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山梨中央銀行 進藤 中 頭取 インタビュー

「部下を信頼し、人との関わりを大切にする」

富士山を始め、南アルプス、八ヶ岳、大菩薩嶺と四方を山に囲まれた山梨県。自然に恵まれ、果物やミネラルウォーターの産地、また精密機械工業の集積地としても知られています。しかし昔は、寒暖の差が激しいため、作物が育ちにくい大変貧しい土地柄だったとのこと。山梨出身の著名人には石橋湛山元総理や金丸信元副総理など多くいらっしゃいますが、みなさん苦労して大成した方が多いそうです。
今回の巻頭インタビューでは、そんな山梨県甲府市に本店を置く、山梨中央銀行の進藤頭取に同行の強み、人材育成、頭取の経営哲学などについて伺いました。

聞き手:澁谷耕一(リッキービジネスソリューション)

○営業戦略で特に注力しているポイント
<「目利き力」を備えた人材の育成>

<澁谷>

個人・法人向けの営業戦略で特に注力されている分野はなんでしょうか。

(進藤 頭取)

中小企業向けの貸し出し、これを伸ばしていくことが一番のテーマです。また、そのためには的確なソリューションが出来る人間が必要ですので、「目利き力」を備えた人材の育成に力を入れています。それが行員の外部企業への派遣ということに繋がっています。毎年10社へ10人。それを5年間かけて行うプロジェクトで、今年の3月までで20人になります。そして、また、4月から新たに10人派遣します。

<澁谷>

派遣先の企業はどのような業種・規模でしょうか?

(進藤 頭取)

業種はバラエティに富んでいて、基本的にはやはり山梨県の地場企業を中心に派遣します。宝飾業界であったり、和紙もそうですね。ワインを醸造している会社もありますし、地元の旅館や地元資本のスーパーマーケットにも派遣しています。成長業種の一つでもある、病院などの医療関係へも派遣します。

<澁谷>

メガバンクに行員を派遣している地方銀行は沢山ありますが、地元企業への派遣は珍しいですね。何歳くらいの方が出向されているのですか。

(進藤 頭取)

去年、今年で一番若い人が、入行して4年目、26歳くらいです。

 彼はワインメーカーさんに行きました。現在山梨では、「KOJ(甲州オブジャパン)プロジェクト」と云って、甲州ワインをブランドとして確立し、ヨーロッパに売るというプロジェクトを行っています。彼は去年ロンドンまで行って販促活動をしているのですが、その旅費や残業代も全部当行で出しているのです。だから受け入れた企業さんは、人件費が一銭もかかっていないんです。その代わりに、経理などをみるのではなく、業種の特性を学ばせてください、とお願いしています。今年もロンドンで同じようにKOJプロジェクトをやっていますが、そこにも一人行員が行っています。


 最初に派遣した行員の中で一番年齢が高かったのは40歳だったのですが、彼は河口湖にある旅館に行ったんです。男性でしたが、仲居さんをやったり、フロントをやったり。仲居さんを6か月程やりましたでしょうか。厨房から宴会場まで料理を運んだりする時に、厨房の板前さんとのやり取りなど、結構ハードなことがあったそうです。その彼が言うには、今では料亭や旅館に行って出された食事を見ると、大体の原価が分かるそうです。もちろん「おもてなし」もさることながら、出てきた料理と値段がちゃんとマッチしているかなどが大体分かると言うんですよね。そんなこと、学生時代にアルバイトで料亭にいればわかるかもしれませんが、銀行員になって、しかも40歳になって手を挙げて、外部で学んでこられたというのは、本人にとっては本当に良い財産になると思います。

<澁谷>

1人でも多く、銀行の営業現場に出さなければいけない状況で、1人とか2人ではなく10人出すというのは大変なことだと思います。

(進藤 頭取)

結構、決断は要りましたね。人事部からも「10人ですか?!」と言われました。ただ、これが2人とか3人だと、あまりインパクトはないですよね。やはり10人出すということで、5年間で50人、外で学んだ人材が揃うわけですから。3人だったら、50人揃えるのに15、6年かかってしまうでしょう?そういう意味で、やはり10人というのは良い数字だったのかなと思いますね。

<澁谷>

やる時はやはりメリハリをつけて、スピード感を持ってやるということなんですね。

(進藤 頭取)

先行投資ですからね。だから、あまりお金のことでケチケチしても仕方がないです。将来のことを考えたら、やれる時にやっておかないと後れを取ってしまうと思うんです。最近、金融庁でも「5年後10年後を見据えた経営をしてください」というようなことをよく言われます。それはもう一年でも早く手を付けた方が良いわけですから。そういう意味では、私が頭取になってすぐにその発案をして、その翌年の4月からスタートできたというのは、本当に良かったと思っています。派遣期間を終えて帰ってきた行員たちも、派遣先の企業から頼りにされています。未だに「色々教えてください」とお声をかけてくださることもあるんです。そういう意味で、当人達も非常に張り合いがあるようです。

<澁谷>

外部派遣研修の志願者は沢山来るんですか?選別はどのようにしているのでしょうか?

(進藤 頭取)

そんなに多くは来ないですね。少数精鋭で営業しているため、人員的にも各支店とも余裕があるわけではなく、「もし自分が抜けたらこの支店はどうなるんだろう」と思う行員がいるでしょうし、なかなか望めば誰でも行けるということではないんです。しかし、先程の山梨県人が都会に出て行って成功した事例のように、それなりの意識を持ってくれている行員たちが手を挙げてくれています。従って、いっぱい手を挙げてくれるわけではないけれども、それなりの行員たちが応募して来てくれているということですね。


<澁谷>

素晴らしいですね。もちろんその業界の知識などもありますが、お客様のところへ行って、中小企業の経営の厳しさであるとか、外から銀行を見られるという二次的三次的なメリットもありますでしょう。

(進藤 頭取)

もちろん派遣する時に私からも話をしているんですけれど、銀行の福利厚生等の制度がいかに良い制度なのかというのを、みんなが学んできてくれる。例えば、ある企業に派遣した行員からは、「今まで銀行の規則というのは非常に煩わしかった。だけど、外の企業に行ってみて、銀行の規則は、私たちを守ってくれる規則だということが分かった」と言うんですね。その行員は、派遣先企業の就業規則や時間管理が整っていない状況を見てきたのです。銀行では、規則に従った仕事をしていれば、仮に何かあっても個人の責任を問われることはないわけです。つまり、規則が我々を守ってくれているということに気が付いた。そういうことに気が付いてくれたと知った時は、私も良かったなと思いました。それを今度はみんなに知ってもらいたいと思っています。

<澁谷>

それは良いですね。外に行かないと気付かないことですよね。私も本に書きましたしセミナーでも言っているのですが、やはり外に出たり、異質な分野の人とお付き合いしないと「気付き」がないですよね。外に行ったが故に「やっぱり銀行って良かった」となる。中にいると全然わからない「気付き」が出てくるというのはありますよね。去年に派遣された10人は、銀行に戻った後、営業部隊に行くんですか。

(進藤 頭取)

現在は、融資審査、営業統括部、本店営業部の3つの部署に配属しています。何かあった時に、彼らの意見をできるだけすぐに聞けるようにということで、身近な部署に配置するという風にしているんです。今、楽しみにしているのは、将来、派遣に行って来た50人の知見をどういう形で活かすのか、ということです。まだ定かではありませんが、その行員たちだけを集めた組織を作ろうといったことを考えるのも楽しみなんです。


※外部企業派遣制度については金融機関ドットヨム13号6ページの特集をご覧ください。

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○スローガンに込めた想い<お客様満足を上げるため、従業員に自行を良い銀行と思ってもらう>

についてインタビューします。

(2014/2/取材 | 2014/3/20掲載)

金融機関インタビュー