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融資先が反社会的勢力であった場合の信用保証の錯誤無効
~大阪高裁平成25年3月22日判決(金融・商事判例1415号16頁)

最新判例紹介

弁護士 中村健三 弁護士 中村 健三氏

2009年12月 最高裁判所司法研修所修了(新62期)大阪弁護士会登録 弁護士法人中央総合法律事務所入所 
2011年8月 第一東京弁護士会登録

●取扱業務
金融法務、知的財産権法務、 労働法務、会社法務、 商事法務、民事法務等
●はじめに

 信用保証協会による信用保証付き融資が実行された後に、融資先が反社会的勢力であったことが判明した事案において、神戸地裁姫路支部平成24年6月29日判決(金融・商事判例1396号35頁)は、信用保証協会の金融機関に対する信用保証契約の錯誤無効の主張を認めました。同判決については、保証協会斡旋保証についても保証協会の錯誤無効を認めた点について否定的な見解も存在し、控訴審判決である本判決の判断が注目されていました。

●事案の概要

  金融機関であるXは、主債務者Aに対し、信用保証協会による信用保証付きの貸付を2本実行しました。最初の貸付は、協会斡旋保証(融資先が信用保証協会に保証委託を申込み、信用保証協会が審査を経て金融機関に融資を斡旋する方式)によるものでした(本件信用保証1)。
 2回目の貸付は、金融機関経由保証(融資先が金融機関に融資を申込み、金融機関がその審 査を経て信用保証協会に信用保証を依頼する方式)によってなされました(本件信用保証2)。
 いずれの審査においてもAが反社会的勢力であると窺える事情は認められなかったため、各信用保証付き融資は実行されました。その後Aは返済を滞納し、Aが反社会的勢力であることが判明しました。Xが、信用保証協会に対して保証債務の履行を請求する訴訟を提起したところ、信用保証協会は、反社会的勢力でないと信じて各信用保証を行ったとして錯誤無効を主張しました。そして第一審において神戸地裁姫路支部は、前述のとおり保証協会の錯誤無効の主張を認めてXの請求全部を棄却し、Xが控訴したのが本判決です。

●争点

 本件では、錯誤無効の主張の可否の判断において、①信用保証協会における要素の錯誤の有無、②信用保証協会の重過失の有無、③信用保証協会が錯誤無効を主張することについての信義則違反の有無、の3点が主たる争点となりました。

●①要素の錯誤

 本判決では、第一審同様、信用保証においてAが反社会的勢力ではないことは当然の前提であったとして、信用保証協会においてAが反社会的勢力であると知らなかったことは要素の錯誤であると認めました。
 根拠としては、信用保証協会及びX双方において、社会的要請や金融庁等の監督指針を踏まえて反社との取引を防止、拒絶する取組みを行っていることに基づき、Aが反社であることが判明していれば融資や信用保証の申込みに応じないことは明らかであることを挙げています。
 金融機関取引における反社との関係遮断という現代社会の強い要請に加え、信用保証協会が公的な性質を有しているという点を考慮すれば、かかる判断は妥当であると考えられます。

●②重過失の有無

 本件では、信用保証協会は、審査にあたり内部で構築したデータベースとの照合、Aの事務所訪問及び面談を行った上で、Aが反社会的勢力であることを窺わせる事情が認められないことから、保証協会にAが反社会的勢力でないと信じたことについて重過失は認めらないと判断しています。
 なお、本件では、大阪高裁は、Aの所属暴力団の事務所が本件の信用保証協会の管轄から遠く離れた熊本に所在していたという地理的要因のためにデータベースに登載されなかったこと、Aが熊本で活動していたことを窺わせる事情も当時存在しなかったことを考慮しており、単に内部データベース照合等を行うだけで重過失を免れるものではない点に注意が必要です。

●③信義則違反

 (1)本件信用保証1(協会斡旋保証)

 協会斡旋保証である本件信用保証1について、裁判所は、融資実行に問題がないと判断してXにAを斡旋した保証協会が、同じく融資に問題ないと判断して実行したXに対して錯誤無効を主張して保証債務の全額を免れることは「著しく衡平に反する」ものと判示しています。
 その上で、保証協会及びX双方のAに対する調査において、保証協会が事務所訪問まで行って調査をしながら、Xは事務所訪問までは行っていないことを考慮し、請求額の2分の1の限りで履行拒絶が認められないという結論に至っています。
 第一審判決では、協会斡旋保証の場合でも、Xが金融機関として自ら審査して独自の経営判断において融資を実行した点を重視して、錯誤無効の主張が信義則に反しないと判断していますが、本判決はこれと異なる見解を採っています。

(2)本件信用保証2(金融機関経由保証)

 協会斡旋保証である本件信用保証1について、裁判所は、融資実行に問題がないと判断してXにAを斡旋した保証協会が、同じく融資に問題ないと判断して実行したXに対して錯誤無効を主張して保証債務の全額を免れることは「著しく衡平に反する」ものと判示しています。 その上で、保証協会及びX双方のAに対する調査において、保証協会が事務所訪問まで行って調査をしながら、Xは事務所訪問までは行っていないことを考慮し、請求額の2分の1の限りで履行拒絶が認められないという結論に至っています。 第一審判決では、協会斡旋保証の場合でも、Xが金融機関として自ら審査して独自の経営判断において融資を実行した点を重視して、錯誤無効の主張が信義則に反しないと判断していますが、本判決はこれと異なる見解を採っています。

●検討

 本件は、信用保証協会の信用保証付き融資の実行後に反社会的勢力であることが判明したケースであり、結果として反社会的勢力に利益が移転した後に、貸主である金融機関と信用保証協会のいずれが経済的負担を行うべきかという問題であると言えます。
 そして、本判決では、反社であることが判明しなかった点について双方に過失までは認められないことを前提として、信義則の枠組みの中で協会斡旋保証・金融機関経由保証といった保証方式や審査・調査の程度といった、融資実行に至る経緯における事情を重視しているものと考えられます。
 逆に、Xから主張された、信用保証協会による保証料の受領、公的資金の投入、低金利貸出といった信用保証制度自体の特質に関わる点は考慮されていません。
 今後、本件のような場面でのリスクを減らすためには、信用保証協会及び金融機関双方において、協会斡旋保証・金融機関経由保証いずれにおいても、他方の審査に依存することなく、可能な限り独自の反社に関する審査・調査を尽くすことが肝要であると言えます。

※金融機関ドットヨム12号22ページに記事が掲載されています。