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反社会的勢力対応に関する最新の動向および今後の課題
〜融資取引の解消を中心に

弁護士 中村健三 弁護士 鈴木仁史氏

東京大学法学部卒業。
平成10 年4月弁護士登録、平成13 年鈴木 総合法律事務所開設。
企業の反社・マネロン対応、危機管理のほか、 金融法務、人事・労務などの業務を取り扱うほか、弁護士会の活動 として、日本弁護士連合会民暴委員会事務局次長、第一東京弁護士 会民暴委員会副委員長を務める。
はじめに

 金融業界においては、平成19 年6月の「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」(犯罪対策閣僚会議幹事会申合せ)、平成20 年3月の金融庁による監督指針改正、その 後の全国47 都道府県での暴力団排除条例施行などにより、反社会的勢力(以下「反社」といいます。)対策が着実に進展してきています。

 各金融機関においては、各種約款等に暴排条項を導入し、反社データベース等を用いた事前審査の取組(入口チェック)のほか、預金等取引について暴排条項に基づく解約の取組みを進めてきました。

 このような中、昨年のメガバンクの提携ローンに関する行政処分事例を受け、金融庁は平成25 年12 月26 日、「反社会的勢力との関係遮断に向けた取組みの推進について」および「みずほ銀行等における反社等の問題を踏まえた今後の検査について」を公表しており、平成25 年度内における監督指針の改正も予定されています。

 そこで、本稿では、以上のような最新の規制動向を踏まえ、今後の反社対策の課題について概観します。

●金融庁による 平成25 年12 月26 日の公表内容

 金融庁が平成25 年12 月26 日に公表した二つの内容について説明します。

(1)「反社会的勢力との関係遮断に向けた取組みの推進について」

 反社との関係遮断にむけた取組みについて、従前は「入口」と「出口」に分類した整理がなされることが多かったといえますが、「中間管理」を含めた3場面に整理していることが特徴といえます。

 入口段階では、反社データベースの充実・強化や入口段階の反社チェック強化などにより、反社との取引の未然防止に努めることが必要とされています。

 また、中間管理として、既存債権・契約の事後的な反社チェック態勢の強化のほか、反社との関係遮断に係る内部管理態勢を徹底することとされています。

 さらに、出口段階として、「反社会的勢力との取引の解消の推進」があげられ、各金融機関は、警察や弁護士と連携し、反社との取引の解消を推進すること、事後に反社との取引と判明した案件について、可能な限り回収を図るなど、反社への利益供与とならないよう配意するとされています。また、特定回収困難債権の買取制度については、対象債権が限定されていましたが、同制度の活用促進が記載されています。なお、上記と時を同じくして、預金保険機構も平成25 年12 月26 日、「特定回収困難債権買取制度の改善策の実施について」を公表し、買取スケジュールの改善および対象債権に係る運用の明確化を図ることとしています。

【反社会的勢力との関係遮断に向けた取組みの推進について(金融庁)】

反社との取引の未然防止(入口) ●暴力団排除条項の導入の徹底
●反社データベースの充実・強化
 ・各金融機関・業界団体の反社データベースの充実
 ・銀行界と警察庁データベースとの接続の検討加速化
●提携ローンにおける入口段階の反社チェック強化
事後チェックと内部管理(中間管理) ●事後的な反社チェック態勢の強化
●反社との関係遮断に係る内部管理態勢の徹底
反社との取引解消(出口) ●反社との取引の解消の推進
●預金取扱金融機関による、特定回収困難債権の買取制度の活用
●信販会社・保険会社等による、サービサーとしてのRCCの活用

(2)「反社等の問題を踏まえた今後の検査について」

 前記のとおり、金融庁は平成25 年12 月26 日、検査方針の見直しについても公表しています。その内容としては、①水平的レビューの実施や金融機関のビジネス動向の把握による問題事案やリスクの早期発見、②金融機関の経営等に重大な影響を与える重要事案について、事実関係の精査にとどまらず、問題の根本原因(とりわけ経営陣の認識やガバナンス上の問題の有無)に遡った検証の実施、③反社・マネロン専門チームの創設や立入検査の弾力的運用など、検査の運用や態勢の改善となります。

 上記は、いずれも近年の反社排除態勢として議論されているところですが、検査により業界共通の実態や課題の把握がなされ、反社排除に関するベスト・プラクティス(最良慣行)が確立され、業界全体のレベル向上につながることが期待されます。

●融資取引等反社排除についての新たなステージ

 金融庁による前記(1)の公表内容は、出口対策について、反社への利益供与とならないよう、取引の解消を推進することや、特定回収困難債権買取制度等、具体的な方策が明記されている点でも画期的であり、預金等からの排除の「次の課題」とされていた融資排除が今後の中心的課題となったことを示すものと解されます。

もっとも、金融機関の取締役には、融資取引の解消に関して経営判断(裁量)が認められるところであり、その判断基準についてはさまざまな見解があるところです。預金取引等と異なる融資取引の解消についての特殊性として、暴排条項を適用した場合、債権回収が困難となり、財務の健全性を害するほか、結果として反社に手残り利益を残し、これを利するおそれもあります。他方で、約定弁済を受け続けたほうが、経済合理性の観点から債権回収の最大化に資するケースも考えられます。

 しかし、金融庁監督指針等においては、反社とは一切の関係を持たず、反社であることを知らずに関係を有してしまった場合、相手方が反社であると判明した時点で可能な限り速やかに関係を解消することが定められています。また、融資取引は資金供給という側面から、反社にもっとも利益を与える取引の一つであり、回収を怠ることも利益供与となりうるところですし、約定弁済を受け続けていても、暴排条例等によって反社との関係遮断が求められている中、他の金融機関や事業者が当該債務者との関係を遮断したり、監督官庁から指名取消等を受けたりすることにより、近い将来において約定弁済が停止する可能性もあるといえます。 

 以上からすれば、金融機関としては、反社との融資取引に関して約定弁済が継続している場合であっても、漫然と約定弁済を受け続けるのみでは十分とはいえず、その基本方針としては、暴排条項に基づき期限の利益を喪失させることを原則とし(もっとも、タイミングについては十分留意する必要があります)、例外的に、債権回収最大化の観点から、約定弁済を受け、期限の利益喪失に踏み切らないことが許容されるものと考えられます。なお、原則・例外を判断するにあたっての具体的な着眼点や判断基準等については、紙幅の関係もあり、ここでは言及いたしませんが、筆者が「金融法務事情」に連載している「金融機関 反社排除への道」の中で近日中に取り上げる予定ですので、ご参照いただけると幸いです。

 また、融資取引解消を含めた反社対策の検討にあたっては、担当部署のみに任せるのではなく、金融機関の内部管理態勢として位置付け、経営陣を含め組織一体として対応するなどのガバナンス態勢構築が必要となります。たとえば、経営陣において、PDCAサイクルに基づき検証を行い、適宜態勢を見直すことのほか、社外取締役の導入や反社排除委員会の設置など、客観的な第三者の目線を入れることなどにより、判断プロセスの適正化・透明化を図るなど、有効な態勢を構築する必要があります。

 反社排除態勢については、社会の変化とともに進展していくものであり、また法的リスクや規制リスクのみならず、レピュテーション・リスクにも十分配慮する必要があります。今後も、金融機関は高い感度をもってアンテナを張りめぐらせ、適切な反社排除態勢を構築していくことが求められています。

※金融機関ドットヨム13号18ページに記事が掲載されています。

AML(アンチ・マネー・ローンダリング)コンファレンス2014 講演より