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「反社会的勢力」認定に関する裁判所の考え方を探る

弁護士法人 中央総合法律事務所 弁護士 中村 健三

破門状を提出すれば、もう暴力団員ではないと言える?

1.はじめに

金融機関による暴力団排除の動きに世間の耳目が集まる中、暴力団排除条項の導入をはじめとした態勢整備の面には一定の進展が見られます。そして、今後は各金融機関において、暴力団排除条項等を利用した取引謝絶や解除といった個別具体的な対応が必要となる場合が増えるものと想定されます。

このような契約解除の局面においては、契約者と紛争化し訴訟に至る場合も考えられますが、原則として金融機関側において契約者が反社会的勢力であることを主張立証しなければなりません。しかし、暴力団・反社会的勢力の認定について正面から判断している裁判例は限られています。

今回はこれらの限られた裁判例によって、裁判所がどのような考えに基づいて「反社会的勢力であること」を認定しているかについて、特に問題が起こりやすい「破門状や脱退届が提出された場合」「暴力団関係者の認定」の2点に絞って分析したいと思います。

2.破門状・脱退届が出てくるケース

暴力団を既に脱退していることの証拠として、破門状や脱退届の提出が想定されます。実際、解約交渉の場面でも、このような書面が提示されることはしばしば見られます。これらについての裁判例を見ていきたいと思います。

①大阪ホテル披露宴解除事件(大阪地裁平成23年8月31日判決(金融法務事情1958号127頁))

これは、ホテル側が、平成21年8月6日に締結した結婚式披露宴を行うという契約を、暴力団排除条項に基づき平成21年9月19日に解除したことについて、契約者である原告がホテル側に損害賠償請求した事案です。

契約者からは、契約前の平成21年6月付けでの所属暴力団からの破門状が証拠として提出されており、契約時点及び解除時点において、契約者が暴力団員であったかという点が争点となりました。

ホテル側は、警察の協力を得た上で、平成21年9月以降も警察署に対して暴力団の本部長名義で書面を提出したこと、組事務所の捜索に立ち会ったこと等を主張し、裁判所はこれらの点を踏まえて、契約・解除時においてもまだ契約者が暴力団員であったと認定し、ホテル側の主張を認めました。

②宮崎生活保護事件(福岡高裁宮崎支部平成24年4月27日判決)

これは、暴力団を脱退したとして生活保護申請をしたところ、市役所から「現在も暴力団員であって、資産収入を活用しておらず生活保護の開始要件を満たさない(補足性の要件を欠く)」ことを理由として生活保護申請却下処分を受け、これの取消が争われた事件です。申請者である原告は、警察により暴力団員として認定されていましたが、申請者は脱退届を提出して脱退済であることを主張しました。

第一審では、暴力団員性については県警の暴力団情報のみに依拠することなく事実認定を行わなければならないとし、暴力団員を基礎づける事情が認められないとして、申請者の主張を認めました。

しかし、控訴審では、警察に暴力団員と登録されていることに加えて、その根拠となる事情(脱退を主張した後にも組事務所の名簿に登載されていた、組長の刑事公判を傍聴した、組長の刑務所出所時の放免式に出席した等)を認定し、これらを踏まえて暴力団性を認め、申請却下処分を適法としました。

このように、裁判所は破門状や脱退届についても、暴力団を脱退した証拠として認める傾向にあります。しかし、破門・脱退自体が偽装であったり、遡った日付で作成されたりする可能性も充分に考えられます。破門状や脱退届に対して反証するためには、警察登録のみならず、その根拠となる具体的事情を主張立証することが重要です。具体的には、解除時点での破門状・脱退届出との日付の近接性や、破門状の日付以後も暴力団等との関係が継続している点について、主張立証をする必要があります。

また、交渉の段階で脱退届・破門状が提示された場合、警察において暴力団員と登録されている点のみを過信、盲信するのでなく、警察と協議相談しながら、それでも暴力団員と立証されるのか否か、慎重に対応を検討する必要があると考えます。

3.「暴力団関係者」の認定

「暴力団関係者」の認定については、「関係」について様々な事情から評価する必要があるため、「暴力団員」の認定に比べて客観的な主張立証が難しいと言えます。これらの裁判例を見ていきたいと思います。

信用取引解約事件(東京地裁平成24年12月14日判決(銀行法務21・760号4頁))は、証券会社から約款に基づき、暴力団関係者であることを理由に取引を解約されたことにより、契約者がその名誉等を害されたとして、不法行為に基づく損害賠償を求めた事案です。解約の正当性を裏付ける前提として、契約者が「暴力団関係者」であるか否か(暴力団員そのものではありません)という点が争点となりました。

裁判所は、「原告と組長ないし同人が組長を務める暴力団との人的結びつきは強く、原告と暴力団の関係は極めて密接である」として、暴力団関係にあたると認定しました。その理由としては、①組長と組事務所で10年以上も面談を重ねる関係であった、②組長が勾留中に出した手紙に契約者への激励や信頼を置いていること等を記載していた、③組長と契約者が共謀して不動産転売に関する強要未遂事件を起こし両名とも逮捕された(契約者は不起訴)、④組長に依頼されて1000万円以上を貸し付けた、等の事実を認定しています。

「暴力団関係者」という文言の定義は不明確であり、解釈が難しいところですが、この裁判例を見ると、裁判所としては、暴力団と関係を有した期間や程度、信頼関係の深さ、犯罪等の不法行為や不正行為への関与の有無・程度、暴力団の活動助長の有無・程度(経済的支援も含む)等を考慮しているように考えられます。

たとえば、札幌高裁平成22年6月25日(最高裁判所ホームページ)においては、暴力団関係者との交際があるとして馬主登録を拒否した点について「問題とされる人物との関係性、交際ないし接触の程度、申請者の実績等を総合考慮し、競馬の公正を害するおそれがあると認めるに足りる相当な理由があるか」を判断すべきとして、単に顔を合わせて会話したり、飲み代をおごったり、一時的に雇用関係にあったりする程度では、拒否処分にあたらないと認めています。この高裁判決も上記東京地裁判決の考え方と整合するものと考えられます。

◆中村 健三(なかむら けんぞう)
東京大学法学部卒業、大阪大学法科大学院修了。
2009年12月最高裁判所司法研修所修了(新62期)、大阪弁 護士会登録、弁護士法人中央総合法律事務所入所。
11年8月 第一東京弁護士会登録。取扱業務は、金融法務、知的財産権法務、 労働法務、会社法務、商事法務、民事法務など。