり、子どもたちに木工を教えたりしています。さらに、平成30年の3月3日、4日には、創業100周年に合わせて、当行の研修会館で文化展の開催を予定しています。当行のクラブのメンバーやOB の方々が制作した作品を展示したり、皆さまが持ち寄ったものでバザーを開催する予定です。私が制作した木工と、あるお客さまが描いた絵をジョイントしたブースを設けて展示することも考えています。また、現在何名かのOBが陶芸教室に通っていますので、文化展には皆さまの作品も何点か展示する予定で、将来的には陶芸倶楽部も創りたいと考えています。

● とくぎん親子ふれあい木工教室の様子

                                                                                      

𠮷岡 宏美(よしおか ひろみ)

昭和51 年4月 徳島銀行入行
平成12 年4月 同行営業企画部長
平成13 年6月 同行取締役営業企画部長
平成15 年6月 同行常務取締役総合企画本部長兼企画部長
平成18 年6月 同行取締役専務総合企画本部長兼企画部長
平成22 年2月 同行取締役専務
平成22 年4月 トモニホールディングス取締役(現職)
平成23 年6月 徳島銀行代表取締役頭取(現職)

 

(2017/12/14取材 | 2018/02/26掲載)

金融機関インタビュー