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邦銀はグローバル・スタンダードに見劣りしないガバナンス改革を
実現できるか①
~銀行の社外役員に関する特別調査結果を踏まえて~

著者:FFR+ 代表 碓井 茂樹 氏

 会社法の改正が行われ、上場企業には最低1 名の社外取締役を置くか、さもなければ、社外取締役を置くことが相当でない理由を株主総会で説明することが義務付けられました。また、コーポレートガバナンス・コードの策定に向けて、有識者会議での検討もはじまりました。わが国のコーポレート・ガバナンスは、今まさに改革の時代を迎えたといえます。 日本金融監査協会リスクガバナンス研究会では、わが国の銀行の社外役員( 社外取締役・社外監査役) の現状と将来展望に関する特別調査を実施しました。以下では特別調査の概要について解説するとともに、わが国の銀行がグローバル・スタンダードに見劣りしないガバナンス態勢を構築することができるかを考えたいと思います。

■社外取締役の設置状況

 特別調査の結果をみると、現時点で、全体の約9 割の銀行が社外取締役を設置しており、全体の約3 割が複数名の社外取締役を設置しています(図表1)。

 会社法、東証上場規則の改正に加え、金融庁監督指針の改正に後押しされた形で、銀行では一般企業よりも一足先に社外取締役の設置が進んだものと考えられます。

 実際、今年の株主総会において、新規に社外取締役を選任した銀行は25 先にのぼりました。その中には、社外監査役を社外取締役に選任し直す先も7 先見られました。一部からは「数合わせ」をしているとの批判もありますが、銀行の事情をよく知る社外監査役を社外取締役に選任するのは1 つの現実的な対応といえるでしょう。

社外役員の数・構成比

 わが国では、制度的に委員会設置会社と監査役設置会社が混在していますが、銀行役員の平均人数を大づかみに捉えると、取締役は約10 名、監査役は約4 名であり、取締役と監査役を合わせた銀行役員は約14 名となっています。このうち社外取締役は約1 名、社外監査役は約3 名、社外取締役と社外監査役を合わせた社外役員は約4 名というのが平均的な姿です。

 この結果、わが国の銀行の社外役員の構成比は27.2%となりますが、欧米・アジアの各国では50%以上が当たり前であり、国際的にみると見劣りのする水準であると言わざるを得ません(図表2)。今後、コーポレートガバナンス・コードの策定を受けて社外取締役の人数は増え、構成比はもっと高まるものと思われます。

 個別銀行の状況を仔細にみると、既に社外役員の構成比が50%以上、あるいは、50%に近い水準に達している先も見られます。りそなホールディングス(60.0% ) とみずほフィナンシャルグループ(46.2% ) は委員会設置会社を採用しており、ガバナンス態勢に関して名実ともにグローバル・スタンダードを実現しています。監査役設置会社に関しても、新生銀行(66.7% )、あおぞら銀行(54.5% ) のほか、みちのく銀行(50.0% )、山陰合同銀行(46.2% ) などの地域銀行で社外取締役の人数が全体の半数程度を占めています。

 これらのガバナンス進行先に取締役会の運営実態を聞くと、いずれの先でも、社外役員から活発な意見表明がなされているのが特徴です。また、委員会設置会社・監査役設置会社を問わず、非執行役員が取締役会の議長を務めるなど運営上の工夫がなされているほか、社外取締役の機能度を高めるため、本部各部による業務説明会や店内見学などをセットするサポート・スタッフを置く動きも見られはじめています。

社外役員の属性( 出身)

 日本では、社外役員の獲得の難しさを訴える声がよく聞かれます。しかし、銀行全体の社外役員をみる限り、弁護士・公認会計士などの専門職のほか、産業界、金融界、官公庁、大学、マスコミ、コンサルティング会社などから、多様な人材を受け入れはじめています(図表3)。

 銀行の社外役員の属性( 出身) を見ると、やはり弁護士・公認会計士などの専門職が最も多く、社外役員全体の28.8%を占めています。次いで、産業界の出身者が多く、全体の28.0%を占めています。業種別にみると、電力・ガス、鉄道よりも一般企業の出身者の方が多くなっています。

 官公庁では、県・市役所、財務省、日本銀行、警察などの出身者が全体の21.0%を占め、金融界では、銀行、保険、証券などの出身者が全体の13.1%を占めています。

 そのほか、大学(5.3% )、マスコミ(3.0% )、コンサルティング会社(0.8% )の出身者もみられます。 銀行の収益・リスク構造は大きく変化しており、今後、ビジネスモデルの再構築が重要課題となります。銀行は、公共性や顧客利便性、コンプライアンス等にも配慮しつつ、将来を展望して多角的な視点で経営を考えていく必要があります。その意味では、銀行がさまざまなバック・グラウンドを持った社外取締役を迎えて、取締役会で経営戦略やビジネスモデルのあり方を議論することは基本的に望ましいと考えられます。今回の特別調査結果は、わが国の銀行でその準備が進みはじめたことを示しています。

将来展望( 試算結果)

 現在、社外取締役・社外監査役の平均人数は約4 名ですが、個別銀行が、今後も多様な属性の社外役員を受け入れる努力を続けていけば、社外役員を5 ~ 7 人まで増やすことは決して難しいことではありません。たとえば、弁護士・公認会計士から1.5 ~ 2.0 人( 現在1.1 人)、産業界から 1.5 ~ 2.0 人( 現在1.1人)、そして、金融界、官公庁、大学、マスコミ、コンサルティング会社などの有識者から 2.0 ~ 3.0 人( 現在1.7 人) と幅広い属性からバランスよく社外役員を迎えることにより、社外役員の平均人数を5 ~ 7 人まで増やすことは可能です。

 このとき、社内取締役を執行役員にするなどして役員全体の人数を現行水準に維持したり、あるいは、同水準以下に抑えることができれば、社外役員の構成比を35%~ 70%とグローバル・スタンダードに比較して見劣りのしない水準まで引き上げることは可能と考えられます( 図表4)。

 ただ、社外取締役の人数を増やすことは、強固なガバナンス態勢を実現するうえで最低要件の1つに過ぎません。グローバル・スタンダードを目指すのであれば、社外役員の役割をもっと明確にして、社外役員が有効に機能する枠組みを組織全体に導入する必要があります。次回は、この点を論じたいと思います。

◆碓井 茂樹(うすい しげき)
1961年愛知県生まれ。83年京都大経済学部卒。日本銀行入行。
06 年金融高度化センター企画役(現職)。FFR+「金融工学とリスクマネジメント高度化」研究会を主宰( 兼職)。同研究会のメンバーを中心に金融界の有識者に呼びかけて、11年3月、日本金融監査協会を設立。
京都大、一橋大、埼玉大、千葉商科大、大阪経済大で客員教授、非常勤講師を務める(兼職)。著書に「リスク計量化入門」、「内部監査入門」(共著、金融財政事情研究会)